GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
デブリベルトは大混乱していた。クエスト内容は「デブリベルト宙域に存在するプロトタイプ・リーオーを撃墜せよ」という簡素なものだった。これを初心者が迂闊にも受注してしまったのだろう。
プロトタイプ・リーオーといえば、敏い人なら知っているだろうあのトールギスである。卑怯だなと思うのは、それを隠してプロトタイプという名前をつけていることだ。これでは初心者も油断してしまうだろう。けれどジムのプロトタイプとしてガンダムが作られたように、機動戦士ガンダムシリーズのプロトタイプは往々にして過剰能力だ。これはその意味を知ってるユーザーに向けた、運営からのファンサービスなのかもしれない。
そんなことを考えながらも、十秒足らずで戦闘空域へと到着した僕は、まず救援機へと回線を繋ごうとした。
「こちら友軍なり、救援信号に参上した。返答求む!」
結果は帰ってこなかった。ミノフスキー粒子が濃い、ノイズばかりを拾ってどうにもならない。僕はもう一度通信を試みて――その時、リーオーの一機がこちらに気づいたのを、レーダーが察知した。
アラートがけたたましく鳴る。巡行状態だったゲイルシュナイデンの肩バーニアをむりやり吹かせてその軌道を捻じ曲げる。間一髪、ビームの奔流がその先をかすめて行った。
「見つかったか」
スペースデブリの岩陰に隠れたが、位置がこんなにも早く割れるとは思いもしなかった。もしかしたらさっきの回線を敵機が拾ったのかもしれない。迂闊だった、見つかったとあれば他のリーオーたちも集まってくるだろう。
こうなったら、派手に行くしか無いか。息を大きく吐いて、相手が攻めてくるその瞬間を待った。レーダーで近づいてくる敵影を確認しながら、呼吸を合わせる。三、二、一、
「今っ!」
ライフルを構えたリーオーがその引き金を引く前に、ゲイルシュナイデンは肩バーニアを背面へと可動させて急速前進、その大振りの剣を横薙ぎに振るって、リーオーを一刀両断にした。
刀を振った勢いを殺さずに距離を開くゲイルシュナイデン。直後、爆発する閃光で機体が輝いて見えた。
「くそっ、やっちまったな……」
だがそれで終わりじゃない、むしろ「あんなところで一人仲間がやられた」と、他のリーオーたちが一斉にざわめき立つことだろう。だからこそ、救援を送ったグループと早急に合流したかった。そのための通信で、敵との接触になってしまったのだから仕方がないとはいえ、なんというか散々だ。
僕は緊張で忘れていた呼吸を思い出すかのように、そしてこれから降りかかる災難を認めるかのように、大きくため息をついた。
しかし、それは考え過ぎだったようだ。
「救援機だ!」
「ほんとだ、来てくれたのか!」
さっきの爆発で、敵が己の位置を知ったと同時に、救援信号を出していた人たちもこちらに気づいてくれたのだ。
「合流、感謝します」
「何言ってるんですか、こっちが救援だした側なのに」
「そうですよ。さぁ、こっから反撃だ!」
短く挨拶を交わす最中、その機体をよくよく眺めた。一方はストライクガンダムをベースにバックパックを改造されたのだろうが、その背中に致命傷を受けて今やただのストライク、手には細身だが長身の剣と盾。遠距離武装は頭部バルカンくらいか。
もう一方もまた近接用にカスタムされている、ガンダムエクシアをベースとした機体だ。肩や脚に特徴的な改造が施されていて、一対一の近接戦闘ならめっぽう強そうな印象を受ける。
だからこそ、こういった集団戦は致命的に苦手だったのだろう。
「なあ、名前は――」
「悠長に話す時間は無い、お二人共、近接戦闘で各個撃破をお願いします」
敬語なのかタメ語なのか曖昧なイントネーションで、僕はそう二人に告げて通信回線を完全にシャットアウトした。そして直後、その場から飛びあがって離脱する。敵は複数、味方は近接に長けた二人組。そうともあれば、やることは一つ。
遠距離スナイパー系の暗殺。それがこの場に置いて一番有用な手段だと僕は考えた。
「やるぞ、ゲイルシュナイデン。お前ならできる」
自己暗示のそれに近いように機体に声をかけて、操縦桿を握りしめる。ああ、自分はなんて不器用なんだろうか。
不器用といえば、この機体そのものが不器用だ。彼らのように近接戦闘力を高めに高めて前衛を張ることができれば、後衛職からは引く手あまただろう。また逆に、彼らのような近接戦闘の得意なプレイヤーを活かす後衛職というのも良い。オンラインゲームはそうやって役割分担をしてこそ、最適解が得られるというものだ。
その点、ゲイルシュナイデンはどっちつかずだった。一応には大振りの剣を持っているものの、派手な砲も無ければトランザムやNT-Dといった特殊技能も搭載されていない。後衛職にはなりきれず、かといって前衛職も力不足だ。
そんな不器用な機体を好いて使っているのが、頓狂な自分をよく表しているなと自嘲を浮かべる。そう、誰かとプレイしたいと思っているのに、積極的に相互フォローをしない自分も、この機体のようにどっちつかずの不器用さんだ。
でも、それでいい。だからこそ、できることがある。この機体なら、「救援信号を出したチームがどんな機体だろうと、それに合わせることができる」のだから。