モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu21……ガーグァの温泉卵

 でかい。

 

 

「いい湯ですねぇ」

 旅の疲れが吹き飛ぶ、身体の芯から温めてくれる温泉。

 湯に浸かりながら何も考えず、何もせずに過ごす時間は至福の時でした。

 

「……でかい」

 そんな私の隣で、友人のCは目を半開きにしてそう言う。彼女の目が半開きなのはほとんどいつもの事ですけど。

 

 

「でかい、ですか?」

「そうだねー。でかい」

 何が。

 

 私をじっと見詰めて───いや、睨みながら友人のCはそう言いました。

 私の背後に何かあるのかと思って振り向くと、そこには確かに()()()物があったのです。

 

 

「これは、温泉卵ですか。確かに凄く大きな卵ですね」

 振り向いた先にあったのは、温泉の蒸気に当てられて蒸されている巨大な卵でした。

 ガーグァの卵でしょうか。人の顔よりも大きな卵が網に包まれて。温泉の角に垂らされていたのです。

 

 確かにでかい。

 

 

「美味しそうですね」

「温泉卵だねぇ。ユクモ村は温泉で有名だから、この温泉卵も有名なんだって〜」

「じゅるり」

「さては聞いてないなぁ?」

「き、聞いてますよ聞いてますよ! 温泉卵美味しそうって話ですよね!」

「本当に聞いてなかったよ。……お仕置きが必要だねぇ」

「───うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 突然私の背後から抱きついて来る友人のC。

 やめて! そんな所触らないで! 変態!! 

 

 

「しかし、でかいなぁ」

「……もうお嫁さんにいけない」

 何故か散々な目に遭わされた私の背後で、妙に低い声でそう言う友人のC。

 確かに大きな温泉卵ですが、今それ関係ありますか。私の事をこんな風にした事と関係ありますか。

 

 最近、友人のCはこうやってよく私を虐めるようになりました。

 昔よりも仲良くなっている、といえば体のいい話ですがね。ラージャンと戦ったあの時以降からでしょうか、昔よりも虐められるようになった気がする。

 

 

「……しかし、ユーちゃんとも一旦お別れですか」

「そーだねぇ。タンジアまでは、頑張って他の護衛ハンターでも雇ってくれたまえよー。あたしはユクモ温泉でゆったりと過ごしてるからねぇ」

 おばあちゃんみたいな口調は元からですが、ついに言っている事までおばあちゃんになってしまいました。

 

 それはともかく、頼もしい友人のCの護衛はここまで。

 ここからはタンジアまで別の護衛ハンターを雇うか、私が護衛ハンターをやるしかないという状態です。

 

 

「温泉卵ずっと食べられるのズルいですよ」

「あー、そっちなんだねぇ」

 大将さんはこの先どうするつもりなんでしょうか。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu21……ガーグァの温泉卵』

 

 

 ユクモ村。

 この村は山岳地帯に広がる村で、付近の丈夫な木材や温泉を主軸として発展してきたと話を聞きました。

 

 聞く話による通りこの付近で取れるユクモの木という木材はとても丈夫で、場合によってはハンターが使う武器にも使われる素材なんだとか。

 温泉は村中至る所に存在していて、村の中で温泉に入ろうと思えばすぐ近くに温泉宿があるような村です。

 

 和やかな雰囲気のそんな村を、温泉で貰った温泉卵を食べながら歩く昼下がり。

 

 

 村に着いた私達は、まず大将さんに温泉に入ってくるようにと言われました。

 この村の温泉は同じく温泉が有名なポッケ村で過ごしていた大将さんにとっても格別なんでしょう。

 

 その後、大将さんに頼まれていたお使いを済ませた私が言われた場所まで友人のCと歩いている時の事でした。

 

 

「君! 旅人さんだね! これ、持ってきな!」

「え? 温泉卵ですか。温泉卵ならさっき───」

「いいから持ってきな!」

 ただ道を歩いていただけなんですが、村人から温泉卵を譲って貰えたのです。

 

 実は大将さんからのお使いが、お店で出す為の温泉卵を買ってくるという事なのですが───お金出して買った後にタダでもらうという事態に。

 

 

 しかも、それだけではありませんでした。

 

 

「君! これ持ってきな!」

「そこの彼女! 良い物あげるよ!」

「温泉卵配ってまーす!」

「持っていきなさい」

 道行く人々に何故か温泉卵を配られる。何故この村の人々は揃いも揃って温泉卵を人々に配ってるんですが。

 ここまで来ると温泉卵が怖くなってきました。温泉卵怖い。

 

 

「山のように貰ったねぇ」

「ご好意は嬉しいんですけど、お店で出すような事がなかったらこの量は困りますよ」

「とかなんとか言いながら、貰った分の半分を食べているクーちゃんなのであった」

 だって温泉卵美味しいんですもん。仕方がありません。

 

 

「色んな卵の温泉卵がありますけど、やっぱりモンスターの卵はサイズが違いますよね」

 掌で握られるサイズから、両手で抱え込むサイズまで。卵というものには様々な大きさがある。

 流石に配られた物の中にはないのですが、中には飛竜の卵を使った温泉卵なんて物もあるらしい。値段の事を気にしたくないですね。

 

「どの卵が一番お酒に合うかねぇ」

「また飲む気ですか。……いや、いつもの事ですけど」

 呆れながら歩いていると、視界に見慣れたキャラバンが映りました。

 

 

 我らがモンハン食堂、ユクモ村にて開店です。

 

 

 

「やっと帰ってき───なんだその量。俺はそんなに金を渡した覚えはないぞ。お前ついに盗みを働きやがったな?」

「そんな事しませんよ!! 村を歩いてたら貰ったんです!!」

 大量に貰った温泉卵を大将さんに渡しながらそう反論する私。大将さんからの私の信頼度が薄い。

 

 

「この村はそういう所だからな。あんたも村を回ってくると良い、態々店で温泉卵を売る気になんてならなくなるぜ大将」

 そう口にするのは、私がお使いをしている間に開いていたお店にきていたお客さんの一人でした。

 

 毛先の尖った茶髪を後ろに流した、整った顔付きの男性。

 彼はお酒を片手に、ロースステーキを頬張りながら得意げな表情で大将さんを見ている。

 

 

 この村の人ではなさそうですが───

 

 

「そいつは困るな。俺も商売でやってるんだ。買ってきた温泉卵が売れなきゃ困る」

「そんな大将に朗報だ。ここに、ユクモの温泉卵に超絶合う塩がある。うまい飯の例だ、まけておくぜ?」

 ───何故か突然商談が始まりました。

 

 

「あなたは……?」

「おっと、レディを他所に勝手に話を進めるとは俺とした事が失礼をしちまったかな? 悪い悪い。俺は商人を生業としててな、直ぐにこういう話を持ち出しちまう」

 態々立ち上がってから一礼して、私に手を伸ばしてくれるお客さん。私はその手を取って、その次に彼は大将さんとも握手をする。

 

 どうやら私達と同じで、この商人さんは各地を旅しながら商業を営んでいるらしい。

 人と話す事は仕事の一環との事で、色んな人と世間話をするのが趣味なんだと言っていました。

 

 

 

「───へぇ、それであんたらは……その、こんがり肉Gってのを目指して旅をしてるって訳か」

 話は進み、私達は旅の目的を商人さんに話します。

 

 その隣で友人のCは温泉卵をおつまみにお酒を飲み始めていました。私も温泉卵食べたい。

 

 

「そういう事だ。お前さん、商人なら何か情報とか持ってないのか? うまい肉の焼き方とか、うまい肉が売ってる場所とか」

「大将、商人にとって情報ってのは商品と同じなんだぜ? 知っていたとして、タダで教えると思うか?」

 大将さんの質問に得意げな表情でそう返す商人さん。対して大将さんは「こりゃ一本取られたな」と両手を広げる。

 

「今日の代金でどうだ。注文追加でも構わねぇ」

「タイショーさん良いんですか? あまりにも太っ腹過ぎません?」

 情報が大切というのは私にもなんとなく分かる話ですが、それはそうとお酒込み追加込みで今日の代金と言ってしまうとそれなりの額の筈。

 人の借金を1ゼニーたりともまけてくれない大将さんが、物として残らない情報にそこまでのお金を掛けるのは意外でした。

 

 

「商人の情報ってのは、それだけ掛ける価値があるものだ。何故か分かるか?」

「わ、分かりません」

「商人にとって信頼は商品よりも大事だからな。ここで適当な事を言えば、この先お先真っ暗って訳だ」

 大将さんがそう言うと、商人さんは苦笑い気味に「そういう事よ。なんなら大将の出した条件は後払い方式だからな、こっちも適当な事は言えないってもんだ」と付け足す。

 

「なるほど、それなら確かに」

「俺は商人だからな。なーに、情報のおまけにこの()も今なら付けちまうぜ」

 そう言いながら、商人さんは隣で温泉卵を食べている友人のCに塩の入った瓶を向けた。

 友人のCはそれを見て無言で瓶の中の塩を温泉卵に掛けて食べる。

 

「美味しい塩だねぇ」

「この塩と情報、今晩の飯。どうよ、取り引き成立って事でどうだ?」

「問題ない」

 目を瞑ってそう言う大将さんに、商人さんは再び握手を申し出た。その手を取る大将さんに塩の入った瓶を渡すと、彼はこう口を開く。

 

 

「まいどあり。ちなみにこの塩はそこら辺で売ってるただの塩だ」

「詐欺師!!!」

 悪徳商人でした。

 

 

「さて、肝心なあんたらの欲しそうな情報だがな───この時期になると砂漠にアプトノスが増えるって話は知ってるか?」

「アプトノス、ですか? アプケロスではなく?」

「知らない話だな」

「よし来た。となればコイツは目玉情報だ」

 私と大将さんの返事に得意げな表情で指を鳴らしながらそう言う商人さん。

 彼は鳴らした指をそのまま大将さんに向けて、こう続ける。

 

「どうして砂漠にアプトノスが増えるかというとだな、砂漠をさらに北に行くとフラヒヤ山脈ってあるだろ? 雪山だ」

「あー、ポッケ村の」

 彼の言葉に私は少し懐かしく思う旅を思い出しました。

 

 砂漠を経由してフラヒヤ山脈を上り、ポッケ村を目指した旅。

 ティガレックスに追われたり、熱帯イチゴとサボテンを間違えたり、ティガレックスに追われたり───ティガレックスに追われてばかりですね。

 

 

 しかし、ポッケ村は大将さんがオトモアイルーとして長く活動していた地でもあって、彼の事を良く知るきっかけになった旅でもあります。

 

 

「そうそう。その雪山の麓に生息してるアプトノスだがな、雪が強くなってくる季節になると沢山栄養を蓄えて大移動するって習性があるらしくてな」

「大移動、ですか?」

「餌の少なくなる雪山から餌を求めて群れが動くって訳か」

 大将さんによれば、確かに雪山にはアプトノスが減る時期があったらしい。

 

 それがアプトノスの大移動。

 ここまで言われれば、私だってピンとくる話がありました。

 

 

「もう分かってるかもしれないが、雪山の冬の前に栄養を蓄えて大移動の為に肉を付けたアプトノスの肉。これが上手くない訳がない。……ちなみにコレは乱獲を防ぐ為に書士隊の奴らが隠してる情報だ。あんたら運が良いぜ」

 そんな情報をこんな簡単に話していいのでしょうか。

 

「───そんな情報をこんな簡単に話していいのか、って顔してるな嬢ちゃん」

「読心術!?」

「商人だからな」

 商人怖い。

 

「あんたらの飯が気に入ったから話しただけだ。……美味い飯を作る奴に、悪い奴は居ない。これは俺の知り合いの言葉な」

 その美味い飯を作る奴、今ナイフを研ぎながら「何匹までなら乱獲扱いされないか調べるか」とか言ってますけどね。

 

 

「俺の首が物理的に飛ぶ真似はよしてくれよ、大将」

「んぁ……冗談だ。俺も元は狩人の端くれだからな」

 全然冗談言う顔じゃなかったですけど。

 

 

「と、まあそんな訳だ。どうだい大将? 取り引き成立で良いか?」

「んぁ、好きなだけ食ってけ。おい食いしん坊、この客に一番良い酒を出してやれ」

「わ、分かりました!」

 大将さんの命令で私は直ぐに貨物車から()()()()()を持ってくる。

 モンハン食堂ではメニューにも載っていないお酒で、友人のCは存在も知らないので目を丸くしていました。

 

 

「……あたしの知らないお酒、だと」

「嬢ちゃんも一緒に飲むか? 良いだろ大将」

「あんたに出した酒だ。好きにしな」

 良かったですね。

 

 珍しく目を輝かせる友人のCと商人さんに、秘蔵のお酒を出す。

 温泉卵をおつまみに、秘蔵のお酒を美味しそうに飲む二人。そんな中でお客さんも増えてきて、私はせかせかと働き始めました。

 

 

 確かに商人さんの言う通り、温泉卵を単体で頼むお客さんは少ないです。

 しかし、大将さんは料理に乗せたりお通しとして出したりと工夫していました。

 

 色々ある温泉卵の中でも、ガーグァの卵だけは格別です。大きいですからね。

 商人さんの横でただの塩を付けながら自分の頭より大きなガーグァの卵をおつまみにお酒を飲む友人のCは、それはそれは幸せそうな顔をしていました。

 

 

 なにはともあれ、私達はこんがり肉Gに繋がるかもしれない重要な情報を手に入れたのです。

 

 砂漠に現れる、雪山から大移動してきたアプトノスの群れ。

 その肉は栄養を蓄えて大移動の為に筋肉も付いていて絶品に違いない。

 

 

 まさに、こんがり肉Gの素材としてこれ以上はないかもしれない食材でした。

 

 

 

 

「───で、あんたらタンジアに向かうんだったか?」

「んぁ、そうだな。そこから砂漠に向かうとする。確かタンジアからなら砂漠に飛行船で行ける筈だ」

 それから数時間経って。

 

 これでもかという程、友人のCと一緒に飲み食いしていた商人さんと再び会話をする大将さん。

 話題はこれからの話。そういえば、目的が決まったとはいえ課題が何個か残っています。

 

 

「ユーちゃんはやっぱり付いてきてくれないんですよね?」

「そーねー。あたしは迎えが来るまでユクモでゆっくりしてるから、後は頑張ってねぇ」

 その一つが、タンジアまでの護衛。

 私の力では一定以上の強さのモンスターが現れた時、とても困る訳で。

 

 

「なんだ、護衛で困ってるなら先に言ってくれよ。ただの塩を売りつけた詫びに、そこは俺がなんとかしてやるぜ」

 そんな話をしていると、商人さんは頬杖をついたままそう口にしました。酔っ払っているように見えますが、大丈夫なのでしょうか。

 

「信用して良いのか?」

「俺は商人だからな。……俺が今雇ってる護衛ハンターをタンジアまで貸してやる。何、俺もそこの嬢ちゃんと一緒でこの村にちょっと留まるつもりだからな」

 言いながら商人さんは何杯目かのお酒で友人のCと乾杯をします。この短時間で酒飲みとして仲良くなってしまったのか、友人のCも意外に乗り気でした。

 

 

「ところでアンタ、誰かに似てる気がするな」

「よく言われるんだよねぇ。でも多分気のせいだよー」

 さて、友人のCの事はさておき。

 

 

「それで、その護衛ハンターってのは?」

「聞いて驚け、俺からの特別商品だ。G級ハンター、紫毒姫って渾名持ちの嬢ちゃんくらいの年齢の女の子よ」

 商人さんの口から漏れる()()()()()()という言葉。

 

 あのポッケ村のハンターさんや、火山で会った変な人と同じ。

 この世に数える程しか居ない凄腕のハンター。

 

 

「ちょっとアンタ、雇ったハンターと連れを置いて何一人で飯食ってんのよ!」

「……断罪」

「───おっと、噂をすれば」

 ふと、村の奥から二人の少女が現れる。

 一人は黒いフードに身を包んだ小柄な女の子、もう一人は見たこともない少し毒々しい色の装備を着た狩人でした。

 

 

「紹介するぜ、彼女がG級ハンター。紫毒姫の───」

「え、何?! なんで突然あたし紹介されてる訳?」

 紫の綺麗な髪に、真っ直ぐな浅緑色の瞳。そんなわかい女の子が、目を半開きにして立っている。

 

 私とそう大して年齢の変わらなそうな彼女が、紫毒姫の渾名を持つG級ハンターなんて───

 

 

「だ、大丈夫なんですかね? 凄い若い人ですけど」

「んぁ、大丈夫だろ」

 ───私はその時、信じていなかったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本日のレシピ〜

 

『ガーグァの温泉卵』

 

 ・ガーグァの卵   ……1個

 ・塩        ……適量

 

 

 私はケチャップ派です!

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