GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
「ノリぃー! やっぱここに居たのかぁ!」
場違いな景気のいい声に、僕はきっと眉間にシワを寄せていたことだろう。振り向けば同じくパイロットスーツを着た青年がこちらへ飛来してきた。
「……アーくん、か」
「なんだよー、辛気臭い顔してさぁー! まぁ、ノリはいつもそんな顔してるけどさー」
彼は「アーク」と言う名前で活動しているダイバーの一人だった。僕の数少ないフレンドの中の一人でもある。お互い何度かアカウントの転生――作り変え――をしてきたというのに、気づけば長い付き合いになっている、いわゆる腐れ縁というやつだ。彼は馴れ馴れしく「ノリ」と呼んでくるので、僕はもっぱら「アーくん」と言うのが通称となっていた。
「相変わらず他人の心にへーきな顔して土足で踏み込んでくる奴だな」
「ひどいなぁ! キミはいっつも仏頂面だから楽しませようと思って言ってるんだぞ!?」
「そういう所を言ってんだよ」
彼はランドムーバーを器用に吹かして、平気で僕のパーソナルスペースへと侵入してくる。それにイラっときて、つい口調が荒っぽくなるのを自覚して反省した。そんな僕の内心も無視してアークという奴はお構い無しに自分のことを並べ立てる。
「実はまた新しいアカウント作ってさー。ランク上げ、手伝ってよ!」
「そんなことだろうと思ったよ。次のアバターは……ケモミミか?」
「そうそう! 色々やってみたけど、男性ベースに中性的なフェイス選んでケモミミ付けるのがやっぱ良いなーって思ってさー」
アークは自分の頭をコンコンと叩いてみせるが、残念ながらそのケモミミはノーマルスーツのヘルメットで見えていないぞ。
まぁ、GBNはアバター製作だけでも相当幅広い選択肢があり、アバターに夢中になるがあまり本題のガンプラがおろそかになるような人物もいるくらいだ。目の前に居る彼もその一人である。
かく言う自分はリアル体型に似せたアバターからほとんどいじっておらず、服装だけは白い連邦軍のノーマルスーツに決めていた。GBNではファンタジックな世界観もあり、服装が多岐に渡る中でのノーマルスーツ着用は少数派だ。ノーマルスーツを選ぶ中でも、デザイン的にはダブルオーやSeedなどのアナザーシリーズの方がデザインセンスで勝り、一方で根強いジオン軍服着用者も居て、一般連邦軍スーツなんてモブのような姿はそう見かけるものじゃなかった。
「で、そろそろ決めてくれたかい」
「……何の話だっけ、ランク上げ?」
アークが切り出した話題は前後の脈絡が乏しくて、また自分の夢想癖が手伝って、てんで検討がつかなかった。
「フォースの話だよ。僕の本アカで作ったフォースに入ってくれないかって、前に話したじゃないか!」
そう言えば、そんなことを前に話していたなぁと思い出す。
「その時も言ったけど、僕はフォースには入らないって決めてるから。お断りだよ」
「強情だなぁ、幽霊部員でもいいから入ってよー! ノリが手伝ってくれたら僕のサブアカウントも入って賑やかになるし、きっと楽しいよ!」
「アーくんのサブアカだらけのフォースなんて、ログイン率が心配になるだけだろう……」
全くこいつはどこまでも自分が好きな奴だなぁ、とため息が出た。そのため息は呆れと、少しの羨望が混じっていたのを、彼は見抜いていたんだろうか。彼もため息を返してきて、その上で、広大な宇宙を見上げながら僕に問いかけた。
「いつまで前のフォースにこだわってるのさ!『スティールブレイカーズ』だっけ? あのときのメンバーはもう――」
「言うな。ソレ以上言ったら、僕でも怒る」
彼の発現に僕は即答した。そのワードは僕にとって地雷だ。思い返すのも嫌になる過去の出来事だ。軽々しく他人に触れられたくない事実だ。
それをアークは知ってか知らずか、自分のフォースに勧誘したい気持ちが抑えられないのだろうか、続けて言った。
「……詳しくは知らないけどさ、フォースに入らないでGBNを続けるのはもったいないよ。ノリが別のフォースに入るんならもう勧誘はしないけど」
「そうだな。今は別のフォースに入るつもりもないし、アーくんのフォースに入る気も起きないよ」
フォースに入れば整備室なんかでたむろしなくても個人のスペースが確保できるし、フォース単位でしか挑戦できないミッションも数多く存在するし、なにより仲間ができて楽しい。アークが「もったいない」と言っていることは実に正しかった。先日出会ったあの青いガンダム使いも、フォースの仲間とミッションに挑戦して楽しそうにしていた。異端なのは僕の方だ。自覚はあった、けれどそれでも、フォースに入ることは頑なに拒んでいた。
「ノリはいっつも言ってるじゃん、『誰かと何かをするのは楽しいことだ』って。それにゲームやってるのに、なんで楽しそうじゃないのさ」
「そうだな。けどフォースは……もう、疲れた」
かのイチョウのような事を言ってくるので、また僕はストレスを感じたが、彼の言い分ももっともなことだ。楽しめなくて何がゲームか。それにアーくんの言うように「誰かと何かをするのが楽しい」は自分の信条だったし、前は多くの人に説いていたことでもあった。
だというのに、僕はフォースに所属はしなかった。怯えていたのだろう、恐れていたのだろう。僕は前に所属していたフォースを無断で脱退したのだ。もうフォースに入ることは許されないと思っていた。
「結成時こそ楽しかったが、過疎気味のフォースだった。仲が悪かったわけではないけど、皆自分のペースで歩いていった。それだけのことだよ」
「うわ何急に自分語り始めて怖い」
「……えっ」
声に出てた? という僕の表情にウンウンと頷くアーくん。僕は頭を抱えて三角座りに縮こまった。そんな僕をニマニマと笑ってくる彼。ああ、やっぱりこいつには調子が狂わされる。