感想とかご意見頂ければ有難いです。次話の戦闘描写とか一切考えてないけど()
皇暦2851年 4月1日
地球から遠く離れた宇宙入植用擬似惑星…通称スペースコロニー。
数あるスペースコロニーの中でも最も一般的なシリンダー型と呼ばれる長い筒のような形状のそれらは、1基辺り200万から500万人の居住を可能としている。
地球圏から最も近い大東亜同盟の宇宙領土である36基のコロニー群はかつての小国に伝わる神話の楽園から名を取り、ニライカナイ県という。約1億3000万人が住むそこは、地球と宇宙を繋ぐ主要な貿易港であると同時に、大東亜同盟の宇宙での軍事拠点だ。
ニライカナイ外周部の商港区画より内部は軍籍船しか立ち入る事はできず、民間は各コロニーから交差状に延びるエレベーターによって移動している。そして民間コロニーに囲まれる中央の小惑星『ヤンバルクイナ』は、同盟のMSや宇宙艦船、電子機器の開発と生産を担っている軍需工場だ。
その『ヤンバルクイナ』から直近のコロニー、建設後『照屋』と地名を与えられたその場所には280万人の住民がいる。因みにその殆どは工員か軍人の家族である。
『照屋』内のとある屋敷の寝室に、ジリリリリ…と電子的なベル音が鳴り響く___そのベル音は1人の少年に朝を告げる為のものであり、快眠をばっさり切り捨てられた少年はベル音を鳴らす元凶にいつもの日課である恨みの籠った一太刀を浴びせ目覚める。
「おはよう御座いますお坊ちゃま、本日は高等部への入部式とのこと、正装もしなければなりませぬ故15分ほど時計の針を早めております」
お坊ちゃまと呼ばれた少年…最上亮がベッドから見上げた先には、屋敷の使用人を束ねる侍女長であり亮の教育係でもある浅野がいた。
「………っ後5分寝かせろ」
浅野の言葉を飲み込み状況把握した亮は、時間の余裕を見越して再び毛布に篭ろうとする…が__
「なりませんよお坊っちゃま、貴方が後5分と言って5分で済んだ記憶は御座いませぬ」
包まろうと引いた毛布は既に浅野の左手で掴まれベッドから引き剥がされていた。開かれた窓から漂う風は肌寒く、毛布なしで寝る気にもなれない亮は二度寝を諦めざるを得ず…寝間着を脱ぎ換え寝室を出る。
「昨夜ですが高等部への入部式にお父様もいらっしゃると、連絡がありました」
朝食にケチャップをたっぷりかけたスクランブルエッグを、トーストに載せて食している最中に、浅野は言った。
「それは本当か浅野!父さんが来てくれるのか!?」
亮の父は名門財閥最上家の党首、そして軍の技術顧問として多忙な日々で亮の住む屋敷へは月に1〜2度戻ってこれるかどうかといったものだ。母を物心つく前に亡くしている亮にとってはかけがえのない肉親であり、最上家の1人として…ヤマト人として尊敬する人物でもある。
「えぇ、なんでも『ヤンバルクイナ』での仕事が一段落したらしく、入部式が始まる頃には搬入港に到着するそうです…あそこから学院までは1時間程ですので、校長さんのお話がどんなに短くても間に合うかと思いますよ」
校長先生の話が短い等、古今東西天地がひっくり返っても有り得ない事だがそれは兎も角、久しぶりに父と会えるのはとてもいい事だ。
亮は、憂鬱だった一日が途端に明るく幸せに感じられ、父との再会を楽しみにしていたのだった。
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ニライカナイ外周部の1つ『安慶那』の港に、1隻の大型艦が着艦した。
その大型艦は火星に水資源を輸送する為のものだという。しかし、 その実態はユニテッドの隠密部隊を乗せた最新鋭のMS搭載艦である。その姿はただの大きいだけの輸送艦に偽装されているが、大東亜同盟の戦艦と互角に撃ち合えるだけの艦砲と、5機の最新鋭MSを搭載している。
ユニテッド…大東亜同盟と長く対立関係にある連合国は、本来休戦条約により軍隊の侵入が禁じられている。
条約を破るようにニライカナイに潜入しているかの部隊は、ユニテッドの宗主国の大統領の命令によって結成された『G部隊』という。秘密裏に開発、製造された5機のMSのパイロットに選ばれたのは、まだ歳若いながらも未来のエースパイロットと称される3名の若者と、歴戦の猛者2名。
「おい!ジョナ見たか!港にはいる時横切った管制塔のオペレーター!!黒髪ロングの美女!巨乳!!」
宇宙での真空圧力に耐えられるよう設計された強化ガラスを叩きながら、大声ではしゃいでる若者、エリク・トンプソン。
「エリクうるさい…もうすぐ作戦本番…ミーティング終わったら…すぐ出撃…」
淡々と、抑揚のない声で冷静に喋るのは、話しかけられていた相手でエリクの同期ジョナサン・アルボリス。
「そういうなって!戦前に華を愛でるのも興ってもんよ!お前も巨乳好きだろ、なっ!!」
「っ仮にそうだとしても…話すべき時と場がある…」
その2人の後方、エリクの大声は兎も角ジョナサンの声はギリギリ届かないといった所では女性陣が屯っている。
「フフ…仲がいいのね、私ったら知ってる子も同郷の人もいないから…寂しいわ」
2人の背を見つめる女性は、『白銀の魔女』の異名を持つベテランパイロットであり、イスラム教徒の女性が肌を隠す為に身に付ける衣装、ブルカを着ているカーラ・アブヤドァン。
「まあ2人は学生時代からの友人らしいので、私も女性パイロットって殆どいないので…カーラさんと同じ部隊に所属できて光栄です」
カーラの横に立ち、心の底から嬉しそうに話すのは女性ながら軍学校を首席で卒業した期待の新人コシマ・クラウゼヴィッツ。
「おいガキ共!10分後にミーティングだ、パイロットスーツ着て集合しておけよ、1秒でも遅れたら帰還後一日雑用係!2秒なら二日、3秒なら三日だ!さっさと支度して来い!」
エリク、ジョナに指をさしながらパイロットの面々に指示をするのは最年長であり部隊の前線指揮を務める事となったベテランの1人ジャック・ブラッグウッド。
彼らは皆各々に与えられた自室に戻ると、自分の身体に合わせて調整されたパイロットスーツに肌を重ねる…そのパイロットスーツには、本来自分の軍属を示す軍章や階級章、兵士の所属コード等何も無く、飾り気のない真っ白なものだった____
ニライカナイに潜入中のユニテッドの艦、その主であるシャルル・コナー艦長は、出航前大統領より命じられた指令を改めて思い出していた。
「ニライカナイにある、同盟軍のスーパーコンピュータの破壊…もしくはその管理者であるヒイロ・モガミの殺害…か」
シャルル艦長には、その指令はとてもじゃないが条約を破ってまで行うような内容とは思えなかった…しかし彼は軍人だ、軍人は上の命令に一々疑問や不信を抱いては戦えぬものだ、彼は思考を切り替え、パイロット達を集めるミーティングルームに足を運んだ________________________
亮は、浅野が運転する車でいつもの通学路を進み、先月まで通っていた学院の中等部の門を通り過ぎる。そこから車で2分程で、これから自分が通う高等部の正門に辿り着いた。別に中等部の方からでも高等部には行けるのだが、車ではこちらの方が早い。
「浅野…ありがとう、帰る時はまた電話するね」
「はい、御夕飯の仕度をしてお待ちしております、頑張ってらっしゃい」
浅野は最後にいつもの丁寧な口調を少しだけ砕けさせ、笑顔で亮を見送っていった。
「おーいりょー!こっちこっちー!」
高等部の正門を通り、校舎と体育館が目に入ると体育館の方から自分に呼び掛ける声がする。声の主は旧友の翔一朗だ。
「おー翔一、って…お前の正装袴かよ」
「従兄のお古だけどな!亮は背広似合ってんぜ、あっ…さっきクラス名簿見たけどな、俺らまた同クラス、成瀬と由美も一緒だ!」
「やったじゃん」
その後も翔一朗と話しつつ、共に体育館に向かう、中には新一年生の座席が所狭しと並べられている。
「由美〜亮連れて来たー」
「おはよう亮!もうギリギリじゃない、あと2分で開式するところよ」
着物を羽織った彼女、椎名由美は、幼馴染で翔一朗と亮3人で初等部の頃からいつも一緒に遊ぶ仲だ。3人は入学してから不思議な事にずっと同クラスで、席順を決めるクジ引きでもいつも近くの席だった。
由美は作曲家の父を持つ音楽一家の子女で、彼女も将来ピアニストになる事を志している。綺麗でいいとこの出の彼女は学院中の男から狙われており、翔一朗とは男子らから由美を護る、抜け駆けはしない事を誓った仲である。
金城翔一朗は所謂母子家庭の子だ、彼の父は軍人だったが、先の大戦で戦死した…休戦が結ばれる昨日であったという。彼とは初等部の入部式であれこれあり、殴り合って男の友情を築いて以来、兄弟の様に共に過ごした。
父のいない翔一朗と、母のいない亮…2人にしか分からない悩みや不安といった気持ちをぶちまけられる相手が幼き頃に見つかったのは、とても幸運だったのだろう。
『…であり、新一年生となる皆さんの中には中等部からの子や、他の学校からの新入生もいると思いますが__』
そうこうしている内に、式が始まり、校長が教台で長々とした挨拶を述べる。亮達は眠くなりそうな堅苦しい言葉の羅列に耐える苦境を、一年ぶりに味わう事となった。
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『G部隊』のパイロットの面々は、己が受領された機体にそれぞれ乗り込み、発艦用ゲートが開くのを心待ちにしている。最新鋭のMSと同時運用する事を前提として建造されたオベリスク級一番艦は、5機のMSそれぞれが同時に発艦できるよう側面に5門のゲートがある。
「作戦開始時間まで後115秒、さっきのミーティングのおさらいだ!俺のG-3とG-5エリク機は発艦後周辺のパトロール艦を蹴散らし、港を荒らして敵を惹きつける。G-1カーラ機はG-2ジョナサン機とG-4コシマ機を連れて中枢へ向かえ、『ヤンバルクイナ』内部に入り中のスーパーコンピュータを捜索し破壊しろ、先立って潜入している工作員によってターゲット2『ヒイロ・モガミ』には発信機が仕込まれている筈だ、スーパーコンピュータが見つからなければ発信機を追ってターゲットを殺せ、我々はこれより軍属を離れテロリストとして行動する!絶対にしくじるな、死ぬな、捕まるな、それが無理なら自爆しろ、敵にこちらの情報を掴まれるな、Gが鹵獲されるような事になったら全員命はないと思え!」
ジャックの荒々しい言葉と共に、オベリスクはコロニーの港を出る。
速度を加速させるオベリスクは、管制塔が指示する進路を大きく外れ、ニライカナイ県内部に足を踏み入れた。
「「「「了解」」」」
ゲートが開く、目の前に広がるは敵地…敵軍の一大拠点、そこをたったの5人で、駆け巡る。
Gのパイロット達…特に3名の新兵らの緊張と高揚は、抑えきれず隠し切れない。
「これが私の初陣、民間人を巻き込むかもしれない汚れ仕事、でもとっても重要で…危険な…G-4、いえ〝ガンダム〟私に力を____」
コシマの耳に、シャルル艦長からの命令が届く『発進!』
ニライカナイに、5つの閃光が走る________________________________________________________________________________
ここまで読んでくださって本当にありがとう。