モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu25……センリュウミカンのマリトッツォ

 空を飛ぶというよりは、浮いているが正しい。

 

 

 ガスの詰まった大きな袋。

 それに吊り下げられるようにして飛ぶ船、飛行船。

 

 何度か乗った事はありますが、どうしてこんな巨大な物が浮いているのか。私は未だに理解出来ていません。

 

 

「───ひぃぃっ」

「……なんで態々下を見て怖がってんだ、お前」

 飛行船の脇で、地面との距離を見て悲鳴を上げる。大将さんはそんな私を見て呆れ顔でした。

 

「……何度乗っても慣れません。突然この船が落ちたらと思うと、どうなってしまうのか想像してつい見てしまうというか。今落ちたらどうしようと考えてしまうというか」

「安心しろ」

 不安を溢す私に、大将さんは珍しく優しい言葉を掛けて項垂れる私の肩に手を置いてくれる。

 

「───飛行船が飛んでるような高度ならいつ落ちても基本的に死ぬ」

「全然安心出来ませんけど!?」

 優しさは気のせいでした。泣きそう。

 

 

 

「そんなに怖いのなら、気休めでもパラシュートを背負っておく?」

 いつものように虐められている私に、優しくそんな声を掛けてくれる一人の女性。

 

 私達が乗る飛行船に搭乗してるもう一人のお客さんは、後ろで一つにした綺麗な白い髪を風に靡かせながら何やら鞄のような物を持ち上げていました。

 黒いスーツを着たその女性はタンジアのギルドナイトの一人で、今回使わせてもらっている飛行船を手配してくれた人です。

 

 

 タンジアの街で、私達はひょんな事からギルドナイトさんの厚意に預かる事になりました。

 

 タダで乗せてもらった飛行船。

 何やらこのギルドナイトのお姉さんが砂漠の方に用事があるらしく、私達はついでに乗せてもらえる事になったのだとか。

 

 

「ぱらしゅーと、ですか? それは美味しいのですか?」

「食べ物じゃないかな」

 苦笑い気味にそう言ったギルドナイトのお姉さんは、パラシュートについて簡単に教えてくれる。

 

 曰く。

 狩場が危険で飛行船の高度を落とせない時、飛行船で移動してきたハンターは飛行船から飛び降りて狩場に向かうのだとか。

 普通に飛び降りると想像通りペチャンコになるので、大きな布で落下速度を緩めて地面に着地する───それがパラシュートと呼ばれるアイテムの使い方でした。

 

 

「───もし飛竜とかに飛行船が襲われても、パラシュートを付けてたら地面に着地出来るかもしれないって事」

「なんで……かもしれない、なんですか」

「普通に考えて飛行船が落ちる程モンスターに襲われたら、その時点で死んでると思うし」

 真顔でなんて事言うんですかこの人。

 

 

「もうやだ怖い……」

「怖がらせちゃった……」

「そいつは怖がらせとくくらいが丁度いい。……んぁ、そもそも飛竜が飛ぶような所を飛ばない為にこれだけ高度を上げてるんだがな」

 それを先に言ってください。

 

 

「……しかし、陸路を歩くよりは早いとはいえ。やっぱり時間が掛かりますね」

 タンジアから砂漠まではそれなりの距離があるようで、到着までかなり時間がかかるようです。

 

 砂漠に到着した後の為にアプトノスのサンセーも船に乗せて貰っているので、飛行船の最大積載量的にも持ち込める()()が限られているのも憂鬱でした。

 

 

「不安かもしれないけど、基本的に大丈夫だから。もし我慢出来なかったら、寝てるのが一番良いけど───」

「お腹が減りました」

「あ、食欲は湧くんだ」

「……んぁ、しょうがねぇ奴だな。昼飯にするぞ」

 どんな状況でも食欲だけは衰えないのが、私の取り柄(?)です。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

『menu25……センリュウミカンのマリトッツォ』

 

 

 ギシギシと音を立てる床。

 

 

「この床抜けたら死にますよね……」

 怖い。

 しかし、私はそれでも前に進みました。やらなければいけない事があるからです。

 

 飛行船の貨物室。

 そこにはアプトノスサンセーと、モンハン食堂そのものである竜車が乗せられていました。

 モンハン食堂の貨物車もここにあるので、私は恐怖心を押さえてゆっくりと歩きます。

 

 

「あ、おはようございますサンセー」

 途中、サンセーと目が合いました。口を開くサンセーに向かって、私は急いでその口を押さえ「しー! しーです、サンセー」と小声で訴え掛ける。

 

「私がここにいるのがバレたら怒られるんですよ。サンセー、私の為だと思って黙ってて下さい」

 私の言葉が通じているのか通じていないのか、サンセーは口を閉じながらも首を横に傾けました。

 

 

 

 

 私がこんな床がギシギシなる怖い場所に来たのは他でもない───間食の為です。

 

 ついさっきお昼ご飯を食べたのですが、この飛行船の上ではやる事もありません。

 飛行船怖い。それだけが思考を巡り、ご飯を食べる事でしか恐怖を紛らわせる事が出来ないので───私はお店の食材を盗み食いする事にしました。

 

 大将さんやギルドナイトのお姉さんにバレないようにこっそり甲板を抜け出して来たのです。我ながら鮮やかな忍足でした。

 

 

 偶にこれやりますけどバレると凄い怒られます。お尻をペンペンされます。

 痛いので嫌ですが、今はご飯を食べる方が大事です。

 

 バレる前に食べてしまうのが吉。

 

 

「お肉はないでしょうかね」

 飛行船の上では何故かお肉が出て来ないんですよね。お肉が食べたい。なので、私はお肉を探しました。

 

「お肉お肉お───」

「肉はないぞ」

「びゃぁぁぁああああ!!!!」

 突然聞こえてくる大将さんの声。私はひっくり返って、ギシギシ音を立てる床で泣きながら土下座する。

 

 

「何故ここにいる事がバレたんですか!!」

「やってる事と言ってる事が全然合ってないぞ。形だけで反省するなこの食いしん坊」

 事実。何も言えない。

 

「あのギルドナイトさんに聞いたら下に向かったって言うからな、案の定だ」

「バレてたんですか!?」

 完璧な忍足だと思っていたのに。

 大将さんすら気が付かなかった私の忍足を見破るとは、これがギルドナイトの力ですか。

 

 

「ケツを出せ」

「ごめんなさ───ぴぎぃ!」

 ペンペンされました。

 

 

 

「───ったく、お前って奴は。飯食うのは良いが、肉はないぞ」

「え? 無いんですか? なんで無いんですか?」

 大将さんの言葉に私は口を開いたままその場に崩れ落ちる。

 

 今ここにお肉がないということは、砂漠に着くまでお肉が食べられないということ。それはもう拷問か何かですか。

 

 

「肉がない理由は簡単だ。……お前が居るから」

「え? 私ですか。いや、私なんですか? もしかして私、無意識にお肉を全部食べちゃってたんですか?」

「無意識にって発想が出て来るのが恐ろしいが、そもそもこの船に肉は乗せてない。非常食以外は」

 大将さんの言葉に、サンセーは細目を開いて私達をチラ見しました。食べないので安心してください。

 

 

 しかし、ならどうしてお肉がないのでしょうか。

 

 

「……肉は焼かないと食えないだろ」

「そうですね」

「所でこの船だが、殆どが木で出来てる。この意味が分かるか?」

「なんとなく想像が付きました」

「お前が勝手に火を使ってもし何かあったら俺達はこの船ごとこんがり焼ける事になる。それを防ぐ為だ」

 私の信頼がなさ過ぎる。

 

「私のせいって事ですか!! 流石に言い過ぎですよね!? 他にも理由があるんですよね!?」

「お前のせいだが?」

 私のせいでした。

 

 

 

「……んぁ、一応長距離の移動だ。日持ちの良い食材を選んで持ち込んだってのはあるけどな。パンなんかは長距離移動のお供には最適だ」

「お昼もパンでしたもんね。美味しいですけど、食べ過ぎてパン飽きました」

「これから砂漠に着くまでずっとパンだぞ」

「そんな……」

 ここ数日パンを食べ続けているので、私の身体は既に殆どパンで出来ていると言っても過言ではないでしょう。

 

 これ以上パンを食べ続けたら、身体がパンになってしまうかもしれません。

 

 

「そんな訳あるか」

「心を読まれた……」

「……ったく、本当にどうしようもない奴だなお前は」

 せめてしょうがない奴って言って下さい。

 

 

「作ってやる。デザートを」

「……デザート!?」

 デザート、なんて言いながら───大将さんは貨物車からパンとミルクやバターを取り出しました。

 普通にパンですよソレ。

 

 

「パン……」

「良いから来い。お前も手伝え」

「うぇ……」

 またパンを食べさせられると思うと足が重くなる。

 

 大将さんは食材を私に渡すと、調理器具を何個か持って先に行ってしまいました。

 

 

 

「───何してるの?」

「クリームを……作って、ます」

 甲板にて。

 

 私は今、ミルクにバターを混ぜた物を一生懸命掻き混ぜています。

 

 

 大将さん曰く「ミルクに溶かしたバターを混ぜて生クリームを作る───が、お前に火は使わせたくない。この固形のバターが溶ける勢いで混ぜろ」という事で。

 私は本来火を通して溶かすバターを人力でミルクと混ぜているのでした。拷問ですか。

 

 

「クリーム? あー、デザートの」

 甲板で必死になってボールの中身を混ぜている私を見て、ギルドナイトの彼女は少し驚いた表情を見せる。

 

 

「大将さんの料理、タンジアで食べた時から美味しいと思ってたけどデザートまで作れるんだ。ちょっと楽しみ」

「でもパンですよ……」

「パン?」

 ギルドナイトのお姉さんにも、飛行船で移動中大将さんが食事を提供していました。

 

 でもその殆どがパン。

 パンに何か挟んだり挟まなかったり、私が何かするのが怖いからと火を使わない大将さんの私への信頼が薄すぎる。

 

 

「パンです。私が作ってるのはクリームですが、タイショーさんはパンしか持ってません」

 せめていつかの携帯食料で作ったタルトみたいなのを期待していたんですけどね。クリームを作っても出てくるのはパンな訳で。

 

「良く分からないけど……。それはクリームなの?」

「えーと、これは───」

 話しながらも私は、ボールの中身をホイッパーと呼ばれる気球の骨組みのような調理器具で混ぜていました。

 

 しかし───固形のバターがそんな簡単に溶ける訳もなく。

 

「───ミルクとバターですね」

 ただバターの沈んだミルクを混ぜているだけになっていました。これ無謀ですよ。

 

 

「これを混ぜればいいの?」

 そう言って、ギルドナイトのお姉さんはボールとホイッパーを持ち上げます。

 

「そ、そうですけど」

 しかし、いくらギルドナイトといえど固形のバターを溶かしてミルクと混ぜるなんて事は───

 

 

「こんな感じか」

 ───空気が爆ぜた。

 

 ボールの中を混ぜるギルドナイトのお姉さん。

 回転速度が早過ぎて彼女の腕の残像が見える。なんなら何故か熱を発している気がするんですけど。

 

 

「人間……?」

「誰がドドブランゴだって?」

「いやそこまで言ってません」

「はい、出来た。こんなもんじゃない?」

 お姉さんはそう言いながら、見事にクリームになったミルクとバターの入ったボールを私に見せてくれました。

 自分でドドブランゴとか言っていましたが、彼女はどちらかというと細身です。どこからそんな腕力が出てくるのか。

 

 

「……ギルドナイトこわ。逆らわないようにします」

「いや怖がらないで」

 そんな訳で、なんとかクリームは完済しました。

 

 しかし、デザートにするにはやはり焼いた生地やクッキーの生地なんかが欲しい所です。大将さんは何を作る気なんでしょうか。

 

 

 

「んぁ、上出来だ。そこで待ってろ」

 生クリームを受け取ると、大将さんは船の奥に入っていってしまいました。

 

 私は実際の所何も貢献していなくて、生クリームを作ってくれたのはギルドナイトのお姉さんなんですけどそれは黙っておきましょう。

 

 

 

「堅物そうだけど、優しい人なんだね。デザートを作ってくれるなんて」

「優しい……。あ、いや、最近良く分からなくなってきました。私はタイショーさんにもユーちゃんにもよく虐められるので」

「い、虐められるんだ……。ユーちゃん?」

「あ、ユーちゃんというのは私の数少ない友人のハンターでして。丁度お姉さんに似た真っ白な髪でヘビィボウガンを使う凄腕のハンターなんですけどね。……これがなんというか掴めない性格で。よく私の事を助けてくれるんですけど、よく私の事を虐めてくるんです」

 なんて言いながら友人のCの顔を思い浮かべると、数日前にお姉さんを見て思った疑問がふと解決しました。

 

 

 このギルドナイトのお姉さん、誰かに似ていると思ったら友人のCに似てるんです。髪だけじゃなくて顔とかも。

 先程のホイッパー捌きといい、ギルドナイトという事もあって彼女も友人のCのように凄いハンターなんでしょうね。

 

 

「……へー。いいお友達が居るんだね」

「人の話聞いてましたか? 虐められてるんですけど?」

 別にそれが嫌だという訳じゃないんですけども。

 

 

 

「───それじゃ、そのこんがり肉Gってのを目指して旅をしてたんだ」

「はい。それで巡り巡って砂漠の大移動の話を聞いて今こうしてここにいる訳なんです」

 話は変わって。

 

 私はギルドナイトのお姉さんにこんがり肉Gの話をしています。

 この旅を続けていて思った事は、一見普通のこんがり肉と何が違うのかと言われそうなこんがり肉Gの話ですが───話を聞いてくれた人達からこの夢をバカにされた事がないという事でした。

 

 

 私は勿論、大将さんの思う最高のこんがり肉を焼いて欲しい。そしてそのこんがり肉を食べたいです。

 しかしこんがり肉Gと言われてもその味はあやふやな物で、答えはまだ見つかっていません。

 

 

「あなたは、今回の旅でこんがり肉Gが完成したら良いなって思ってる?」

「えーと、どうなんでしょう。……勿論こんがり肉Gが完成したら嬉しいですし、私はそのこんがり肉Gが食べたいですけど。今こうして悩んだり試行錯誤してるのも楽しいのでなんとも言えませんね」

 もしこんがり肉Gが焼けたら、その後どうするのか。

 偶にそんな事を考えますが、正直な所私には関係ありません。

 

 

 

 だってそもそも私は借金の為に働かされてるだけですからね。自分で言って悲しくなりました。

 

 

 なので、私はこの先何が起きても大将さんと一緒にモンハン食堂で美味しいご飯を食べる───じゃない、働くのです。

 

 

「悩むのが楽しい、か。それも良いのかもね。……そうやって悩んで出て来た()()はきっとあなたの大切な物になるから。いっぱい悩んで見付けてね」

「はい!」

「出来たぞ」

 話も区切りが良いところで、大将さんがデザートを完成させてくれていました。

 

 大将さんの手に乗った皿の上に乗った()()

 そして切り開かれたそのパンの中にこれでもかと詰められた生クリーム。パンより生クリームの方が質量が多い気がする。

 

 

 それはもはやパンではなく、生クリームでした。

 

 

「ご、豪快なのが来たね……」

「生クリームですね……」

 私が───あ、いやギルドナイトのお姉さんが作ってくれた生クリーム。質量の半分以上を占める、生クリーム。あまりにも主張の激しい生クリーム。

 

 もはやそれはパンではありません。生クリームです。

 

 

「───へい、お待ち。センリュウミカンのマリトッツォだ」

「ミカン?」

「ほら、生クリームの中にチマチマ入ってるだろ」

 大将さんに言われて見てみると、確かにミカンがチマチマ入っていました。生クリームの主張が激し過ぎて気が付けません。

 

 

「ギルドナイトのねーちゃんも食うだろ。ほれ」

「ありがとうございます。うわ、すご」

 センリュウミカンのマリトッツォと言われたデザートを手に持ってそんな感想を漏らすギルドナイトのお姉さん。

 近くで見ると、主張の激しかった生クリームが更に主張を強めてくる。視界が生クリームに埋まるこの感覚は、それだけで至福物でした。

 

 

「食べて良いんですか!? 食べて良いんですか!?」

「何の為に作ったと思ってんだ、食え」

「言われなくても!!」

 口の中に放り込む。

 

 生クリーム。生クリーム。生クリーム。

 パンに挟まれた生クリームは、パンを押し広げる程の量で私の一口ではパンにすら届きませんでした。

 

 ただただ生クリームを口の中に放り込む。甘い。しかし、センリュウミカンの酸味が程良くその甘さからくどさを取り除いていました。

 主張の激しい生クリームを影で支えるミカンの酸味といったところでしょうか。二口目ではパンとクリームを───これまた一口目とは違った至福の味。

 

 

「これは……これはパンではなくデザートです!!」

「大満足だね」

 お肉がなくても笑顔になる味です。

 

 これがまた一度食べられるのなら、飛行船での長旅も悪くはないのかもしれません。

 

 

 

 

「───ほら、砂漠が見えて来たよ。私はこの先の村に用があるからついて行けないけど、二人が夢を叶えられるように応援してる」

「ありがとうございます、ギルドナイトのお姉さん」

 デザートのおかげで長旅にも耐える事ができ、私達は遂にアプトノスが大移動しているという砂漠に辿り着きました。

 

 こんがり肉Gへの夢、今度こそ掴めるでしょうか。

 

 

「タイショーさん、楽しみですね。……あ、そうだ! こんがり肉Gも楽しみですけど、帰りもあの生クリームのデザートが食べたいです!」

「本当に食いしん坊だな……。別に構わないが、生クリームはお前が用意しろよ」

「はい───はい!? あ、いや、ちょっとそれは……無理では?」

 掴みたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本日のレシピ〜

 

『センリュウミカンのマリトッツォ』

 

 ・センリュウミカン    ……好みの数

 ・ムーファのミルク    ……160ml

 ・猛牛バター       ……40g

 ・砂糖          ……大さじ1.5

 ・マスターベーグル    ……1つ

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