GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
「大丈夫ですかっ!?」
飛来したunknown。レーダーには、ガンダムピクシーと表示されていたそれは、動けなかった僕の愛機を蹴り飛ばし、同時に四つ腕から繰り出される俊足の連撃を、ビームダガーのみで凌ぎ切る。
「別行動って良くないですよ。仲間なんだから、助けあわないと!」
彼女は目は真剣に、それでも口元には笑みを浮かべて言った。彼女、アヤカもあのテンマとかいう青年と同じ表情をしていた。それが僕にはとても辛く感じた。僕は独りで何をやっている、彼女や彼のようになぜ笑えない、ああ、仲間を持ち楽しむということは、そんなにも尊いことなのか――
だがそんなチームプレーも、時として命取りだ。ELSがピクシーの足にミサイルを撃ち込んだ。それはつまり、足に刺さった楔から、機体をELSと同化させていくに等しい。
「しまっ――」
アヤカは息を飲む。それは僕も同じだ。僕を助けにきた彼女が先にリタイアするなんてことはあってはならない。救援しなければならない、助けなければならない。
「動くなっ!」
キミが犠牲になる必要はない、という言葉は口から出なかった。ただ身体は最善の行動を選んでいた。ゲイルシュナイデンの膝に内蔵されているアーマーシュナイダーを射出し、数歩分先にいるELSに蝕まれたピクシーの右膝から下を的確に射抜き、その本体が侵食されるのを防いだ。
「なによ……っ!?」
彼女の「仲間なんだから助けあわないと」という言葉に、僕は刃を返すのか。僕という存在は先程のELSのように他人を傷つけて取り込み、イチョウのように害を与えるのか。ああ、そうであるならば罰を受けなければならない。言葉足らずは今始まったことではない。だから今回も恨まれて当然のことだ。僕は彼女に恨まれることは覚悟していた。だからその反応も、当然のことだと唇を噛んだ。それでも、これが助けることに繋がるのなら、汚名を被ってでも最適解を選ぶのが僕の不器用なプレイスタイルだった。
だが、
「――お前ぇっ! 何やってんじゃぁあ!」
近接レーダーの探知外から流星のように飛んできたガンダム。赤い筋を残しながら、まるで光の速さで動いているように、気づけばゲイルシュナイデンの胸ぐらを掴んでいた。
それはそのまま僕を押さえつけて激走する。急激にかかるG、目まぐるしく変化する景色に、僕は胃液が昇ってくる不快感に襲われた。
「お前っ……ふざけんなや! アヤカはお前を助けようとしたんやぞ。それを、撃墜数を横取りされそうだからって攻撃するんかっ!」
いつのまにか開かれていた接触回線からは、鬼気迫る表情で、彼、テンマが怒鳴っていた。
気づけばフィールド外周のデブリ宙域まで押し込まれていたようで、ゲイルシュナイデンは胸ぐらを掴まれたまま隕石の一つに押しつけられた。そこでやっと、流れていた景色が止まった。
「テンマ、くん、か」
「コトノリさん! あんたはそんなことをする人じゃないと思ってた。信じたかった。けどな、アヤカを傷つけるヤツは許さねぇ!」
「まさか、違う、僕は最善を――」
「最善? 味方を斬ることがアンタにとって最善なんか!?」
「ぐっ――」
僕はそれ以上返す言葉が見つからなかった。確かに僕は正しくあろうとしたつもりだったが、そもそもが間違えていたのだろう。助けられるものでも、助かるものでもない。彼の言うように「味方を斬ることが最善」であっていいはずがない。
僕は気力を失って、操縦桿から手を離した。
「待ちなよ、テンマくん」
また新たなUnknown、割り込んで接触回線が開く。俯いた顔を上げてみれば、それは今まで敗北していたと思っていたストライクのパイロットからだった。
驚いたのは僕だけではない、さっきまで声を荒げていたテンマが先に口を開く。
「エスさん!? あんた生きてたんか!!」
「ああ、なんとかね。ELSとのやり取りでエネルギーもかなり使ってしまったから、限界も近いけど」
バックパックにAGE-FXのものであろうCファンネルを多数搭載した、エールストライクがベースであろう紅い機体。大剣をやすやすとELSに飲まれたコトノリに反して、彼はまだ大型実体剣であるシュゲルトゲベールを引っさげ、そのボディに被弾した形跡も見当たらない。どれだけの技量があれば自分と同じELSに対して無傷で居られるのか。
だがパイロットの疲労と残存エネルギーは心許ない様子だったのが、さっきの通信の声色で伺える。
「俺の必殺技は『空間跳躍』――」
必殺技――GBNのランクが上がれば使えると言う、ダイバーと機体固有の高威力兵器のことだ。だがそれはガンプラの精度や閃きによって幾多もの方向へと設定できる。エスと呼ばれた彼の必殺技は相手を破壊する類のものではなく、その名の通りの能力で――
エスのストライクが、テンマのファーストと僕のゲイルシュナイデンを掴む。するとふわり、反重力を身体で感じると同時にモニターが一斉にモザイクノイズに包まれる。
次の瞬間、デブリ宙域まで押し込まれたはずの僕と、押し込んでいたはずのテンマも、元々の戦闘区域へと戻っていた。その証に、その場にマシロとアヤカもいる。
「量子化のように時間軸の移動じゃない、単純な空間軸の移動。デブリが多い宙域だと使いにくいけど、ここまで開けた宇宙ならELSと戦うのも、こうして仲間を助けるのにも使える」
「さっすがエスさん、スゲェーっ!」
テンマが歓喜の声を上げてはしゃぐ。僕もそれに驚きながらも、ELS達はどうだろうかと望遠レーダーを立ち上げる。急に失踪した的を見失って混乱している様子だが、数秒もすればすぐにこちらへ気づくだろう。
「コトノリさんっ!」
マシロは僕との再会を喜んだ。だが右足を失ったピクシーのアヤカは疑念を拭えず、テンマはそれを見て改めて怒りを湧き起こしていた。
このフィールドにいる五人がやっと揃った形になる。だがこのパーティは歪だ。チームワークが望めたものではない。それに時間も残存エネルギーも少ない中で、僕が出す答えは単純だった。
「……僕が前に出ます。みんなは巻き込んでもいいから遠距離武装で戦ってください」
「はぁ!?」
僕の提案にテンマが突っかかる。
「仲間を斬るようなヤツの言うことなんか聞けんわ!」
「テンマ……!」
「キミがそのつもりなら、僕は独りで構わない」
「コトノリさん何を言って!?」
「テンマも、冷静になってよ!」
「うるせぇっ! アヤカ、お前斬られたんやぞ!? 味方を斬るような奴に背中を預けられるかっ!」
話し合いの時間はない。今にもELSはこちらへ向かってくるだろう。僕は愛機の各関節ににリモート爆弾を装着しながら計算した。ミラーミッションなら相手も五機、いや先程ゲイルシュナイデンELSがノルニエルELSを取り込んだから四機か。だがあの四つ腕を相手するのに、二人では数が足りない。そもそも一対一でも勝ち目は薄い――
「コトノリさん。なにを見てるの」
マシロの声が、作戦を考える僕の思考を止めた。