【WR】がっこうぐらしRTA_全員生存ルート【完結】 作:アサルトゲーマー
鉄の鳥が、墜ちた。
石が砕けたような音が響き、続いて爆発音。黒煙と共に吹き上がった火柱は、雷雨に焦れた太陽が落ちてきたのかと思うほどの熱と光をもって私の目を焼く。
そして、ベルが鳴った。
火災報知器が動作を開始したのと同時、響き渡る誰かの叫び声。その声を聞くと、途端に息が苦しくなった。
「なんで…?」
若狭さんが屋上の柵から身を乗り出し、下を覗いている。
その顔は陰になって見えないが、声は震えていた。
「いや…行かないで…」
その手が虚空に伸ばされる。
「もう、いやだ」
彼女の足が浮いた。
私は、
それを後ろから抱きしめ、空へと飛び立とうとする若狭さんを止めた。
「どうして」
呆けた声を出す彼女。そんなの、理屈なんて高尚なものがあるわけじゃない。ただ若狭さんに死んでほしくなかった。それだけだ。
■■■
爆音タァーイム!(犬ハサ)
あー助かった!生きてるよ~!(ONDISK)
火災報知器のベルの音によって「奴ら」は一時的に行動不能になりました。それによって組み付かれた状態からなんとか脱出成功です!
しばらくは暗殺チャンスなのでひたすらバシバシ決めましょう。
ですが、ベルの音は私の耳も大音量で破壊しにかかってきます。
そんな時どうするか?その答えは、ただひたすらに耐えることです(絶望)
ヌゥン!ヘッ!ヘッ!
ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!
フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!
フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!(元ファイルの音量の1割)
ゆ、ゆきちゃん!視界遮れるからって消火剤吹き付けないで!
ヤメンカイ!マチカネテナイゾ!ウリニカケルナ…
■■■
「駄目だ!どこも火が回ってる!早く下に降りないと煙でやられるぞ!」
若狭さんを宥めていると、勇ましいシャベルの彼女の声が聞こえてきた。
屋上の扉の方を見ると、ぞろぞろと後続がやってくる。彼女たちは所々白い粉で汚れていて、特にしずくさんは酷い有り様であった。
「めぐねえ!やっと起きたのか!」
パッと笑顔の花を咲かせて駆け寄ってくる恵飛須沢さん。その邪気の無い真っ直ぐな瞳に、私は気後れする。
しかしその顔は一瞬で陰り、沈痛な面持ちへと変わっていった。
「めぐねえ、りーさんもよく聞いてくれ。何かが駐車場に突っ込んだみたいで車が爆発したんだ。それが校舎に燃え移って大変なことになってる。今すぐ逃げないと…」
「逃げて、どこに行くんです!?もし学校の外に逃げられたとしても「彼ら」に襲われれば…!」
彼女の会話を遮ったのは直樹さんだ。ぐったりとした祠堂さんに肩を貸し、強い焦りを感じさせる口調で言い放つ。
「だからってここに残ったって死んじまうだろ!」
「ここから逃げたって死にます!」
「ならどうしろってんだ!?」
「判りませんよそんなこと!」
「…だったら、機械室の奥に行くといいよ。そこに避難用のシェルターがある」
二人の口論に終止符を打ったのはしずくさんだった。その顔色は悪く、脂汗をにじませているが、強い口調で断言した。
確かにその場所は、避難用シェルターがあると緊急避難マニュアルに載っていた。しかし、
「……ホントにそんなものがあるのか?」
訝しみ、私に答えを求める恵飛須沢さん。生徒たちの視線は自然と集まり、その期待に応えるようにひとつ、頷く。
はっきりと示された希望の道筋に、二人の顔がほころんだ。
「よし、行こう!ほらりーさんも立って!」
「うん…」
「しずくは行けるか?」
「無理かも」
「……じゃあ、そうだな」
恵飛須沢さんはそう言うと、私としずくさんの手を引き合わせた。
「これでよし」
重なった私たちの手。差し伸べたのではなく、差し伸ばされたのでもない。それはただ、繋がっていた。
■■■
避難用シェルターが開いていることを確認しておくと、このタイミングで避難先を指示することができます。
だから、昨日のうちに機械室の奥に行く必要があったんですね。
■■■
私たちが校舎の中に入って真っ先に感じたのは、煙たさだった。
「これは、いよいよだな!」
消火器を構えた柚村さんが、火災報知器に負けじと叫ぶ。
三階の廊下から下へと続く階段を覗き込んだ。黒煙がごうごうと噴き出し、踊り場までの階段は「彼ら」が折り重なるように燃えている。
どん、と。私の背中に衝撃が走った。
驚いて振り返ると、若狭さんの両手が私の背中を軽く押している。
「……これで、死にました」
ぽつりと呟かれる言葉。小さいながらもはっきりした言葉は、ベルの音の中で不思議なほど聞き取れる。
「身勝手な大人はいま死にました。だから、お願いします」
それは正しく希求だった。
奪わないという約束。それを希うもの。でも、それは…。
「センセイ。こんな時くらいカッコつけて大口叩いてください」
そう考えていたときに、しずくさんに手を引っ張られて囁かれる。
早くしろと言わんばかりのその態度に私は閉口するものの、彼女の言い分は尤もだ。
だけど、私は。今までみんなに酷いことばかりをしてきた私は。
「聞いていたでしょう?今までのセンセイはさっき死んだんです。これからですよ、これから」
ほら早く、と、細い腕で腹を押される。私はしずくさんから手を離し、若狭さんと向かい合った。
ジリジリと煩いベル。丈槍さんたちが私たちを呼ぶ声。今だけはそれらを忘れて、確かに約束した。
「あなたから、一人も奪わせません」と。
「あ」
間の抜けた声。それにつられてしずくさんを見ると、彼女が炎に身を躍らせる瞬間が見えた。彼女の足には何者かの焦げた腕が巻き付いている。
彼女が炎の中に消えた瞬間、わたしはある事を思い出していた。
しずくさんが生徒だったものを突き落とし階段を転がっていくのを。
彼の首が曲がってはいけない方へ向いていたのを。
「───しずくさん!!」
思わず。それこそ弾き出されたかのように私の身体は動き出し。そして一切の躊躇もなく、炎の中に身を投じた。
■■■
階段の傍に立っていると、まれに引っ張り落とされることがあります。
だから、階段の傍に立ってはいけなかったのですね(1敗目)
周り全部真っ暗なのに分かるわけ無いだろ!いい加減にしろ!
しかもなんでめぐねえまで落ちてくるんですか(電話猫)
アッー!アーツィ!アーツ!アーツェ!アツゥイ! (火災)
HPカスなんで炎の近くはまずいッシュ!二階の廊下に逃げ込めー!
■■■
「うっ」
奇跡的に二人とも目立った傷の無かったことに安堵したのも束の間、炎を恐れるしずくさんに手を引かれて二階の廊下に出た時に見えたのは、火災報知器に群がる「彼ら」の姿だった。
思わず振り返る。そこはごうごうと燃える階段があるだけだ。戻る道などありはしないのだと、まるでそう語り掛けてくるようだった。
「……やるしかないか」
そうしずくさんは言うと、私の手から離れ、不思議な構えを取った。
腕を軽く広げ、半身になる…。しずくさんの得意とする合気の構えである。
「センセイ、そのあたりに消火器はありませんか?」
ある。しかしこれをどうするのか。階段の炎は、正直手が付けられないほど燃え上がっている。
どうしてこんなにも火が回るのが早いのか。それはひとえに「彼ら」がよく燃えているからだ。段差に弱い「彼ら」はそこに集まり、重ねられたマッチのように激しく燃える。いくら消火剤が優秀と言っても、階段を埋め尽くすほどの火種を消すことは不可能に思えた。
しかし、しずくさんの考えは違うようで。
「それを、あのうるさい機械の前にたむろしている「あいつら」に吹き付けてください。お互いに「みえない」のなら、勝ちの目は私にあります」
「でも、それは」
「センセイはいつもそれですね。早くしないと二人ともヤキトリになっちゃうよ」
ぐうの音も出ない。こんな状況になっても生徒を危険に曝すことしかできないなんて、嫌になる。
私の感情を感じ取ったのか、しずくさんは「ハァ」とため息を吐いてこちらを向いた。
「何を悩んでいるのかは知りませんけれど、もっとシンプルに考えましょうよ。私は消火器を吹き付けてくれるひとが必要で、センセイは道を拓くひとが必要。どっちかが欠けたら共倒れなんです。いちはすたくなま、だよ」
「…一蓮托生、ですか?」
「うん、それそれ」
「……ふふっ、なんですかそれ」
思わず、笑ってしまった。
なんだか久しぶりに笑った気がする。
「のんびりする暇はありませんよ。センセイは早くお腹を括ってください」
そうだ、何をウジウジ悩む必要があったのだろうか。
私がするべきことは最初から、ただひとつだったのだ。
「…わかりました」
「だいじょーぶ。センセイが死んじゃったら
「死にませんよ。だってしずくさんが守ってくれるんですから」
「お、おう…?」
信じる。私はもう、迷わない。
■■■
未知の