GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely   作:杉村 祐介

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終:一時的にも

「来るぞ」

 

 コトノリが告げると、ユウタは無言で頷いた。

 レーダーに捉えたのは、三機の敵が隊列を組んで直進してくる様子。次いでモニターに映るそれが、「ドム」だと認識できるようになる。

 対峙するのは片腕を失ったゲイルシュナイデンだ。その手には何も握られていない。代わりに、籠手から延びたビーム刃が光を放った。

 

「良いかい、計器をよく見て。決してそこを動くんじゃないよ。先頭のドムとの相対距離が50を切ったらトリガーを引くだけだ」

 

 コトノリの言葉に、ユウタは頷く。レバーを握る手が、少し震えた。

 

「……わかった。でも、お兄さんは」

 

 ストライクフリーダムが構えた連結ビームライフルの火線上には、先ほどフレンド登録をしたばかりのコトノリ――ゲイルシュナイデンがいる。

 今の問いかけは単純に、フレンドリーファイアによるスコアを心配してのものではなかったが、

 

「直前で飛ぶ。キミのフレンドリーファイアにはさせない」

 

 コトノリの返答は相変わらずだった。しかし、その頃には、ユウタがそんなことを意識している余裕も無くなっていた。

 画面に映る計器の数字がどんどん小さくなっていた。100、90、80、減っていく数字に逆らうように、心拍数が上がっていく。

 

『先頭のドムとの相対距離が50を切ったらトリガーを引くだけだ』

 

 コトノリの言葉を反芻する。焦ってトリガーを押し込みそうになる指を、何度か食い止めた。

 そして、それが50になった時。ユウタがトリガーを引いた。と同時に、ゲイルシュナイデンは飛び上がり、1機目を踏み台のごとく蹴りつける。

 

 

 

 ぽーんと虚空に上がったゲイルシュナイデンを見上げるコンピュータ制御のドム三機。その胸を、連結ビームライフルの光が刺し貫いた。

 素組のライフルを連結しただけ。それでも、このミッションで縦に連なった三機のドムの装甲を抜くには、十分な武装だった。

 静寂は数刻。ユウタは固唾を呑んで光軸の行く末を見守る――直後に、光軸上に仕上がった三つの火球が、宇宙を照らした。

 

「や、やった……?」

 

 レーダーから、ドムの反応はきれいさっぱり消えていた。位置取りさえうまくできれば、一瞬で3体ものMSを簡単に倒せる、それがこのクエストが人気の理由だった。

 

「やった、やった!」

 

 はしゃぐユウタの声を聞いて、

 

「ふーっ、なんとかなった」

 

 思わず漏らした、安堵の言葉。正直なところ、コトノリもここまで上手くいくとは思っていなかった。むしろゲイルシュナイデンを貫いてでも、彼にクエストクリアしてもらおうと考えていたくらいだ。彼が相対距離80付近でトリガーを引いていれば、そうなっていただろう。

 そうならず、きっちり50のタイミングでトリガーを引いたのは、つまり一時的にも、ユウタとコトノリは信頼できる仲間として、前衛と後衛の役割分担を果たせたことを意味していた。

 

「ねぇ、次のクエストも手伝ってよ!」

 

 興奮冷めやらぬユウタが告げる。対するコトノリは、

 

「悪いけど、リアルの用事があるからここまでだ。それにガンプラの修復も時間がかかりそうだからね」

 

 苦笑しながら、首を横に振った。

 

「そっか……でもさ、フレンドになったし。また会えるよね!」

「そうだね、縁があれば」

 

 そう口にしたものの、コトノリには、そんなつもりはさらさら無かった。嘘を言ってその場を取り繕っただけだ。もうユウタには二度と背中を預けたいとは思えなかった。

 けれど、やはりコトノリは甘い男だった。

 

「次に会う時は、出来ればストフリじゃなくて、例えばエールストライクとかが良いな。それだとボクも戦いやすい」

 

 そんなアドバイスに、

 

「わかった!」

 

 ユウタが気前のいい返事をして、その日は別れた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇  

 

 

 

 数日後。コトノリがログインすると、ユウタから数回のメッセージが残されていた。どれも一緒に戦いたいという趣旨のメッセージだったが、日付は2日前で止まっていた。

 フレンド一覧から彼のプロフィールを見てみると、もうフォースに所属しているようだった。そしてコトノリのアドバイスを受けたからか、相棒がストフリからパーフェクトストライクに変わっていた。

 

「そうじゃないだろ……」

 

 コトノリは頭を抱えた。汎用機に乗って基礎を学べという意味でストライクを勧めたのに――どうしてこう決戦機体を選んでしまう初心者が多いのか。「分かりやすいカッコよさ」は時に罪だ。

 

「……まぁ、彼にも居場所が出来たってことか」

 

 コトノリは慣れた手つきで、ユウタをブロックユーザーに指定した。もう二度と彼と出会うことは無い。彼のフレンド一覧はまた一桁に戻っていた。

 一桁のフレンドくらいが丁度いい、そんな気さえしていた。否、それが、そうでなければならないという強迫観念にも似たものだと薄々気づきながらも。

 

「さて、今日も救援に行くとしようか」

 

 ゲイルシュナイデンは、誰に背を預けることもなく、今日も独り、コトノリの戦場へと発っていった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 終わり ◇ ◇ ◇




前回の「序」からこの「終」までは、原案をくすりしが担当し、友人である水槽学氏が執筆した合作となっております。
水槽学氏のツイッター:@lostfreedam

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