GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
『地球と……宇宙に住むすべての皆さん……こんにちは……』
「ああ、始まった」
ちょうど時刻が零時を回ったようだ。廃墟となった主相官邸ラプラスに、かすかに当時主相であるリカルド・マーセナスの声が、旧式のラジオのようなノイズ混じりで流されている。毎日零時、時報のように機動戦士ガンダムUCのEP3を模した音声が聞けるという、このフィールドの特殊ギミックだ。
『この記念すべき瞬間に、地球連邦初代首相としてみなさんに語りかけることができる……』
「うげーっ、なんでノリはこんな薄気味悪いギミックの場所が好きなのさー」
「この演説の直後、ここはテロで爆破されて、大勢のおえらいさん方が死んだんだ。宇宙に出ようとした希望の星が、一夜にして墓になっちまったんだ。楽しいだろ?」
「どこがだよぉー!」
渋い顔をして耳を塞ぐアーク。けれどヘルメットの上からじゃあ意味がないし、それにケモミミって人間の耳とケモノ耳の四つになってたら、両手二本だけじゃ塞ぎようがないんじゃないだろうか、なんて思って僕は笑っていた。
『我々ひとりひとりの意識改革が不可欠だったのです……』
ラプラスの亡霊が語りかけてくる。一人一人の意識改革、聞こえはいいがそれは単なるエゴである。他人は変わらないし、変えられない。意識改革の成されない前提で生きていかなければならないと考えていた。だからマーセナス議長のように他人に発信することは無駄だと、僕は密かに考えていた。潜在的にそれをあざ笑おうと思ってここへ足繁く通っているのかもしれない。
『……そして、祈りを捧げてください……宇宙に出た人類の先行きが安らかであることを……』
祈りを捧げよう。GBNに出た人類の先行きが安らかであることを。かつて別れた友が僕という存在を忘れて、どこかで楽しんでいることを。これからも僕が救援者としてありつづけられることを。
『可能性という名の、神を信じて……』
演説が終わって音声がフェードアウトしていく。UC00では爆破テロは完結して、連邦との癒着の原因ともいえるラプラスの箱がサイアム・ビストの手に渡り、長きに渡りアナハイム社が覇権を握る状態となる――というのは、宇宙世紀での作り話にすぎない。
現実はまだ宇宙移民など存在し得ない技術レベルだ。GBNだってまだ仮想現実の延長線上に過ぎない。ニュータイプだのコーディネーターだの、イノベイターと呼ばれるような人種は未だ出現していない。相互不理解の蔓延する現代において、僕はやはり隣りにいるアーくんのことを一つも理解できていない。
「さぁさぁノリくん。イベントも終わったことだし、ミッションに行きませんかー!」
「僕はこれからログアウトして寝るところなんだけど……」
「そう言わずにさー! 今ログインしてるフレンドはノリだけなんだよ、ね? 協力してくれよー」
オンラインゲーム特有の、生活リズムの違いからなるすれ違い。全く彼の相手をするのはため息が出る。だが出るものは出るが、不思議と彼のことは嫌いにはならなかった。
「アーくん、少しだけだからな」
「そうこなくっちゃ! じゃあ早速――」
アーくんは飛び上がって喜んだ。やれやれと思いながらも僕は愛機、ゲイルシュナイデンの心臓部へと戻って座った。
本来ならば存在したはずの僚機をふと思い出し――しかしその姿はもうぼんやりとしか記憶になく、描かれたのは霧のような影だけで――それをかき消して足のペダルを踏み込む。ゲイルシュナイデンという名だけを残して、僕は廃墟となったラプラスから飛び立った。
可能性という名の神を信じるならば、それはきっと、僕に再び光を見せてくれることだろうけれど。僕はまだ、その神を信じることができずにいた。
◇ ◇ ◇ 終わり ◇ ◇ ◇