英雄よ、生まれ給ふ事勿れ   作:おーり

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もう主人公こっちで良い気がしてきた


カート・フォン・リッツバーグと入学式

 緑色を主体とした制服を着た少年少女らが、群れたり離れたりと思い思いの距離感で足を運ぶ。

 それぞれの表情は制服とは違って様々に彩られていた。

 一様に高揚としているかと思っていたが、入学式では何か薫陶のようなモノでも与えられたのだろうか。

 何処かに、危機感にも似た緊張感を抱いた顔つきが割合の多いのを、カートは訝しんでいた。

 

 彼ら彼女らが足を向けるのは一向に同じ方向。

 誰もがカートが待機している校門へ向かってくる。

 この場は高等経法学院の校門前で、彼らは入学式を終えて帰宅に向かっているのだろうから当たり前の話だ。

 だが、その表情に高等学院に此れから通うのだ、という優越感のようなモノが見当たらない。

 

 何処かに作為めいた嫌な予感を思いながらも、カートは待ち人の姿を群衆の中に探していた。

 

 

「あれ? キミは……」

 

 

 得てして、待ち人は早々に姿を現した。

 浅黒い肌の、白い髪をした少年だ。

 世が世なら何処の贋作使いですかー? と訝しがられることだろうが、誰かと云うとプラチナブロンド碧眼お嬢様が率いる武器商人集団に所属する少年兵辺りに容姿は似ている。

 糺し、こちらは結構表情筋が緩い。

 

 カートの姿をその視界に捉えると、へらりと軽薄に微笑んで彼の近くまでゆったりと歩み寄った。

 

 

「やあ。その後、御加減如何?」

 

「問題ない。あの時は失礼したな」

 

 

 長年の友人同士であるかのように、気楽に気軽に、ふたりは挨拶を交わす。

 そんな近い関係でも無いのだが、カートには自然と居丈高には接せられない過程があった。

 其処を咎められない気負いが、その態度を受諾することを拒ませることは無かった。

 

 何が切っ掛けかと云えば、カートが某シシリー嬢に金的で迎撃されたのを、通りすがりの彼が治療魔法で応急処置を施した所縁である。

 どちらも事情は把握していないが、『対処法』を教え込んだのがこの浅黒白髪なので一種のマッチポンプにも似ている。

 誰が暴露とかも特に無いが。

 

 

「名乗りが遅れたが、カート・フォン・リッツバーグだ。通りがかりに治療をしていただいて、感謝を」

 

「どういたしまして。オブシディアス・ヴァヴランテです。オブシーって呼んでね」

 

 

 語尾にハートマークでも乗っけるか、とでも言いたげな軽挙っぷりだ。

 しかし、それでもカートは諫めようとはしなかった。

 

 この辺りは彼自身の態度が主な原因なのだが、カートの周囲にはこういうタイプの友人が不在だった。

 そもそも遡るならば友人の陰が見当たらないのだが、彼が横柄で傲慢な態度を取っていた過程(かつて)でその辺りの事情はお察しである。

 

 そんな折にふらりと現れた、近づかれたことも無い類型の人間性。

 稀有にもアウグスト・フォン・アーデルハイドの感じるところのシン・ウォルフォードに対する感情に似通ってしまっているわけだが、そんなことも彼には知られぬことである。

 

 どちらかといえばお腐り遊ばせられておらっしゃる婦女子の方々には垂涎的なシチュエーションかと思われる。が、それは作者にとってもあずかり知らぬ話。いやマジで。

 

 

「ん? リッツバーグ、ということは財務大臣のリッツバーグ伯爵?」

 

「気づいたか。まあ、息子だ。ああ、直接会うわけじゃないだろうから、気にしなくていい。僕は今は未だ一介の学生に過ぎないからな」

 

 

 一カ月前の入試でシンに突っかかって逝った張本人(当て馬)とは思えない人格改善っぷりである。

 これを『キレイなカート』と仮に名付けよう。

 

 

「キミは、言っては何だが目立つからな。そういう『誰か』が姿を見せた場所を伺ったら、此処に辿り着いた。まさか経法学院とは思いも寄らなかったが……」

 

 

 王国民ばかりの中に異国的な風貌の彼が混じっていれば、否が応でも目立つ。

 カートはそれが判っていたから、彼を探す場所を換えたりはしなかった。

 

 

「まあ、経済と法律関係なら財務大臣なんかはまさに打って付けだろうからねぇ、いわゆる一種のホームって奴で。こんな一介の学生の噂まで聴こえているとは、普通に驚愕だけれども」

 

「自らの役職に繋がるのだから、些細なことでも取り扱うことは間違いでは無い。本当は、僕も此処に通っていたんだろうがな」

 

 

 財務大臣の息子ならば、将来を見越して頭脳面を育むことが正道だ。

 しかし彼の今着ている制服は青を基調とする魔法学院のモノ。

 

 王国ないし、世界で重要視されているのが魔法そのものなので、むしろ魔法について学ぶ姿勢は異端と見做されるモノでも無い。

 しかしカートの言い分に烏m間違えたオブシディアスは疑問を抱き、それをそのまま投げつけた。

 

 

「そう云うなら、なんで魔法学院に?」

 

「…………実は、好きな女子がそちらに進学することを知ってしまってな」

 

「やだ、甘酸っぱい……っ!」

 

 

 思わず画風は少女漫画へ変貌し、祈るように合わせた両手は口元を隠す。

 瞳のハイライトにはトゥインクルが煌めいた。

 オブシーこういう話大っ好き!

 

 

「まあ、その女子には振られてしまったわけだが……」

 

「やだ、せつない……っ!」

 

 

 憐憫の視線が思わず向いた。

 彼の知らぬことだが割と自業自得な部分が多いので、別段憐れむことでもないのだが、彼の知らぬことなのでそれこそ話は其処から進まない。

 大事なことなので言葉は重ね(二度云っ)た。

 

 

「……まあ、そのことは、もういいのさ。僕が独り善がりを働いていた、ただそれだけだ。クラスも離れたからな、もう逢うことも無い」

 

「それでも同じ学院じゃないですかぁ~、あぁ~せつない! せつないはなしだぁ~!」

 

「……キミくらい明け透けだと、あっちの方はマシにも見えてくるな……。いや、異国民ということで話は通るか、キミの場合は……」

 

 

 同年代の恋愛シチュに餓えてでも居たのか、カァー甘酸っぺぇー!と見悶える烏丸じゃなくてオブシー。

 それを睥睨するように眺めて、カートは学院で遭った『非常識』を思い出す。

 

 態度に気になったオブシーが問えば、回想のように彼は語るのであった。

 ほわんほわんほわ~ん、ritzberg!

 

 

 

  ■

 

 

 

「ウォルフォードくん、少し良いか」

 

「っ、うぉっ!? あ、ああ、大丈夫、えーと、カートくん、だよな……?」

 

 

 入学式から少し経ち、クラス内での自己紹介を経由しての直後の話だ。

 選考されて分けられた特別クラス、『Sクラス』から出た直後、シンは待っていた人物に呼び止められた。

 

 受諾できたのは出会い頭だったこともあるが、それほども無理をさせようとする雰囲気を感じなかったためだ。

 これが横柄な態度であれば、入試以前にそうしたように言い分を無視していたのであろう。

 だが、改めて誰何したその人物は、『その時』と同一でありながらも様相の平穏な、要するに完全に一変した態度での交流であったのだ。

 

 相手を以前より既知としていたシンは思わず確認を取り、失礼と自覚の無いままに交流を図る。

 クラス内で幾許かの交流の後、じゃあ『孫』の家族である賢者様や導師様にご挨拶でも、という完全に物見遊山の気持ちだったクラスメイトを連れていたのだが。

 

 

「それで合っている。僕はカート・フォン・リッツバーグだ、改めて挨拶を、と思ってな」

 

「あ、ああ、シン・ウォルフォード、です」

 

 

 相手の出方が『以前』と違い過ぎるためだろう、シンはその雰囲気に完全に呑まれていた。

 喩えるならば一般の新卒社会人が何の心構えも無いままに、自分の身の振りを好きに出来る立場の会社役員に面通しを受けたかのような。

 シンが感じた感覚を言葉にすれば、まさにその通りに当たる。

 

 彼自身は自覚できていなかったが、緊張の前兆に直面した時の感覚を前にして、シンは自然と言葉遣いを正していた。

 その感覚は、自身の通った主席挨拶時には受けられなかった代物だ。

 

 

「以前は済まなかったな、身分を笠に着て良い場所では無かった。その時の謝罪も済ませていなかったので、改めて顔を覗かせたのだ、許してくれ」

 

 

 そうして緊張し切る寸前のタイミングで、カートはキレイに腰を折った。

 直立のまま、頭を下げた略式のだがしっかりとした謝罪だ。

 土下座のように大袈裟では無い分、『それ』に込められている一種の恐喝にも似た無意図も無い。

 

 まさしく正しく礼を負った謝罪をしっかりと正面に据えられて、しかしてシンは気が抜けた。

 

 

「へぇッ?」

 

 

 人間関係、正しくは友人関係を、良好にも拙くにも築けて来れなかったのが彼だ。

 それは生前に於いては元より、現在に於いても未だに(こな)せていない。

 

 彼を見守ってきた者も多数居たが、それに応えようという気を持ちながらも、彼は未だ其処に『信頼』を置き切れないままでいる。

 そして、その感覚は彼自身が己の人生を荒唐無稽だと自覚していて、尚且つ『この世界』が『未熟だ』と下に見ているからこそ達成させられることは無い。

 

 だからこそ、正面から謝罪を説かれて、それをどう対処すれば良いのかなどと。

 彼に其処を『思考せず』に応じられる経験など、無いのである。

 

 




~三大高等学院入学式日程が被らない説
 国王が祝辞を魔法学院『だけ』に直接来て送る、なんて真似はしないよね?
 武道館を大学の入学式で使いまわすみたいな、そんな感じ。多ッ忙!


~『麻帆良とか駒王とか駆け出し冒険者の街アクセルとかを経由してきました烏丸イソラです!』『仲良くしてね!』
 いや、こんな大暴投はしないよ…?


~カートくん進学理由
 捏造というか解釈
 シシリー目当てで無断で魔法学院目指して、親も親で魔法の腕上がったし自慢になるしいっかな!みたいな感じ
 親が親として職業的に経法奨めていた感も無くも無いかという妄想付き
 それもこれもシュトロームって奴のせいなんだ! まあトドメ刺したのは孫だけど


~リッツバーグの綴り
 とりあえず英語圏っぽいネーミングなので書き出し
 でも探してみるとドイツ産ワインにリッツバーグというのがあるので、ひょっとしたら伯爵か先代辺りが帝国出身の亡命貴族で姓名を引き継いできた可能性も微粒子レベルで存在する…?
 なのに国名がブルースフィアと完全に英語圏っぽいのはなんなのだろうか


~選考された特別クラス
 隔離とも云う
 充てられた教師は元宮廷魔法士団所属と云いながらも何処かに問題児感が漂うアルフレッド先生。宮廷勤めで5年、教師に成って5年、28歳まだまだ若い
 多分俺ガイルで云うなら平塚先生ポジ。…やはり隔離なのでは?


~長くなりそうだったので分割
 回想のままに続く

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