机を彩る様々な料理。
調理された食材は香り豊かに、囲む団欒は食事を賑やかにする───
「不味い」
───なんて事はなく。
「文句言うな、もう食材が残ってないんだ。そもそも本来旅なんてこんなもんだぞ」
「だって!! ここ数日毎日毎日携帯食料ですよ!! 携帯食料!!」
私達は今、食材を切らして保存食だけを食べながら旅を続けていました。
「そもそもなんなんですかコレ。パサパサしてるし、そんなに味しませんし。ご飯って感じがしません!!」
「何って、携帯食料だ」
「そりゃ知ってますよ! ハンターの狩場のお供ですからね! 私はいつもこんがり肉焼きますけど!」
「それはお前が緩い狩場にあんな強いハンターとしか行ってないから余裕があるだけだ。狩場で肉焼く余裕なんて───んぁ……そうそうない」
友人のCを引き連れて火山地方への旅路の途中。
長い旅路の中、貨物車に用意した食材がなくなってしまったのです。
そうすると料理も出来なくなり、日々の食事は大量に用意してある保存食───携帯食料になってしまったのだ。
「───先駆けはなし、か」
「ねー! ユーちゃんもそう思いますよねー! これ美味しくないですよねー!」
何故か木の上に登って空を見上げながら携帯食料を口に加えている友人のCに、私は大声で同意を呼び掛ける。
「こんな所でそんな声出すな……」
「別に周りにモンスター全然居ないから良いじゃないですか。ここ数日ランポスすら見掛けませんし。おかげで肉系の食材は手に入りませんけど……」
「お前が料理を食えないとイライラするのは分かったからとりあえず静かにしてろ」
「ぐぬぬ……」
だって携帯食料不味いんですもん。
長方形に固められたパサパサ食感の固形物。それが携帯食料。
片手間に食べ易いかもしれませんが、とにかく味がしないのと口の中の水分も持っていかれるし、なによりずっとコレしか食べていないので飽きました。
「どうだった?」
「ガブラスが居る様子はないかなぁ〜。たまたまモンスターが活発的じゃない……と、思いたいねぇ」
「なんにせよとっととこの辺りを抜けるのが良いか。非常食に無理させる事になるが、急いだ方が良さそうだな」
「うーん、私的にはいざという時の為に体力温存をオススメしたいけどねぇ」
「んぁ……お前さんがそう言うなら、それに従おう」
木の上から降りて来た友人のCと、大将さんはそんな話をして竜車の準備をし始める。
何を言っているのかさっぱりなので、私は首を傾げて友人のCに状況説明を求めた。
「ここ数日モンスターを見掛けないから、ちょっと心配してるだけー。あたしがいるから、クーちゃんは何も考えなくて大丈夫よぉ」
なんて言いながら私の頭を撫でる友人のC。もしかして、私の思っているよりこの状態は変なのでしょうか。
モンスターを見掛けないのは普通に安心出来るし良い事だと思うんですけどね。
「ユーちゃん……?」
「あと確かにー、そうだねぇ。これ美味しくないよねぇ」
なんて言いながら、彼女は携帯食料を口に放り込む。パサパサを食べながら、しかし彼女は「狩場でコレ食べるのはもう慣れたけどさー、こう続くと滅入るよぉ」と大将さんを横目で見た。
「んぁ……あんたは本当に食いしん坊に甘いな」
「大切な友達だからねぇ」
「その割には偶に扱い酷いですよね?」
彼女は本当に何を考えているのか分かり辛い。
「……しょうがねぇ、非常食の食事時間使ってなんか作ってやる」
「え? 食材はもう殆どないんじゃないんですか?」
「あるだろ、そこに」
そう言って大将さんは、友人のCが口に咥えている携帯食料を指差す。そんな彼の言葉に、私は口を開いたまま固まってしまった。
携帯食料は携帯食料ですよ、と。
「準備するから、お前は非常食に餌出してこい」
「あ、え、はい……」
言われるままに、私はサンセーにご飯を出して近くの水場からお水を汲んでくる。
近くの川は透き通っていて川底までしっかりと見えるのに、何故か魚の一匹も見当たらなかった。
「……何してるんですか?」
「携帯食料を砕いてるんだが?」
「いやなんでそんな事をしてるんですか? 日々の鬱憤晴らしですか?」
サンセーにご飯を渡してから戻って来ると、何故か大将さんが携帯食料をキッチンの上で叩き割っている光景を目にする。
キッチンの上にはバラバラになって粉状の携帯食料が纏められていました。コレ食べたらもっとパサパサしてて口の中の水分が枯れそうです。
「アホか。コレを……こうする」
「おぉ〜」
私に半目を向けてから、大将さんは少し深めのお皿に、バターを混ぜて練り合わせた携帯食料の粉を詰め始めた。
するとどうでしょう。それはなんとフルーツタルトの生地に似ているではありませんか。
「デザートですか!?」
「飯の事になると頭の周りが早いな……。その通り、こいつを冷やして固めた生地にミルクやチーズと少しだけ余ってる熱帯イチゴを乗せれば立派なイチゴタルトの完成って訳だ」
得意げにそう言う大将さんに、私と友人のCは拍手をしました。携帯食料しかろくな食材もなかったのに、まさかデザートを食べられる日が来るとは。
「早く食べましょう! 今食べましょう!」
「アホ、冷やしたり色々で手間があるんだよ。明日の楽しみにでもしとけ」
「うぐぅ……」
「クーちゃん、楽しみだからってあたしの分まで食べないでよ〜?」
「熱帯イチゴも今から使う分しかないからな、一人で全部食うなよ」
「私をなんだと思ってるんですか!?」
「あははー、約束だよー?」
そんなこんなで、久しぶりのまともな食事。今から楽しみです。
「───さて、無事に明日を迎えられるかねぇ」
サンセーの食事を終えた私達は、再びゆっくりと旅路を進み始めました。
☆ ☆ ☆
『menu16……携帯食料生地の熱帯イチゴタルト』
ゆっくりと進む竜車。
日が沈みかけ、空が紅に染まっていくのを見ながら私は倒れている木の数を数える。
「……やる事がない」
基本、旅の移動中はとにかく暇だ。お客さんが来て忙しいのとどっちが良いかと言われると答えるのに迷いますが今は忙しい方が良いと答える。
そして忙しい時は暇な時間が恋しいと答えるのだ。人間というのはそういう生き物である。
「ここまで暇だとモンスターでも来てくれた方が良いとか思っちゃいますね。コンガの一匹も見掛けませんけど」
「それじゃー、コンガが出て来たらクーちゃんが退治してくれるー?」
「……い、一匹なら」
とはいえ私に出来る事は限られているのですが。
本でも持っていればいいのかもしれませんが、生憎と私は読書が苦手だ。難しい事は眠くなる。生きるのに向いていない。
「しかしなんか静かですよね。この森に入ってからはモンスターも居ませんし、狩場に登録されてる所とはえらい違いですよ」
もしかしてモンスターって、軒並み狩場って言われてる所にしかいないのかもしれませんね。
「……ん?」
そんな事を考えていると、ふと木々の間で何かが動いた気がして視線を向ける。
目を凝らすと木が揺れているような気がした。その直ぐ後に、何かが軋む音がする。
「……あの、なんか聞こえません?」
「なんだ?」
木が軋む音。竜車の後ろ側から聞こえる音に、私は無意識に指を向けました。それと同時に空気が震える。
「クーちゃんナイス……!」
後方で木が何かに叩き折られ、友人のCはヘビィボウガンを展開しながら竜車を飛び降りた。
突然視界に映る剛腕。私の身体よりも太い腕が、折れた木を掴んで放り投げようとしている。
「モンスター!?」
「まさか……!」
ここ数日モンスターとは遭遇しなかったのに、突然の奇襲で私の頭は真っ白になっていました。
大将さんは首だけを後ろに向けて、その眼光を光らせる。
その先で立っていた巨体は、その豪腕で掴んだ木を私達に向けて投げ付けてきた。
「ヒィ!?」
「させないよぉ……!」
放たれる弾丸。巨木に突き刺さったその弾丸が爆発して、真っ二つになった木は私達を逸れて木々を薙ぎ倒す。
友人のCが居なければ私達は今ので巨木に潰されていた。心臓の鼓動が早まる。
「なんですか……アレ」
視界に入るのは人間の身体よりも遥かに太い剛腕を持つババコンガのような姿をしたモンスターでした。
しかしそれはババコンガとは比べ物にならない巨体を持っていて、頭に生えた二本の角も相まってとても恐ろしく感じてしまう。
ティガレックスなんて比にならない。そんな事を思う程に、そのモンスターから感じる恐怖は桁が違った。
「ラージャンか……!」
「ラージャン……?」
それがそのモンスターの名前なのでしょうか。ラージャンに立ち塞がる友人のCを尻目に、大将さんは目を細めてサンセーに走るように命じる。
「大将さん!?」
「とにかく逃げるぞ!」
「いや、でもユーちゃんが!」
「そんな事言ってる場合じゃねぇ!」
「そんな事って!」
スピードを上げるサンセー。あんなモンスター相手に友人を置いていくなんて出来ないと、武器を持って飛び降りようとする私の肩を大将さんはその手で掴んで止めた。
「何するんですか!」
「死ぬ気か馬鹿が!!」
「でも!?」
視線を向ける。
ラージャンはゆっくりと、それでも巨体故の歩幅で私達に向かってこようとしていた。そんなラージャンに、友人のCはヘビィボウガンは向けて引き金を引く。
しかし銃弾はラージャンの剛腕に突き刺さるが、貫通するには至りませんでした。
「……あちゃぁ」
攻撃に怯む事なく友人のCの目の前に立ったラージャンは、その剛腕を振り上げ───目で追えない速度で振り回す。
「───え?」
それで突然視界から友人のCの姿が消えたかと思えば、轟音と共に近くの木から赤い液体が飛び散った。
ソレがなんの液体なのか理解するのと同時に、ラージャンは地面を蹴って私達に肉薄する。
「ユーちゃん───」
あんなに強い友人のCが、そんな簡単に。
ただただ視界が暗くなって、絶望と死が混ざって脳裏に焼き付いた。
こんなにも簡単に人が死ぬ。私は何も出来ない。何もかも失って───
「───うぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
瞳を閉じた私の耳に聞こえたのは、聴き慣れた友人の聴き慣れない叫び声だった。
「ぇ」
振り下ろされた剛腕に向けてヘビィボウガンを盾に受け止める友人のC。瞳を開けた私の視界に、そんなあり得ない光景が映る。
「ユーちゃん!」
「十分持たす!!」
ただ、私の悲痛の叫びに帰って来たのは血だらけでラージャンの攻撃を受け止める彼女の言葉でした。
「急げ非常食! 明日の飯をテメェにするぞ!」
「大将さん!!」
彼女に構わずにサンセーを急がせる大将さんは、私の言葉は無視するのに私の肩をずっと掴み続ける。
少しずつ小さくなる友人のCの身体。私はそんな彼女に手を伸ばして叫び続ける事しか出来ませんでした。
「───クーちゃん……。約束、守ってよねぇ」
森に轟音が轟く。日の沈んだ森は、薄暗くその景色を染めていった。
「───して! 離して下さい……! 離して! 離し───うわぁ!?」
何も出来ずに暴れていた私の手を離す大将さん。突然自由になった私は、勢い余って竜車から転げ落ちる。
「───痛ぁ……」
友人のCと分かれてどれだけ経ったでしょうか。日は完全に沈んで、周りは今さっきの轟音が嘘かのように静かになっていました。
だけど、そこに友人のCは居ない。
「……ここは?」
ふと辺りを見渡すと、そこは小さな横穴の洞窟になっている。横穴にサンセーと竜車を誘導する大将さんは、私の前に立って「悪いな」と言葉を漏らしました。
「悪いなって……大将さん、ユーちゃんが! ユーちゃんが死んじゃいます! 早く助けにいかないと!」
私は彼にしがみ付いてそう訴える。しかし大将さんは、私から目を逸らして森の奥を見た。
「ラージャンってな、知ってるか?」
「え? し、知りません。あんなモンスター初めて見ました」
大将さんの質問に私はそう答える。
ババコンガに姿は似ていたけれど、大きさも力強さも桁が違った。
あんな恐ろしいモンスターがこの世界にいるなんて思いもしていなくて、思い出すだけで身体が震える。
「アレは古龍級モンスターって言われててな、古龍を相手にしても引けを取らない化け物なんだ。普通の人間が勝てる相手じゃない。今逃げ切れたのだって、奇跡かと思うぐらいだ」
「逃げ切れたって……それじゃ、ユーちゃんは?」
「ここ数日モンスターを見なかったろ。小型モンスターなんかは近くに危険な奴が居ると姿を隠す。……それが分かってるから、アイツは俺に何かあったら自分を囮にして逃げろって言ってくれたんだよ」
大将さんのその言葉に、私は今朝の友人のCの言葉を思い出した。
──ここ数日モンスターを見掛けないから、ちょっと心配してるだけー。あたしがいるから、クーちゃんは何も考えなくて大丈夫よぉ──
「二人共こうなるって……分かってたんですか?」
「こうなるかも、だ。俺だってこうならなければ良いって思ってたさ。……だけどな、そうでもしなければ全滅していた」
大将さんの言葉は、意味は分かっても理解が出来ない。
だからって彼女が死んで良いなんて受け入れられないけど、皆仲良くミンチになるのが正しいとは言えません。
だけど、それでも彼女は私の───
「大切な友達だったんだよな」
「───だって、だって! ユーちゃんは……」
彼女は私の唯一の友人なんです。狩場で足手まといとか邪魔だとか言われていた私に、文句も言わずに付き合ってくれたのは彼女だけだった。
──大切な友達だからねぇ──
「……嫌だ。嫌だぁ。ユーちゃんが死んじゃうなんて嫌だぁぁ」
それなのに、私はこんな時すら何も出来ない。泣き叫ぶだけで、何も出来ない。
「……嫌、か」
「大将さん?」
「……俺も、嫌だから逃げたのか。今度こそ本当に目の前で何かを失うかもしれないから、それが嫌で逃げちまったのか」
大将さんは頭を掻きながらその場に座り込む。
彼は本当は優しい人だ。
だから、自分のせいで弟子だったハンターを危険な目に合わせたのが許せなくて狩人を辞めてしまっている。
そんな彼だから、勝てるかどうか分からない相手に立ち向かうのが怖かった。目の前で本当に誰かを失うのが怖かったのだろう。
その手は震えていました。
何も出来ない。
──結局は、それを決めるのは最後だしねぇ──
ふと、数日前の彼女の言葉を思い出す。
もし大将さんがこんがり肉Gを完成させた時、私がこんがり肉Gを焼いた訳ではなくてもそのこんがり肉Gを焼くのにどれだけ貢献したか。彼女はそれが私がここに居る意味だと言ってくれました。
きっと私は何も出来ない。
だけど、大将さんなら───
「───大将さん、助けて下さい」
「……んぁ?」
「ユーちゃんを助けて下さい! 大将さんなら、ユーちゃんを助けられる筈です! 大将さんは凄く強いニャンターさんだったんですよね! お願いだから、ユーちゃんを助けて下さい!」
私は身体を地面に叩き付ける勢いで頭を下げながら、大将さんにそう頼み込む。
これで何が変わるなんて事はないかもしれない。だけど、何もしないなんて嫌だ。
「お前……」
「私にはこれしか出来ないんです。私にはこんがり肉Gを焼く事も、ユーちゃんを助ける事も出来ない。……だけど大将さんにはそれが出来る筈なんです! お願いです! ユーちゃんを助けて下さい!!」
大将さんが優しいのは知っている。だからこそ厳しいのも、だからこそ危ない事をしないのも。
それでも私は彼に縋り付いた。
「───んぁ、分かった。竜車も隠したし動けない事はない。……だが、二つだけ条件がある」
「……た、大将さん!」
「条件があるっつってんだろ」
「条件……ですか?」
私を突き放す大将さんは、少し考えてからこう続ける。
「まず、無理だと分かった瞬間諦めて逃げる。それはアイツが生きていても、助からないと思ったら目の前で見捨てるって事だ。今より辛い思いをする事になる」
「それって……」
「二つ目の条件。……お前も手伝え。そして死ぬな」
私達は直ぐに準備を始めました。貨物車から私の武器と、大将さんはピッケルを持ってくる。
「武器が心許ないな……。そうか、アイツが使えるかもしれないならアレも持ってくか」
「大将さん?」
大将さんがそう言って持って来たのは、竜車の車輪を固定する鉄の軸の予備でした。それを「長いから半分で叩き切れ」と私のハンマーで二つに折る。
「何に使うんですかこれ?」
「ないよりマシだろ。とっとと行くぞ」
私達は武器を持って、来た道を走った。少し遠くから音が聞こえて来る。これは彼女が戦っている音か、それとも───
「───居たぞ」
木々の間。巨木が倒れる後に振り向いた大将さんは、赤く光る眼光を捉えてピッケルを構えた。
その先では咆哮を上げるラージャンが、豪腕を振り上げている。
「ユーちゃん!!」
その真下に、彼女はまだ立っていた。無傷という訳ではないけれど、まだ五体満足で立っている。
「───あれぇ、走馬灯見えちゃってるぅ?」
「いやよそ見してないで前見て下さい!!」
「お前が声かけたんだろアホ!」
振り下ろされる剛腕。しかし、友人のCは前に突き出した自分の獲物を背負うようにラージャンの攻撃をイナシた。
さらにその剛腕を振り回すラージャン。剛腕の動きに丁度合わせるように、彼女は自分の身体を捻ってそれを避ける。
「凄……」
「いやぁ、帰って来ちゃったかぁ。どうしたもんかなぁ?」
全身ボロボロですが、困っているように見えてまだ戦えている友人のC。そんな彼女に対して、ラージャンは全身に銃弾が突き刺さり怒りに震えているようだった。
「お前の友達は化け物か」
「どっちがモンスターか分かりませんね」
「そこー、他人をラージャンみたいだとか言うと怒る人も居るからね〜」
聞こえてますし。
「───おっと」
身体を揺らしながらも、しっかりと友人のCを捉えて剛腕を振り回すラージャンの攻撃を───しかし彼女は踏み付けて飛び上がり、銃弾をお見舞いしてその反動で距離を取る。
ババコンガ戦で見せた綺麗な動きを見せて私達の目の前に着地する彼女だったけど、着地の瞬間にバランスを崩して片目を閉じた。
「ユーちゃん!」
「正直、勝てなくはないけどキツかったんだよねぇ〜。来てくれたのは助かるよぉ」
ラージャンは怒っているのか、両手を振り上げて咆哮を上げている。
気のせいか、毛が逆立って発光しているようにも見えた。
「お前さん、俺達が隙を作ったら強烈な一撃をお見舞い出来るか?」
「クーちゃんが背負ってるソレ、貰えるならやれなくはないよぉ」
彼女は私が持ってきた車輪の軸を指差してそう言う。
こんな物何に使うか分かりませんが、アレだけの攻撃を受けても未だに立っているラージャンへのもう一押しが欲しい。そんな所か。
「え、私もやるんですか?」
「手伝えって言ったろ。いいか、お前は俺の合図でこれを投げれば良い。それ以外は逃げる事に集中しろ」
そう言って、彼は私に閃光玉を手渡した。
強力な光で相手の視力を奪う閃光玉。これで、友人のCが攻撃する隙を作る。
「有無だの言ってる暇はねぇ。来るぞ!」
「うぇ!?」
突進して来るラージャン。友人のCは私の背中から棒を持って、大将さんはピッケルを片手に散開した。
そしてラージャンの狙いは私。剛腕が振り上げられ、私は悲鳴を上げながら逃げる。
「嫌ぁぁぁああああ!!!」
「やっぱ逃げ足は早いな。使える」
使える、じゃない。助けて。死ぬから。
「こっちよぉ」
そんな私に、友人のCからの助け舟。銃弾がラージャンの横っ腹に突き刺さり、ラージャンは唸ってその鋭い眼光を私から晒した。
しかし、そこに回り込んでいた大将さんがピッケルをラージャンの下顎に叩き付ける。刃が貫通する事はありませんでしたが、血飛沫が上がってラージャンは悲鳴を上げた。
「浅いな」
大将さんに向くラージャンのヘイト。振り回される両腕を、大将さんは軽々と避けてラージャンの懐に潜り込む。
そのまま振り上げられたピッケルの刃がラージャンの横腹を貫いた。悲鳴を上げるラージャンの攻撃はさらに激しくなるけれど、大将さんは巧みにそれを交わしていく。
「凄い……」
これが、ポッケ村の英雄のオトモ。これがドンドルマで一線を張っていた狩人。
「お前ら準備しろ!」
回り込んでラージャンの後脚にピッケルを深々と突き刺した大将さんは、ラージャンの攻撃を避けながら私の元に走って来た。
ラージャンは物凄い形相で大将さんを追い掛けてくる。怖かったけれど、私にはする事があった。
「今だ!!」
「はい!!」
私は目を瞑って、地面に叩き付けるように閃光玉を投げる。刹那、夜の森を光が包み込んだ。
聞こえて来る悲鳴。
そして、視界に映るのはラージャンの足に突き刺さったピッケルを踏み台に跳び上がる友人の姿。
彼女の得物は折り畳まれたまま、砲身の内側に私達が持ってきた棒が組み込まれている。
そのまま重力に引き込まれて上空からラージャンの肩へ向け、その棒を突き刺し───
「発射ぁ〜」
───引き金を引いた。
本来銃弾を打ち込む機構が、ラージャンの肩に刺さった棒を射突する。
それは弾丸となってラージャンの肩を貫いた。
悲鳴と共にラージャンは転がり、友人のCは私達に視線を向けて「逃げよう」と走る。
夜の森を走りながら私は思いました。
大将さんも友人のCも本当に凄い人で、私はこの人達に近付く事は出来ないかもしれないけれど───
「私、頑張ります」
───支えて、力になりたいと。何も出来ない私を変えたいと。そう思ったのです。
「クーちゃん、来てくれてありがとう。これでクーちゃんに全部取られずにデザートが食べられるねぇ〜」
「もしかしてその心配しかしてなかったんですか!?」
「そりゃそうだろ」
「大将さんまで!!」
次の日食べたデザートは、いつもに増して美味しくて───大将さんもどこか満足気でした。
〜本日のレシピ〜
『携帯食料生地のイチゴタルト』
・携帯食料 ……150g
・幻獣バター ……70g
・ロイヤルチーズ ……200g
・特産キノコ ……50g
・ポポミルク ……少々
・熱帯イチゴ ……好きなだけ
携帯食料に飽きた貴方に!
戦闘シーンばっかり書いて食事シーンを書いてない!?
たまにはこんな事もあります。
読了ありがとうございました!