GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
「マシロ、さん。僕は……ミッションの、クリアを――」
「これは『対話のためのミッション』でしょう? 私たちが仲間同士で対話できなくて、クリアできるはずがありません」
正論だった。だがこの言葉を、マシロ以外の誰かが発していたら、きっと聞き入れられなかっただろう。こんなギスギスした人間関係さえも、彼女は繋いでみせるのか。その器量に、ただただ僕は驚いた。
「みなさん聞いてください。私の必殺技の発動まであと少し時間が欲しいです。コトノリさんがアヤカさんを傷つけたのは事実ですが、それでも、彼は信じられる人です。彼と力を合わせて、少しだけ時間を稼いでください」
「でもよ……」
「私は!」
どもるテンマに、アヤカが遮るように言う。
「コトノリさんのことは、まだわかんないけど。マシロさんを信じる!」
「俺も信じるよ。マシロさんのことも、このコトノリって人のことも」
ストライク乗りのエスも同意した。無論、僕はマシロの言うことを信じている。
「……ああっ! 分かったよ、でも時間稼ぎだけだからな!? あとでアヤカを傷つけたことはきっちりケジメつけてもらうからなっ!!」
「ありがとうございます、テンマさん!」
マシロが笑顔を見せた。ああ、この表情で助けられた人は無数にいるのだろうな。僕もこの笑顔に助けられたのだ。今回も。
話はついた。レーダーを見れば、ELSもこちらに向かっている。
「じゃあ、さっきも言ったように僕はELSの注意を引きつける。囮に使えばいい。テンマさんもアヤカさんも、必殺技の条件は整ってるんだろう、出し惜しんで勝てる相手ではないのは分かってるはずだ」
こういう時だけ饒舌になる性格はなんとかしたい。そう思いながらも実行に移せない。
「お前が仕切るんじゃねぇよ――」
「テンマくん、冷静になりなよ。この百式使いはコミュニケーションこそ苦手だけど、単に不器用なだけだと思うんだ」
「百式ではない。ベースはレッドゥォーリアだ」
「……そういうところだと思うけど?」
食えないストライク使いの反論に言葉が詰まる。ぐうの音も出ないとはこのことか……。
僕はその場の空気に我慢できず突出する。それを追いかけるようにエスが飛ぶ。マシロは必殺技のために後方支援ぎみに移動、ピクシーはマシロの援護。残されたファーストガンダムの乗り手のテンマは頭を掻いて。
「あああっ、くそっ! 後で覚えてろよ!」
エスと僕を追いかけて飛んだ。
何はともあれ、やるべきことは決まった。ゲイルシュナイデンが宙域を飛ぶ。その後をストライクが追いかけて、そしてファーストガンダムも続く。
「いくぞ四つ腕ELS、僕を学習できるか、やって見せろ!」
ゲイルシュナイデンはフロントスカートのミサイルを射出した。ただのミサイルではない、一発は閃光弾、もう一発はミノフスキー粒子爆弾だ。光とミノフスキー粒子が拡散し、ほぼ全ての遠距離ビーム兵器を無効化する。それには流石のELSも怯んだ様子で、それが打ち放ったライフルは濃度の高いミノフスキー粒子の前に霧散する。単純な時間稼ぎでしかないが、その隙に腕の一本をビームサーベルでもぎ取ってやった。
「俺も負けちゃいられないな!」
エスの紅い機体も縦横無尽に駆け回り、自分のコピー相手だけでは飽き足らず、ストライクELSとピクシーELSの二機を相手に、大剣とビームサーベルの二刀流で大立ち回りを繰り広げる。ストライクELSの大剣をやすやすと回避してはその懐に大薙払いを食らわせ、取り込まれる前に空間跳躍。飛んだ先に突貫してくるピクシーに対しては、その動きを読んでいたかのように再び空間跳躍で逆に背後をついて刺す。
僕自身そこまでGBDのトップランカーに詳しいわけではない。だが彼の一挙手一投足は頂点を狙ってもおかしくないレベルだ。名前も機体も知らない無銘が、これほど強いはずがない。
「……強い。エスさん、貴方は」
「昔の機体を引っ張り出してきたけど、これは思ったより、戦える!」
「昔の――!?」
Cファンネルを巧みに操りながら、シュゲルトゲベールを振るうそれは、現役のガンプラではなく昔使っていた物だという。
たとえ機体を借りたとして、あれと同じ動きを僕ができるかと聞かれれば無理だ。普段から高難易度ミッションを繰り返していることを連想させる動きだ。あんな技量のダイバー、受注者のテンマは彼を一体どこから連れてきたのだろうか……。それもあの、曇りない瞳のなせる技、ということか。
「kiiiiiiiiii――」
ELSが叫び、ミサイルに擬態したELSが発射される。ダブルオーシリーズのトランザムでも無ければ容易に回避がままならない速度のそれは、ゲイルシュナイデンの左腕に食い込んだ。
「早いな、けど想定内だっ!」
侵食が始まる。それを見て、僕は左肘のリモート爆弾を起爆させた。爆発の衝撃と、左腕ロストの警告が出る。
額の汗を拭う余裕もない。だが本体はまだ生きている、まだ戦える。
「それにしても、ペースが……っ!」
我ながら無鉄砲だった。破れかぶれの戦術はどんどん後が詰まっていく。そのうち右足も侵食されて起爆、そしてサーベルの仕込んだ右手までも捕われてしまい、仕方なく起爆スイッチを押したが――起動しなかった。
「何、まさか、すでにELSに学習されて!?」
肘に付けていたリモート爆弾自体にELSが取り付いていたのだ。これでは起爆もできず、本体ごとまるっと呑まれてしまう。迂闊だった。だが、自分に出来ることは全力でやった。もうこれ以上、何が出来るというのか――
「――蒼を纏え、ガンダムっ!」
叫んだのはテンマだった。彼の青いファーストガンダムが、その色を一層と輝かせた蒼いオーラを発し、マントのように身を包む。先程までの一見すると稚拙ともとれるファーストガンダムの風貌から一転、それは例えるならSD騎士ガンダムのような高貴な雰囲気を漂わせ、他のガンプラを――少なくともゲイルシュナイデンなど容易なほど――遥かに凌駕するオーラを漂わせて、宇宙という極寒の地に、確かな熱量と存在感をもって顕現した。
「いくぜ……『戦いを終焉させる、一本の剣の欠片。『蒼き剣』よ、我に力を与えよっ!』」
彼はさらに叫ぶ。それは呪文のように、詠唱することで叶えられる能力であろう。増大したオーラと共にその手には、先程まで握られていたビームサーベルが貧弱に見えるほど神々しい、モビルスーツの身の丈ほどもある蒼光の両刃剣。それが振り払われれば、美しい残光をなびかせながら、ELSに取り込まれかけたゲイルシュナイデンへと肉薄する。
「これが、オレの、必殺技だぁーっ!」
動きはまるで覚醒したユニコーンガンダムか、はたまたトランザムしたダブルオーライザーか。GNドライブもサイコフレームも搭載していないファーストガンダムに、そんな芸当ができるはずは無いのだが。それでも彼は亜高速で近づき、ゲイルシュナイデンの肩関節部を狙って、その真紅の剣でELSに取り込まれた腕を切り捨てた。
「なんだよ、それ……」
「それはこっちのセリフや!」
騎士のようなファーストの背後に迫るELS、それに対応すべくテンマはエールストライカーをパージして押しつける。振り返って斬ることも簡単だっただろうに、そうすることで僕とゲイルシュナイデンを抱えて戦域から離脱することを優先したのだ。
「自分の機体をボロボロにしてでも囮をするってのが、お前の最善って奴なんか!?」
「……ああ、そうだ。そうなんだ」
我ながら不器用だ。ELSと互角に渡り合う技量もなければ純粋な力もない。誰かを信じることもできなければ、誰かを助けることもできない。接触回線に映ったテンマという少年の瞳は、僕にとって純粋すぎた。