モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu01……こんがり肉

 ここはモンハン食堂。

 

 ごく普通の飲食店です。

 この広い世界を旅しながら、色々な人に料理を振り撒く旅する食堂。

 

 

 モンスターが引く車───竜車で移動する、大きめの屋台がこのお店。

 竜車を引くアプトノスは、全長10m全高3mにも及ぶ巨大な生物だ。

 

 

 

 この広い世界はそんな巨大な生き物───モンスター達で溢れかえっている。

 

 人々はそんなモンスターをハンターと呼ばれる人達に依頼して討伐したり、逆に襲われたり。

 人とモンスターが共存するこの世界───

 

 

「ほら、食いしん坊。開店の時間だ」

 ───この世界で、しかし特にハンターとは関係なく、モンハン食堂は今日も開店しました。

 

「は、はい! お待たせしました! モンハン食堂へようこそ!」

 モンハン食堂へようこそ。

 

 

 

 

 これは、この世界の美味しいご飯のお話です。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu01……こんがり肉』

 

 

 とあるお客さんのお話によれば、そのお店は唐突になんの前触れもなく村に現れたとの事でした。

 それもその筈で、このモンハン食堂は旅する食堂。自由気ままにどんな場所でも、お客さんさえ居れば開店します。

 

 時には砂漠のど真ん中、山の山頂。

 ハンターが狩りをする筈の狩場等々、それはもう文字通りどこでもお店を開くのがこのモンハン食堂。

 

 

 ジォ・テラード湿地帯に位置する小さな村で、今日もモンハン食堂は開店しました。

 小さな村ですが、大都市ドンドルマが近い事もあって活気に満ちた村です。村人に加え旅人も多いので、忙しくなりそうだ。

 

 

「こんな所に出店なんて珍しいニャ」

「そうだね、せっかくだしクエスト前の腹拵えに行ってみよっか。ごめんくださーい、やってますか?」

「あ、いらっしゃいませ! やってますよ!」

 そうこう思っている間に、さっそく今日最初のお客さんです。

 お店のウェイトレスである()は、笑顔でお店に手を向けてお客さんを出迎えました。

 

「モンハン食堂へようこそ!」

 メニューを片手に手を広げてお客さんに挨拶をする。接客はにっこり笑顔が基本だ。

 お客さんをお店に案内すると、私は「お好きな席へどうぞ」と声を掛ける。

 

 

 お店といっても、内装は竜車が引くキッチンにカウンター席が少し並んでいるだけ。

 後は貨物車からテーブルと椅子を外に並べて、看板を立てたらそこがもうモンハン食堂だ。

 

 

「キッチンキャラバン、みたいな感じなのかな? 素敵なお店だね」

 お客さんは外に並べてあるテーブル席に座ると、周りを一旦見渡してからそんな言葉を漏らす。

 

「ありがとうございます!」

 私自身もそう思っているので、お客さんが同じ意見で嬉しく思った。

 

 

「何食べようかな」

「メニューとかあるかニャ?」

 お客さんはどうやら女性ハンターさんのようで、黒い毛皮の装備に甲殻を使った武器が印象的です。

 一方で彼女の隣に座るのは黒い毛並みの獣人族と呼ばれる、人間ではない種族の生き物だ。

 

 モフモフの毛並みに三角の耳と長い尻尾が特徴的で、体長は約一メートルと小柄です。

 彼等はアイルーといって、人間とも友好的な種族だ。メラルーという泥棒癖のある仲間も居るらしいですが、私達人間と共存する個体も多いのです。

 

 

 例えばこのハンターさんのように、狩りのオトモとしてアイルーとタッグを組んでいるハンターさんも少なくない。

 ハンターズギルドと契約して狩場でのハンターの安全に務めたり、乗り物の運転を任されたりと、人間とアイルーは切っても切れない関係だ。

 

 

「メニュー表はこちらになります」

「結構種類あるんだニャ。……迷うニャ」

 他にも私達人間に料理を振舞ってくれるアイルーも居ます。

 それこそ、このモンハン食堂のように───

 

 

「おすすめってあります?」

「本日のおすすめは、取れたての生肉で作るこんがり肉ですね!」

 まだ開店間もない事もあって、お客さんは彼女とオトモアイルーの二人だけ。

 なので私は営業スマイルで接客モード。ゆっくり出来る時間はゆっくりするのだ。

 

 

「ニャ、こんがり肉なんていつでも食べれるニャ」

「そういう事言わないの」

 お客さんのオトモさんが口を尖らせてそんな言葉を漏らす横で、ハンターさんは困り顔で私に「ごめんね」と口を開く。

 確かにオトモアイルーさんの言う通り、こんがり肉なんてのは肉を焼いただけの料理だ。ハンターなら狩場で幾らでも食べた事があるだろう。

 

 ───でも、ウチのこんがり肉はそんじょそこらのこんがり肉とは違うのだ。

 

 

「いえいえ。しかし、そう仰る方にこそ食べていただきたい一品になっております」

 私は胸を張ってそう断言する。別に自分が作る訳でもないのですが、ここで働く者としてこればかりは譲れなかった。

 

 

「そこまで言われると気になるよね……。それじゃ、私はそのこんがり肉で」

「なら、ボクもそれにしとくニャ」

「はい! こんがり肉が二点ですね。味付けと肉の種類はタイショーさんお任せで宜しいですか?」

 私がそう問い掛けると、お二人は「タイショーさん?」と頭を横に傾ける。

 

 

「タイショーさんはタイショーさんです!」

「言ってる意味が分からないニャ!」

「このモンハン食堂の店長さんの事です!」

「大将さん、かな?」

 そうとも言いますね。

 

 

「何してんだ食いしん坊。……客か?」

 お客さんと会話をしていると、キッチンの奥から件の大将さんが顔を覗かせました。

 

 

 三角の耳にモフモフで赤虎の毛並み。

 板前衣装に身を包んだそのアイルーは、怪訝そうな表情で表に出て来る。

 

「食いしん坊じゃないです!」

「うるせー、俺もタイショーさんじゃねーよ。伸ばさずにしっかりと大将と呼べ。格好悪いだろ」

 ニュアンス的には同じ筈。

 

 

「よぅ、俺がこの店の店主だ。気軽に大将と呼んでくれ」

 私を小突いてからお客さんにそう挨拶をする板前姿のアイルー。

 

 

 ───彼こそ、このモンハン食堂の店長にして料理を振る舞う大将さんだ。

 

 

 

「なるほど、アイルーのお店だったんだね」

「通りで外装に肉球が多い訳だニャ」

 お客さんは特に驚く事なく、そんな言葉を漏らす。人間に料理を振る舞うアイルーは珍しくない。

 有名な所で言うと、タンジアという場所にあるシー・タンジニャというお店はアイルーだけが経営しているけれど三つ星レストランに認定されているお店だ。ちなみにこの話をすると大将さんは怒ります。

 

 

「あ、タイショーさんタイショーさん。注文です。こんがり肉、二つ!」

「んぁ……だから大将だって言ってるだろ」

 呆れ顔でそう言う大将さんは、自分の顎に肉球を押し当てて少し考えるような仕草をした後にこう口を開いた。

 

「まだ客も少ないし、せっかくこんがり肉なら外で焼くか」

「焼く所を見せてくれるんですか?」

 お客さんの質問に、大将さんは「そういう事だ」と言葉を漏らして一度キッチンに向かう。

 

 それに付いていって、私は貨物車から生肉を二つ取り出した。

 

 

 キッチンから肉焼きセットと調味料を持ってきた大将さんは薪に火を点けて、白い煙が湿地帯の空に混じっていく。

 

 

「なんか、良い匂い」

「薪には拘ってるからな。コイツはユクモ村近くの渓流って場所で取れるユクモの木を使ってる」

 お客さんの言葉に得意げに返しながら、火加減を調整し終わった大将さんは私から生肉を一つ受け取った。

 

 その生肉を肉焼きセットに乗せると、大将さんは片目を閉じて肉を回しながらしっかりと見詰める。

 

 

「なんか職人ッポイニャ」

 職人ですから。

 

 

「今話しかけると怒られるので、私達は歌でも歌っていましょう」

 私のそんな提案に、お客さんは笑顔で「いいね」と答えてくれた。

 

 それじゃ、さっそく歌いましょう。肉焼きセットの歌。

 

 

 

「ふんふふん、ふふふ、ふんふふん〜」

 狩場でお肉を焼く時、リズムがあると焼き加減が分かりやすいという事からこの歌は生まれました。

 

「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃんにゃにゃにゃんにゃにゃにゃん───」

 いつ誰が考えた歌なのかも分かりませんが、狩場でなくても小さな頃から聞き覚えのあるこの歌は、聞いているとなんだか落ち着きます。

 そうして私が鼻歌を口ずさむと、お客さん二人もリズムに乗って鼻歌を漏らしました。

 

 

 湿地帯のとある村の一角で木霊する歌声。

 

 生肉から肉汁が薪に垂れて、白い煙にお肉の臭いが混じっていく。

 赤色だった生肉は表面から少しずつ小麦色に焼けていき、ふと耳をすませば大将さんも小さく鼻歌を漏らしていた。

 

 

「───ふふふふふん」

「───上手に焼けました、と」

 そして歌が終わって丁度。大将さんが持ち上げた肉は、漏らした肉汁に焚火を反射させる。

 ただ生肉をこんがりと焼いただけ。それだけなのに、こうも食欲をそそられるは何故だろうか。

 

 

「ふふ、タイショーさんも歌ってましたね」

「歌ってない。次焼くからお前はとっとと盛り付けしてこい!」

 からかうと直ぐに喝が飛んで来たので、私は悲鳴を上げながらキッチンに向かいました。

 

 

 もう一つの生肉を焼いている間に、私はヤングポテトのフライや砲丸レタス等でお皿に盛り付けをしていく。

 そうしている間にもう一つのお肉も焼けたので、私が持って来たお皿にそのお肉を乗せて料理は完成だ。

 

 

 

「───お待たせいたしました。こんがり肉です!」

 その二つを持って、お客さんの座っているテーブルに乗せる。

 

 焼きたてのこんがり肉は油を弾いて音を立てて、揚げたてのポテトフライや野菜の匂いと混じって香ばしい香りが辺り一面に広がった。

 滴る肉汁によって盛り付けられた野菜が光を反射して、まるでお皿の上が光っているよう。これには私も涎が止まりません。

 

 

「オメーのじゃねーぞ」

「わ、分かってますから!」

 流石にお客さんのご飯を食べようなんてことはしませんよ。

 

「な、なかなか美味しそうじゃにゃいか」

「普通に美味しそうって言えばいいのに。それじゃ、頂きます」

 お客さんは目を輝かながら手を合わせました。

 

 そしてその手は骨に着いているマンシェットに伸ばされる。そのまま肉に齧り付く仕草を見て、確かに彼女はハンターなんだと思った。

 だけど大きな口で食べる訳ではなく、小さく咀嚼してから口の周りを拭く仕草は女性らしさもある。うん、私も食べたい。

 

 

 さて、注目の感想の方は───

 

 

 

「───美味しい……っ!」

 お客さんは口を押さえながら目を見開いて、驚いた表情で声を漏らした。

 

「んニャぁぁ!」

「自分で焼いたのと全然違うね。しっかり火が通ってるし、焼き過ぎてもないからお肉も柔らかい」

「肉汁も凄い閉じ込められてるニャ。お肉の旨味が止まらないニャ……」

 なんて感想を漏らしながら、お客さんはこんがり肉と盛り付けを少しずつ味わっていく。その勢いは全く収まらず、そんな二人を見て大将さんは「ふっ」と笑いました。

 

 

 

 自分が作った料理を美味しそうに食べてもらえたら、やっぱり嬉しいんだと思います。

 

 

 

「私も食べたいです……」

「……ったく、終わったら賄いで出してやるから働け。もうすぐ客も増えてくるぞ」

 肉球を「シッシツ」と振りながらそう言う大将さんは、半開きの目でキッチンへと戻って料理の支度をし始めました。

 日が沈んでくるので、そろそろ晩御飯の時間。キッチンキャラバンは中々珍しい物なので、小さな村で開店しても賑わうことが多いです。

 

 

「お客さんは、この村のハンターさんなんですか?」

 私は外に出したテーブル席を水に濡らしたタオルで拭きながら、こんがり肉を半分程食べ終わって流石に食べる勢いの収まったお客さんに声をかけた。

 働けと言われましたが無言でテーブルを拭き続けるのは苦行なんです。

 

 

「違うよ。結構遠い所に住んでるんだけど、クエストで沼地に行くから近くの村に寄らせてもらってるんだ」

 そう言ってからお客さんは、こんがり肉の骨の周りのお肉をナイフで綺麗に剥ぎ取って口の中に放り込んだ。

 普段なら残すような場所も食べたくなる、そのくらい美味しいのです。

 

 

「これからクエストに向かう所だったんだニャ」

「どんなクエストなんですか?」

 ギルドや個人からクエストと呼ばれるお仕事を受けて、巨大なモンスターの闊歩する狩り場で依頼をこなすのがハンターの仕事だ。

 だからハンターという仕事はとても危険で、命を落とす事だって珍しくない。このお店で働くようになってからハンターのお客さんのお話をよく聞くのですが、中々想像以上に大変なお仕事なんです。

 

 

「イビルジョーだニャ」

「い、イビルジョーですか!?」

 そして私の質問に対して、オトモアイルーの彼はポテトを食べながらジト目でそんな名前を口にしました。

 恐暴竜イビルジョー。ギルドでも特に危険とされているモンスターで、なんでも常にお腹が減っていて目に付いた生き物を全部食べちゃうとかなんとか。

 

 そんな危険なモンスターに挑む彼女はきっと、凄腕のハンターなのでしょう。

 

 

「た、大変ですね……」

「大変だけど、美味しいこんがり肉を食べられたからきっと成功率も上がると思う。ごちそうさま。大将さんにもお礼を言っておいて欲しいな」

 ハンターさんは口元をタオルで拭いてから、綺麗に骨だけになったこんがり肉に手を合わせてそう言った。

 

 

「凄い……」

「このお店は、旅をしてるの?」

 ポーチからお金を取り出しながら、彼女は横目を私に向けてそんな言葉を漏らす。

 これから恐ろしいモンスターと戦うというのに随分と落ち着いた印象に、小柄な女性ハンターながら頼もしいと感じてしまいました。

 

 

「はい。私が働き出したのは本当につい最近なんですけど。私がここで働く前からずっと世界中を旅してるらしいですよ」

 このモンハン食堂で私が働き出したのはつい一ヶ月ほど前の事で、本当に最近の事です。

 それまでは私もハンターをしていたのですが、私がなぜこのお店で働いているのかはおいおい話すとして───

 

 

「そっか。それじゃ、また会えるかもしれないね」

 お客さんはそう言って、メニュー表に書かれている値段丁度のゼニーを渡してくれました。

 

 

「ごちそうさま。美味しかったよ」

「んニャ」

 立ち上がった二人は、一度会釈してくれてお店に背中を向ける。

 

「あ、ありがとうございます! またのご来店、お待ちしております! クエスト、お気をつけて!」

「あなたも店長さんも、旅路は気を付けて。良い旅になると良いね」

「はい!」

 日が沈む湿地帯の村。手を振ってくれるお客さんを送り出すのは、どこか寂しくもあり嬉しくもありました。

 旅する食堂で働いているので、色々な出会いや別れがあるのです。これもその一つなんだなと、少し笑みが溢れた。

 

 

 

「ゴラァッ! 何突っ立ってやがる! 仕事しろ仕事!!」

「ひぃ?! は、はいィッ!!」

 ここはモンハン食堂。

 

 ごく普通の飲食店です。

 この広い世界を旅しながら、色々な人に料理を振り撒く旅する食堂。

 

 

 今日もモンハン食堂は営業中。

 

 

 

 次はどんな料理が出てくるのでしょうか。楽しみです。

 

 

 

 

 

 ~本日のレシピ~

 

『こんがり肉』

 

 ・生肉      ……400g

 ・塩胡椒     ……適量

 ・ヤングポテト  ……75g

 ・シモフリトマト ……75g

 ・砲丸レタス   ……50g

 ・深層シメジ   ……30g




初めましての方は初めまして。
またお前かという方はお久しぶりです。皇我リキです。

再びモンスターハンターの作品となります。今回は飯がテーマですね。
どんな物語になっていくのか、楽しんでいただければ幸いです。


早速なんですが舞台となるモンハン食堂のイラストをなんとあの「モンハン飯」のしばりんぐさんに描いて頂きました。

【挿絵表示】

とても分かりやすく描かれていて、自分でもイメージしやすくなっております。本当にありがとうございました。


それではまた次回お会い出来ると幸いです。読了ありがとうございました。
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