GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely   作:杉村 祐介

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Unknown

 澄んだ瞳の青年、テンマは大袈裟に、降伏のポーズのように両手を上げた。さすがにこちらが警戒していることが伝わったのだろう。それでも、口元からは相変わらず笑顔が絶えず、それが自分には無配慮さを感じさせて気になった。

 

「これからちょっと難しいミッション行くんやけど、一緒に来てくれへんかなーって」

「そうなの。推奨人数四人なんだけど、私たち二人だけじゃ難しくて。お願いします」

 

 二人が揃って頭を下げた。仲の良いことだ……そんなふうに捉えながらも、彼らが頭を下げている間に、相手の公開プロフィールをさらっと見ておいてランクやフォースに入っていることや、戦績などの最低情報を頭に仕入れておく。こういった情報はあればあるだけ交渉事には有利だ。

 早速、さっきチラ見したフォース名を手元のウィンドウで検索する。所属は五人ほど、規模は小さいが、メンバーの練度は高かった。

 

「テンマくん、だったね。君たちはフォースに所属しているんだろう? フォースの仲間に頼めばいいじゃないか」

「あー……」

 

 僕の返答に、テンマは口を開けて声でもなさそうな音を出してから、苦笑して隣の少女に助け舟を出すように目配せした。彼女もどこかぎこちなく苦笑いして。

 

「それが、ね。他のメンバーは参加条件を満たしてないんだよね」

 

 テンマに代わってアヤカが、首元に巻いていた赤いマフラーに手をやって、口元を隠しながらそう告げた。

 嘘。そう読み取った僕の感情を、さらに読み取ったであろうテンマが、ズイと前に一歩踏み出す。

 

「コトノリさんっ!」

 

 こちらが相手のステータスを盗み見たのと同様、テンマもこちらのステータスを見ていたのか、名前を知られていることは想定内だが、面と向かって名前を言われると人間は多少ならず戸惑うものだと身をもって知った。

 

「俺、コトノリさんと一緒に戦ってみたいねん。頼む!」

 

 不思議なことに、彼の言葉には一点の曇りもない説得力があった。純粋さとでも言うべきか、彼の言葉や態度には、あたかも、自分がそこに居ていいのだと錯覚させるほどの肯定感を与えてくれた。きっと僕でなければ、彼と打ち解けるのに時間はかからないだろう。

 しかし、彼のようなタイプに関わってはいけないと胸の内で叫ぶ己も居た。僕には土足で他人の心に踏み込んでくる彼という存在が不安で不快で仕方なかった。僕にとってチームを組むということは、たとえ一時のことだろうとも、それはまた裏切りの過去を繰り返すことに――

 

「――やめろ」

 

 否定の言葉で、ネガティブな思考も、彼の申し入れも、すべてを遮断する。

 

「え?」

 

 きょとんとするテンマとアヤカに、

 

「……他を当たってくれ。チームバトルは専門外なんだ」

 

 そう言って、僕はそそくさと早歩きで整備室へと向かおうとした。

 

「――知ってるで!」

 

 ログインロビーにいるユーザー全員に響き渡るかのように、突然彼が声を張り上げた。

 

「あんたのこと、全部知ってるで」

 

 遠慮もせず続けざまに言った言葉は、整備室へと向かおうとする僕の足を止めた。その笑顔が気さくな兄ちゃんから、戦う者の好奇心へと変わったのを、僕が見逃すはずもなく。

 

「『仕立て屋』って名乗って救援しまくる影のエース級ダイバー、出るとこ出ればヒーローになれるかもしれん実力を持ってながら、裏方で低レベルクエストの救援ばっかやってるんやろ。そんなあんたやから、特別な頼みなんや!」

 

 テンマが空中を指でなぞると、そこに3Dで描かれたパネルが追従して、それは警戒する僕の方へと向けられた。受注前のミッション画面だ。情報欄へと眼を移せば、その難易度と報酬に声が出そうになった。

 ミッション名は「先駆者の目覚め」。『劇場版 機動戦士ガンダム00 A Wakening of Trailblazer』をベースにしたミッションで、無尽蔵に現れる金属生命体「ELS」を食い止め、「ダブルオークアンタ」が対話を行うまでの時間を稼ぐ、というものだった。GBNでもトップクラスの難易度、それに見合った報酬金額とEXパーツに経験値。これだけの報酬が貰えれば、他のダイバーとの差をさらに広げることもできるだろう。

 

「これから行くのはこの高難度ミッションやねんけど、ちょっと二人やと手が足りんみたいでな、コトノリさんなら条件満たしてるやろし、背中を預けるのに不安はない。報酬は参加者の等分でどうや?」

 

 悪く無い申し出だ。それどころか、この依頼をクリアさえ出来れば、報酬でしばらくGBNを悠々自適に満喫できる。フォースネストの拡張に必殺技の強化、ランカー達とも張り合えるほどの経験値報酬も入る。並のダイバーならまず断ることはないだろう。テンマもまた、この好条件なら乗ってくれるだろうと思っていただろう。

 だが、

 

「……悪いけど、控えさせてもらうよ」

 

 僕の返事は決まっていた。

 

「なんでや! 報酬が悪かったんか?」

「いや、むしろ高過ぎるくらいの報酬だ、でも」

 

 僕はこのミッションに不安を感じていたのかもしれない。彼という存在にも恐怖を感じていたのかもしれない。彼と肩を並べられる自分ではないと、強張っていたのかもしれない。

 心にもない言葉が口から流れ出る。

 

「僕はフォースに所属してないから相対的にお金に困ってないし、ランカーでもないから月間取得経験値も気にしてない。なにより初対面の君たちとチームを組んでこのミッションをクリアできる保証はない。そんなわけだから、他をあたっておくれ」

 

 立て板に水といった具合に、僕は言い訳を並べ立てた。都合の悪い時にある事ない事をべらべらと喋ることができるのは、自分にとって数少ない長所なのかもしれない。そう思いながら、圧倒されていた二人に背を向けて、僕は下を向いて整備室へと歩き出した。

 

 

 

「……やっぱりダメだったじゃない。初対面であれは無いわよ」

「そうかー? 行けると思ったんやけどなぁ」

 

 さっきテンマが大声を出したことで、背中越しに彼らの言葉が聞こえるほどにロビーは静まり返っていた。そして彼が最後に言っていた言葉が、僕の心に突き刺さった。

 

「絶対楽しいって、思ってんけどなぁ」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ゲイルシュナイデンは普段の姿で直立していた。整備室はログインロビーと違って、コツコツと足音が反響するのが心地良いほどに静かだった。けれど僕の心はノイズで掻き乱されていた。

 

「チームになるのが、楽しい……?」

 

 いつものように救援ボードを眺めていたが、そのリスト一覧には多くの星が並んでいた。そう、普段はミッション難易度の低い順に並べていたが、今日ばかりは高難易度――テンマとアヤカが向かったであろう「先駆者の目覚め」――を探していた。

 

「……絶対楽しいって、思ってんけどなぁ」

 

 先ほど出会った遠慮のない無礼なダイバー、テンマの言葉が靴音のように反響する。幻聴だ。そんな言葉を発する人間はここには居ない。だが現に今、僕の頭から離れずに居座り続けている。

 

「やめろ、馬鹿馬鹿しい」

 

 口から出た言葉は、先刻の否定のように思考回路を切ってくれるものだと思っていた。だがその期待とは相反して、指は、目はあのミッションを探していた。

 無ければ良いのだ。彼らが無事にクリアしていれば、単なる僕の徒労で終わる。救援を出していなければ、僕が見ることは二度とないだろう。いっそすぐにミッション失敗に――

 

「――くそっ、バカか僕は」

 

 僅かにも、他人の不幸を望んでしまった自分に嫌気が差して、リスト更新のボタンを叩いた僕は目を見開いた。

 見つけてしまった。ミッション「先駆者の目覚め」、参加者は三人。テンマとアヤカ、あと誰だろうか。詳細を表示するが、どうやら参加者はファーストと呼ばれるRX78-2ガンダムのカスタム機、そしてガンダムをより軽量化、近接戦闘化させたガンダムピクシー、あと一人はストライクベースの機体らしい。

 

「こんなの……絶望的じゃないか!」

 

 誰に聞かせるわけでもなく思わず、僕は独り声が出ていた。

 あの時見せてもらったミッション詳細。ガンダム00に聡い人なら分かっているだろうが、ELSを相手どるには事前準備から必要だ。彼らの移動速度についていけるだけの機動力、物理兵器を吸収無効化する知的生命体にダメージを与える遠距離武装、そして群体で襲いかかる敵に対しての経験と知識――その準備、対策がなされたチームだとは到底思えない参加機体のリストに、とても勝ち目があるとは思えなかった。

 僕があのミッションを断った理由の一つでもある。僕の機体では、ELSを相手するのに相応しくない。

 あの時すでにわかっていただろう。僕が断れば、あの二人はあのままミッションに行き、当然のように苦戦する。救援を出すか、敗北するか。こうなるのが分かってただろう、僕には、初めから……。

 

「――やめろ!」

 

 考えても仕方のない「ああしていれば」という後悔を、否定の言葉で断ち切る。

 

 

 

 そう、僕は「仕立て屋」。救援を通してしか他のダイバーとは関わらない。逆に言えば「救援を通して必ず助けて、仕立ててやる」と昔決めたのだ。だから僕は未練たらしく、このGBNにダイブしてるんじゃないか。

 愛機を見上げて、独り言をつぶやく。

 

「……悪いなゲイルシュナイデン、腕の一本か二本くらいは覚悟してくれよ」

 

 救援ボードのミッションを受諾する。同時にモビルスーツのコクピットへ乗り込む。左右の操縦桿を手にして――汗ばんだ掌が気持ち悪くてもう一度握り直した。

 眼前のゲートが開く。カタパルトが展開される。棒立ちだった黒い愛機に魂が宿るようにツインアイが輝き、待ちわびたと言わんばかりにその四肢にエネルギーを行き渡らせる。

 

「コトノリ、ゲイルシュナイデン。これより救援に向かいます」

 

 レールによって射出されたゲイルシュナイデンはゲートを潜って、その身よりも深く暗い宇宙空間へとワープした。

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