GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
序:灰色
物体には色がある。赤、青、緑からなる光の三原色。もしくはシアン、マゼンタ、イエローからなる色の三原色が代表的だ。それぞれ混ぜることで他の色を作り出すことができ、色の三原色は全てを混ぜれば黒になる。
誰しも小学校のころ、図画工作の授業でいろんな色を出そうと絵の具を混ぜた経験はあるだろうが、知識をもたないまま適当に混ぜていると、それは濁り曇って鮮やかな色には到底及ばない。せいぜい販売されている絵の具に少し色味を足す程度だと思う。
そして怒りは赤、悲しみは青というように、色は物体だけでなく心にもあると感じる。人は心の色を言葉というコミュニケーションツールを介して交ぜあい、より良い色を出そうと努力しているのだ。
だが、色を混ぜればまぜるほど、それは濁り曇って黒になる。そして僕の心は、限りなく黒に近い灰色だ。だから僕は、誰かを濁らせることが分かっていたから、人との交流を遠ざけていた。けれど僕の本心は、誰かの色が欲しかったのかも知れない。
灰色に何を足せば、白になれるのだろうか。灰色は灰色のまま、黒にしかなれないのだろうか。
【GBD-L】ガンダムビルドダイバーズ−ロンリー
004「混ざり合う色の中で」
視界を覆う青。電子の海面を突き抜けた直後に、ふわりとした浮遊感に包まれる。毎回ログインの度に与えられる、数秒ほど地に足がつかないその感覚は、現実が物足りないと感じている僕に「非現実感」を与えてくれる一種の儀式のようなものだった。
儀式が終わりを迎える、虚構が現実と重なる。急速に後方へ流れていく視界。眼前に現れた光を突き抜け、僕、ダイバー「コトノリ」は今日もGBNに降り立った。
ログインロビーはいつも都心部の駅を思わせるほど賑わっていて、談笑をしていたり、待ち合わせをするダイバーたちの笑顔であふれていた。
「青いストライク使い知らない?」
「この前のミッションでさ、出たんだって。乱入する『黒いフリーダム』!」
「クロスボーンの集い、フォースメンバー募集中でーす!」
「そのアデルのダイバーが鬼強くてさ――」
思い思いの会話をするダイバーたちを縫うように、時折肩をぶつけてもお構いなしに僕は歩いた。今日は休日、とはいえ普段より一層多くのダイバーで賑わっていて、整備室へ向かうのも一苦労だ。ロビーの端に設置された整備室へのゲートがいつもより遠く感じられてる、それに向かって急ぎ足で進む自分に何か違和感を覚えた。
こういう時、やっかいごとに巻き込まれるのだと自分の第六感が囁いていた。
「そこの兄ちゃん、ちょっとええか!」
声と同時に、肩に手を置かれた。僕はボディタッチや過度なスキンシップを好まない性格なので、その時も心臓が飛び出るほどに驚いたし、身体も飛び跳ねたことだろう。
額に滲む汗を拭くこともせず、肩に手をやった声の主へと振り返れば、そこにはやや困惑した表情の青年が突っ立っていて。
「あ、脅かしてもうたかな……?」
「……いえ。こちらこそ、すみません」
僕は内心それを「不自然な受け答えだな」と自傷した。謝罪されるべきはこちらのはずなのに、謝る道理がない中で謝りながら、足は無意識に一歩退いている。頭で考える前に心で拒否していた。自分の悪い癖だと自覚はしている。
だがそれもそのはずだ。彼の少し困りつつも笑っている表情、胸を張って物怖じしない態度、肩に置かれた手はまだ離されていない。そしてこちらの眼をじっと見てくる曇りのない視線。直感で「苦手なタイプだ」と察知した僕の身体が、無意識に警戒レベルを引き上げるのは自然なことだった。
「ほら、テンマ。初対面の人にそんな声のかけ方しちゃダメだって」
自分にとってのunknown。声を掛けてきた少女は彼の仲間だろう、目の前に対峙する彼に気安く話しかけていた。
「初めまして、私はアヤカ。で、こっちがテンマ。ほら、挨拶しなさい」
そして僕を見て会釈する。ああ、彼女はまだ理解の及ぶ人間だと、少しだけ自分の心の鎖は緩んだ。だが、まだ警戒を解くには及ばない。
「……そろそろ手を離してくれないかな」
さっきから「離さないぞ」と言わんばかりに置かれていた手に視線をやって、少年にこちらの意向を伝えた。その間、彼とは一瞬だけ視線を交わしたが、やはり彼の純粋で真っ直ぐな瞳に僕は押しつぶされそうになって、すぐに眼を逸らした。
「ああ、すまん。でも用があるねん。聞いてくれんか?」