GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely   作:杉村 祐介

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三度、三日月の下で

「嬲るのが楽しい?」

 

 ボクは改めて、イチョウに聞いた。

 

「何が楽しいんだ、こんな事が!」

 

 離脱制限エリアでの救援への奇襲。仕様の穴を突いて、公式の推奨しないやり方でのPVP。そんな邪道が許されるはずもなく、そういった悪質なプレイヤーは最終的に通報が重なりアカウントロック、いわゆるBAN扱いとなってしまうわけだ。それを「楽しい」と言ってのけたイチョウは、もう最初に出会った彼とは思えないほどに歪んでいた。

 

「どうしてこんなことを!」

「どうして? 楽しいからに決まってんだろう! 手前勝手にクエストを受けておいて、実力不足を思い知ったプレイヤーをいたぶって、嬲って、ぶちのめす。これほど楽しいことはねぇ!」

 

 戦国バルバトスが黒鉄の刀を振るう。闇夜に紛れて剣筋が見えづらく、複合兵装の大剣を失ったゲイルシュナイデンは、左腕の籠手で受けることでなんとか四肢切断を防ぐくらいしかできなかった。

 

「つい最近まで流行ってたブレイクデカールは特に楽しかった! チート使ってるプレイヤーがバンバン救援出してんだもの、笑っちまうぜぇ。それを潰してやったんだから、オレのやってることは運営を助けているにも等しかった!」

「お前は、どうかしている!」

 

 ゲイルシュナイデンのつま先に搭載されたビームサーベルが発現する。それは閃光をもって戦国バルバトスを切り裂かんと蹴り上げられた。激しく散らされる輝き、熱される白い装甲板。だが、ナノラミネートアーマーを採用しているバルバトスにとって、通過するビームは単なる熱量に過ぎない。金色のスパークが弾け流れ、その中をなおも鬼武者は向かってくる。

 

「ちぃ……」

「目くらましのつもりかぁ!?」

 

 迫る黒刀。左腕の籠手でいなし、あえて戦国バルバトスの懐に飛び込むゲイルシュナイデン。アーマーシュナイダーは両膝に一つずつ搭載されている、さっき射出したものとは別のものを、今度は密着して腹部のフレームめがけて撃ち込んだ。

 

 決まった、かと思った。だが、イチョウは射出されたそれを、腹を曲げて胸部と股関節の装甲で白刃取りしてみせたのだ。

 

「……っぶねぇ!」

「イチョウお前、それほどの技術を持ちながら――」

「ぁあ? 説教たれる余裕がまだあるんだなぁ!」

 

 戦国バルバトスが刀を振り下ろす。ゲイルシュナイデンはその場に落ちたアーマーシュナイダーを拾い上げて、即座にその刃で剣先をずらして回避する。背後へと回った自機が、肩関節に向けて左手刀を振り下ろし、その胴と腕を断ち切ろうとした。だが、

 

「かはは!」

 

 見えない背後からの一撃を、戦国バルバトスはみごとなまでに防いでみせた。気合の類ではない、戦国アストレイ頑駄無の肩装甲はサブアームである。二振りの白銀の刀、ガーベラストレートとタイガーピアスを振るうその腕は、闇夜に沈んだ黒の腕。

 肩のサブアームによって刀が振るわれ、意図に反してこちらの左腕が切り落とされる。

 

「この速度でも、かっ」

「あぁ、お前があれからどれほどのクエスト救援に成功したかは知らねぇけどよ……オレはお前と同じかそれ以上に、お前みたいな偽善者をたっぷり殺して来たんだよ、たっぷり!」

 

 それはつまり、救援を出しては殺し、出しては潰しを繰り返してきたということか。フレンドリーファイアのカウンターは回らないとは言え、誰の得にもならないそんな野蛮な行動を繰り返して、当然のごとく何度も通報されて、アカウントは七個がBANされ、これが八個目。ハチロウという名前はその回数を示しているのか。

 

「イチョウ、お前はどうしてオレにこだわる!」

「簡単なことさぁ、食い損ねた獲物がこの世界のどっかで生きてる、それだけで寝覚めも悪くなるってもんじゃねえかぁ!」

 

 七度もアカウントの死を体験してもなお、同じ過ちを繰り返し続ける彼の執念を見て、ボクは息を吐いた。

 

「そうか。お前はお前なりに楽しんでたんだな」

「いいや、てめぇに逃げられたあの日以来、楽しいことなんて一つも無かった……ただただてめぇにこの刀を浴びせたくて堪らなくて切なかった!」

 

 両腕に二本の黒刀、肩のサブアームで二本の白刀、合計四本もの剣を巧みに操るファイターは、目指す所を目指せば高みに登れていただろう。だが方向を間違えて、ただ低く、底なし沼の底の底まで、深みに沈んでいくように、イチョウはただ闇へ闇へと躍進していた。

 そんな深淵に落ちたイチョウが、同じく暗がりを彷徨う亡者のような自分に尋ねた。

 

「お前こそどうして救援にこだわる? オレにはこんな偽善の何が楽しいのかさっぱりわからねぇよ。お前の価値観は人間離れしてて不気味ってもんさぁ……!」

「戦いの途中で鏡でも見ているのか? それとも寝言か?」

「そうやってはぐらかして、てめぇはいつも本心を隠しやがる。なぁ、コトノリぃ!」

 

 まるで『心を視ている』かのように言ってのけるイチョウ。

 彼のガンダム、戦国バルバトスの刀の一本が、ゲイルシュナイデンの右腕ビームサーベルとかち合う。火花が散り、闇夜を照らす。矢継ぎ早に、サブアームが動いたのを確認して、ゲイルシュナイデンはサーベルの出力を落とした。

 鍔迫り合いのバランスが崩れて機体の重心が乱れる。当然バルバトスは前のめりになって、その瞬間をゲイルシュナイデンが懐に潜り込む。繰り出された足払いが命中するも、鎧武者は左腕の刀を地面に突き立ててこらえた。

 迫る右腕、腕を失っていた側からの攻撃に、ゲイルシュナイデンは受ける手段もなくなっていて、ただ距離を開くより他無かった。一足飛びに後ろへ下がれば、地面へ刀を突き立てた敵は僅かに間合いを詰めることができず、その刃の切っ先は空を凪いだ。

 

「本心なんて、キミに語れるような出来事は何一つないよ」

「ならここで死ね、オレの刀で斬られて伏せろ、偽善者ぁ!」

 

 地面から黒刀を抜き取った鬼武者は再び構え直した。闇夜に沈んだ四本の三日月は一つの生き物のように、流れるようにゲイルシュナイデンへと迫った。

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