スカボローフェアを聴きながら   作:Ghotiolo

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2/16:微修正
7/17:サブタイトル変更
1/8:前書き差し替え
 繰り返しになりますが、この作品は読者の方々がDéracinéとBloodborne共にクリア済であることを想定しています。そのため重大なネタバレや、ゲーム内で得られる情報を前提にした描写が多々あります。
 もし未プレイの方がいらっしゃいましたら、よろしければこの機会にぜひ心ゆくまでプレイしてから、気が向いたらまたお越しいただければと思います。
 私はどちらの作品についても、ネタバレなしで自分自身の体験としてプレイし、そして自分自身が見たストーリーを大切にして欲しいと考えております。
 どうかよろしくお願いいたします。



はじまり


 玄関を開け放つと、朝の澄んだ空気が吹き込んだ。

 

 春のさわやかな風がユーリヤの灰のような柔らかい白の髪を揺らし、廊下のガラス戸をかたかたと鳴らす。

 流れてきた枯れ草が鼻に引っかかり、寝ていた犬のダニーがくしゃみをした。自分のくしゃみに驚いて飛び起きたダニーの姿に笑いをこぼしながら、ユーリヤは鼻先の枯れ草を取ってやる。

 

 そうして青く晴れた空を見上げ、伸びを一つして、ユーリヤは微笑んだ。

 

「うん、今日もいい天気」

 

 そう呟いてきびすを返すユーリヤの横をすり抜け、私は庭へ出た。一週間前に降った春の雪は既に解けて名残もない。萌え出たばかりの淡い緑にしたたる玉のような露が、朝の日差しを浴びてきらきらと光っていた。

 

 ユーリヤを真似て、ぐっと伸びをしてみる。

 風の音。揺れる枝葉のさざめき。かざした手のひらをすり抜ける太陽の眩しさ。絶えず流れて感覚を刺激しては、留まることなくどこかへと消えていく。残るのは記憶ばかりで、だからこそずっと眺めていられる。

 私には風の匂いや日差しの暖かさは感じられない。流れる時の中で過ごすようになってからの発見は、どれもこれも楽しいものばかりだから残念に思うけれど、そういうものだから仕方ない。

 

 

 

 私の手にはもう指輪はない。

 ユーリヤはみるみる元気になって、みんなと笑っている。

 犬のダニーと猫のティア以外は誰も私に気づかないけれど、それでいい。みんなが笑ってるのを見るだけで、嬉しいから。

 

 

 

 流れる雲を眺めていると、風の音の中に金属が軋む音が混じった。

 

 門の方からだ。なんだろう。足をそちらに向けると、開かずの門の向こう、玄関からはちょうど塀で隠れて見えないところに、何か大きくて黒いものが転がっているのが見えた。黒くて、なにか生えてて、なんだか腕みたいな……ちがう、本当に腕だ!

 

 慌てて駆け寄って門にしがみつく。

 

 向こう側にいたのは、うつ伏せに倒れた人間だった。

 黒いフードに、丈の短いマント。サスペンダーは肩から外れてズボンの脇に垂れ下がっている。袖をまくって露わになった腕は乾いた血と土で汚れているけれど、肌には確かに張りがあった。

 

 ……人間が、命の時間を奪われることもなく外にいる。

 まさか、そんなことがあり得るのだろうか。消失現象は留まることなく広まり続けていると本にあった。猫も連れずに出歩いて無事なんてことが? それに私が知る限り、このタイミングで外の人が訪れたなんてことはなかったはずだ。いったいなにが……

 

「う……」

 

 その人が発した呻き声に、はっと我に返った。生きてる! 考え込んでる場合じゃない!

 

 急いで玄関に戻る。手に意識を込めてボールを持ち上げ、ぴすぴすと鼻息を立てて二度寝するダニーの鼻先に軽くぶつけた。びっくりして目を開けたダニーにもう一度ぶつけて、ボールを門へと投げる。

 ダニーは不審そうにボールを目で追い、門を指差す私のいるあたりを見てふすっと鼻を鳴らしてから、やれやれと尾を一振りして転がるボールを追いかけていく。まもなく鋭い吠え声が響いた。良かった、気づいてくれたようだ。

 

 ダニーの声に呼ばれ、やがてユーリヤが戻ってきた。

 

「ダニー、いったいどうしたの?……あら、なにかしら」

 

 門の方へ歩いていったユーリヤは、すぐに慌てて戻ってきた。

 

「ええと、校長先生に鍵をお借りして、ティアを見つけて。そうだわ、ルーリンツとハーマンにはしごを持ってきてもらって、マリーとニルスとロージャには医務室で手当ての準備を……!」

 

 

 

 学校の中がにわかに騒がしくなる。ざわめきが、風に運ばれる落ち葉のように広がっていく。

 担架代わりのはしごに載せられて運ばれる人を見ながら、私は胸の中にそわそわしたものを覚えていた。

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