モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu20……ガノトトスの活き造り

 釣りとは我慢であり、己との戦いである。

 

 

 先駆者はそうとだけ言い残して私に釣竿を託しました。

 正直言って意味が分かりませんが、今なら分かるかもしれません。

 

「釣れねぇですよ」

 釣りとは我慢であり、己との戦いである。

 

 

 ただひたすらに川に流される釣り糸を眺めるのみ。仕事でなく好んで趣味として魚を釣る人の気持ちを私は理解出来そうにありませんでした。

 

 

「おー、釣れる釣れるねぇ」

「メイジン、これはどうだ?」

「大物だな。刺身にして食すが良い!」

 あっちはあっちで楽しそうですが、ね。

 

 

「……魚なんて売ってる奴を買えば良いんですよ。そもそもこんな物で川を泳いでいる魚をゲットしようってのがおかしな話なんです」

 そう言って釣竿をあげると、釣り餌にしていたミミズが半分だけ食いちぎられて可哀想な事になっている。

 

「……ひぇっ」

 どうしようか迷った末、再びソレ川に投擲した私は、どうしてこんな場所で釣りをしているのかを思い出すのでした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu20……ガノトトスの活き造り』

 

 

 目指すはユクモ村。

 渓流と呼ばれる、紅葉が綺麗で風情のある景色を進んだ先にその村はあります。

 

 ポッケ村もですが、ユクモ村も温泉の名地として知られていて、なんでも現地の狩人は狩りの前に温泉に入って英気を養ってから狩場に向かうのが習慣なんだとか。

 そんなユクモ村の特産は自慢の温泉で作った温泉卵と───

 

 

「これが、特産タケノコですか」

「おう。だが、ここにあるのは時期外れで食えるもんじゃなさそうだな」

 竹薮の中、地面から伸びるタケノコ。

 

 ユクモ村の特産品の一つであるタケノコですが、私達が着いた時には食べ頃のタケノコは残っていませんでした。

 

 

「さて、ここまで来たらもう少しでユクモ村だ。少し休憩したら行くぞ」

 特段肩を落とす様子もなく、大将さんは竜車に戻ろうと踵を返す。

 

 そんな彼に着いていく私と友人のCは、ふと竹薮の端で何かが動く気配を感じて自分の得物に手を伸ばしました。

 しかし、こんな狭い所にモンスターが居るのかという疑問は直ぐに晴れる事になる。

 

 

「……ネコ?」

 岩の隙間を覗き込む友人のC。

 

 

「───まさかこんな所で見つける事が出来るとはな、釣りフィーバエ。この出会い、まさしく運命とでもいうものか」

 そこには、何故か立派な紺色のコートを羽織ったアイルーの姿がありました。

 

 振り向くアイルー。茶と白の整えられた毛並みの上に、サングラスを掛けた姿は何か雰囲気が凄い。

 

 

「おっと、人が居たのか。これは失礼した」

 そう言って岩の隙間から出て来るアイルーさんは、手に何やら蠢く小さな生き物を持ちながらそう言う。

 

 

「お前ら、何して───あんたは!!」

 アイルーさんの声を聞いて、私達より先に歩いていた大将さんは振り向くと驚いた顔で走って戻ってきました。

 こんなに驚いた顔の大将さんは初めて見たかもしれません。このアイルーさんは、大将さんのお知り合いなんでしょうか。

 

 

 

「釣りメイジン!!」

「釣り?」

「名人?」

 大将さんの言葉に首を傾げる私達。

 

「ご名答。私こそが数多の釣り場を攻略し、主との勝負を成し遂げてきた釣りの名人。人は私をこう呼ぶ、釣りメイジンとな」

 どこからともなく釣竿を取り出した名人さんは、紺色のコートを風に靡かせて高々に名乗りあげる。

 

 私も友人のCも謎のアイルー登場に口を開けて固まってしまうのですが、ただ一人───大将さんだけは違うのでした。

 

 

「あんたがあの有名な釣りメイジンなのか。本物か! サインをしてくれ! うちの店に飾りたい!」

「そんなに有名な人なんですか!?」

「大将さんのキャラ変わるくらいには有名らしいねぇ」

 G級ハンターに会っても冷静だったあの大将さんが声を震わせている姿に、また意外な一面が見れて嬉しい反面───この名人さんが何者なのか怖くなって来る。

 

 

 釣り名人という事なので釣りをする(アイルー)なんでしょうけど。

 

 

「店、というと君達は行商人か何かかな? ここは危険な狩場だが、素材や食材も豊富だ。旅の途中で寄った……なんてところか」

「あ、はい。そうです。私達はモンハン食堂というお店をやってまして」

「俺が店の店主。これは奴隷だ」

 奴隷って紹介の仕方はおかしいと思いますよ。

 

「あたしはただの護衛でーす」

 自己紹介をすると、メイジンさんは私達を見上げながら顎に手を向けて不敵な表情を見せました。

 そのサングラスの奥の目を真っ直ぐに大将さんに向けた名人さんは、短く笑って「よし」と何か心に決めたように頷く。

 

 

「これも何かの縁だ、君達のお店が私は気になる。案内してくれないか?」

「おー、以外な所でお客さんゲットですなぁ」

 そんな訳で、特産タケノコはゲット出来ませんでしたがお客さんをゲットする事に成功しました。

 

 竜車に戻ると、名人さんは色紙にサインを書いてくれて大将さんも大喜びです。

 

 

「タイショーさん、そんなに嬉しいんですか?」

「食いしん坊、お前は世間知らず過ぎる。あの釣りメイジンのサインだぞ。店の中央に飾っておけ」

 もしかして私がおかしいのか。

 

 

「良い店だ。好感が持てる」

 私達がそんな話をしていると、名人さんは店の周りを歩きながらそう語りました。

 竜車を改造した移動式キャラバンの料理屋さん。私もこのお店の事は気に入っています。

 

「さて、この店はどんな料理を出してくれるのかな」

「食材がある限りどんな注文でもこなすのがモンハン食堂だ。何かリクエストはあるか?」

 キッチンに立った大将さんは、相手が誰でもいつもの態度で接客をする人だ。

 そんな大将さんに、名人さんは少し考えてから手を叩いて口を開く。

 

「なるほど、ならば答えてもらおう。新鮮な釣りたての魚介類でフルコースを頼みたい」

「つりたて……?」

 名人さんの言葉に私は首を傾げました。

 

 

 釣りたての新鮮な食材は流石に置いてないです。困りました。

 

 

「なるほど、今から釣った食材で作れって事か」

「ご名答。話が早くて助かる」

 言いながら席を立ち、何処からともなく釣り竿を四本取り出す名人さん。

 

「あ、これあたし達も釣る奴だねぇ」

 ───なんて事があり。

 

 

 

「大量大量〜。クーちゃん、調子はどうー?」

「見れば分かるでしょう。坊主です、坊主」

 煽りに来た友人のCに髪の毛を持ち上げてそう答える私。ちなみに坊主とは釣り用語で狙った獲物がまるで釣れていないという意味です。

 

 

「坊主か。しかし、君の腕は確かに見える。釣りの経験が豊富な者の釣り竿捌きだ」

「食いしん坊、良かったな。褒められてるぞ」

「別に嬉しくありませんが!?」

「でも、確かにクーちゃん手慣れてる感あるよねー」

 実際、手慣れているという自覚はありました。

 

 

 子供の頃から祖母と良く釣りに行っていたので、釣り竿とか餌の扱いには慣れてしまったのです。未だに虫餌はグロいと思っていますが。

 

 ただ、私は何故か魚が釣れない運命にありました。

 子供のころから毎日坊主。よく祖母に坊主坊主言われて泣いていた記憶が蘇ります。

 

 

 自分で釣って自分で食べる、なんて小さな頃の私の夢は坊主に打ち砕かれたのだ。

 

 

「昔、狩人ではなく釣り人になろうとしていた時期がありましたので」

「ほう。ならばその腕も納得だ」

 坊主ですけどね。

 

 

「おい食いしん坊、引いてるぞ」

「え? 本当ですか!?」

 私の人生の中でも珍しい、釣り竿を引かれる感覚が伝わってくる。中々大きい───と、いっても殆ど魚を釣った事がないのでこれが大きいのか分かりませんが。

 

 

「うおー! 大物ですよこれ!?」

「クーちゃん、手を貸すよ」

「ありがとうございます、ユーちゃん」

 友人のCの手も借りて、私は釣り竿を引き合いよく引き上げました。立ち上がる水飛沫。釣れたのは───

 

 

「ゲコ」

「……カエル、だねぇ」

「……カエル、だな」

「カエルだ」

「カエルですね」

 カエルです。カエルでした。

 

 

 カエル。かえる。帰る。

 

 

「もう私釣りなんてどうでも良いです! 帰ります! 帰って不貞寝します!!」

 そう言って釣り針に引っ掛かったままの蛙を川に投げ捨てる私。もう起こりましたよ。二度と釣りなんてしません。

 

 おもえば大将さんと出会ってまもない頃、サシミウオを釣ろうとした時もそうだった事を思い出す。

 真隣で釣ってる大将さんは釣れるのに、私は何も釣れずに坊主でした。呪われているんですか。

 

 

「お、おい……なんだこの引きは!?」

 私が背中を向けると同時に、大将さんのそんな驚いた声が聞こえて振り返る。

 視界に入るのは、川の中で何かが暴れているのか雨でも降っているのかと勘違いしそうな程水飛沫が上がる水面でした。

 

 

「クーちゃん釣り竿!」

 咄嗟に私に釣り竿を渡してくれる友人のC。突然の事だったので、私もそれを素直に受け取る事しか出来ません。

 

「でかいな……」

「これは……。まさか、主か!」

 主とな。

 

 

「主って!?」

「この川の主だ。まさか、こんな所で相見えようとは!」

 なんでそんな物が突然食い付いたんですか。

 

 ふと、私は自分が何をしたのか思い出す。

 釣れたカエル。それを川に投げた瞬間、何かがそのカエルを食べた。

 

 

「カエルが好物って、何かで聞いた事があるような」

「とにかく大物だぞ。これは好機だ、この機を逃す手はない!」

 名人さんが私の釣り竿を支えてくれる。それに続いて、大将さんと友人のCも私の身体を支えてくれた。

 四人掛かり。しかし、相手が大き過ぎてどう考えても引き上がる気がしない。

 

 そもそも光景がおかしい。水飛沫の大きさが大型モンスターくらいのサイズになっている。これは釣って良いんですか? 釣って大丈夫な魚なんですか? 

 

 

 というか、魚なんですか? 

 

 

「良いか、同時に力を加えるんだ。私が合図する! 行くぞ!」

 勝手に話が進んで、全員で釣り竿を持ちました。そして、名人さんの「せーの」の一言で───

 

 

「「「うぉぉおおお!!!????」」」

 立ち上がるグラビモスと同じ大きさくらいの水飛沫。

 

 地面に横たわる、モンスター。

 

 

「うわぁぁぁあああああ!!!!」

「ギョェェェ……」

 ガノトトス。

 魚竜種。魚竜目。有脚魚竜亜目。水竜上科。トトス科に属するモンスターである。

 

 飛竜の翼のような巨大なヒレと背ビレ、並みの飛竜よりも巨大な身体を覆う鱗は白と瑠璃色の鱗に覆われているのが特徴的だ。

 別名水竜。川や海に催促するモンスターの中でも大型のモンスターである。

 

 

「きょぇぇぇええええ!?」

 これは私の悲鳴。

 

 

「主だ!」

「主ですか!? これが主で良いんですか!?」

 主釣れちゃいましたよ。

 

 

 いや、どうするんですかコレ。

 

 

「あ、主死んだ」

「主ぃぃいいい!?」

 臨戦態勢になってヘビィボウガンを構えていた友人のCの前で、ガノトトスはまな板の上の鯉のように跳ねてから動かなくなってしまいました。

 大将さんが目玉を除いて確認しますが、本当に死んでしまっているようです。

 

「そういえば聞いた事がある話だと、ガノトトスって強い衝撃に弱いんでしたっけ?」

「その通り。故に、釣り竿で引っ張り上げてしまうだけでも釣れてしまうのがガノトトスだ」

 一部地方ではまだ子供のガノトトスは、アイルー達が網に引っ掛けて引き上げただけで死んでしまうとかなんとか。

 

 そういえば、こころなしか少しサイズも抑えめな気がしました。それでも大きいですけど。

 ガノトトスは繊細らしい。

 

 

「良い食材が手に入ったな。……今日はコイツを使うか」

「え、食べるんですか主」

 満足気な表情で主の腹を叩く大将さん。サイズ的に食べられるの私達な気がしますが、既に主は息をしていない。

 

 

「食いしん坊、知ってるか?」

「何をですか?」

「ガノトトスは美味い」

 そんなバカな。

 

 

 

「───へい、お待ち。ガノトトスの活き造りだ」

「ぎゃぁぁあああ!!」

 そんな訳で今日の料理。

 

 アプトノスのサンセーの胴体くらいの大きさの(ガノトトスとしては小さめらしいです。これが?)ガノトトスの頭を、ユクモの木を丸々一本横に倒してから加工した特性のお皿の端に。お皿というかもう既に机ですが。

 そこから、どうやって捌いたのか謎なガノトトスの刺身を頭の下に並べられるように配置。お皿───というか机の反対側にはガノトトスの尾ビレが飾られている。

 

 

「これは見事だ。芸術に値する」

「規模が料理じゃない」

 流石に可食部を全て出されても食べられないので、適量が並ぶだけですが、それでもこの規模は気が遠くなりました。

 なんでもこの料理の出し方は本当に大きなパーティとかで使われるような物らしく、一般人がありつける物ではないらしい。

 

 ちなみに密猟案件な気がしたので先に聞いておいたのですが、釣り名人さん曰く「釣った魚を食べる許可は取ってある」との事。魚とは。

 

 

「しかし、なんというかグロですねコレは」

 さっきまで生きていた魚(?)の形のまま並べられる刺身。活き造りというのは何の為に態々頭や尾ビレを並べるのでしょうか。

 

 

「我々は命を頂いている。この造形には、その意識を強く持たせてくれる意味合いがあるとは思わないか?」

「命、ですか」

 今まさに、私が釣り上げてしまったせいで命を落としたガノトトスが目の前に並べられている。

 どんな生き物でも何かを食べて生きていますが、食材に感謝をするのは人と名の付く者達だけだ。

 

 このガノトトスがカエルを食べる時、カエルに感謝をしていたでしょうか? その答えは、きっとノーです。

 

 

「ならば、我々はどうしてその意味合いを考え、感謝をするのか。君はどう考える?」

「私は……」

 そんな事、考えた事もありませんでした。

 

 ただ、肉を焼いて野菜や切って。

 美味しい美味しいと口の中に入れるだけ。

 

 

 口では「いただきます」と感謝の言葉を並べても、実際に何か考えた事なんてありもしない。

 

 

「……分かりません」

「そうか。ならば問い掛けを変えよう。……君はこの料理を見てどう思うかね?」

「え? えーと、美味しそう」

 反射的にそう答えてしまう。絶対に求められている答えとは違う気がしました。

 

「そうだ。美味しそうだ」

 しかし、名人さんはそう言ってから手を合わせて「いただきます」と言葉を漏らす。

 

 

 そして、箸を持って刺身を一切れ掴み、醤油とわさびを付けて刺身を口に運びました。

 

 

「───実際、美味い。とても美味だ」

「つ、つまり?」

 私が首を傾げると、名人さんは箸を置いてサングラスを外す。思っていたよりもつぶらな瞳は、真っ直ぐに私の目を見ていた。

 

 

「美味いと思えるのも、食材に感謝を出来るのも、何故か。我々は考える事の出来る生き物だからに他ならない」

「考える事が出来る生き物……」

 私達は何かを考えて生きている。

 

 

 どうしたら美味しく作れるか、どうしたら美味しく食べられるか、そうやって考えるから、人は料理をするのだ。

 

 

「昔、生き物の命を奪う事の意味を深く考えている狩人に出会った事がある。その狩人に私はこう言ったよ。生かすも殺すも間違いではない、その意味を考えるのが大切だとな」

 名人はそう言うと、黙々と刺身を食べ始める。

 

 

 

 私は考えました。

 

 考える。

 私達はこんがり肉Gを目指して、どうしたら最高のこんがり肉が食べられるか考えてきた。

 

 きっと、同じ事なんですね。

 

 

 

「いただきます」

 私達は考える事が出来る。それが、私達が出来る大切な事なのだから。

 

 

「うま!?」

 プリッとした歯応え。しかし、口に入れた瞬間脂身がまるでアイスのように溶けていく感覚。

 これがガノトトス。確かに大将さんの言っていた通りでした。美味です。

 

「だから言ったろ、ガノトトスは美味いってな」

「お酒にも合うよ〜」

「ユーちゃんはなんでもお酒に合わせるじゃないですか!」

「そうだ、感じたまえ。考えたまえ。その先に答えはある!」

「考える、か」

 こんがり肉Gへの道のりは、考える事。なんだか大きなヒントを手に入れた気がしました。

 

 

 

 

「───なるほど、こんがり肉Gというものを目指して旅をしているのか。面白い」

「サインありがとうございます、名人さん」

「礼には及ばない」

 釣り名人さんと別れ、私達はユクモ村に向かいます。村への近道も教えてもらったので、到着は直ぐだ。

 

 

「ユクモ村は温泉もそうだが料理も素晴らしい物だ。是非堪能して来るといい」

「ありがとうございます! それでは、またどこかで!」

「達者でな」

 色んなお客さんと出会い、別れを繰り返して。

 

 

 その意味と、こんがり肉Gへの道のりを考えて。

 

 

 私達の旅は、まだまだ続きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本日のレシピ〜

 

『ガノトトスの活き造り』

 

 ・ガノトトス       ……1匹

 ・醤油          ……人数分

 ・ワビサビワサビ     ……人数分

 

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