GBD-L_ガンダムビルドダイバーズ Lonely 作:杉村 祐介
新手の登場に、一度距離を取るモビルスーツたち。ピカロは引き際に2丁のハンドガンへと武装を持ち替え、その引き金を引く。
ゲイルシュナイデンは地面を滑りながらその銃撃を回避すると、こんどはギャプランがメガ粒子砲を構えていることに気づく。その銃口が向く先は僕ではない、黒いフリーダムだ。
豪放。穿たれた地面、だがそこにモビルスーツの影はなく、天高く舞い上がった黒い翼が陽の光を一瞬だけ遮って、重力を味方にギャプランへと一条の光を伴って墜ちる。
その着地地点に狙いを定めて、ゲイルシュナイデンがライフルを向けた。引き金に指をかけたが、フリーダム・ピカロはその先を行く。ライフルを撃つよりも早くギャプランの片腕を両断し、その上で再び地面を蹴り上げた。
二度舞い上がったモビルスーツは、ウイングガンダムのように無機質なモビルスーツだというのに、カラスのように極彩色を内包した黒い羽根を散らしながら、戦場を所狭しと羽ばたく。
「やるな、黒いの!」
黒いの、とはあのフリーダムのことだろう。ギャプランのパイロットは、片腕をロストしたというのにまだ闘士は滾ったまま、地面に埋まっていたAGE2を持ち上げて、それを盾にピカロへと突進した。
「まさか、味方を!?」
「悪には悪のルールがあるのだよ!」
可変状態で硬直しているAGE2を剛腕で無理やり投げつけるギャプラン。フリーダム・ピカロはビームサーベルを軽やかに振り抜き、迫るモビルスーツを両断した。
「ヴィランが、ルールを語るな!」
味方を盾にするようなプレイヤーは悪である。と、それを躊躇なく切り捨てたピカロが叫ぶ。乗っていたパイロットの断末魔が回線越しに鼓膜を叩いた。
「ああ、可哀想に……。無法者の正義ほど残酷なものはないな、ヒーロー!」
爆煙に紛れてサーベルを抜いていたギャプランが迫る。ピカロが先程のAGE2を両断するために振るった体勢から、迎撃へと移るまでの一瞬の隙を突いた巧妙な策だった。
「そこまでの腕を持って、なぜヴィランに!」
「当然、楽しむためだ!!」
快楽のために他人を巻き込み、苦しめること。それが悪であることは誰の目にも明確で、そのことがピカロの乗り手には相当の苦痛だった。
「快楽のための悪事が許されていいはずがない。悪は……裁かれなければならない!」
「その点に関しては、概ね同意するっ!」
僕は――ゲイルシュナイデンはその切っ先をギャプランに向けて突進した。差し込まれた剣はギリギリの位置で気付かれてしまい、ビームサーベルが反転してこちらの斬撃を受け止める。だがそれ以上でもそれ以下でもない。ピカロは再び空へ舞い上がる。
「コトノリさんも、やはり僕のことを理解してくれるのか」
「理解はするが共感はしない! 僕はそこのヴィランも、乱入してきた君のことも否定する!」
天空の黒い翼へ放たれたライフルが一発。拒絶の熱源はその羽を焼き、片翼を赤黒く染めた。
「……!」
「正義を語る乱入者よ、よく聞け!」
コトノリは広域回線で叫ぶ。
「僕の名はコトノリ、機体名はゲイルシュナイデン。この戦場でただ一つ、そこの白いリゼルを守ることこそが僕の使命だ!」
今、僕の手元には1件の救援依頼がある。発注者はあの白いリゼルのパイロットだ。彼を守ることこそが、今のコトノリにとっては正義だった。
「何を言って……奴は裏取引をしていた悪人だぞ!?」
「それでも! どれだけ救援主が酷い奴であろうとも! 僕は救援依頼を捨てはしない! それこそが、僕にとっての正義なのだから!!」
ギャプランが距離を取りつつも、その台詞に反応する。
「戦の中で名乗るとは、お前もやはりヒーローか!」
「いいや僕の行いは悪だ、悪人を助けるなんてヒーローのやることじゃない。その程度、理解はしている!」
ビームライフルを紙一重で回避して、即座に敵機から距離を取る。ヒットアンドアウェイ、頼れる仲間も居ない孤独の戦場では鉄則だ。
相対する正義と悪。もはや各々のエゴがぶつかり合う戦場は、三つ巴の泥仕合。互いに二人を相手取ることは不可能に近い。先に仕掛けたとして、もう一機が援護してくれる可能性は皆無だ。一番賢い選択は、漁夫の利を得ることを考えること。
だが、この状況を許せるものは居なかった。
正義として、悪事を働く者を止めずには居られなかった。悪として、正義を騙る者を叩き潰さずには居られなかった。そして救援依頼を受けて、助けないわけにはいかなかった。
「悪は滅ぼさなければならない!」
「そうこなくっちゃな、ヒーロー!」
「来るか……っ!」
相容れない三人は同時に動いた。最大出力のビームサーベルを手に突進するギャプラン。目標は、あの白いリゼルだ。当然ゲイルシュナイデンがその行手を阻む。重なる刃、弾けるスパーク、互いの装甲が照らされて熱を帯びる。
そこへ舞い降りる黒い翼。蒼く燃えるそれは嵐のように、二機を飲み込んで食い荒らした。その有機質な羽を弾丸のように飛ばし、地面へと無数に突き立てた。そして動きが止まった悪の背後へと回り込み、その首元を切り落とす。腕を斬り刻む。足を砕く。
暴虐の嵐が通り過ぎた場所には、スクラップだけが残っていた。