スカボローフェアを聴きながら   作:Ghotiolo

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Déraciné[デラシネ]
 根無し草。転じて、故郷から切り離された人。


The Outlandish Knight--Chronic Déjà Vu-X,XXX

 今となっては遠い昔のことだが、私はこの肥大した姿をマーシャに見せてしまったことがある。

 

「……ロビン?」

 

 懐かしい声が聞こえたその瞬間、顔を覆っていた手がこわばったことを覚えている。

 

 (くら)い金の雪が舞い上がる暗闇はいつの間にか去り、そこは懐かしいローアンの(まな)()の一室だった。おびえも隠せないままに振り向けば、すぐそこに彼女がいたのだ。

 

「あなた……私たちの妖精さん、よね?」

 

 首をかしげた拍子に、(うず)()を抱いて()(どろ)む灰のごとき柔らかな白い髪が揺れ、ブラウスの襟で(しん)(ちゅう)のブローチがきらりと輝く。その深いすみれ色の目は、はっきりと私に焦点を当て、頭の上からつま先までをまじまじと見つめた。

 十七歳のマーシャは、まだ元気だった。この十数年後に患う病の陰は、まだ彼女の髪のひとすじも(むしば)んでいなかったのだ。柔らかな幸福をたたえた(ほお)は、窓から差し込む日差しに淡く輝いていた。

 

 しかし反面、当時すでに私は過去への遡行を幾度となく繰り返し、比例するかのように体は肥大していた。マーシャよりも少し高い程度に背丈は伸び、柔らかかったはずの手は節が目立つようになった。かつての、ローアンの友と過ごしていた時の面影はとうに失われてしまっていた。

 

 そんな姿を(さら)してしまったことの衝撃と、それでも感じてしまう、まだ元気な彼女に会えたという苦しいほどの喜び。そしてなにより、つい先ほど、時の隙間をくぐる前に手に掛けた()()への消えたくなるほどの罪悪感。思考はインク瓶を倒したかのように塗り潰されて、私はその場に立ちすくんでしまった。

 だけどマーシャは気にせずに、びくりと身を引いた私の頬へ手を伸ばす。触れられ、指がめり込んだ場所に、ぞわりと身震いするような感覚が走る。それは隔絶された世界に(とら)われた妖精にとって、耳と目のほかに友の存在を実感できる唯一の(あかし)だった。

 

「どうしたの、こんなに大きくなって。なにかあったの? たとえば……チェスでルーに勝てないからって、ニコがいかさましようとして、あなたに無理強いしたりだとか」

 

 今思い返しても、どういう理屈なのかさっぱり分からない。

 なにを言ってるんだ、と混乱に上書きされた困惑を読み取ったのだろう、マーシャはかつていつも浮かべていたようにあざやかに笑んだ。

 

「だって、麦も踏んだ方が立派に育つでしょう?……でも、いったいどうしたの? おととい会いに来てくれた時は、背丈はいつもどおりだったのに」

 

 笑顔の奥で心配そうに見つめるマーシャに、だから会うべきではなかったのだと奥歯を()みしめるよりなかった。

 

 体がいびつに肥大していることは、彼女には一目でばれてしまう。なによりその優しさは、今の私には毒と変わらない。

 どれほど心配されても言えるわけがないのだ。己が今まで何をしてきたか――どれだけ手を汚してきたのかなどと。

 

「……もう。相変わらず、ひとりで抱え込もうとするのだから」

 

 マーシャの手が頬から離れ、細い両腕が私の胴の後ろを回って輪を作る。私を腕の中に閉じ込めて、彼女は安心させるように(ほほ)()んだ。

 

「大丈夫よ。なにも心配はいらないわ。あなたのこと、決して嫌いになったりなんてしない」

 

 花がほころぶような懐かしい微笑みに、私は動けなくなる。

 

「つらいことがあったなら、また立って歩けるようになるまで一緒にいるし、失敗したならみんなにも声を掛けて、もっと()えたやりかたを探すわ。あなたがいたずら好きで、でも友達思いの優しい子だって、私たち全員が知ってるのだから」

 

 違う。もし私に声があれば、そう叫んでいただろう。

 ここにいるのは、彼女が知っているような、()()で何も知らない妖精ではない。汚いこと、醜いことの何たるかを思い知り、その上で自らそれに手を染め続けてきた人でなしだ。

 

 はるか昔、君にとっては決して遠くない未来に、私は病に(はかな)くなった君を生き返らせようとして、結果ローアンを滅ぼしたのだ、と。それを覆そうとして人間から命の時間を奪い、幾度となく過去を変えてきたのだ、と。

 そんなこと、どうして伝えられる?

 

「……私には、打ち明けられない?」

 

 力なく、うなずくしかなかった。マーシャは目が良く、そして(さと)い。彼女にとって、相手のわずかな表情の変化や所作から機微を読み取るなどたやすいことだ。下手なごまかしは通用しない。

 うなだれたまま彼女からの沙汰を待つだけの私に掛けられる声は、ただ、優しい。

 

「そう……分かった。でもね、もし休みたくなったら、いつでもいらっしゃい。あなたの大好きな夜明けのティザーヌを()れて待ってるから」

 

 微笑むマーシャを、私は見つめた。その髪の色を、目元に宿る優しさを。記憶に焼き付けるようにじっと。

 

 きっとマーシャは、私がすべてを打ち明けても、隣にいてくれるだろう。そして自分にできることを選ぶ。それがたとえ自分自身を犠牲にするような選択だとしても。

 

 それだけは駄目だ。

 私はマーシャに生きてほしい。あの穏やかで美しいローアンの街で、生きて、老いて、そしていつの日か、安らかな眠りについてほしい。

 それだけなんだ。()が望むのは、いつだってそれだけだ。

 

「……どうしたの?」

 

 マーシャはきょとんとして小首をかしげた。彼女はこの後も、小さな妖精と多くの時間を過ごすのだろう。かつての私がマーシャや皆と過ごしたように。

 だが、ここにいる私は、もう壮健だった頃のマーシャに会うことはない。この姿を何度も見せれば、彼女に疑念を抱かせることになる。そしてそれは、私の望まないかたちで未来を変えてしまうだろう。だから。

 

 私は忌々しい黄金の腕を伸ばして、マーシャの白い手に触れた。先ほど未来で、マーシャのなれの果てから命の時間を奪ったその手で。

 

 

 “覚えておいてね、マーシャ。僕の大切な友達。”

 

 

 差し出してくれた手のひらに、指を当てて一文字ずつ言葉を(つづ)っていく。ずっと昔は、マーシャとはそうやって話をしていた。――それまでずっと忘れていた。大切な、とても大切な思い出だったはずなのに。

 

 

 “大切な人を、別の人の命の時間で生き返らせようとしてはいけないんだって。”

 “そんなことをすれば、命はひずみ、ねじ曲がり、まわりの人まで傷つけてしまうんだって。”

 “誰だって、自分のものではない時間を生きようとすれば、別のなにかに変わってしまうんだ。”

 

 

「……どういう、こと? だっておとぎ話とは違って、人間くらい大きな命は、妖精にはどうすることもできないって……」

 

 困惑した顔で、マーシャは私を見上げた。この時の皆は金枝の存在も、妖精が時を遡れることも知らない。なにを言っているのかすら分からないだろう。

 

 こんなことをしたところで未来は変わりはしない。こんなことくらいで変わるなら、とうの昔に私は目的を達せていた。

 だけど、その時の私は、もしかしたらという淡い期待をまだ抱くことができていたのだ。

 

 私は添えていた手を離した。そうしても、マーシャの手は少しも動かない。触れ合っているということでは、ないのだ。

 

「あ……ま、待って!」

 

 マーシャは手を伸ばす。ぞわりとした感触が体内をすり抜けて、しかし捕らえられることはない。だから、そのまま逃げてしまえば。

 

「行かないで、ロビン!」

 

 分かっているのに、足が踏み出せなかった。

 振り返れば、マーシャは短い(しゅん)(じゅん)を経て、伸ばしていた手を体の横に降ろした。

 

「私は……ううん、私だけじゃないわ。ニコも、ルーもマギーもシムだって、友達には幸せでいてほしいの。だからね、もし、私たちがあなたにつらい思いをさせているなら、そんなものは蹴飛ばしてしまっていいの。頼まれたことは(かな)えなくちゃいけない、なんて決して考えないで。あなたは、あなたの好きなようにしていいのよ」

 

 そう言い切って、こらえきれずにマーシャは目蓋を下ろす。その瞬間に世界は止まり、冷たい沈黙で満たされる。それでも私は、冷え切っていた胸の内に温かさが(とも)されたことを、今でも忘れられずにいる。

 

 マーシャはいつだって優しかった。優しくて、強い人だった。流れる時の中で大人になり、母親になってからも。自身の死を目前にしても。

 だから、今でもあがき続けているのだ。彼女を、皆を、そして彼らとともに過ごしたあのローアンの街を愛していたから。

 

 たとえ、どれだけの命の時間を足下に積み上げることになったとしても。

 

 目蓋を開き、闇の中に舞う昏い金の雪の中で、私は自身の両手を見た。

 枯れ木のような指と、しわだらけの手のひら。あの時、マーシャに会った時よりも肥大し、そして衰えた。

 

 あれから何度時を遡っただろう。何度誰かの命の時間を奪っただろう。何度、彼女のなれの果てを手に掛けただろう。

 自覚してなお(ゆる)されぬことをし続け、そして今に至った。もはや時振計は黙して語らず、女王が私へと語りかけることはない。

 

 後悔は多い。罪への自責も。特に子供を――友と一緒に無邪気でいられた在りし日々を思い起こさせるような、年端もいかない子供たちを手に掛ける時は、どうしようもない苦さが喉元まで込み上げる。

 正しさに満ちた無限の地平なんてものがどこにもないことは、私自身がよく知っている。

 それでも。

 私が諦めれば、その瞬間に過去は決定されてしまう。マーシャは死に囚われたままとなり、ローアンは滅びを免れない。ゆえに、立ち止まることは決して許されない。

 

 時の隙間に光が差す。視界が白く(ひら)け、ぼんやりとした風景は刻み込まれるように輪郭を得ていく。

 同時に耳に飛び込んできたのは、燃えさかる炎が(とどろ)く音だった。

 

 

 

――ああ、燃える。街が。家が。思い出も、全部。――

――みんな燃えてしまう。私のせいで。――

 

1919年。11月3日、22時。

  

1911年。12月11日、22時。

 

――あんなことを……あの子の苦しみを知っていたのに、あんなことを望んでしまったから。――

――……ごめんなさい。ごめん、なさい……――

 

 

 

 先ほどまでいた雪の森から一変し、周囲は揺らめく光に照らされていた。

 

 止まった時の世界でも盛る炎は(れん)()(づくり)の街並みを染め、天を焦がしていた。街の入り口から見通せる大通りは焼け、ところどころ崩れて、由緒ある古い街の面影もまた炎に焼けて消え去ろうとしていた。

 

 忘れもしない、そして、繰り返した遡行の中で何度も何度も見た光景である。昔と違うのは、もう絶望に(くずお)れはしないということだろうか。

 どれほど(さん)(たん)たる景色が広がっていようが、百度も繰り返せば慣れる。感じるのはいつも通りであることへの、どうしようもない落胆だけだ。私はもう、それを知っている。

 

 振り返った先の丘に立つ人影を認めて、足をそちらへと向けた。

 焦げた服や(すす)けた頬もそのままに、サイモンは(ぼう)(ぜん)と燃える街を眺めていた。肩掛け(かばん)に詰め込まれ、顔だけを出した白猫のスノウドロップは、ちりちりしたひげを気にするようにしきりに首を振っている。

 

 スノウドロップは私に気づくと、一つ鳴いて青く輝く瞳を閉じた。催促の通りに左手でなでてやると、不安げに寝ていた耳が少しだけ起き上がる。スノウドロップは唯一、私になついてくれた猫だった。たとえ体が肥大しても、この子は変わらずに受け入れてくれる。サイモンを手に掛けない限りは、だが。

 サイモンのそばに(こと)(だま)を認め、空いた右手を伸ばして握り込む。指の間から(だいだい)(いろ)の光がほどけるように広がり、(しょう)(すい)した声が止まった世界に流れ出した。

 

 

 ――これで、終わった。

 ――間違っていたんだ。私たちは間違っていた。

 ――命も、時間も。妖精も。人間が手を出していい領域ではなかった。

 ――……あいつを狂わせたのは私だ。私のせいだ。

 ――あいつに、あんなことを言ってしまった、私のせいだ……

 ――許してくれ、ロビン……

 

 

 吐き捨てた悔恨を、当の妖精が隣で聞いているとは露にも思わないだろう。こぼれるそばから煤で汚れていく涙にも、何も解決していないことにすら気づかないまま、サイモンはただ街が燃えていく様子を見つめ続けている。

 

 あの冬の森の手帳を読む限り、彼は(つい)ぞ真実に辿(たど)()くことはなかった。この時点で私を殺したと考えていることもそうだし、この決断もさして意味を持たない。だが意味はなくとも、彼はこの夜に犠牲者を出さなかった。それは幾度となく遡行を繰り返し、過去を変えたとしても、絶対に変わらない事実だった。

 

 大抵の者は親類縁者を頼って他の街へ避難した。故郷から離れたくない者たちは、復興のための仮の集落をロッブの森のそばに作ろうとして、皆、忘我の妖精に命の時間を奪われたという。

 

 スノウドロップから手を離し、私は身を翻した。不安げな鳴き声を背に、燃える街へと足を踏み入れる。目の(くら)むような明々とした炎は、しかし私の体に少しの熱も伝えることはない。

 炎で焼いたところで、妖精や時間の隙間にあるものを害することはできない。

 それを伝えたところで、私が消失事件の()(しゅ)(にん)だと信じて疑わないこの時間のサイモンは、効果があるという誤った確信を強くしただけだったのだけど。

 

 

 

 

 

 巻き上がる火の粉は夜空を赤々と染めている。

 油を念入りに()いたのだろう、火勢は(とど)まることを知らない。(はり)が焼け落ちて石葺の屋根は崩れ、割れた窓から炎が漏れ出していた。窓辺を(いろど)っていた花々は(あぶ)られ、焦げ付いた跡に変わり果てて、何が咲いていたのかすら(うかが)うことはできない。

 

 その中を、ただ進む。

 

 今回の遡行で合わせた命の時間はサイモンのものだけだ。今まで同じように利用していたルイスの子供たちは、今回は森に姿を現さなかった。そしてサイモンだけなら、いついかなる時であってもこの時間に辿り着く。

 

 老いたサイモンは、この日のことを悔やみ続けていたのだろう。

 ……いいや、と首を振った。悔やまないわけがないのだ。彼は自分自身の手で故郷を滅ぼしたのだから。そしてそれだけの代償を払ってなお、消失は止まらなかったのだから。

 

 サイモンは何も知らなかった。

 ルイスたちと決別した時を同じくして、私たちはサイモンも遠ざけていた。だから原因も、我々が何をしでかしたのかも、何一つ関知していなかった。

 

 かちり、と振れが定まる音がして、ひときわ大きな崩落の音が響いた。

 街の中心地、ローアンの誇った時計塔が崩れていく。赤く焼けた鐘が(さい)()の音を鳴らし、下にあった家屋を砕きながら、共に()(れき)へと変わり果てていった。

 積み上げられてきた研究も、納められた蔵書も、ここで過ごしてきた人々の思い出も、すべて灰と消えていく。

 (ごう)(おん)がひとしきり落ち着いて、かちりと時間が止まった。私は視線を戻し、また歩き出した。

 

 大通りを抜け、小路をいくつか曲がり、やがて街外れへとたどり着く。通り過ぎようとしたある家の中に白い影を見つけて、私は足を止めた。

 

 かつて温かな幸福に満ちていた家の面影を(しの)ばせるものは、真っ黒にすすけた煉瓦の壁のみだ。炭化して崩れた材木が白煙を上げる中、彼女は瓦礫に行儀良く腰掛けていた。

 

 真昼の月のような(ぼう)(よう)とした白い体と、目元を覆う紺青(プルシアンブルー)の光。

 血と灰から生み出される青は昏く、深い。その光の下のまぶたは固く閉ざされ、自身の手の中にある煤けた金属を――熱に(ゆが)んだオルゴールのシリンダーを(いち)(べつ)することもない。

 

 私は彼女に歩み寄った。手に触れ、シリンダーを取り上げれば、かちりと音を立てて時間が流れ出す。

 彼女は顔を上げた。あたりを見回すように、しかし目は閉ざされたまま、緩慢に頭を振る。

 

「…………ね……行り………………い……………………………歌……ったの……………………て…………ない…………………」

 

 唇がかすかに動き、なにかを(つぶや)く。その曖昧な声は炎が燃えさかる音にかき消され、私の元まで届かない。

 そして、時間は止まる。止まった時の世界に留まれない彼女も、また。

 

 中指の赤い指輪は留められた命の時間に昏く光り、罪をただ突きつける。その重さにも、痛みにも、もう慣れてしまっていた。頭を(きし)むような痛みが埋め尽くしたとしても、足は動かせるのだから。

 私は彼女の手の中にシリンダーを戻し、きびすを返した。目的地はここではなく、今は彼女の抱える命の時間を遡行に使うつもりはなかった。

 

 いつの頃からか、私はニコラスから助言を受けることを止めた。

 残された(あがな)いの道は一つだけだ。マーシャを死の腕から奪い返し、ニコラスや娘と共に平穏に暮らせるよう取り計らう。それ以外に、方法などない。

 

 しかし、私の知能で思いつく手など所詮は大したものではない。それを補うために、手当たり次第の検証を始めた。マーシャの目には映らないよう細心の注意を払いながら、ものを動かし、鍵を隠し、本を忍ばせて、妖精の行動によって未来にどのような影響が出るのかを確かめる。そう決めて、何百、何千と時間を遡っただろう。

 

 あらゆる結果には起こるための過程が存在し、それは時に外部から観測できない形で進行する。小さな結果の積み重ねがまた別の結果の過程としてはたらき、連鎖することで、未来は(ぜん)()決定されていく。

 運命というものの本質はそこにあるのだろう。容易に未来を変えられないことの理由も、また。

 

 それを踏まえて干渉を行っても、私が与えられる変化はごく微小であることの方が多い。止まった時の世界から観測できる範囲は限界があり、表出した結果から過程を推測するのは困難を極める。結果を予測して干渉を行っても、その大半はまったく見当違いの方向へ進み、それ以上の連鎖を起こさずに消える。

 

 それでも、何もかもに既視感を感じるようになった中でも、時折、新たな可能性に見える。

 

 ある検証の影響で、マルガレータ宛の小包の到着が一日遅れた。その数年後、彼女の母親が事故に巻き込まれて足を悪くした。

 

 大学の図書館のとある蔵書の位置を入れ替えた。すると、サイモンがその頃飼っていた猫が逃げ出して、その半年後に子猫を三匹連れて帰省し、それまで小太り気味だったサイモンが痩せた。

 

 あるレポートの内容を記憶し、遡った先で清書してルイスの鞄に紛れ込ませた。その直後に辿り着いた冬の森に、それまで存在していなかったはずの、幼いころのマルガレータによく似た小さな妖精が現れた。

 そして、その妖精を目撃してから、ロッブの森を訪れるルイスの子供たちの人数が変動し始めた。

 

 思いがけないきっかけで過去は大小に形を変え、しかしマーシャの死が変わることはなく、そしてそれを覆そうとするかつての私たちによってローアンは滅ぶ。結果が出てしまうだけの過程の連鎖を、止められていないために。

 

 マルガレータの母親が(つえ)をつくようになって何が変わったというのか。サイモンが健康的になったところで、それが一体マーシャの体調にどのような影響をもたらすというのか。……あの子が生まれてしまったことに、意味があるのか。

 

 あの絶望に見開かれた目が、わななく口が、伸ばされた手が脳裏をよぎった。(あん)(たん)とした感傷に足が止まりそうになる。

 

 何千と時間を遡り続けた中で、あの子の存在を観測するようになったのは、ここ直近の数回からだ。

 我を忘れていない特別な()()を、私は自分とあの子のほかに知らない。暗い青に覆われていても、マルガレータの涼しげな目元を受け継いでいるのは、はっきりと見てとれた。耳や()(りょう)のかたちから、父親が誰なのかも推測できる。

 

 私が知る限り、マルガレータに子供はいなかった。彼女も、そして父親であろう彼も、独身を貫いて生涯を終えていたはずだ。だからあの子がマルガレータと彼の子であるなら、それは私の干渉が原因で生まれたと断言できる。

 そして時の青い指輪を持っていたということは、アビガイルが関わっているのだろう。皆に金枝をもたらした()()()()()()()。銀の車輪を回し続ける、誕生と死に親しきあの(ひと)が。

 

 マルガレータは、最初から妖精を作るためにあの子を産んだのだろうか。それともアビガイルに唆されたのだろうか。あの子の赤い指輪はマルガレータの命の時間を元にするだろうから、当の彼女は幽霊として消えたのだろう。人間としての私を産んだというあの人のように。

 

 あの子のことは、無視できない。

 

 条件を探し、適切な時間に跳び、レポートを確実に回収して誕生自体をなかったことにしなければならない。あの子が時間を遡ることで、最悪、また取り返しのつかない事態が引き起こされる可能性もある。

 

 何より、あまりにも(あわ)れだ。

 何も知らぬまま金枝を手折り、時の(はざ)()に独り囚われ、それでも友を助けるためにどれほど()()いたのだろうか。

 たとえ私が本懐を遂げればなかったことになる存在だとしても、その日が来るまで無為の苦しみを味あわせるのは酷だ。

 

 妖精になどなるくらいなら、あの子は生まれるべきではなかった。

 きっかけが私にある以上、責任は取らなければならない。

 

 街外れの塀を抜ければ、視界は遠く拓けた。遮蔽物のない丘に作られた墓地は、街の大火など関係なく(せい)(ひつ)にたたずんでいる。

 火も、燃えるもののないここまでは届かない。等間隔に並ぶ墓石は暗い(だいだい)に照らされ、その間には紙片が点々と散らばっていた。一枚を拾い、震えた文字の走り書きを目で追う。

 

 

“・妖精となった人は、危険である

  忘我の内に、他人の時間を奪う

 ・過去へと旅立つために

 ・それはおそらく本能だろう

  人は誰しも、古い時に囚われている”

 

 

 ほかの紙片もいくつか目を通すが、内容に変わり映えはない。少なくとも、あの子の干渉はこの時間までは届いていないようだ。

 手放せば、ルイスに託したレポートの原本は、軽い音を立てて地に落ちた。

 

 ばらけた紙はまるで道しるべのように、点々と奥まで続いている。だが、これが私以外に認識されることはないだろう。幽霊の干渉は、妖精のそれよりずっと強い整合で隠される。失踪した彼のことを、彼の娘とルイスたち以外が騒ぎ立てなかったように。彼の残した書き置きを、誰も気に留められなかったように。

 

 彼はそこにいた。

 足の踏み場もないほどに散らかった紙片に囲まれ、妻の墓石に背中を預けて、深くうなだれて座り込んでいる。その体は消えかけて、背後の墓石に刻まれた名前を透かしていた。

 命の時間を(うしな)った幽霊。指輪を見つけられないがゆえに止まった時に留まることのできない、妖精の成り損ない。

 

 ニコラス。

 

 私は彼の前に膝をつき、太股の上に置かれた紙を取り払う。動き出した時間の中で、ニコラスは(かす)かに身じろぎした。

 

「……何度目だ。これは、君にとって」

 

 何度目だろうが変わりはしない。何ら成せていないという事実があるだけだ。

 沈黙をどのように受け止めたのだろう、ニコラスの手が下にあった紙を握り潰した。

 

「そうか」

 

 私は腕を振り上げ、その首筋に金枝を突き立てた。

 ニコラスの体が(こわ)()る。一拍おき、彼の体から昏い光が(にじ)()した。

 

「――ロビン」

 

 ぽつり、と乾いた唇が力なく動いた。

 

「マーシャの遺作を、彼女の(のこ)した特別な本を、ユーリヤが持っている。()()()()()()君は恐らく知らない内容だ。……君が……――」

 

 何度も聞いた言葉は、いつものように言い切る前に姿と共に解けて消えた。

 彼がここにいたと示す痕跡は、散らばった紙片のほかにない。それも風にさらわれ、炎に焼かれて、誰にも気づかれないまま消えていくことだろう。

 

 赤い指輪から光がこぼれ、それはすぐにニコラスの右手を形作った。決して握り返してはこない幻影に、額を寄せる。

 

 ニコラス。君が気に病むことなど何もないのだ。

 私がマーシャの死を覆せれば、君のその(おう)(のう)もまた、存在しないのだから。

 

 


 

 

 1909年。7月31日、15時。

 

 

「あら、ロビン。ひさしぶり。来てくれたのね」

 

 木漏れ日のまぶしい中庭で膝をくずして座り、マーシャは静かに笑う。小さなユーリヤは彼女のひざに頭を預け、すうすうと健やかな寝息を立てていた。腕に抱えているのは「妖精とオルゴール」だろうか。昔から何度も何度も読み返しているところをよく見かけたものだけれど、今でもお気に入りらしい。

 

 とても、幸せな風景だった。

 

 そう感じて、僕は足を止めた。異物が入り込むことは許されないような気がした。その瞬間、壊れてしまうんじゃないかって。

 

 動かない僕を見つめて、マーシャは小首を(かし)げる。

 

「どうしたの?」

 

 僕は首を振ると、そっと庭に足を踏み入れた。心配はもちろん()(ゆう)に終わって、風景が壊れてしまうことなんてない。

 

 隣に腰を降ろして、マーシャの横顔を見上げる。頬は白く見えたけれど、かすかに揺れる体はきちんと息をしていた。いつも襟元を飾っていたはずの真鍮のブローチがないことに気づいて、僕は彼女の手に触れた。

 

 

 “ブローチ、どうしたんだい? なくしてしまったのかい?”

 

 

「ううん。ユーリヤに誕生日の贈り物はなにがいいか()いたら、おかあさんのブローチがいいって言われてしまって。……でも、この子が欲しいものを教えてくれたのだもの。叶えてあげたかったの」

 

 マーシャの白い手が、ユーリヤの頭を優しくなでた。

 

「締め切りも、それから読者の人たちへの返信も一段落ついたから、しばらくはのんびり過ごせるわ。約束してたピクニックのために、ニコラスと予定を合わせないとね」

 

 マーシャはお父さんが亡くなったのをきっかけに妖精の研究から離れざるを得なくなって、今はユーリヤを育てるかたわらで子供向けの本を書いている。マリヤ・ウスペンスカヤと言えば、ロンドンでもまあまあ名前の通った作家らしい。

 

 

 “それで、用事というのは?”

 

 

 僕は本題をマーシャの手に書く。最近ずっと大学の研究室に籠もりきりの僕が久しぶりにここまで来たのは、ニコラスから(こと)(づて)を受け取ったからだった。

 彼女はそうそう、と封筒を僕に手渡した。

 

「ルイスから返事が届いてるの。オルゴール、ありがとうって。ニコラスがあんな贈り物をするなんて、ルイスもマルガレータもぜんぜん思ってなかったみたい」

 

 ルイスたちに贈ったオルゴールは、贈り主の名義こそニコラスになっているけれど、実際は僕が言い出したことだった。ルイスとひどい(けん)()別れをしたニコラスはしばらく渋面を崩さなかったものの、マーシャの口添えもあって僕のお願いを聞き入れてくれた。……喧嘩の原因は他でもない僕のせいだ。だから、ルイスたちには気にしてほしくなかったのだ。

 

 宛先欄には、懐かしい筆跡でマーシャの名前と、それから“私たちの小さな友人へ”と書いてあった。一枚目の便箋はマーシャへの近況報告で、二枚目が僕への返信だった。一枚目を指差して読んでもいいか目で尋ねると、マーシャは大丈夫とうなずいてくれた。

 

 ルイスとマルガレータは、独自に研究を続けることにしたらしい。かつてマーシャと父親、それからニコラスが暮らしていた古い寄宿学校を改築して、孤児を受け入れるためにいろいろ準備をしているそうだ。

 二人は妖精がどのように生まれるのかを確かめたいって女王さまに伝えて、女王さまも進んで協力している。子供を引き取るのは、もし新しい妖精が現れたなら、大人よりも見た目が近い子供の方が仲良くなれるし寂しくないだろう、って考えみたい。あの二人は見えない妖精と仲良くなる方法を知ってるから、大学の研究室の人たちよりずっとうまくやるだろう。それに、どんな形であれ二人が家族になれるなら、それはいいことだと思うから。

 

 めくって、二枚目に移る。最初は封筒ごと破り捨ててやろうかと思ったけど、ニコラスにはこんな(しゃ)()た贈り物なんてできないと思いとどまったこと。便箋の特徴的な筆跡を見てやっぱりと納得したこと――というのも、僕は筆記体が書けない。書くものがない場所でマーシャの手のひらに一文字ずつ書いて意思疎通するには、活字体の方が都合が良かったからだ――、それから、オルゴールの曲を聴いて、懐かしい記憶が(よみがえ)ったこと。

 

 みんながまだ子供だったころ。僕が学校を訪れた時は、まず玄関に置いた小さなオルゴールを鳴らしていた。そうやってみんなに遊びに来たことを伝えて、それから遊んだり、サイモンと一緒にいたずらを仕掛けたり、文字や言葉を教えてもらったりしたものだったから。

 

 最後に、少しでもつらいようならこっちに逃げてくればいい、アビガイル(女王さま)も同じ考えだと書かれて、手紙は締められていた。

 

 なんというか、ルイスは相変わらずみたい。くすぐったいような微笑ましい気持ちは、すぐに埋もれて消えてしまった。

 ルイスはみんなの中で一番お兄さんだったからなのか、人間じゃない僕のことをいつも気にかけてくれてた。ニコラスとの決別だって、その思想はどれほど気をつけてもいつか必ず歪む日が来るし、なにより僕に負担が掛かりすぎていることが間違いだって、そう怒っていた。

 

 苦しいのは、本当だ。

 

 最近は慣れてきたけれど、最初のころは過去へ遡るためにニコラスの時間を奪うたび、目の前で干からびていく彼を見るたびに、消えたくなるくらい苦しかった。

 その上で、僕はニコラスの選んだ道についていくって決めた。過去を変えて、よりよい未来を拓く。今研究室に残っている人たちと同じように、その思想に賛同したのだ。

 

 だって、悲しい顔をする人は、少ない方がいい。

 僕にできることで、悲しい思いをする人を少しでも減らせるなら、それでいい。

 あるいは、これが大人になるってことなのかも知れない。苦しさや痛みをこらえて、なにかを成し遂げることが。体はちいさな子供のままでも、心の方は成長してみんなに追いつけたのだとしたら、嬉しいな。

 

 ……それに、ニコラスがああなってしまったのは、僕のせいだから。

 

「ロビン」

 

 マーシャの手が僕のほほに触れ、ぞわ、と身震いするような感覚が広がった。

 

「表情が暗いわ。ニコラスも同じ。……あなたたち、本当に大丈夫?」

 

 大丈夫だよ。そう笑おうとした口の端が変な風に引きつって、僕は慌ててうつむいた。だけど頭の上で息をのむ音がして、隠すのも失敗したんだと悟る。

 駄目だなあ、僕は。心配、かけたくないのに。

 

「ロビン。顔を上げて」

 

 硬い声に、恐る恐る言われた通りにする。マーシャの顔はどこか青ざめて、声と同じように硬く強張っていた。

 

「ニコラスは、もう私には何も教えてくれない。でもね、そんな風に苦しみ続けているあなたたちを放っておくつもりはないの」

 

 僕は首を横に振った。マーシャと違って、ニコラスは僕を見ることはできない。だから僕が疲れてることを知らないだけなのだ。

 それに、もし僕たちの()したことが間違ってるとしても、それはニコラスのせいじゃない。

 僕ら二人の総意だ。

 

 

 “大丈夫だとも。ただ少し、慣れないことが続いたから疲れただけだ。”

 “ニコラスは間違ってなどいないさ。彼は善い行いのために自分を犠牲にできる人だ。”

 “マーシャが気にすることは何もないんだ。心配はいらない。”

 

 

「ロビン、だけど……」

 

 なおも言い募ろうとするマーシャを遮るように、僕は指を動かす。

 

 

 “マーシャ。心配はいらないんだ。”

 

 

 唇を引き結んで、マーシャは黙り込んでしまった。

 

 (あき)れられてしまったかな。でも、心配をかけるよりは、見切りをつけてもらった方がずっといい。僕なんかに構うことはないんだ。

 

 ……本当は分かってる。

 全部エゴだ。研究室の人たちも、研究資金を出している資産家の人たちも、みんな自分が望むようにしたいだけ。より良い未来のためになんて大義名分を掲げて、好き勝手に過去を変えようとパイの取り合いをしているだけだ。

 

 ニコラスに取り入ろうとする人がいる。ルイスたちがいない今、ニコラスは金枝を絶対に他の人に触れさせないし、僕が過去に戻るために用いる命の時間はニコラスのものだけとお互いに取り決めている。それを、リスクをニコラスに押し付けられるとしか捉えずに、甘い蜜を(すす)ろうと(かく)(さく)している。

 

 僕がみんなに接触した経緯をなぞるために事情を知らない子供たちを連れてきて、あわよくばを狙う人がいる。みんな頭がよくて、だからこそ僕のことを怖がっている子たちだ。こんなことのために知り合いたくはなかったなって、怯える子供たちを見るたびに思う。

 

 本当に過去を変えているのかどうか、疑っている人たちさえいる。過去が良くなっているなら、自分はもっと良い思いをしてるはずだって。

 

 ……思い出したくないくらいひどいことをした人は、ローアンの大学に受かった事実をなかったことにした。それくらいしか僕にできる対処はなかったから。きっと今は、別の街の大学で勉学に励んでいることだろう。

 

 そういう僕だって、大人になんてなれてない。もっとおぞましいものに変わっていくような感覚は、最近ずっとつきまとっているけれど。

 

 ニコラスの命を奪って時間を遡るたび、体の中になにかがへばり付いているような気がする。最初はほんのささやかだったそれは、だんだんとかさを増して、今では胸元まで込み上げてのどを塞いでいる。

 これが口からあふれ出したら、僕はいったいどうなるんだろう。そんなことを、最近よく考える。それはひどく恐ろしくて、考えるたびに足下に不安が絡みつくようだった。

 

 それでも、僕にしかできないことが、成し遂げなくてはいけないことがあるから。

 マーシャを助けてくれっていうニコラスとの約束は、僕だけは覚えているから。

 

 風が()んで、扉が開く音がした。それから家の中を歩く靴音が近づいてくる。

 この足音はニコラスだ。研究室を出たのはニコラスのが先だったのだけど、ようやく追いついたらしい。

 

 マーシャは顔を上げて、噛みしめていた唇を指で()んで跡を消した。

 

「ユーリヤ。ごめんなさい、起きてくれる?」

 

 肩を何度か揺すると、ユーリヤは目をこすりながら体を起こした。

 

「ふぁ……どうしたの?」

「部屋に戻ってて。私はこれからお父さんと大事な話をしなくてはいけないの」

「んー……」

 

 ユーリヤは眠そうに目をしぱしぱしていた。それでも裏口からニコラスが顔を見せると、ふわりと笑顔を浮かべる。

 

「あ、おとうさん。おかえりなさい」

 

 ニコラスは疲れた顔を隠すように優しく笑って、ただいま、とユーリヤを抱きしめた。ユーリヤも嬉しそうに目を細めて、ニコラスの頬に顔を寄せる。体を離すと、僕の手を支えたままのマーシャの手を見た。

 

「あれ? ロビン、ひさしぶり。おかあさん、ロビンと一緒に遊んでていい?」

 

 こっちを見たマーシャに向けて、僕は首を振った。マーシャなら、それだけでこちらの意図を()()ってくれると知っている。

 

「ごめんね。ロビンも話し合いに参加するって」

「そうなの……」

 

 ユーリヤは残念そうにしょんぼりした。僕は慌ててマーシャの手に触れて、謝罪を伝えてもらうように書く。

 

「ロビンもごめんなさいって。話し合いが終わったら、いっぱい遊んでもらいましょう?」

「うん、だいじょうぶよ。……ねえ、妖精さん。約束、忘れてないよね?」

「約束?」

 

 ほつれた髪の編み込みを整えてやりながら、マーシャは首をかしげた。どんな約束なのかとニコラスが尋ねると、ユーリヤはくすくすと楽しそうに笑う。

 

「ないしょ。ロビンも教えたらだめよ。二人とも楽しみにしててね」

 

 本を抱え、こっちに手を振って、ユーリヤは家の中へと戻っていった。この前までほんの赤ん坊だったのに。本当に、人の成長は早い。すぐ僕の背丈も越してしまうのだろう。

 

 ユーリヤはいい子だ。いい子で、優しくて、でも遠慮がちで自分のことを後回しにしてしまうきらいがあった。もっとわがままを言って大丈夫だよ、って、両親だけじゃなくて知り合いのおじさん(ルイス)おばさん(マルガレータ)もことあるごとに言うくらいに。

 

 あの子には幸せになってほしい。もう二度と、大切な人をなくして深く傷ついたり、悲しみに沈んだりしてほしくない。

 それが僕自身の気持ちだってことは、ちゃんと分かってる。

 そのためなら、僕が苦しいくらい、なんてことないのだ。

 

 ユーリヤの足音が聞こえなくなって、マーシャは深く息をついた。ゆっくりと立ち上がって、白い顔で僕たちを見つめた。

 

「ニコラス。ロビン。あなたたち、何をしてるの?」

 

 今まで聞いたこともないくらい冷たい声だった。言葉に詰まったニコラスに、たたみかけるように問いを重ねる。

 

「私には言えないこと?」

 

 言いよどんだニコラスを背中に(かば)って、僕はマーシャに向けて首を振る。

 ニコラスがこんな風に焦っているのは僕のせいだ。なかったことになった時間のニコラスに頼まれたまま、その時の話を伝えてしまったせい。

 

 なかったことになった時間の中で、半年くらい前に、マーシャが大きな事故に巻き込まれて、……いなくなってしまった、なんて。

 ニコラスが未来をより善くできると言い始めたのはそれからだ。あの日を境に彼は変わってしまった。たとえなかったことになるとしても、自分を犠牲にすることを、(ため)()わなくなってしまった。

 

 だって、同じことが起きないと何故(なぜ)言える? マーシャが今後事故に遭わないと断言できるのか? マーシャだけではない、ユーリヤやルイスたちが死ぬ定めの中にあっても、見て見ぬふりをするというのか?

 

 そんな未来が、正しいわけ、ないだろう。

 

 無限の地平など存在しないと分かっている。ルイスに見捨てられるのも当たり前だ。エゴで好き勝手してるのだから。

 だがそれがたとえ神に定められたものだとしても、大切な人の死をただ見送るだけなど、()は。

 

 冷たかったマーシャの顔が(かげ)った。

 

「答えられないなら質問を変えるわ。……半年前のことよ。ロンドンに向かう列車が、川に落ちたことがあったわね。それから、あの時鞄に入っていたはずの原稿を見つけてくれたのはニコラスだった」

 

 背後で身じろぐ音が聞こえた。きっと僕も表情が変わったことだろう。マーシャにとってはそれで充分だ。伏せられた目が、確信を得たと示していた。

 

 半年前、マーシャはロンドンにある出版社へ向かう用事があった。それ自体はよくあることで、いつものように身支度を調えた彼女はいつもの列車に乗って……帰ってきたのは、一週間後のことだった。

 だから僕はニコラスの命の時間を使って、出掛ける前のマーシャの鞄から原稿を抜き取った。それがなければ仕事にならない、って知っていたから。ほかの人たちは助けられなかった。いいや、見殺しにしたんだ。橋が崩落するのをどうすれば食い止められるのかなんて分からない、って、言い訳して。

 

「過去を、変えたのね。私を助けるために」

 

 青ざめた顔で、(あえ)ぐように息を漏らして、マーシャは僕たちを見つめた。――マーシャに下手なごまかしは効かないなんて、知ってたことじゃないか。

 

「お願いよ。誰かを助けるために、自分、を、な…………?」

 

 語尾が不自然に上擦った。

 

 マーシャは目を見開いて、その膝ががくりと折れる。崩れ落ちそうになる体をニコラスが(とっ)()に支えるけれど、だらりと下がった腕は力なく揺れていた。

 ニコラスの呼びかけに、マーシャは応えない。身じろぎして、うなだれた頭がかすかに動く。でもそれだけだった。

 

 

 立ちすくむしかない僕の耳に、かちりと時間が定まる音が響いた。

 

 


 

 

 マーシャが息を引き取り、それからニコラスの命の時間を指輪に変えて与えるまでのあいだに、私は百年ほど後の未来まで進んだことがある。

 

 彼女の死因は病であった。病というなら治す手段はあるはずだ、それは現在確立していないとしても、未来にはきっと。

 

 そう考えて二つの大きな戦争を越え、様変わりしたローアンの大学に入り込み――医学書を前に途方に暮れることとなる。そもそも私はまともな教育を受けていない。百より上を数えられないような当時の有り様で、最高学府の知恵に太刀打ちできるわけがなかったのである。

 結局小学校(プライマリースクール)の勉強から始めて、知識を独学で少しずつ積み上げていくよりなかった。数学や自然科学を覚え、その時代では常識であったパーソナルコンピュータの使い方を理解し、必要ならば諸外国語も修めた。

 

 そうして得られた知見は、治療は不可能だという事実だけだった。

 百年後であれば治る病だ。だが治療法を知ったところで、その実行は不可能だった。たとえ知識を持ち帰っても、薬剤や手術を行うための道具を作る技術も精度も足りず、何より施術を行えるだけの技量を持つ人間はいない。

 

 マーシャの病は治せない。

 それは歴然とした、覆しようのない事実であった。

 

 そうして私は過去に戻り、ニコラスと共にひどく短絡的な手段を選んだ。

 

 あの未来のローアンの街は、そしてそこに暮らしていたあの人々は、もはや今の延長上には存在しないのだろう。たとえまた百年進んだとしても、そこにあるのは荒れ果てた(はい)(きょ)か、あるいは仮に復興していたとしても全く異なる風景の街だ。

 

 だから私は、足を止めてはならない。

 喪われたものは、どうしようもないほど大きく、重い。それを知っているのに諦めるなど、あってはならない。

 

 

 

――……お、見ろ。雪だ――

――もう冬だなあ。今年もあと二カ月か――

 

1911年。12月11日、22時。

  

1889年。10月31日、19時。

 

――明日晴れたら森まで出掛けるとするか。面白い絵が撮れそうだ。ロビンも誘えたらいいのだが――

――君とロビンの、写真に対する情熱にはいつも感心するよ――

 

 

 

 

 昏い金の雪が消え、暗闇が晴れていく。そうして目に飛び込んできたものに、私は動きを止めた。

 

 暖炉の温かな橙色が揺れる部屋の中で、二人の青年がチェス盤を挟んで向かい合っている。片方の青年は顔に焦りを浮かべ、両の手のひらを相手に向けた。

 

「……ま、待った」

「おいおい、一体何度目だ。いい加減負けを認めたまえよ」

 

 眼鏡の青年は呆れを隠さずにそんなことを言う。だがその口元はしっかりと笑んでいた。彼らにとってはいつものことなのだ。――そう、いつものことだった。かつて()はそれを横から見ているのが好きだった。マーシャがいなければ、あるいはいたずらをしなければ、時間は止まったままだとしても。

 動けない私に気づくことなく、二人は会話を続けていく。

 

「いいや、あそこでこう動かしていれば、(ばん)(かい)の機は確かにあったんだ。あと一回だけ、あと一回だけだ。ルイス、このとおり!」

「そのあと一回も何回目だ。まったく、お前はひとつのことに集中しすぎるんだよ、ニコラス」

 

 ニコラスはチェス盤を眺めてしばらく(うめ)いたり(うな)ったりしていたが、やがて肩を大きく落とした。

 

「……よし、もう一戦だ。次は見落とさないとも」

「その諦めの悪さは買ってるよ」

 

 親しげに言葉を交わしながら、彼らはチェスの駒を並べ直していく。私はゆっくりと後ずさりして、壁を背に部屋を見渡した。

 

 ……マーシャの姿は、ない。

 

 低い確率ではあるが、この時間にたどり着くのははじめてではない。今まで経験したものと同様に、彼女は別の場所にいるようだ。

 

 (あん)()に胸をなで下ろし、同時に不審をいだいて時振計を開く。文字盤はかすれ、青い針は半ばから折れている。()びた歯車は軋みながら、かろうじて機構を動かしていた。

 

 まただ。マーシャの姿はないのに、また、時間が止まらない。

 

 時振計が壊れはじめているのか、この時の中に私が干渉して定めるような振れがないのか。……あるいは、もう私には止まった時の世界に留まれるだけの力がないのか。

 

 蓋を閉じ、顔を上げる。先ほどまでの(ちゃ)()し合うような空気はいつの間にか冷めて、ルイスは駒を進めながら、(うれ)いを浮かべたニコラスを静かに諭した。

 

「そうは言うが、ウスペンスキー先生に指名されたのはお前なのだよ。もっと自信を持った方がいい」

「……いいや、ルイス。自信を持つ以前の問題なんだ」

 

 ニコラスは窓の外へと目をやった。(どん)(てん)の下、ちらつく粉雪は、窓ガラスにはりついたそばから()けてしずくに変わる。

 

「私たちはただ、証明しえないものを喜んで信じている*1

 

 ルイスはかすかに眉を上げた。

 

「テニスンか」

「ああ。彼の言葉は目を開かせてくれる。私のような者であってもだ」

 

 青い瞳は、静かに景色を見つめていた。視線の先に広がる街並みは、少しずつ量を増す雪とそれを巻き上げる風によって茫と(かす)んでいた。

 

「神は、こと我々のような未知を暴く事が生業の者には、奇跡をお見せにならない。数学者は数列に神を見いだすというが、しかしそれは今まさに発見されたとしても、我々の祖先が毛深かった頃よりもはるか前より存在していた法則だ。今までも、そして恐らくはこれからも現象としてあり続けるであろう当たり前を可視化した、ということになる。では何がその当たり前の中に奇跡、あるいは奇跡めいたものを見いだすかと言えば、それはその法則を見る我々の主観にほかならない」

 

 暖炉で火がはぜた。ぱちりと軽い音を立てて、橙の光がはじける。駒を置く硬い音が部屋に響き、ニコラスは手を机の上に戻した。

 

「それに、弟子を殺して無理数を秘匿した数学者の逸話もある。我々の主観は、正しさの担保にはならず、間違いさえ犯す。……神の()(わざ)は、たとえば野に咲く花の、その花弁にさえ隠れているのに、それを再発見できる者は果たして何人いるだろう」

 

 ルイスは耳を傾けながら、駒を進める。会話を理解しながら別の思考を働かせることは、ルイスにとって何の苦もない行動だった。

 

「伝承と妖精という、不確かで曖昧なものを学問とする我々はなおさら、常に我々自身を疑わなければならない。あるがままに受け取ろうとしても、我々を覆う主観という膜は、かならず実像を歪めてしまう。だからこそ、まず主観の何たるかを知り、その向こうにある真実を見極めなければならない」

 

 息をつき、ニコラスは肩から力を抜いて苦笑した。

 

「だが、己の見ているものを常に疑い続けるような者が、果たして旗手にふさわしいのだろうか。……より良い方向に、導くことができるのだろうか」

 

 更に言葉を続けようとしたニコラスを、ルイスは手を挙げることで制した。眼鏡の奥の眼光は鋭く、そして(しん)()に友人を見つめていた。

 

「ウスペンスキー先生は、妖精の力を利用することを考えておられる。学長も、それから他の研究員の大半も。……あの子の力は、そんな都合のいいものではないと言っているのに」

 

 ニコラスは目を伏せた。親代わりだった人物のそういう面は、あまり直視したいものではないのだろう。ただルイスの言葉を否定しないのは、結局は理解しているからだ。彼が娘を連れてこのローアンに移り住んだのも、ニコラスを引き取ったのも、妖精の研究のためだったということを。

 

「我々はそれを阻止しなければならない。大切な友が、道具のように扱われ、(もてあそ)ばれることのないように。……今回の件はむしろ都合がいいのだよ、ニコラス。純粋な探究者であろうとしても、我々は政争をしなければならないのだから」

「……あの子のため、か」

「ああ。無論私も力を貸す。マリヤやマルガレータ、サイモンとて同じだ。だから、頼む」

 

 アビガイルが金枝を携えて皆に接触したのは、これからまもなくのことだ。このルイスの決意は、結局かつての私が台無しにしてしまった。

 

「それに私は、自分の見える範囲を盲信していない、そういうお前だから任せたいと思っている。何より隣でマリヤが見ている限りは、絶対にばかな()()はしないだろうから」

「え? ええと、どうしてそこでマーシャが出てくるんだい?」

「愛しているのだろう。一人の女性として、マリヤのことを」

 

 ニコラスはきょとんとして、みるみるうちに顔を赤らめた。黙り込んだニコラスをしらっとした目で眺め、ルイスはルークの尻で駒を蹴倒した。

 

「サイモンはちゃんとけじめをつけたんだ。お前もまあ後悔のないようにすればいいんじゃないか」

 

 あのおてんば娘のどこがいいんだか、とルイスはぼやいた。挙動不審のニコラスは駒を適当に進めながら(せき)(ばら)いをする。

 

「そ、そういう君はどうなんだ、ルイス。あの子とは……」

「あの子を家のしがらみに巻き込むつもりはない」

 

 かぶせるような温度のない返答に、ニコラスは目を見開いた。

 一転して血の気が引いた友人の顔を見つめ、ルイスは息を短く吐き、()()()すように苦く笑った。

 

「悪い。結局、今の立場を捨てられなかったのは他でもない私なのだから。お前が気にすることはないんだ」

 

 その一戦はニコラスの勝利で終わる。喜ぶ様子のない友人を、ルイスは駒を並べ直しながらちらりと見た。

 

「ああ、そういえば。この前ヤーナムから来たセクト(まが)いの連中のことは何か分かったのか」

「え、ああ。とは言っても、彼らが我々に話した以上のことは探れなかったが」

 

 その時のことを思い出したのか、ルイスは眉をひそめた。

 

「なにが人を超えた先、高次元の思考を求める、だ。完徳を目指すのは大いに結構だが、連中のあれはいわば聖母にとりなしを求めるのではなく、聖母そのものを崇拝しているようなものだ。目的を見失い手段をはき違えているとしか思えない」

「あれも神智学(テオゾフィー)の一種というのか、有閑貴族には非常に好まれそうではあったがね。あんなものが()(びこ)る程度には、ヤーナムの医療に(すが)る人々が多いということだろう」

 

 そこまで言い、ニコラスの視線が鋭いものへと変わった。

 

「学長に確認したのだが、彼らが接触したのは我々だけだそうだ。医学部には全く興味を示さなかったと。君は別としても、ほかに面会を希望したのは民俗学者の端くれでしかない私だけだった、というのは、どうも引っかかる。ロビンにも気をつけるように伝えておかなければ」

 

 ニコラスのその心配は、もうじき杞憂に終わるのだろう。彼がそれを認知することはないのだろうが。

 

「しかし、医療教会だったか。彼らは一体どのような手法で、輸血を医療にまで発展させたのだろうね?」

「正直私は疑っているがね。医療の街との(うわさ)は聞くが、あの街で快癒して帰ってきたという者の話は聞かない。ギルバートのことはお前も知っているだろう? 彼は肺病の治療のためにヤーナムに向かってから、消息が知れなくなっているそうだ」

 

 かつて未来で学んだ通りなら、血液型の発見は1900年代初頭、血液抗凝固剤の発明により輸血が医療行為として普及したのは1910年代以降である。それまでの輸血とは血液型相違による拒絶反応が起きて当たり前の、生きるか死ぬかの(ばく)()であった。

 もし医療教会が輸血の秘密を隠さず発表していれば、助かった命は決して少なくない数となるだろう――彼らが本当に人間の血を輸血していたのであれば、だが。

 

 連中の根城であるヤーナムの街は、この時間からさほど()たずに人々の記憶より消える事になる。悪名と言えど名の知れた古都であったはずなのに、まるで街そのものが整合されてしまったかのように忘れ去られ、認識されなくなるのだ。地図からは版を改めた時に消され、何もないはずの場所へ向かう道だけが不自然に残された。かつての私はそれに言いようのない薄気味悪さを感じ、あのアビガイルでさえしばらくはひどくぴりぴりしていたのを覚えている。

 何度過去に遡ってもある時点までは存在し、同じ時期にふつりと途絶える。この明らかな異常は、我々以外の人でなしの仕業と考えるべきだろう。だからこそ、最初からあの街の医療を探りに行くという選択肢はなかった。人でなしがどれほど命の重さに鈍感なのか、嫌というほど知っている。あの街に手を伸ばせば、おそらくは取り返しがつかなくなる。

 

 セクト紛いの連中への対処をいくつか話し合ったあと、話題はかつての私についてへと変わった。

 

「ロビンの持つ妖精の力は、彼自身にもよく分かっていない。命の時間のやりとりを行う異能と、止まった時に留まる異能。彼が行ったいたずらへの、目撃した個々人での認識の相違。それに……ウスペンスキー先生が話を聞いた時の証言」

「母親が妖精にしてくれた、か」

「おそらくだが……ロビン自身はその詳細を理解しているが、それを表すだけの語彙と論理立てて話す能力を持っていないのだと思う。マーシャの話によれば、彼の見た目は初めて会ったときのまま変わらないそうだから。頭は決して悪くない、むしろいい方だが、それは外見相応であって成長ができないのだろう。ただ……」

「ただ?」

「……いや、これはマーシャがいる時に話すよ」

 

 ニコラスは顔を上げて、部屋の中を見回した。

 

「ロビンには聞かれたくない話か? 玄関のオルゴールが鳴っていないから、今日は来ていないはずだが」

「そうだろうとは私も思うが、止まった時の世界には声が残留するというから。気をつけるに越したことはないだろう」

 

 妖精を直接視認できない者は、()()()()()という確信を得ていなければ知覚できないという。ニコラスもテーブルの端に寄りかかった私には気づくことなく、視線はルイスへと戻された。

 

「……ずっと考えていることがあるんだ。あの日、ロビンに命を救われてからずっと。どうすれば、あの子に報いることができるのだろうと」

 

 ニコラスは苦笑し、手元の駒を手持ち無沙汰に触る。

 

「ロビンとはじめて会ったあの日、本当はもう駄目だと思っていたんだ。日も沈んで、滑落したせいで自分がどこにいるのかも分からなくなってた。マーシャの()()もひどくて、私自身も頭を打って、うまく前が見えなくなってた。マーシャだけでもどうにか助けたくて、先生から聞いた古いおとぎ話の妖精のことを思い出して……そしたら、赤い光が目の前に現れた」

 

 その青い瞳は、私をすり抜けて捉えることはない。ただ向かい合って座る友人に向けられている。

 

「今でもはっきりと思い出せる。かすれた目でもはっきり見えるくらい、力強くて優しい光だった。マーシャを背負って、導くように揺れるあの光を追いかけて……気づいた時にはベッドの上だった。助かったんだって実感したのは、マーシャのお見舞いに行けるようになってからだったなあ」

 

 彼は額を押さえた。髪に隠れているそこには、まだうっすらと引き()れた傷痕が残っている。

 

「死を覚悟するような苦境にあっても、手を差し伸べてくれる人たちがいることは、どんな幸運より幸いなのだと私は思っている。だから、私も助けられる人でありたいし、何より助けてくれた人たちの役に立ちたい。そんな風に思っても、私にできることなどたかが知れていて、悩んでいる間にロビンはどんどん手助けしてくれる。あの子は優しいから」

 

 私は優しいわけではなかった。

 ありがとう、と、皆にそう言われたいがために、頼み事を聞いていただけだった。その行為がどんな意味を持つのか、自分の頭では何も考えずに。ただ、自己満足のためだけに。

 

「私はね、ルイス。ロビンのために何が残せるのかを知りたいんだ。いつか私たちはあの子を置いて逝くことになるだろう。だからせめて、あの子が何の心配もなく、私たちを見送れるように。……いつか砂州をこえて旅立つときには、悲しみの声がないように」

 

 そう言って、ニコラスは笑う。見ているだけで安堵するような、優しい笑みを。

 ルイスもまた、つられるように口の端を持ち上げた。

 

「私はブラウニングの方が好みだがね。――“神、空に知ろしめす。すべて世は事も無し”*2!」

「“頭のなかはもう水浸しだ”*3……なんてことにはならないでくれよ、ルイス」

 

 語り合う二人の顔は、未来への希望に満ちている。十数年後、君たちは(あい)()れない主張のために決別すると伝えても、きっと二人とも信じないだろう。

 彼らは、穏やかに老いて逝けるのだと、何も疑っていない。

 

 人は変わる。

 絶対などどこにもない。

 たかだか未来を知っているだけで、悲劇を変えることなど、できはしない。

 

 ()がいなければ、みんながばらばらになることはなかったのかな。

 

 ……意味のない仮定だ。私がいなければ、ニコラスとマーシャは幼いころ、ロッブの森の奥で遭難した時に死んでいただろう。それは思い上がりでも何でもない、ただの事実だ。

 だから、益体もないことを考えるな。死をもって償える罪など、ありはしない。

 

 窓の外の雪は勢いを増し、窓枠に少しずつ積もり始めている。明日の朝には、街は雪に覆い隠されるのだろう。

 私はもう一度、部屋を見渡した。ニコラスとルイスは私に気づかず、そして暮れゆく窓の外で吹き付ける雪にも意識を向けることはない。

 

 

 先のことなど誰にも分かりはしない。それでも確かなことがあるとすれば。

 マーシャ。君のいない未来には、何の光明もないのだ。

 

 


 

 

 僕の手がマーシャに触れ、マーシャの目がぼんやりと僕を捉えて、止まっていた世界が動き出す。

 

 ベッドに横たわった彼女は、ゆっくりと細い声で歌っていたみたいだった。ふっと途切れた声は、やがてまた歌いはじめた。――革の鎌で刈り取りをして、アオガラの羽で束ねてほしい。そして彼女はまことの恋人になる。

 スカボローフェア。マーシャが一番好きな曲で、歌詞を知ってからいつも楽しそうに歌っていて、だから僕も好きになった。ニコラスがバイオリンで伴奏して、マーシャが歌う。僕は声を出せないけど、小さなオルゴールで一緒に歌うことができた。

 歌い終わって、声が途切れる。

 

「……昔、アビガイルから、百年後の未来できっと二番目に有名なスカボローフェアだ、って教えてもらった時も思ったのだけど……歌詞を修正したっていう人は、疑問に思わなかったのかしら? 女の人が男の人へ返した難題を、そのまま女の人に向けること。メロディーは知ってるものにすごく似てたから、なおさら変な感じがしたわ」

 

 かすれた吐息に引きつったような音が混じる。それが笑い声だと気づいた瞬間、僕は胸を引き裂かれたような気がした。

 

「でも、一番目に有名な方の歌詞もそうだったし……もしかしたら百年後では、女の人でも丸く曲がった角ひとつで(いち)エーカーを耕せるような、そんなすごい技術ができているのかもしれないわね」

 

 乾ききった唇に笑みを浮かべて、マーシャは僕を見つめた。

 

 こんなのは悪い冗談だ。だって、ほんの一週間前まで元気だったはずなんだ。マーシャは自分のことを後回しにするきらいがあるから、きっとすっかり疲れて倒れてしまったんだろう。当のマーシャだって、最初はそう言っていた。

 でも休んでも良くなるどころか起き上がるのさえ難しくなって、他にも表れた症状を見て、医者は首を振った。これはとても珍しく、そして治療法のない病だと。この進行速度なら、半月も保たないだろうと。

 元々細い体は坂から転げ落ちるようにやせ衰えて、今はもう、マーシャの顔は真っ白だった。その頬に赤みをもどす方法を、僕は知らない。

 

 僕は、何もできない。

 

 

 

 

 

 ニコラスがすぐにルイスたちに連絡を入れたのは、彼が頼れる相手がそれしかいなかったから、ということが大きい。

 ニコラスは天涯孤独の身で、マーシャの両親も既に()(もと)に召されていた。マルガレータはロンドンで医療について学んでいた時期があったし、何より僕の――妖精のことがあったから、部外者に任せるわけにはいかなかった。だからルイスたちも何も言わずに助けてくれた。お互い、気まずそうにはしていたけれど。

 

 ユーリヤは、しばらくぶりに会えたおじさんたちに少しだけ嬉しそうにして、そしてそれが示す意味に(うつむ)いていた。看病の邪魔になるからと一人きりでいようとする小さな少女を、マルガレータは簡単な仕事を言付けることで母親のそばに連れて行った。

 

「弱っていくところを見るのはつらいと思う。でも、後になって、もっと一緒にいたかった、ってきっと後悔することになるわ。……恨まれるかも知れないけれど、できる限り、一緒にいられるようにしてあげたいの」

 

 ニコラスも、マーシャも、マルガレータのその申し出に感謝と謝罪を伝えていた。

 

 ルイスは色々と仕事があったから、マルガレータのようにはできなかったけれど、それでも時間が空けばお見舞いにくる。決別してからの空白を埋めるように話を重ねて、その間だけは、マーシャの顔色も良かった。

 

「病気になって唯一良かったって思えるのは、こうやってまたルーとたくさん話せたことね」

 

 しわの増えたルイスの目元が、こらえるように歪んだ。

 

「……愛称で呼ぶのはもうやめてくれと、ずっと昔に言ったじゃないか」

「ふふ、いいじゃない。幼なじみなんだから」

 

 マーシャは昔のように笑って、ルイスもまた笑顔を浮かべていた。お互い笑顔が少しぎこちないことは、どちらも指摘しないまま。

 

「ルーならきっと、子供たちのいいお父さんになれるわ。みんなのいいお兄さんだったのだから」

「……私は、いいお兄さんではなかったよ。ニコラスのことも、それからロビンのことも。説得を諦めて、見捨てたようなものだ……」

 

 その声は細く、力なかった。マーシャは枕の上で、首をゆっくりと横に振る。

 

「違うわ。お互い、譲れないものがあっただけよ。それに本当なら、譲らなければならなかったのはニコたちの方だから。ルーが気に病むことなんてないの」

「譲れないもの?」

「私の命」

 

 ルイスはきょとんとした。

 

「半年くらい前に、ロンドンの出版社まで出掛ける用事があったの。だけど、持って行く原稿がなくなってしまって、探しているうちに乗るはずだった列車の時間を過ぎてしまったのよ。そうしたら、その列車が橋の崩落に巻き込まれたっていうじゃない。その時は運が良かったって思っただけだったけれど……ニコとあなたが(おお)(げん)()をしたってマギーから聞いたのは、その少し後だった」

 

 マーシャの言葉を聞くうちに、だんだんと、その目が見開かれていく。唇をわななかせて、眼鏡の奥の目が僕のいるあたりを見つめた。

 

「……私は、君たちの苦しみを、何も分かっていなかったのか」

 

 ぽつり、と震える声が()れた。

 ルイスはしばらく動かなかった。自分の太ももに肘をつき、顔を覆ってうなだれていた。やがて上げられた顔は、一気に十も老けたように疲れ果てていた。

 

「……マリヤは強いよ。譲らなければならなかった、などと。私がニコラスの立場なら、同じことをロビンに願っていたに違いない」

「私だって同じよ。もしニコやユーリヤに何かあったら、ロビンに二人を助けてってお願いしてた。それはきっと、マギーとシムも変わらない。……でも、だからこそ、それはしてはいけないことだって思うの」

「それは、どうしてだい」

 

 マーシャはそれには答えなかった。僕を見つめて、()()めるように呟く。

 

「悲しみはいつか癒える……ううん、悲しみにだって慣れてしまえる。いなくなってしまった人のことは、どんなに頑張ってもだんだん忘れてしまう。……それでいいの。罪悪感を覚える必要は、どこにもない。だから」

 

 ぽろりと、マーシャの目から涙がこぼれた。

 枯れた指が緩慢に目元をぬぐう。そのそばから涙はあふれて止まらなくて、すぐに()(えつ)に変わった。

 

「……ごめんなさい。私……ユーリヤの、前では、がんばる、から……」

 

 ルイスはとっさに僕を見た。だけどすぐに目を伏せて、首を横に振る。そんなことを思ってしまった自分自身を責めるような、そんな思いが(にじ)んであふれているようだった。

 

「……気にしないでくれ、ロビン」

 

 唇を噛みしめ、マーシャの肩に手を添える。

 

「大丈夫だ、マリヤ。時が狂人となって(ちり)をふり撒き、生命が復讐の女神のように(ほのお)を散らしたとしてもだ*4。私たちはそばにいるよ」

 

 声だけは力強く、ルイスはマーシャに語りかける。

 

「マリヤ。私は、君の友人であることを誇りに思う。子供時代の楽しかった思い出には、いつも君がいるんだ。そこにニコラスがやってきて、サイモンとマルガレータが増えて、最後に君のおかげでロビンに出会えた。あの温かな日々は、まだ私の胸の中にある。……君はどうだい?」

 

 答える代わりに、マーシャはルイスの手を握り締めた。(どう)(こく)に悲鳴のような声が混ざる。

 マーシャが声を上げて泣いたのは、知っている限りではそれが最初で最後だった。

 

 

 

 

 

 ある時、ほとんど湯と変わらないような(かゆ)の食事を終えた後で、マーシャは色のない唇でぽつりと呟いた。

 

「ユーリヤ。約束、守れなくてごめんね。ピクニック、行けなくなってしまって」

「いいの、約束なんて……元気になってくれたら、それで……」

 

 マーシャの口元が、震えた。それでもどうにか笑いかけるように口の端を持ち上げて、伸ばした手でユーリヤの額をそっとなでる。

 

「……ごめんね」

 

 その意味が分からないほど、ユーリヤは幼くない。まなじりに涙が盛り上がり、すぐに頬を流れ落ちた。

 

「いや……いやだよ。おかあさん、いなくならないで……」

 

 マルガレータの肩が強張った。きっと僕と同じことを思っているんだろう。

 ユーリヤはいい子で、優しくて、でも遠慮がちで自分のことを後回しにしてしまうきらいがあって。いつも、もっとわがままを言っても大丈夫だよって伝えてるのに。

 なのに結局、この子が願っていることは叶えてあげられない。

 

 細く枯れた腕が、泣きじゃくるユーリヤの頭をそっと引き寄せた。

 

「愛してるわ、ユーリヤ。離ればなれになっても、私はずっとあなたのこと思ってる。あなたが幸せでありますように、つらいことがあっても乗り越えていけますように、って。あなたが同じように祈ってくれるなら……私、怖くないわ」

 

 やがて泣き疲れて眠ってしまったユーリヤを、マルガレータは抱き上げて、マーシャの隣のベッドに寝かせた。

 

「マギー。ユーリヤのこと、お願いしてもいい? あなたも忙しいのは分かってるけれど……落ち着くまでは、ニコだけじゃ、きっと手が回らなくなってしまうから」

 

 それは終わったあとの話だった。

 マルガレータは眉根を寄せて、まばたきを繰り返す。頭で分かっていても、それを受け入れるなんて、そんなの、無理だ。

 

「……ええ。もちろんよ」

 

 まぶたを伏せ、絞り出した声は震えて湿っていた。こらえていた涙が、静かに頬を伝う。

 

「マーシャ、私……あなたに、なにも、返せなくて……」

「そんな風に言わないで。全部してもらって、私、申し訳ないのよ」

「そんなこと、今までマーシャがしてくれたことにくらべたら、なんでもないもの。あの人とのことだって、あなたは、背中を押して、くれた、のに……」

 

 泣き崩れたマルガレータに、マーシャは手を伸ばす。震える指先がマルガレータの頬に振れ、優しくなでた。

 

「なら、約束よ。私があなたにしてあげられたぶんだけ、これから迎え入れる子供たちのこと、大切にしてあげて。大切な人がいなくなってしまって深く傷ついてる子たちが、もう一度、楽しい日々を笑って過ごせるように。……大丈夫。あなたなら、きっとできる」

 

 

 

 

 

 ロンドンにいたサイモンがローアンに帰って来られたのは、マーシャが(こん)(すい)状態になって、もう反応ができなくなった後だった。

 

 面会はひどく短い時間で終わった。応えられないマーシャに最期の挨拶を告げて、今にも倒れそうなほど真っ白な顔で僕についてくるよう声を掛けたサイモンは、すぐに玄関のオルゴールのぜんまいを巻いた。

 オルゴールが鳴っている間は、マーシャが僕を見ているあいだと同じように時間が止まらない。鳴り始めたオルゴールに背を向けて、サイモンは顔を伏せて呟くように言った。

 

「……どうして、何もしない」

 

 俯いたまま、だけれど目だけは僕を(にら)()けていた。

 

「マーシャに、どうして何もしないんだ」

 

 ……それは。

 何の反応も返せないことにしびれを切らして、サイモンは声を荒げる。

 

「妖精なんだろう!? 病気の母親のために森に入った少女を助けた話は本当だって言ってたじゃないか! なら、だから……」

「サイモン!!」

 

 怒鳴り声がサイモンの言葉を遮り、そして頬を打つ音が廊下に響いた。

 

 サイモンは呆然として殴られた頬を押さえ、顔を真っ赤に染めたルイスを見つめた。

 

 ルイスは、何も言わなかった。震える息を洩らし、唇をわななかせて、サイモンを見つめている。

 

 やがて、ぽつりと声が落ちる。

 

「…………最悪だ……」

 

 そのまま殴られた時に取り落とした鞄を(つか)んで、サイモンは玄関から飛び出す。(たた)きつけられるように閉められた扉を、僕はその場にひざをついたまま見送るほかにない。

 

 

 ――ロビン、さっきルーとニコに仕掛けてたいたずらだけど……ははっ、本当に最高だったよ。きみは世界一のいたずら名人だね。

 

 

 もうあの日は戻ってこない。

 その実感が刻み込まれる。軋むように、視界が歪む。

 

 ルイスは気を落ち着けるように、肩で大きく息をしていた。だんだん遅くなるオルゴールのふたに手を添えて、かすれた声が食いしばった歯の隙間から洩れる。

 

「ロビン、気に病むな。……私たちの誰も、マリヤに何もしてやれなかったのだから」

 

 オルゴールが鳴り終わり、かちりと時間が止まる。

 

 僕は、どうすればよかったんだろう。

 止まった時間の中で、ルイスの背中を眺めながら、ただ、痛みを伴う自問が頭を埋め尽くした。

 

 あの日、なかったことになった時間で起きた事故の時みたいに、マーシャを助ける方法があったんじゃないのか。それを見落として、こんなことになってるんじゃないのか。

 病気なら、治す方法だってあるんじゃないのか。いいや、きっとあるはずなんだ。

 

 たとえば……たとえば、足りない血をほかから補うように、誰かの命の時間を、マーシャに継ぎ足せたら?

 

 ないはずの心臓が跳ねた気がした。

 今なら金枝がある。女王さまでなくても、僕でも、人の命の時間を扱うことができる。なら。

 

 そこまで考えて、僕は我に返った。

 なんてことを考えていた? どれだけおぞましいことをするつもりだったんだ。

 たとえ可能だったとして、誰を犠牲にするつもりなんだ。そんなこと、マーシャは絶対に許さない。

 だから、僕にできることは、何もない。

 何も、できない。

 

 

 

 

 

 そして、その日。

 

 ずっと(もう)(ろう)としていたマーシャの意識が、ぼんやりとだけど戻ってきていた。

 風がカーテンを揺らすささやかな音ばかりが、部屋を満たしていた。外は八月の日差しが金色に輝いて、時折駒鳥の歌う声が遠くから聞こえてくる。本当に、穏やかな昼下がりだった。

 

 ニコラスは研究の遅滞を(とが)められて、大学に()()()()に呼び出されていた。マルガレータは医者を呼ぶために外出していて、ルイスはニコラスを呼び戻すために飛び出して、サイモンは昨日のうちにロンドンに帰ってしまっていた。ユーリヤは今までの睡眠不足がたたって、部屋の隅でうずくまって、気絶するように眠っている。起こそうとしても、僕にはその方法が分からなかった。

 

「ねえ、ロビン。今まで、ありがとうね。それから、ごめんね。私、最期まであなたに頼ってばかりで」

 

 それはもう、音にすらなってなかった。

 かすかな吐息と口の動きを、僕は必死に読み解いていく。

 

「おねがい、ニコに……ユーリヤが大人になって、幸せになったことを見届けてから、私に教えに来て、って、伝えて。私は、もう、だめだけど……あなたとユーリヤの幸せを、ずっと、祈ってるから、って」

 

 きっとすぐにルイスが連れて帰ってくる、だから諦めないで、って伝えたかった。でもマーシャの目はどこにも焦点を合わせてなくて、手のひらに字を書いても、もう読めないのが分かっていた。

 

 

 ――マーシャに、どうして何もしないんだ。

 

 

 時振計は何も示さない。女王さまも何も言わない。

 僕はどうすればよかったんだ。

 どうすれば、マーシャを助けられた。

 どうすれば、彼女を元気にできた。

 

 どうして、僕には何もできないんだ。

 どうして。

 

「どうして」

 

 はっと、顔を上げた。

 

 マーシャの目はぼんやりと、天井をすり抜けてどこかを見ている。

 

 ばたばたと玄関の方から慌ただしい音が聞こえる。扉を隔てた遠い(けん)(そう)の中、唇が、小さく動いた。

 

「どうして、今なのですか。私だって……せめて、この子が大きくなったところを見られれば、それで充分なんです。なのに、どうして……あぁ…………――」

 

 まなじりから、涙がひとすじ伝った。

 

 背後から扉のノブを(ひね)る音が聞こえて、そして、時間が止まる。

 マーシャの目はまだ開いているのに。僕の手は彼女に触れているのに。

 どれだけ待っても、もう、動き出すことはなかった。

 

 


 

 

「……ロビン。私の声が聞こえているか」

 

「マーシャを、助けてくれ」

 

 

 友達を助けたい。

 はじまりはそれだけだったんだ。

*1
テニスン「イン・メモリアム」(訳文・「「追憶の詩」のプロログ」平井正穂編「イギリス名詩選」岩波文庫)

*2
ブラウニング「ピッパが通る」(訳文・「春の朝」上田敏「海潮音 上田敏訳詩集」新潮文庫)

*3
ブラウニング「ピッパが通る」(訳文・「『ピパが通る』より」富士川義之編「対訳 ブラウニング詩集」岩波文庫)

*4
テニスン「イン・メモリアム」(訳文・西前美巳「テニスン詩集」岩波文庫)




 今回匿名を解除して、活動報告の方で舞台年や登場人物についての補足説明を掲載しております。興味がある方はよろしければ。
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