モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu19……コゲ肉

 人にはどうしても言えない事というものがあります。

 

 

 他人には秘密にしたい事実。

 自分の弱み、自分だけの決意、自分の羞恥。

 

「どうしてですか!」

「いやー、タンジアはちょっとねぇ」

 だから、他人が話そうとしない事を無理にでも聞き出すのはいけない事だ。それは実家のお婆ちゃんの言葉です。

 

 

「でも、ユーちゃんが付いてきてくれないと私死にますよ!?」

「中々レベルの高い脅しだねぇ」

 しかし、今はそんな事を言っている場合ではなかった。

 

「……んぁ、事情があるなら仕方ねーよ」

 状況を説明するなら、火山からドンドルマに着いて数日。

 次の旅先を決めた大将さんが、腕を見込んだ友人のCをまた護衛に誘った時の事です。

 

 

「タンジアにはねー、怖ーい人がいるから行きたくないんだよねぇ。……あたしが死ぬ」

「な、中々レベルの高い脅しですね」

 友人のCは同行を拒否。理由はこんな感じでよく分かりませんが、彼女が居ないと私は旅先が不安で仕方がなかった。

 

 

 自慢じゃないですが私は糞の役にも立ちません。文字通りうんこの方が役に立つまであります。うんこは肥やし玉に出来ますからね。

 私よりうんこの方がモンスターを撃退出来ますよ。自分で言うのもなんですが私はうんこ以下のハンターだ。

 

 だから護衛なしでは死んでしまいます。

 

 

「私を見捨てないで下さい……!」

「たまに出てくる謎の自信は何処にやったのやらだねー」

 そんなもんはラージャンとグラビモスに踏み潰されました。

 

 モンスター怖い。

 

 

「まー、どうしてもというなら近場のユクモ村までなら着いて行ってあげても良いけどさー。その後の事は、ユクモ村で考えなよー?」

「ヨシキター!」

 とりあえず途中までの命の保証は出来たようです。その後の事はその後考えれば良い。世の中大体の事はなんとかなりますからね。

 

「ユクモにはどのみちやる予定だったからな。あんたがそれで良いなら、ユクモ村までの護衛をまた頼みたい」

「おっけー。それじゃ、また明日集合という事で〜」

 そんな訳で、私達は再び旅をする事に。

 

 

 火山の次は、海辺の集会所とシー・タンジニャというレストランで有名なタンジア。

 

 どんな旅になるのか、期待半分不安半分。

 大いなる海の幸を求め、私達はドンドルマを後にするのでした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu19……コゲ肉』

 

 

 棍棒のような強靭な尻尾。背中を守る甲殻は例え飛竜といえど簡単に傷付ける事は叶わない。

 

「───しかし、私とてハンターです!」

 だけどここで引く事は、狩人としての誇りを投げ捨てる事に変わりはないと悟る。

 私はしっかりと大地を踏み締めて、己の棍───ハンマーを構えた。

 

 

「いざ勝負ですよ!! アプケロス!!」

 

 

 

【メインターゲットを達成しました】

 

 

 

 そんな訳で旅の途中。

 私達はアプケロスの群れを見つけ───というか遭遇してしまい、縄張り意識の強いこのモンスターの内一匹にしつこく追われてなんとか撃退したところです。

 

 ハンターさん達の間ではホーミング生肉とまで呼ばれているこのアプケロス。

 先祖をハンターに皆殺しにでもされたのか、人を見つけると積極的に襲ってくるという少し迷惑なモンスターだ。

 

 

 しかし、そのお肉はアプトノスとも比べられる程の質である。

 

 それと卵も美味で、よくハンター用のクエストに草食獣の卵を納品するというクエストがあった事を思い出しました。

 前述通りこのアプケロスは私達ハンターを見付けると卵を取ろうが取っていなかろうが、全力で追いかけてくるのでやっぱり厄介なんですけども。

 

 

「いやー、クーちゃんもやれば出来るよねー」

「えっへん。まー、私にかかれば? ババコンガでもイャンクックでもイチコロって奴ですよ。えぇ! それはもう!」

「……どうしてコイツはこんなに調子に乗れるんだ」

 私にも分かりません。

 

 

 そんな訳で剥ぎ取りタイム。

 迷惑なモンスターだとは言いますが、それも己を守る為の行動なのでしょう。

 そんなモンスターの命を奪わせてもらったので、ありがたくその血肉を頂く事にしました。

 

 剥ぎ取りに関しては私はプロです。

 何せ私はプロの寄生ハンター。過去色々なパーティに参加しては役立たずと罵られ、死んでも困るからとキャンプ待機の末に仲間が討伐したモンスターの素材だけ頂く最低な行為を続けていたのだから。

 

 

 自分で言っていて悲しくなってきました。

 

 

「おー、やっぱりクーちゃん剥ぎ取りは上手だねぇ? プロ?」

「心に刺さるのでやめて下さい」

「生肉の剥ぎ取りはセンスが出るからな。その剥ぎ取り一つでも焼いた後の食べ応えだって変わってくる」

 それらしい事を言う大将さんですが、私にはそこまでの知識はありません。

 

 ただ本能の赴くままに美味しそうな肉を骨ごと貰う。

 丁度お腹が膨れそうなサイズ。これが、訓練所で教えて貰った生肉を剥ぎ取る大きさだ。

 

 

「丁度頃合いだと思うし、今日のお昼はクーちゃんが狩ったアプケロスのお肉を食べるのが良いと思いまーす」

 そして、友人のCの提案で今日の昼食が決定。

 

 大将さん特性肉焼きセットを開いて、今日こそこんがり肉Gに挑戦です。

 

 

 

「そういえば、お肉を焼く時のあの独特な歌って誰が考えたんでしょうね」

 訓練所で教えて貰う事のもう一つに、お肉の焼き方というのがあったのを思い出しました。

 

 初めはゆっくり、最後は軽快に。

 そんな不思議なリズムの曲に合わせてお肉を焼くと、丁度お肉はこんがりと焼けるのです。

 

 

「さーねー、あたしは物心着いた時には知ってたしなー」

「ユーちゃんの小さな頃……なんか想像出来ませんけど」

「しなくて良いよ〜。ほい、上手に焼けました〜」

 こんがりと焼けた肉を持ち上げる友人のC。流石は歴戦のハンター、彼女の焼いたこんがり肉はしっかりと満遍なく火が通っているように見えた。

 

 

「流石ですね、ユーちゃんは」

「不器用な姉とは違うのでねー」

 姉が居たんですか。初耳ですよ。

 

 

「むむむ、私とてタイショーさんの弟子ですから。こんがり肉くらいしっかりと焼きますよ!」

「弟子にしたつもりはないけどな」

 酷い。

 

「というか奴隷だよねー」

 酷過ぎる。

 

「私の扱い雑過ぎませんかね……」

「んぁ……んな事気にしてないで肉を見ろ肉を。お前、それ以上焼いたら───」

「え───」

【コゲ肉になってしまった】

 焦げました。

 

 

「……言わんこっちゃねぇ」

「うわぁぁぁ! 私のこんがり肉ぅぅううう!!」

 こんがりと焼けすぎた私の肉は、黒ずんでいてとてもじゃないけど美味しそうには見えません。

 しかし、頂いた命を無駄にする事は出来ない。私は泣きながらコゲ肉に齧り付きます。

 

 

「───不味い」

「当たり前だろ」

 むせ返すような苦味。舌に残るだけの食感。

 

 スタミナが増えるどころか減りそうな食事だ。お肉は絶対に焦がしてはいけません。

 

 

「ぐぅ……」

「腹壊すぞ。……んぁ、ちょっと貸せ」

 大将さんはそう言うと、私のコゲ肉を手に取ってキッチンからナイフを持ってくる。

 何をするのかと思えば、彼はそのナイフで私のコゲ肉の焦げた部分を切り取り始めました。

 

「焦げてるのが表面だけなら、こうやって焦げを取っちまえば───」

 言いながら、大将さんは私の焼いたコゲ肉に齧り付く。

 

 しかし、そこにはもう焦げはない。

 焦げる寸前。こんがりと焼かれたお肉は表面の焦げとは違い肉汁を垂れ流す程にジューシーに焼けていました。

 

 

「───美味く食えるってもんだ。んぁ、上出来だな」

 私の(元)コゲ肉を少し食べてから、彼は私にそのこんがり肉を手渡してくれる。

 大将さんの歯形がついたこんがり肉。思っていたより小さなその歯形は、それでもしっかりと肉を噛みちぎっていた。

 

 

「わ、私の分食べましたね!?」

「え、そっち」

「ケチケチすんな、借金返してから物を言え奴隷」

「酷い! そもそも借金あといくら残ってるんですか!?」

「二百万ゼニー」

「減ってなくないですか!?」

 おかしい。私は奴隷のように働いているのに───いやまさか、そもそも私は給料がちゃんと発生しているのでしょうか。

 

「まぁ、良いですけど」

「……良いんだねぇ」

 しかし、この時の私は知らなかったのです。私が食べ過ぎで、賄い以上食べた分のお金によりむしろ借金が増えていっている事に。

 

 

 

「……んぁ、しかし、それなりに上手く焼くもんだな。焦がしたが」

 大将さんは私の焼いた(元)コゲ肉を薄目で見ながらそう言うと、自分の肉を持ってキッチンに戻っていってしまいました。

 

 私の前で焼いてくれても良いのに───なんて偶に思います。恥ずかしがり屋なのか、私がうるさくて邪魔なのか。

 

 

 きっと前者ですね。

 

 

「もぅ、可愛い大将さんですねぇ!」

「うるせぇ。肉焼くから静かにしてろ」

 後者でした。

 

 

 

「よしよーし」

 泣き崩れる私の頭を撫でてくれる友人のC。大将さんは一人、キッチン裏でお肉を焼いています。

 

「クーちゃんは寂しがり屋さんだねぇ」

「私は一人が嫌なだけです。……一人じゃ何も出来ないので」

 昔から、家にいるころからそうでした。

 

 

 両親はおばあちゃんと一緒に畑仕事。一人いる姉は、私と違ってなんでも出来たので畑仕事を手伝ったり───ハンターになって村を出ていったのも小さな頃です。

 私は十八を超えてやっと家を出ました。だけど私には何もなくて、危険な仕事だと分かっていてもハンターになるしかなかったんです。

 

 勿論、ハンターになればお金が沢山貰えて何も出来なくても生活出来ると思っていました。その結果は奴隷ですが。

 

 

「別にさー、それが悪い事って訳じゃないと思うけどなぁ」

「悪い事じゃない……ですか?」

「一人じゃ何も出来ないポンコツでも、逃げる事しか取り柄のないハンターでも、食べてばかりで一向に借金の減ってない奴隷でも、乳だけ無駄にデカいだけで考えが浅はかでも───」

 何故か私の心臓に杭を撃ち始める友人のC。私に何か恨みでもあるんですか。

 

「最後の私念入ってませんでしたか?」

「入ってないよー」

 いつも通りのふわふわ笑顔でそう言う友人のCは、一度咳払いをしてこう言葉を続ける。

 

 

「───そんな人でも、誰かとなら人の二倍以上の事が出来る。一足す一が二以上になる。それが、誰かと何かをする事だと、あたしは思うんだよねぇ。……クーちゃんはさ、私と違って誰かと何かが出来る人だから」

 そう言って彼女は優しい顔で私の頭を撫でました。

 

 

「前も言ったじゃん? もし大将さんがこんがり肉を作り上げた時、クーちゃんどう貢献したかが大事だって。きっと、クーちゃんなら大将さんの力になれると思うなぁ」

「私は……何が出来るでしょうか」

「それを見つけるのが、クーちゃんが大将さんと一緒に居る間に考える事だよ」

 彼女は自分で焼いたこんがり肉を口に運びながら、いつのまにか用意していたジョッキを傾ける。

 いつも通りどれだけ飲んでも酔っ払う素振りを見せない友人のCは、目を細めてこう続けた。

 

 

「あたしは酔えないけど、クーちゃんと大将さんはそうじゃないでしょ?」

 その言葉の意味は、考えてもよく分からない。

 

 

 でも───誰かと一緒に何かが出来る。

 

 

 

「大将さん」

「んぁ?」

「ちょっと、美味しいこんがり肉の焼き方を教えて欲しいんですけど」

 ───私はそれを、楽しいと思うから。だから私は、好きでこうしてるだけなんだ。

 

 

 

 いつかそれが、良い結果に繋がれば良いと、私は思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~本日のレシピ~

 

『コゲ肉』

 

 ・生肉      ……400g

 ・塩胡椒     ……適量

 

 

 食べるとスタミナが増えるかもしれませんが減るかもしれません。




肉の日にコゲ肉の話を出す。今月は29日がないので、次回の更新までちょっと期間が開いちゃいます。申し訳ない。

読了ありがとうございました。
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