火山の村で、今日も開店。
繁盛するモンハン食堂で出すのは、火山に住む魚で作った海鮮丼ならぬ活火丼。
村の炭鉱夫達にも評判で、噂が噂を呼びお客さんはどんどん増えていった。
すると流石に食材も足りなくなるので、お店は閉店。片付け作業に入っています。
「え、ハンターさんG級ハンターなんですか!?」
「そうとも! 吾輩、この辺りでは結構有名なハンターなのであるぞ? まぁ、吾輩の本業はトレジャーハンターであるがな!」
「まぁ、これでも一応うちの村では頼りにされてるんですよ。村の外でも
「こんな人とは褒めているのであるな? 褒めているのであるな! ふははははは!」
片付けの最中、村のハンターさんと集会所のお姉さんのそんな話を聞きました。
曰く、上位ハンターの中でもギルドに認められた特別な存在だけがその称号を手に入れる事が出来るらしいです。
あの友人のCですらG級ハンターではありません。これは噂ですが、ごまんといる狩人の中でG級として認められているのは二十人にも満たないとかなんとかと聞きました。
そして自称トレジャーハンターの彼こそ、そのG級ハンターの一人だと言います。
「渾名……ですか?」
「うむ。G級に認められた者にギルドが付ける称号みたいなものであるぞ」
「それは格好良いですね! 私も欲しいです」
「クーちゃんには流石に一生むりかなぁ」
一生はいくらなんでも酷くないですか。
「G級なんてのはそう簡単になれるもんじゃねぇ。……お前、ポッケでアレと話たろ? アレと肩を並べて戦うって事だぞ」
賄いの活火丼を食べながらそういう大将さん。私がつまみ食いしようとすると「お前は食ったろ」と箸で突かれました。
彼の言うアレとは、ポッケ村のハンターさんの事でしょう。
私でも知っている噂の数々。龍を一人で狩るような狩人と肩を並べる───良く考えなくても無理でした。
「ポッケ村の奴と言えば覇王か! 奴は元気だったか? 吾輩、一度しか会ってない故にあまり顔も覚えてないがな」
「あなたは女の人の顔しか覚えないだけでしょう……」
ジト目でハンターさんを睨む受付嬢のお姉さん。かくいうハンターさんは「そうであるかな?」と視線を逸らしている。図星か。
「ポッケ村のハンターさんは……こう、凄かったです。なんというか、覇気が……。というか、その覇王ってのが渾名ですか……」
「確かそうであったぞ」
「噂で聞いていた通りだったとは……」
私はとんでもない人と話していたんですね。
「知り合いのG級ハンターといえば、君達と入れ替わりで村を出て行った者も居るな」
「一つの村にG級ハンターが二人も居たなんて事があるんですね……。どんな人なんですか?」
「メラルーを連れて黒い防具を使ってる金髪碧眼の若い娘なんだがな、これが吾輩も驚く実力者よ。怒隻慧という渾名持ちのな。報告にあった、近くにラージャンが現れたって話があったろう? そやつ、その話を聞くなりすっとんで行きおったからな!」
メラルーを連れて黒い防具を使っている金髪の女性。はて、何処かであった気がしますが、多分該当する人はこの世界に沢山いるので気のせいかもしれません。
「ラージャンってあの時のかなぁ?」
「んぁ、多分な。……手強い奴だったが、G級ハンターなら問題ないだろ。これで帰りは安心って事だ」
大将さんが全く知らない人を信用しているのに、私は少し驚きました。G級ハンターというのはそれほどまでの実力という事でしょう。
そういえば、あの
「所であんた、G級ハンターなら頼み事があるんだが引き受けてくれるか?」
「む? なんだなんだ小さき者よ! 美味な食事の礼だ!! 吾輩に出来る事ならば頼まれんでもないぞ!!」
頼り甲斐のある自信に満ちた表情でそう語るハンターさん。G級ハンターさんに何を頼むのかと思えばそれは───
☆ ☆ ☆
『menu18……鎧竜のセセリの照り焼き』
絶叫が火山に木霊していた。
「嫌ぁぁぁぁああああ!!!!」
視界が揺れる程、滝のように涙を流しながら悲鳴をあげているのは誰でしょう。私です。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! これは死にます!! 死にました!!」
「まだ生きてるよ〜」
そりゃ友人のCは遠くから呑気にボウガンで攻撃してるから良いでしょうけどね。私の目の前にいるモンスターを見たらどんな人でも絶叫間違いなしだ。
岩のように硬い甲殻を鎧のように身に纏い、棍棒のような巨大な尻尾は身体を回転させるだけで嵐のような風圧を起こす。
翼を持つその巨体は溶岩の中でも平然と歩き、口からは万物を焼き尽くす熱線を放つモンスター。
鎧竜グラビモス。
私の目の前で暴れ回る巨体こそ、まさにそのモンスターでした。
「ハッハッハッハッハッ!! 元気であるなマドモアゼル!! その元気があれば大丈夫であるぞ!! とにかく尻尾に当たらない距離を保ち続けるのだ!! あまり離れ過ぎると熱線で燃やされてしまうからな!!」
元気じゃないですよ今まさに死にそうですからね。燃やされてしまうからなじゃないですから。今すぐにでも命の灯火が消えそうですから。
「そんな事言われましてもぉぉ!」
どうしてこんな事になってしまったのか、それは大将さんがハンターさんに話しかけた時まで遡ります。
「グラビモス、であるか?」
「あぁ、ここ最近この辺りに現れたって聞いてな」
大将さんのG級ハンターへの頼み事は、グラビモスというモンスターの討伐でした。
「確かにここ最近、吾輩の宝物庫にグラビモスが闊歩しているのは事実である。しかし、あのグラビモスには吾輩も彼奴も手を焼いていてなぁ」
宝物庫とか彼奴とか知らない単語が飛んできましたが、大将さんの言う通りこの辺りにグラビモスがいるというのは事実だそうです。
しかし、G級ハンターの彼でもそのグラビモスには手を焼いているのだとか。
そこで大将さんはこんな提案をしてきました。
「そこにいる白いのは腕が立つ。使ってくれて構わん」
「あれ〜? これって強制〜?」
「美味いもん食わせてやる」
「おっけー」
ノリが軽過ぎる。
「あとソレも囮くらいにはなる。使ってくれ」
ソレって何ですか。
「ふーむ、確かに腕は確かに見える。吾輩の眼力に間違いはない」
「どこ見てんのよえっち〜」
「して、彼女もなかなか見所はあるぞ。そうだな、吾輩が若い芽を伸ばす手助けという意味でも、吾輩も手が足りんという意味でも、二人の協力は魅力的な相談である! そもそも件のラージャンの件がなければ、あの怒隻慧に手伝ってもらう予定だったのだ」
んー、もしかして大将さんのいうソレって、私の事ですかね。
「それではいざ行こう、我が宝物庫に美女二人をご招待である。吾輩に続け! 武具を待て! いざ出陣である!」
「待ってください! いや無理です!! 無理でしょ!? というか、私より大将さんの方が適任ですよね!?」
「俺は料理人。お前はハンター。良いな?」
「やってやりますよ畜生!!」
なんて啖呵を切ったは良いですが、これは私の悪い癖でした。気だけが強いので相手が目の前に現れないと無理な事を無理だと言わないのです。ついさっきの自分を殴り飛ばしたい。
「粉砕せよ、玉砕せよ、撃砕せよ!! 我が宝物の前に崩れ落ちるが良い!!」
ハンマーを持ち上げ、何やら高々と声を上げるハンターさん。流石の声量に、グラビモスもハンターさんに視線を向けて怒りのほうこうを上げました。
そのうちに私は小休憩、友人のCは銃弾を横から何発も叩き付けます。
実はコレ、戦い始めてかれこれ数時間が経っていました。
しかしグラビモスはピンピンで、血の一つだって流していない。
それもその筈。かの竜は全身を岩のような鎧に包まれた鎧の竜。
私達人間はおろか、そこら辺のモンスターですら傷一つ付ける事は出来ないのです。
「むむむむむ! 此奴やはり硬いな! しかし攻撃は効いている。あと一歩、あと一歩なのだが!」
「効いてるんですかこれ?」
戦いの中盤、ハンターさんがグラビモスの頭を殴り付けて気絶させる事に成功しました。
その時に一緒にお腹辺りをハンマーで殴ったのですが、感触的には殆ど岩を殴っているのと大差ありません。ただただ腕が痺れます。
「吾輩も歳故な! 限界が近いぞ!」
元気に大声でそんな事を言わないで欲しい。そしてそんな事を言いながらも、グラビモスの懐に入り込み振り上げられた彼のハンマーは、その岩のような甲殻を少しずつ砕いていました。
あと一歩、彼のそんな言葉は事実なのかもしれない。しかし、そのあと一歩が遠いのです。
「む? 吾輩突然とても良いことを思い付いたぞ!」
「はい?」
その時点で私は嫌な予感がしていました。良いことを思い付いた人の思い付いたことが良いことだった試しがありません。
「吾輩、彼奴を連れてくる故! 二人は此奴の足止めを頼む!」
「は?」
そう言って、ハンターさんは全力でこの場を去って行きます。残されたのは私と友人のCだけ。
逃げていくハンターさんには目もくれず、グラビモスはその鋭い眼光を私に向けました。
「なんでですかぁぁぁああああ!!!」
もう私は逃げます。それはもう必死に逃げました。
「ふぁいと〜」
のんびりフワフワとそう手を振る友人のC。偶に良い感じの援護射撃をくれるのですが、彼女はこの状態を楽しんでいるようにも見えます。鬼か。
そして少しだけ時間が経ち───
「うわ、なんですか? 地震?」
「これは……」
グラビモスから逃げていると、突然地面が揺れはじめました。それには私も友人のCも、グラビモスも驚いて動きを止める。
地面の揺れは暫く続き、しかも少しずつ大きくなってくるではありませんか。
そして───
「フハハハハハハ!! こっちであるぞ我が好敵手よ!! お前は真っ直ぐも進めんのか!! フハハハハハハ!!」
戻ってくるハンターさん。流石に彼が地面の揺れの原因という訳もなく、その原因は彼の背後から付いてきた一匹のモンスターでした。
「アゴ!!!」
まず目を引くのが大鎚のような巨大な顎。背中に金色の突起を無数に生やした獣竜種のモンスター、その名も爆鎚竜ウラガンキン。
「アゴぉぉ!! アゴアゴ!! アゴでアゴアゴをアゴアゴアゴアゴアゴぉぉぉおおお!!」
「クーちゃんが人語を忘れるくらい動揺してるから通訳するとねー。アホー、どうして、なんでそんなのを連れて来たんですかもー。って言ってるよー」
「フハハハハハハ!! 白い可憐な少女よ、其奴の動きを止めるのである!!」
私の必死の叫びは無視して、友人のCにそう指示するハンターさん。
「少女って歳でもないけどねー」
言いながらも、彼女は走って私の横を通り抜け───私の背中を踏んで跳躍する。
「痛ぁ!?」
「失礼〜」
「失礼する前に言って下さい!!」
私を踏んでグラビモスの頭上まで跳んだ友人のCは、背負っていたヘビィボウガンを展開───それをグラビモスに叩き付けた。
「ボウガンは鈍器ぃ」
「なんで!?」
銃弾を発射する為の武器でモンスターを殴るとは。しかしヘビィの名は伊達ではなく、重力を乗せた一撃はグラビモスを退け反らせる事に成功する。
「よーくやった!!」
なんて、言いながら。ハンターさんは急停止、グラビモスに背を向けて、背後から迫ってくるウラガンキンに身体を向けました。
ウラガンキンはといえば、体を丸めて背中の突起物で地面を削るように転がり始める。
あんなのに潰されたら良くてミンチ、普通なら地面のシミだ。
「ハンターさん!?」
しかし、当のハンターさんは動かずにハンマーを構える。当たり前ですが人間がどう足掻こうがあんな巨大なモンスターを止めるなんて事は出来ない。
それはいくらG級ハンターでも変わらない筈だ。
「フハハハハハハ! そーれ行くぞ我が好敵手よ、吾輩に向かってくるが良いわ!!」
転がるウラガンキンにハンターさんが潰される───そう思った刹那、彼は突き出したハンマーを背負うように体を捻り、体重を逸らす。
「イナシ!?」
「───そら、とんで行け!!」
友人のCが使う技術の一つと同じ事をしたハンターさんは、捻った体の勢いのまま再び抜刀。ハンマーを横振りにウラガンキンに叩き付けた。
全体重を乗せて転がるウラガンキンがそんな事で止まる訳がない。
しかし、彼の攻撃でウラガンキンの軌道が変わる。その先にあるのは───
「なんか、こっち来てません?」
「来てるねぇ」
───倒れたグラビモスと、着地した友人のCと、私。
「ぎゃぁぁああああ!!!!」
私の悲鳴と共に、轟音が火山に轟いた。
破裂音。
大樽爆弾の爆発音のような音が耳に響く。
ウラガンキンは倒れたグラビモスに直撃して動きを止めていた。当のグラビモスはといえば、回転するウラガンキンに直撃した腹部の岩のような甲殻が砕けて肉が丸見えになっている。
あの岩の鎧だった甲殻が、遂に破壊されたのだ。
「そんなのありですか!?」
そこからの狩りは一瞬です。
友人のCの放つ弾丸はグラビモスの内臓を貫き、ハンターさんの鎚は内臓を潰し、そして最後は恐ろしい光景でした。
「お? 貴様まだ居たのか。もう帰れ、邪魔である」
グラビモスとの衝突で少しの間気絶していたウラガンキンが起床。
「な、なんだ貴様やるのか! やるなら吾輩もやるぞ? 来いやこのアゴが!!」
自分で連れて来たんでしょとツッコミを入れる前に、グラビモスの頭の方で戦っていたハンターさん向けて、ウラガンキンはその巨大な顎を振り下ろす。
その鉄鎚は、見事グラビモスの頭をミンチにしてしまいました。討伐完了です。
「おのれ貴様ぁ!! 吾輩の手柄にするつもりであったのに!! 来い!! 今日こそ決着を付けてやるぞ!! うぉぉおおおお!! あ、二人は先に戻っていてくれたまえ、吾輩はこのアゴをぶっ飛ばしてから帰るのでな!! フハハハハハハ!!!」
一人騒がしくウラガンキンを連れて火山の奥に向かうハンターさん。
大丈夫なのでしょうかと友人のCに聞きましたが、流石の彼女も「G級って変なのしか居ないの?」と表情を引き攣らせていました。
あなたも結構変な人ですけどね。
さて、このグラビモス。
ハンターさんの言う通り村でも結構困った存在だったとか。
先程のウラガンキンとの縄張り争いに負けて、村の近くに住み着いてしまった個体だったらしいです。
なので、それを退治した私達はそこそこの歓迎を受けました。
「あのハンターさん、ウラガンキンと戦うってどっか行っちゃったんですけど……」
「あー、別にあの人は大丈夫です」
そして彼は村の人に信頼されてるのかどうでも良いと思われているのか分からない。
「良くやったな」
「それで、なんでグラビモスだったんですか?」
肝心の大将さんに調理場でグラビモス討伐を報告する。大将さんはなにやらお肉を調理しているようですが、さて何を調理しているのか。
「コイツを手に入れる為だ」
「グラビモスのお肉〜?」
大将さんが持ち上げるのは、何やら味付けのしてある肉。
「鎧竜のセセリ。グラビモスの首の肉だな」
「首の肉ですと」
曰く。
焼くとジューシーな味わいになる鎧竜のセセリは、食通の中でも人気な食材なんだとか。
首の肉なのでグラビモス一頭から手に入る食材はかなり少ない。しかし、グラビモスが大きいのでそれなりの量ではあるんですけどね。
そして出来上がって来たのが───
「へい、お待ち。鎧竜のセセリの照り焼きだ」
細かく分けられた鎧竜のセセリに、タレを塗りながら丁寧に焼かれた一品。
ジューシーな味わいにこんがりと焼かれたお肉は、これが至高のこんがり肉───こんがり肉Gなのではないかと思えてしまう物でした。
「いやー、これは格別だねぇ。狩りの疲れも吹っ飛ぶってもんよ〜」
セセリを摘みながらお酒を喉に流し込む友人のC。確かに、一仕事終えた後のご飯は美味しいですよね。
「これは最高です! もしかして出来ちゃったんじゃないですか? こんがり肉G!」
柔らか過ぎる事もなく、硬過ぎる事もない肉の食感と焼き加減。大将さん特製の照り焼きのタレはその肉の食感を邪魔する事なく奥まで届く良い濃さです。
「ふむふむふむ! なるほど、これは美味であるな!!」
「ハンターさん?」
「生きてたかー」
突然私達の背後に現れたハンターさんは、セセリを頬張ると満面の笑みで大将さんを褒め称えた。
「大丈夫だったんですか?」
「フハハハハハハ! 吾輩はG級トレジャーハンター、彼奴等に遅れを取る訳がないのである!」
「まぁ、また負けて帰って来たんですけどね」とは受付嬢のお姉さんの言葉。それなのに元気だし、つくづく変な人です。
「大将さんも食べてみて下さいよ!」
「んぁ……そうだな」
少しだけ嬉しそうに、緊張しているように、ゆっくりとセセリの照り焼きを口に運ぶ大将さん。
きっとそれは夢の第一歩に違いない。私はそう確信していました。
だけど───
「違う、な」
こんがり肉Gには、まだ遠いようで。
「むむ?」
「ふーん……」
「大将さん……?」
私達の旅は、まだ少し続きそうです。
〜本日のレシピ〜
『鎧竜のセセリの照り焼き』
・鎧竜のセセリ ……250g
・砂糖 ……15g
・みりん ……30cc
・醤油 ……30cc
・酒 ……30cc
・水 ……15cc
グラビモス怖かったです!
読了ありがとうございました。あけましておめでとうございます()
月一更新なので変な時期にしかこれを言えない。しかし、もう一年の12分の1が終わってしまったんですね。あっというま過ぎんか?
火山編はここでおしまい。次回から再び新章です!