英雄よ、生まれ給ふ事勿れ   作:おーり

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キレイなカートくんの人格がややふわふわしてます。これでいいかな、ってな感じで個人的に
とりあえず、あんまり面白いことが口に出せない四角定規な人格を書いてます
上手く付き合えればオーグを超えるシンのブレーキになれる程度です
喩えますと、賢者と討伐された魔人の関係に似せられますね。因果因果


カート・フォン・リッツバーグとシン・ウォルフォード

「――頭を上げろ、カート=フォン=リッツバーグ。そんな昔の事なんぞ、シンが覚えているわけが無い」

 

「――いやおい!? それって失礼じゃね!?」

 

 

 アウグストのこの揶揄うような口添えは、シンにとっては助け船になっていた。

 シン自身は、其処に直ぐに気づけなかったが。

 

 

「……殿下、それはウォルフォードくんに対しても失礼では」

 

「おうその通りだよ! オーグ、今真面目な場面なんだから、遊ぶのは後でな」

 

「遊びではないだろう」

 

 

 シン自身、『これ』を粗雑に扱うことを許されないと、意識していないままに自覚はしていた。

 だが、礼節が足りていない、常識の無い彼には、その辺りを上手く乗り切る手管(スキル)が無い。

 

 ゲームのような異世界だが、ゲームのようには出来ていないのが『現実』という奴である。

 一朝一夕でスキルを身に付けられないからこそ、シンは誰かに『頼る』ことを自覚しなければならない。

 それこそが、彼が得られない『信頼』へ行き付くための、踏み出す一歩目足り得るのだ。

 

 この場の誰もが自覚できていない事柄なのだが。

 

 

「遊びでこんなことは言わない。あの時起こった事件は、事件にならずに立ち消えた、学生同士の他愛のないいざこざ程度の話だったのだ。賢者の孫が、いちいち覚えているほどのことでもなかった。私はそう言いたかっただけさ」

 

「んっ!?」

 

 

 お前は対処できないだろうが。

 そう言いたかったアウグストだが、それこそシンのように明け透けにモノを言い過ぎることはできない。

 シンに合わせて多少はフザケタ物言いに準じるが、カートのような四角定規にきっちりと態度を崩さない貴族然とした者相手では、それは却って悪手に至る。

 

 以前ほど無礼なら、もっと気軽に粛清できたのに。

 無意味に抱いていたように伺える敵愾心が解消している様子なのは良好ではあるが、却って扱いの難しい貴族に成長したらしい。

 

 そういう内心を表に出さないままに、自分を『従兄のようだ』と距離を詰めていたシンを助けるべく口八丁を働かせる。

 魔法の腕が賢者仕込みであろうが、貴族を相手にできるほどの手練手管(スキル)を備えてはいないだろうな、ということをアウグストは看破できていた。

 だからこその口添えで、それは賢者への憧憬も添えられた僅かな救心性だ。

 其処に親愛の情は未だ無い。

 

 無いが、この面白生物をこの場で身動き取れなくさせるのはちょっと嫌だな、という遊び心も僅かにあった。

 事実、揶揄われたのか真面目な対応なのか、判断の付いていない張本人(シン)がトンチキな表情を晒していた。そういうところだろう。

 

 

「……殿下がそう仰られるのならば、下がります」

 

 

 言葉の意図も上手く伝わったのだろう。

 折っていた腰を戻して、カートは姿勢を正す。

 

 とりあえずは、これで事態は済んだ。

 誰もがそう思ったが、

 

 

「しかし、先ほどの代表挨拶はいただけないぞ、ウォルフォードくん」

 

「ぅえっひぃ!?」

 

「陛下が執り成したから事も大事にならずに済んだものを、真面目な式の挨拶に冗談を咬ませるなどと。場が違えば式典に出席していた誰もを小馬鹿にしていた行為と見咎められかねなかった、其処は反省しているのか?」

 

 

 至極真っ当なツッコミを入れられたので、誰もが二の句を告げられなかった。

 

 場に居るアリス・コーナーは直後にシンへフォローも入れていたが、それは彼女自身が子供の感覚を持ったままな為だ。

 学院扱いとはいえ、彼ら彼女らは成人している。

 其処を遊び気分で揶揄されたわけだから、普通はカートの言うように気を害されたと捉えられても可笑しくない。

 

 学生気分の延長としている者が大半になっていたからこそ、其処は誰もがシンを咎めなかったのか。

 或いは、シンを『子供』と見做して咎めるほどのことでもない、と見捨てられていたのか。

 

 真実は定かでは無いが、とりあえず。

 フォローを入れたはずのアリスは、冷や汗を流しながら他人事のように目線を外していた。

 気分は『同じく説教されるのも勘弁!』である。

 無事乗り切ることを、願う。

 

 

 

  ■

 

 

 

「……と、まあそんなわけで。その後は、先ほど言った好きな女子にばったりと出くわしてな。キチンと反省できているかまでは、追及し切れなかった」

 

 

 偶然にも、シンとアリスは逃げ切れた形になったのだろう。

 出くわしたシシリーには、これまでに起こした態度への謝罪をキッチリと説いていたカートなのだったが、其処まではオブシディアスには告げない。

 今回の本題は『魔法学院稀代のやらかし男・ウォルフォードくんっていったい誰ぞ?』なわけであるからして。

 

 

「ふぅん、そりゃまた。随分な『恥知らず』な子だねぇ、賢孫」

 

「扱いがぞんざいすぎやしないか……!?」

 

 

 下された評価は辛辣だった。

 無理も無いが。

 

 無理も無いが、カートからするとあまり悪し様に言う気も無かった。

 無かったので、流石に直接会ったはずも無い(と思っている)相手が下方評価を下すのは、ちょっと見咎めざるを得なかった。

 

 

「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、と云うのだけれども。件のお孫さんは聴く限りだと『聞かずにやっちゃう』タイプだろう? 事態を見て、自分でどうにかできると『思い込んで』やっちまう。そういうタイプと見た」

 

「ま、まあ、そう捉えられても可笑しくない、が……」

 

 

 カートは目を逸らしながら言い縋ろうとする。

 仮にも『尊敬する賢者』の孫なので、評価が低下することは避けたいのだ。

 

 しかし彼自身、出会い頭で力尽くで退かそうとしていたとはいえ、反撃が体術行使の腕拉ぎである。

 オブシーの言い分に間違いが見当たらず、解消の目途が一切立たなかった。

 

 

「間違えた、と恥を知ることは誰にでもある。其処を反省しないと、人間は『やりたくない失敗』を何度だって繰り返すものさ。言っちゃなんだけど、『恥知らず』ってのは反省を『できない』人間の事じゃない、『しない』人間のことをそう呼ぶしかなーいの」

 

「そんな人間じゃ、ないだろう……?」

 

 

 良くは知らないが、カートはシンを擁護する。

 だが、オブシディアスは聴いた話だけで推察できていた。

 

 

「『常識を知らない』って指摘されたか自覚したかで王都まで来たんだろう? 知らないのなら前段階で知れる時間があっただろうさ。それを済ませられないのなら、やはり『そういう』人間なのじゃないかな。随分と楽観的にも伺える、説明書を読まずに遊具(ゲーム)を取り扱うかのようだぜ」

 

「遊び気分、と云いたいのか」

 

「若しくは、独善的なのかな。善意と読むと良好にも伺えるから、猶更厄介なんだけどねぇ」

 

 

 善悪の差異は『何か絶対的な者に認められたから』そう『分けられている』わけでは無い。

 善悪を区別するのは社会であり、社会というのは即ち『人の群れ』だ。

 群れの都合で『大多数』を寄り優位に生かすために、群れの『不都合』を駆逐する最初のツールが善悪という倫理に備えられている。

 

 群れにとって個人とは『居て当然』のモノでは無く、基本としては群れを維持するためにこそ行動してもらいたい分枝(パーツ)でしかない。

 しかし、群れに対する不都合を個人が感じてしまえば、その群れに所属させ続けることは実質不可能であり、意識が反り合わないわけだから結果として『不幸』にしか至らなくなる。

 『幸福』とは、個人の有せる最初の優位であり権利である。

 その『幸福』を大多数に実感させるためにこそ、善悪という区分が最初に必要とされるわけである。

 

 要するに、拠り良く意識の沿う者同士で纏まれば、群れそのものは上手くいく。

 それが対外的にどうするか、とはまた別の話になってくるのだが、一先ずここまでにしておこう。

 

 

「本人見たわけじゃないからあんまし悪く言いたくないけどね。『独善』は要するに『独裁』だよ。判断基準が『自分』だからね、成功筋が『それだけ』に見えちゃう。視界が広いのなら問題は無いのだけど、それに『気付ける』かまでは誰にも保証できないのさ」

 

「……耳が痛いな」

 

 

 自分も『そう』であったからこそ、カートは『その先』まで理解した。

 『成功』に向かうことは誰でも選び得るものだが、その道筋を『どうするのか』までは結局自分が判断するしかないのだ。

 

 カートの父親は財務大臣を務めており、カートもまたその家族であるから、その筋へ向かうことが期待されていた。

 しかし、この国、というかこの世界では、魔法こそが最も目立つ、優秀さの証として目を引いている。

 実際、魔道具作成者は優遇されるし、攻撃魔法も治癒魔法も、使えれば使えるほど生活には役立てるので、誰にとっても喜ばれる。

 

 しかし、国の産業と生活の保障とは根幹を為す仕事である。

 要するに経済と法律だ。

 其処ばかりは魔法の威力は引き合いには出せず、差配のための頭脳を上手く扱える人材が数多く有ることこそが必要となってくる。

 

 カートは『社会が』魔法を『そう』扱っているからこそ、その流れに乗って魔法学院へ進学した。

 誰もが認める優秀さを支持する、自慢できる学院だ。

 

 ひょっとすれば、父親はこれを快く思っていない気持ちが、僅かでもあったのではと勘繰ってしまう。

 自分が魔法学院を目指した理由が理由だからこそ、カートは自責の念を今、抱くのである。

 改めて言うが誰だお前。

 

 

「ふぅん? なんだか反省を促しちゃったようで申し訳ないねぇ。まあ、人の振り見て我が振り直せとも云うしね」

 

「言い得て妙な言葉だな……。ウォルフォードくんのことをとやかく言えない、キミが僕に敬語を使わないのも、そういう意図があるのだろう?」

 

「外聞はさておいて、学院は『平等な場所』でしょう? そんな気はないさー」

 

 

 何処か愉快気に、オブシディアスはカートへ嗤う。

 

 貴族に対して敬いの気持ちを抱くことは、既に『当然』だとは思っていない。

 実際、これから先はそういった『関係性』を解消して征くのだと、学院でもアウグストを始めとした多数の貴族が砕けた態度を取っていたのだ。

 其処を今更、カート1人が覆そうとしたところで意味は無いだろう。

 

 だが礼節は別だ。

 それを蔑ろにすると云うのならば、猶更カートは強硬に立場を主張するように進言しなければならない。

 

 それだけがせめてもの、自分が貴族に連なる者だという、父親への主張にも繋がるのだから。

 告解にも似た感情を抱いて、カートは決意を新たにする。

 

 そんな二人へ、経法学院から追いかけて来た講師が声を掛けていた。

 

 

「オッ、オブシディアスくん! オブシディアス・ヴァヴランテくん! キミに問いたいことがあるのだが! キミが新入生代表挨拶で明らかにした、帝国の経済状況について! 陛下も交えて相談したいのだが!?」

 

 

「………………いや、ちょっと待て」

 

 

 お前も似たような大暴走してたのかい!

 そんな感情を込めて、カートは色黒白髪へ胡乱な眼差しを向けていた。

 

 




~孫、未だに『凄さ』が出ない時期
 そんな時期あったっけ…? と読者の方は仰るであろう
 実際、彼のやることは元居た現実からの劣化した受け売りで、恥も外聞も無い見様見真似をドヤ顔して『僕が発見しました!』と遣ってる行為
 孫ってる、などと揶揄われたりした根本的な理由は、多分『そういうところ』じゃない?

 さておいて、入学して直ぐなのであんまりはっちゃけを暴露してない時期
 既に制服魔改造はしているけど、今回のコレ挟んだら『常識』から助走付けてウェスタンラリアット食らわせられないか…? となること間違いなし
 棲み処、削ってます☆


~冗句を交えた代表挨拶
 実際、学院に来ている者らは『成人』に認められている年齢なので、普通なら『社会人』としての対処こそが正解
 要するに此処が高校ではなく大学院辺りと捉えれば分かり易いかも?
 でも学生の延長でもあるから対応がおざなりになったり、若い気分であることを放っておかれたりも致し方なし
 多分


~恥知らず
 前文にも書いたけど、前世の受け売り、つまりは他人が解明した事象をさも己が解析したみたいに語る辺り間違いじゃない
 できないことをできないままにしておく辺り、周りの甘さもあるけど、本人が気づかなければ『どうしようもない』のが現実
 実際、悪いわけじゃないからね。単純に恥ずかしい奴ってだけです
 呪文詠唱どうこう言えねーぞ。そもそも漢字で魔道具に付与やってる時点でかなりダサいのだが。ロマンサーズ最終段階で出て来た『嘘魔人爆誕』って感じ。額に『嘘』と書かれた兄が蘇生する漫画です

 尚オブシーは『ゲーム』を敢えて『遊具』とルビ振って子供と指摘。この世界の遊戯具事情ってどうなってるのかしらん


~幸福論
 より客観的に、色々端折って纏めてみたけど論理的に抜けてる部分が在りそうな気がするぞなもし
 でもまあ詳しく知りたい方は自分で調べるんじゃね?
 幸福になりたい人を阻害するような文でもないだろうし、大概のことはご自分でどうぞってな感じでよろしく!


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