GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
そう、僕は言うなれば奇天烈だった。頓狂だった、という方が正しいかもしれない。
人の心を知りながら、人の心が分からない。自分と他人は同じ人間なのに、まるで別の生き物のように感じてしまう。誰かが「こうしてほしい」と願うことと同じように自分も「こうしたい」と願って良いはずなのに、それは間違っていることのように思っていた。
だから今日も、僕は独りで、誰かの願いを叶えるのだ。
「GBN、ログイン完了」
ログインしたユーザーはまずGBNのメインフロアへと誘導される。そこから各種ミッションやフォースネスト、市街地への移動ができるのだが、僕はくるりと踵を返してガンプラの整備室へと向かった。別段ここから他へ行くあてもなく、用事もなかったからだ。ゲートを一つくぐれば、そこはメインフロアの喧騒そっちのけで、とても静かな整備場兼カタパルトデッキになっている。
非科学的だが、それこそがオンラインゲームの良い所だ。
「さて、今日もたっぷりあるなぁ」
静寂な整備場を歩きながら、独り言をつぶやいて、手元のモニターを何度かタップしたり、スクロールしてみる。両手でも足りないくらいにクエストの情報が寄せられているそれは、救援ボードと呼ばれたものだった。
GBNにログインして僕が最初にやることは、溜まりに溜まった救援ボードの確認だ。いや、最初だけではない。GBNにおいて僕は、戦っている時を除いてほとんど救援ボードしか見ていない。救援を受注して、助けて、離脱する。そればかりを繰り返していた。それしかやっていなかった。
他人からすれば、フォースへ所属してチームプレーを楽しんだり、GBN上での生活をやってみたりと、僕の知らない楽しみ方は無限にあるのだろう。仲間と交流を深めて、難関に挑戦していくという楽しみは、他では体感できないオンラインゲームとしてまっとうな楽しみ方である。
けれど僕には、それができない。
「行こう『ゲイルシュナイデン』、今日も無茶なプレイヤーがたくさん居るみたいだ」
視線を上げた。『ゲイルシュナイデン』と呼称されたガンプラは僕の目の前に猛々しくも静かに出撃を待っていた。
RX-78を連想させるデザインを模していたが、それは似て非なるものだ。ベースキットに『アメイジングレッドウォーリア』を使用したそれがRX-78と被っても当然のことであり、同時にカラーリングは赤と朱色をメインとしたベース機から、黒と紫へと変更されていて、その各所は細かい変更が成されていた。何より背負い物であるバックパックにあるはずの大型武装は一切排除されていて、代わりに着けられているのは水中適性が高めのブースター。よくよく見ると貧弱とさえ思える代物だ。シールドすらRX-78より小さく、籠手のように片腕しか守れないほどのものだ。メイン武装は、大剣と銃を一体化させたものひと振りのみ。
それでも、こいつの武装はこれだけで良い。これくらいがちょうどいい。
救援ボードのクエストはどれも同じように見えて、実はそうでもない。誰かが救援に行きそうなクエストは放ったらかしても知らない誰かが行ってくれる。だから人気の無さそうな、無茶をしているプレイヤーのもとへ行くのが、個人的な流儀だと思っていた。
今日は「おっ」と目に引くクエストを早々に発見できたから、手早くそれをタップして、「受注しますか」にOKボタンを返す。
さぁ、ここからは時間との勝負だ。相手は今まさに苦戦しているさなか、こちらが一秒遅れたら敗北ということもある。実際何度か経験しているが、暗転する画面に「クエストに失敗しました」と表示されるだけのそれは悲しいものだ。
降りていたワイヤーアンカーに脚をかけてコクピットハッチへ乗り込む。迅速に的確にシートへと座り、ボタンをONにしていく。ゲイルシュナイデンの四肢に血が行き渡るように、次々とモニターが点灯していく。
「プレイヤーネーム、コトノリ。機体名ゲイルシュナイデン。救援任務を受諾しました。出撃します!」
タタン、と宙に浮くモニターをタップして、左右にある操縦桿を握った。前方の大きな鉄板が開き、ライトで照らされたカタパルトが伸びて、出撃のレールが敷かれた。
ぐっと操縦桿を押し込んで、ゲイルシュナイデンは背面バーニアを全開に、広大な宇宙へと駆け出した。