GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
序:正義という名のマスク
正義とは、論理的ないし合理的、その他にも法律、自然、宗教などに基づく道徳的な正しさに関する概念である。悪とは、一般的な意味では善の反対または欠如である。これら二つは相反する物として、広く知れ渡っている。
だが、ここであえてお伝えしておこう。悪は善の対になるワードであり、決して正義と交わらないものではない。正義なる悪もあれば、悪なる正義もまたしかり。
正義は天に掲げる剣であり、悪は身に纏う鎧である。正義は己から他人へ与えるものであり、悪は他人から己へと授かるものである。さすれば善なる正義はもとより、悪なる正義もまた、この世界に存在しうる。
彼に言わせれば、悪とは、単なる過程に過ぎなかったのだ。
【ガンダムビルドダイバーズ・ロンリー】
006/正義という名のマスク
「救援要請! こちら遊軍ゼロ。突発的なPvPに巻き込まれた。応援求む!」
人からすれば小高い木々に囲まれた林か森かという広いフィールドに、車両が何度も行き来してできた一本道が繋がっている青空の広がる世界。ここが現実でないことは、鳴り響く爆音と巨大な機械――モビルスーツの影によってはっきりと示される。
銀色の騎士を模したギャンのカスタム機に乗ったパイロットが、ショートボイスメッセージを発信する。周囲にはアッシマー、ギャプラン、バウンドドッグの三機が、隊列を組んで接近している。本来のミッションは「資材運搬の護衛」という簡素なものだが、突然のプレイヤーからの襲撃に、ギャンの乗り手は乾いた喉を潤す暇もない。
「悪いがここで落ちてもらう!」
「ピンポイントで僕を狙ってきた……?」
「ヒャッハー!」
可変機であるアッシマーがMSとは違う挙動でギャンに近づく。その速度になんとか追いついたギャンがサーベルを振るうが、致命傷には程遠く、空を切るに留まった。
「三対一なんて、騎士道に反するぞ!」
剣を構え直し、対峙するMS三機に広域回線で伝える。だが暖簾に腕押し、彼らにとって『騎士道などという戯言に付き合う理由はさらさらない』のだ。
「エゴだな、それは。『ルールは守るがマナーは守らない』それが我々のフォース・ヴィランなのだから」
ヴィラン。悪の組織であり、彼らには常識というものが通用しない。他人へのPvPは勿論、ミッションでのチームプレイ妨害、風評被害の流布、アイテム強奪など、GBN運営のBAN対象にならない範囲のマナー違反はほとんどを繰り返すほど悪質なフォースである。彼らはそのメンバーで、何かしらの理由でギャンのパイロットを襲ってきたのだ。
当の本人であるギャンの騎士は、先程の通信回線で聞き覚えのある声にぴくりと反応し、すぐさまこの場を乗り切る策を練った。
「よく聞けヴィランよ。これから貴殿を倒すはアズマという男、この剣はギャンスロット! 僕の前に立つというのなら、名乗れ!」
アッシマーとバウンドドッグは広域回線を閉じているのか、問答無用で襲いかかってくる。そのサーベルを実剣でいなし、捌き、その上でなおギャプランのパイロットからの返事を待つ。
だが、その問いにはノーを突きつける彼。
「敵を倒す前に名乗るのはヒーローのやることだ。我々ヴィランが名乗る時、それは――全て終わらせて、犯行声明という形でさせてもらおう」
そう言い終わると、その右手を前に出すと同時に、肘から伸びるアームの先、そのビーム・メガ粒子砲が号砲を放った。目の前から即死級の熱源が一つ、そしてそれを合図に左右から接近する可変機が1機づつ。ギャン、アズマは左右に逃げもできず、下がってもメガ粒子砲を受ける袋の鼠。もはや万事休すか。
愛する機体と千載一遇のチャンスをこんなところで失うわけには、と唇を噛んだが、アズマに策は無かった。
そんな緊迫した薄氷の上を滑るように、僕は機体を急加速させて飛び込んだのだ。
「こちらコトノリ。救援任務を受諾した、援護する」