モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu24……オンプウオのカルパッチョ

 弾ける服。

 

「うまーーーーーーーい!!!」

 タンジア。

 海の幸で賑わい、狩人達も多く集まるその場所で。

 

 

「え!? 何!? 何それ!?」

「先輩が壊れた……」

「美味し過ぎてスーツが弾けてしまいました。流石、シー・タンジニャのキッチンアイルーですね」

 シー・タンジニャという三つ星レストランには、大将さんの因縁の相手が居たのです。

 

 

「……今のなんですか」

「……茶番よ。良いから私達も食べましょ」

「そうですね。……あ、本当に美味しい」

 その名も店長さん。

 彼と大将さんはシー・タンジニャからタンジアギルドまで、色々な場所を巻き込んで料理対決をする事になりました。

 

 店長さんが出したのは、プリップリのエビと程良い米の食感が特徴的な料理───女帝エビのパエリア。

 凄まじい量のお客さんが満足出来る程の量と質。これな三つ星レストランのコックだと見せ付けるような料理。

 

 

 

「───さぁ、こっちも出来たぞ」

 ───そんな店長さんに、大将さんはどう挑むのでしょうか。

 

 

「テンチョーな」

 大将さんの料理は如何に。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu24……オンプウオのカルパッチョ』

 

 

 お客さん達に配られる料理。

 私はその料理を見て、首を傾げる。

 

「───へい、お待ち。オンプウオのカルパッチョだ」

 オンプウオ。

 その見た目が音符に似ている事からそう名付けられたお魚で、音符というよりカエルの子供(オタマジャクシ)に似ていると良く言われるのだとか。

 その見た目に反して味は淡白で癖もなく、大将さんが作ったカルパッチョの食材として適している魚だ。

 

 しかし───

 

 

「カルパッチョ、ですか」

「どうしたのよ、あんたか不満そうにして。普通に美味しそうじゃない」

「い、いえ……。それはそうなんですけど、カルパッチョは前菜といいますか……量が」

 カルパッチョ。

 薄切りにした生の食材にオイルやソースで味付けをする、食欲をそそらせる為の料理。───つまり前菜です。

 

 

「料理対決でメインディッシュを出して来た店長さんに、タイショーさんは前菜で挑んでるんですよ。これ大丈夫なんでしょうか……」

「なるほど、確かに言われてみればそうね。このカルパッチョは美味しそうだけど、やっぱりインパクトはパエリアに劣るわ。流石にあんたも料理屋で働いてるだけはあるわね」

「いや、でも私はタイショーさんの意図が読めません……」

「そんなの、食べてみれば分かるわよ。考えるよりまず行動しろって、私が狩りを人に教える時はそう言ってるわ」

 そう言ってカルパッチョを口に運ぶハンターさん。意外と脳筋なんですね。

 

 

「うん、おいしい。さっぱりしてて、食欲を誘うわね」

「はい。うちは飲み屋としての面の方が大きいので、こういうつまみや前菜には力を入れてるって大将さんも言ってました」

 カルパッチョの味は私が心配なんてしなくて良い事だ。

 

 問題はやはりボリュームとインパクト。

 確かに食欲をそそる味ですが、この料理は所詮前菜。料理の勝負となると自信を持って大将さんの勝ちとは言い切れません。

 

 

「これだけさっぱりしたものを食べた後だと、偶にはこんがり肉でも食べたくなるわね。ねぇ、コレが終わったらやっぱり大将さんの所でご飯でも食べようかしら。タンジアにはいつでも来れるし」

「そうですね。私もなんだがお腹が減って来ました」

 勝敗が気にならない訳ではありませんが、お腹が減って話が逸れていく。

 

「俺も腹が減ったな! こんがり肉が食べたくなって来たぞ!」

「俺もだぜ! そういや、こんがり肉といえばこの前砂漠で───」

「砂漠といえば、この前砂漠で受けたクエストにティガレックスが乱入してきて───」

「乱入といえばクルペッコがイビルジョーを呼んだ時は流石に───」

「イビルジョーといえば俺は十年くらい前に───」

 そして何故か、周りの人達も料理に関係ないところまで話が逸れてきました。

 お腹が減って口が動くのは、酒場でお酒を飲んで話す時間が増えるという事。前菜にはそういう効果が期待出来る物を置くと、お店として成功しやすいのだとかなんとか。

 

 

 ふと大将さんの顔を見ると、彼は静かに笑っているように見える。

 

 

 

「……まさか」

「どうかしたの?」

「この料理対決、確か勝利条件はよりどちらかが客を沸かせる事が出来るか……でしたよね?」

「そうね。……あぁ、なるほど。これが大将さんの狙いって訳ね」

 態と物足りない料理を出して、食欲をそそらせ会話を弾ませた。

 

 もはや収拾のつかない程に、騒がしさを増していく広場。

 観客を沸かせるという点においては、大将さんが店長さんよりも一歩上手のように感じます。

 

 

「ゲス! タイショーさんのゲス!」

「食いしん坊、一つ覚えておけ。料理の世界で実力を決めるのは腕じゃない。……頭だ」

「真っ当な事言ってるように見えますけど普通に狡いですからね!?」

「そもそも腕も俺の方が上だ」

「自信満々ですね……」

 客席から野次を飛ばしますが、私の声よりも盛り上がっていくお客さん達の声の方が大きくて私の声は掻き消されてしまいました。

 

 しかし大将さんの料理が美味しいのも、実際観客を沸かせたのが大将さんの料理の()()()()という事も事実。

 負けを自覚した店長さんは、膝から崩れ落ちてしまう。それを見て大将さんは表情を歪めて笑っていました。どんだけ店長さんの事嫌いなんですか。

 

 

「ば、バカな……この私が負けただと……! タイショー貴様、料理人としてのプライドはないのか!!」

「んぁ? 俺の作る物は全て美味いが? 出す料理を間違えたのはお前だ。ルールはどちらがより客を沸かせる事が出来るか、だぞ。お前はお前の作りたい料理を作っただけだ。ルールが───いや、客が今求めているのは会話の弾む料理だって事を忘れてな」

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 正論だけど大将さんが酷い。いや、いつもの事ですね。

 

 でもやはり、大将さんの言っている事は厳しくも正しい。

 

 

 

「これは勝敗着いちゃいましたね。解説のお二人も宜しいですか?」

「解説っていうか私達何もしてないけどね」

「結局何がしたかったんですかねー」

「さて、それではお待たせしました! 勝者の発表となり───」

「待たれよですニャ!!」

 ギルドナイトさんが声を上げ、この戦いの勝者を発表しようとしたその時です。

 シー・タンジニャの奥から聞こえてくるそんな声。

 

 

「私からも一言、良いですかニャ」

 舞台に上がりながらそう語るのは、一匹のアイルーでした。そんなアイルーを見て、ギルドナイトさんや大将さんは「店長……!」と声を上げる。

 

 

「え? 店長さん? 店長さんはそこで項垂れてる人では?」

 何故。

 

 

「店長!」

「テンチョーよ、見事なパエリアだった」

 店長が店長を店長と呼んで店長が店長を店長と呼んでいました。もうよく分かりません。

 

 

「あの人はシー・タンジニャの店長だ。あと言っとくが、あのカスはテンチョーな」

「店長……」

「お前の耳どうなってんだ……」

 よく分かりませんが、店長が二人いるという事ですね。

 

 

 

「これだけの客を満足させる料理、流石私が見込んだ料理人ですニャ」

「店長……! ありがたき言葉」

「タイショーよ」

「……んぁ、久しぶりです。店長」

 店長さんを褒める店長さん。その店長さんは、大将さんに向き直って目を細める。

 

 

「一店主として成長を垣間見れる、見事な勝負でしたニャ。今客が求めている物を見抜く眼力は店の料理人としても、店の長としても正しく必要な物ですからニャ」

「……ありがとうございます」

 あの大将さんが素直に頭を下げるとは。

 

 

「だが、料理人としては少しまだ未熟さを感じますニャ。自分の作りたい料理を心の芯に持っていない、そんな気持ちを感じますニャ」

「んぁ……それは」

「失礼しましたニャ、ギルドナイト殿。続きをどうぞですニャ」

「はい。態々ありがとうございます。……それではこの戦いの勝者は───」

 結局。

 

 

「お、おのれぇ!! 覚えていろよタイショー!! 次は勝つ!!」

「はいはい」

 戦いに勝利したのは大将さんでした。

 

 

 しかし、シー・タンジニャの店長さんに言われた言葉が気になっているのか。

 戦いが終わった後の大将さんはなんだかずっと考え事をしているようで、料理も上の空です。

 

 せっかくの稼ぎ時なのに、お店は端の方で静かに開けちゃってますし。

 

 

 

「料理って難しいわよね」

 現在ただ一人のお客さんである、私達の護衛をしてくれていたハンターさんはこんがり肉を切り分けながらそう口を開いた。

 

「と、言いますと?」

「答えがないじゃない。これが狩りなら、過程はどうあれモンスターを討伐ないし捕獲すれば大抵のクエストはそれが正解だわ。勿論、それが絶対的な正解とは言えないけれど……クエストは失敗か成功の二つしかない」

 お肉を二つに切り分けて、その間にナイフを落としながら彼女は続けてこう語る。

 

 

「でも料理は違う。どんな過程にも意味があって、一つ違うだけで最終的な答えは変わってくる。美味しい不味いはあるけれど、それだって人それぞれで結局全てにおいて正しい答えなんてない」

 そう言ってから、彼女は肉を頬張り「私はそんなに得意じゃないわ。()()()()()。逆に、答えのない事に答えを出す人っていうのは……本当に凄い事よ」と視線を大将さんに向けた。

 

 

「……んぁ、そうだな」

 話を聞いていた大将さんは、ハンターさんの言葉に頷く。

 

 

「だから、あの店長さんに言われた事を気にし過ぎるのはあんまり意味のある事だとは思わないわよ」

「いや、店長の言う通りだ。確かに俺は───俺の料理には芯がないのかもしれない。……作りたい料理って奴がな」

「タイショーさん……」

 こんがり肉G。

 それが大将さんの作りたい料理ですが、確かに大将さんはまだこんがり肉Gを作る事が出来ていない。

 でも、その為の過程───こんがり肉Gを作る為に必要な事が私達はまだ分かっていないから。芯がないという言葉は、あながち間違ってはいないのかもしれないと思いました。

 

 

 でも───

 

 

「どうもー、こんにちはー。ギルドナイトでーす」

「───どうしてですか!?」

 話していると、突然お店に入ってくる件のギルドナイトさん。その背後には、黒と赤のスーツを着た女性のギルドナイトさんまで同行している。

 

 れ、連行されるんですか。

 

 

「いやー、ここに美味しい料理屋さんがあると聞きましてねぇ。ちょっと夜遊びにと寄ってみたって訳ですよー。あ、この先空いてますか? とりあえず前菜下さい。カルパッチョで良いですよ」

 返事を待たない軽い調子で話すギルドナイトの男性。悠々と隣に座る彼に、ハンターさんは目を半開きにして「何しにきた訳」と言葉を漏らしました。

 

 確かお知り合いなんでしたっけ。

 

 

「あら、あらあら。これはこれはG級ハンターの紫毒姫さんではありませんかー。奇遇ですね」

「何? 態とやってる訳?」

「ごめん、ウチのバカが。このアホ」

「痛い」

 ハンターさんと話しているギルドナイトの男性を殴る、黒いスーツのギルドナイトの女性。

 彼女は後ろで一つにした真っ白な髪の毛を揺らしながら、男性を叩いた手で椅子を突いて背後にいたもう一人の女性に座るように諭す。

 

 なんだかこの人、誰かに似ているような気がしました。

 

 

「本当はここの店主さんにお礼を言いにきたの。昼間の件で協力してもらえたから、こっちとしても有益な情報が手に入ったし」

「やっぱ情報収集が目的だったのね。この狐野郎の事だからそんな事だとは思ってたわよ」

 情報収集というと、昼間にハンターさんが言っていた事でしょうか。

 

 確かにあの騒ぎ、そして大将さんの料理で盛り上がった会場では色んな話が飛び交っていましたけど。

 

 

「そんな訳で、今回はお礼にカブ飲みしに来た訳ですよ。大将さん、思いっ切り高いフルコースでお願いします」

「あいよ」

「ちょっとあんたね……。お礼を言いに来ただけだって」

「良いから良いから。それに、こちらだけ協力してもらうのはフェアじゃないではないですか。大将さんも、知りたい事があるんじゃないかと思いましてね」

「んぁ、俺がだと?」

 フルコースの準備をしようとしていた大将さんは、ギルドナイトの男性の言葉にその手を止めて向き直る。

 

 

「例えばそうですね、とっても脂の乗った絶対美味しいアプトノスの居場所とか───」

「砂漠の大移動の事か。残念ながらその情報は知ってる。……んぁ、あんた狙いはなんだ」

 ギルドナイトの男性の言葉を遮って、大将さんは目を細めてこう続けました。

 

 

「こいつは裏で手に入れた情報でな。本来出回るような話でもないだろう。……しかもギルドナイトがそんな話を持ち出すって事は、何か交渉でもしたかったんじゃないのか?」

「おっと……これは驚いた」

 目を見開いて、頭の上の羽帽子を取るギルドナイトの男性。彼はその帽子を胸に当てると「いやいや、まさか。僕はほんのお礼のつもりなんですよ」としらを切る。

 

 

「それじゃ、砂漠に行くんですかね?」

「そのつもりだが」

「飛行船の手配とかは?」

「まだだが」

「それは丁度良い! こちらで用意させて下さい。勿論タダですよ! どうです? 美味しい話でしょ」

 タダという言葉に、貧乏な私は弱い。

 大将さんもどちらかというとガメツイ人なので、その言葉に髭をピクリと動かすのでした。

 

 

 

「タダより高い物はないわよ。やめときなさい、コイツ絶対何か企んでるわ。……あんたも止めてよ」

「……私は必要だと思う事を否定は出来ないから。でも、砂漠までの安全は保証する」

「ほら、絶対何か企んでるじゃない」

 白い髪のギルドナイトの女性と話すハンターさん。

 

 

 どうやらギルドナイトの方々は、何か企んでようです。しかし───

 

 

 

「問題はない。俺はタダなら泥舟も使う」

「タイショーさん、泥舟は沈みます」

「交渉成立───じゃなくて、お力になれるなら幸いです。あ、カルパッチョやっぱり美味しいですね」

「絶対何か企んでるしロクな事にならないわよ……。私は知らないからね」

 そんな訳で、ギルドナイトさんのご好意で砂漠までの船を出して貰う事になりました。

 

 

 タダより高い物はないと言いますが、何やら変な船に乗せられている気もします。

 

 

 

 しかし───

 

 

 

「タイショーさん、楽しみですね」

「んぁ? 何がだ」

「お肉ですよ、お肉。これでこんがり肉Gが作れたら良いです!」

「……そうだな。楽しみだ」

 そんな話をしていると、ふと別のお客さんの影が店に入り込みました。振り向くと、そこには見覚えのあるアイルーが立っています。

 

 

「……んぁ、何しに来やがった。テンチョー」

「あ、店長じゃない方の店長さん」

「テンチョーだ!」

 お客さんは、大将さんが目の敵にしていた店長さんでした。はて、彼は何用でしょうか。

 

 

「タイショーよ、君の料理も見事だった」

「んぁ?」

 手を上げて、大将さんにその手を伸ばす店長さん。

 

「こんがり肉G、だったか。……楽しみにしているよ」

 嫌々手を伸ばす大将さんの手を取って、店長さんはそう話すと片手を上げて店を出て行く。

 

 

 期待されちゃいました。

 

 

「タイショーさん、作りましょうね」

「……ったく」

 ───さぁ、目指すは砂漠。こんがり肉Gの食材です! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本日のレシピ〜

 

『オンプウオのカルパッチョ』

 

 ・オンプウオの刺身    ……100g

 ・レアオニオン      ……1/2個

 ・オリーブペースト    ……大さじ1.5

 ・レモン汁        ……小さじ1

 ・塩胡椒         ……適量

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