GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely   作:杉村 祐介

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終:偽善者

 コトノリにとって、それにある種の美学を覚えた。己に足りない何かを持っているのだと錯覚した。正しくないことでさえ正しいと思わせる何かをイチョウは持っているかのように、心の芯が振れていなかった。

 対して自分はどうだ。他人の応援ばかりして、己の道を全く進んでいない。プレイヤーランクだって下から数えるほうが早い。フォースに所属しても居なければフレンドも数えるほどだ。今日このクエストを選んだのだって気まぐれだし、イチョウを見ていると全てが否定されたかのように感じてしまった。

 

「偽善者、ごもっともだ。ボクほどの偽善者はそうそういない」

 

 けれどそれでいい。それでも居場所をくれるのが、GBNというオンラインゲームなのだから。

 

 

 

 迫りくる三日月は、自機を、ゲイルシュナイデンを切り刻んで通り抜けた。それはそれは美しい動きで、まるで人類に最初から腕が四本あったかのように、滑らかな動きで愛する機体を屠った。

 

「てめぇ、わざと受けたなぁ……!?」

「ボクの実力じゃキミには勝てないと悟っただけだ」

 

 崩れ落ちる愛機だった残骸。火器攻撃ではない上に、イチョウはわざとコクピットブロックを外したために、四肢が削げ落ちた達磨状態になったまま、通信と一部のレーダーだけが生かされていた。

 イチョウは恐怖を味わせるためにか、あえて生かしたまま通信越しに叫ぶ。

 

「自覚症状があるのが余計に気に入らねぇ、その偽善、誰のためになるって言うんだ!?」

「ボクのプレイスタイルだ、否定しないでくれ。イチョウ、キミのプレイスタイルが『救援を襲うこと』なのも否定しない。ボクの目が届かないところでやってろ」

「そいつは嘘だな。第一、自分が楽しむためのゲームで他人を楽しませるようなことばかりやって、それが楽しいってのかよ!」

 

 ガツン、機体が揺れる。どうやらコクピットを素手で持ち上げられているようだ。逆さまに吊り下げられた愛機だった残骸が、戦国バルバトスの前で三日月に晒される。

 

「お前の目はオレを見ていながら、別のものに焦点を当ててやがる……まるで今を見ていない、ずっと昔を見たまんまだ。違うか!」

 

 イチョウの問いかけは、今のボクに答えられるものではなかった。重力が反対にかかって頭に血が登っていくような感覚が走り、苦しいという次元を超えて快楽になりかけていた。

 

「オレを見ろ! 今こうして敵対するオレをよぉ! なぜ見ようとしない、なぜだ、オレなんざ相手にならないって嘲笑ってんのかぁ!?」

「嘲笑ってなんか、いない」

「ならなんでオレと戦わねぇ! てめぇの攻撃には殺意が乗ってなかった。自分に嘘ついてんじゃねぇよ。お前の心の奥底に眠ってる殺意を、オレに、向けろ!」

 

 朦朧とする意識の中で、イチョウの言っていることは正しいように思えた。ルール外のPVPを仕掛けてくる害悪プレイヤーに殺意を向けない自分こそ、害悪も害悪なんじゃないかと感じていた。それでも、

 

「ボクは、戦わない。イチョウ、お前のことを否定しない」

「――てめぇ」

 

 投げ捨てられた機体は地面に落ちると、闇夜に煌めく三日月によって両断された。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……なるほどな。言われた通り、ボクはボク自身に嘘をついているのかもしれない」

 

 ログアウトしたボクは、今日のことを振り返って呟いていた。

 対峙したイチョウ――戦国バルバトスの強さは恐ろしかった。ゲイルシュナイデンでは万全の状態でPVPを行ったとしても勝ち目はないだろう。手刀を防がれたときの反応速度といい、最後の一撃といい、彼ほどの実力があればゲーム内上位ランクに食い込むのも難しくはないだろう。

 そんな彼が自身に執着し、救援キラーと化していることに悲しみを抱きながらも、同時に「彼のプレイスタイルを否定しない」ことは自分の信条でもあった。それを否定してしまっては、自分という存在すら危うい。

 でも、彼の言うように、自分は偽善者なのだろう。『自分が楽しむためのゲーム』で『他人を楽しませることが第一と考える自分』は紛れもなく異端だ。

 だが、それがどうした。自分はこのゲームが好きだ。

 

「偽善者、か」

 

 コトノリのあり様を形容した彼の言葉を噛みしめながら、ゲイルシュナイデンが完全に修復されるまでの時間をスマホにメモして、店を立ち去った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……はぁ、ったく今日もシケた相手だったなぁ!?」

 

 鋭利な刀のように銀色に輝く三日月を背に、和風のガンプラが月をそのまま持ってきたかのような刀をダブルオーライザーへと突き立てる。

 

「お前、何をしてるのか、分かってんだろうな!?」

「ぁあ?」

 

 倒れているダブルオーライザーの中に乗り込んでいるパイロットが、通信越しに和風ガンプラのパイロットへ怒鳴る。

 

「こんなことをして、タダで済むと思うなよ。運営に凍結されても知らないからな!」

「うっせーよ……あぁ、ガンダム風に言えば『ダメじゃないか!死んだやつが出てきちゃあ!』ってか!?」

 

 和風ガンプラのパイロットは、絶望するプレイヤーをあざ笑いながら、倒れているダブルオーライザーに何度も何度も刀を突き差した。そのたびに溢れるオイルや火花を己のガンプラに浴びせ続けた。それは相手が運営への通報とログアウトをするまで繰り返された。何度も、何度も。

 

 ホログラムのそれがログアウトされて姿を消した時、和装ガンプラは月明かりに照らされて独り輝いて見えた。そのガンプラを操るダイバー、ハチロウは独り言をぼやく。

 

「なぁ、コトノリよお。今何処に居るんだ……?」

 

 血塗られた武者は再び、救援システムの闇に消えた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 終わり ◇ ◇ ◇

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