モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu26……スライスサボテンのステーキ

 懐かしい気持ちで歩く。

 

 

 よくよく考えてみれば、私は()()()大将さんに会っていなければ死んでいたのかもしれません。

 砂漠の中で一人。お腹を空かせて砂の大地に身体を焼かれ、冷たい夜に寂しく朽ちて。

 

 今私はとても楽しい。

 なんとなくて生きてきて、なんとなくハンターになって、やりたい事もやるべき事も、私にはありませんでした。

 才能もなければ技術もない。皆に見捨てられて、友人と言えるのはC一人くらい。

 

 ハンターに向いていない事くらい、分かっていたつもりです。

 けれど、何もない私は生きていく為にハンターを続けるしかありませんでした。

 

 もしあの日、大将さんに出会わなければ、私はきっと何処かしらでモンスターの胃袋の中に入っていた事でしょう。

 私は多分その時「仕方ない」なんて思って素直に受け止めていたかもしれません。

 

 大将さんには言いませんけど、本当に感謝しているんですよ。

 

 

 だから私は多分、今後何があっても───

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu26……スライスサボテンのステーキ』

 

 

「帰りましょう」

「一人で帰れ」

 私は駄々をこねていました。こねこねです。

 

「熱いですよぉ……! ほら、サンセーもこころなしか疲れてるように見えますよ!」

 私がそう主張すると、サンセーは「適当な事を言うな」とでも言うように首を大きく横に振りました。

 サンセーがもし口を開けたとして、大将さんに逆らったら即食材の仲間入りなので妥当な反応です。

 

 

 タンジアから砂漠へ。

 都合良く気球船に乗せてくれたギルドナイトのお姉さんに別れを告げて、私達は砂漠の端で竜車に乗り探し物をしていました。

 

 この時期、寒い冬の山を越す為に栄養を沢山蓄えて大移動をするというアプトノスの群れ。

 冬を越す為にたんまりと脂肪を乗せたアプトノスの肉を焼いて、こんがり肉Gを作るというのが今回私達が砂漠に来た目的です。

 

 

「ほれ、水」

「あ、ありがとうございます」

 目を半開きにして「熱い熱い言うな。こっちも熱くなる」と私の頭を叩く大将さん。

 その後ちゃんとお水をくれる優しい大将さんですが、私がお水を返すと「熱い……。熱い熱い」と私の目をじっと見ながら連呼してきました。

 

「熱い」

「私が悪かったですごめんなさい許してください! 本当に熱くなるのでやめて下さい!!」

「……んぁ、分かったら黙ってろ」

 視線を竜車の進行方向に戻すと、大将さんは「熱い」と一言だけ口にする。もう許して。

 

 

「……それにしても、あ───」

「つくないです! 熱くないです!!」

「……アホ。朝から探してるが手掛かりも何もないなって言おうとしただけだ」

()()()私はタイショーさんが───」

「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い」

「なんで!!!」

 あ、つい=熱い。

 

 

 閑話休題。

 

「───確かに、アプトノスのアの字の手掛かりも見付かりませんよね。それどころかモンスターの一匹も見かけませんし、大量に現れたモンスターにアプトノスが食べられちゃったなんて事もなさそうですけど」

「噂をすれば出て来るもんだな。アレ見ろ」

「アレ───え゛」

 大将さんと話していると、彼の指差す方向には大きなサボテンが生えていました。

 

 いや、サボテンはいいんですよサボテンは。

 そのサボテンを()()()()()モンスター。その種にとても問題があります。

 

 

 頭の上に生えた捩れた二本の角。

 これだけでもそのモンスターを特徴付けるのに充分なのは、そのモンスターが砂漠で最も恐れられているモンスターの一種だという事。

 

 襟飾やハンマーの様な尻尾等、特徴的な身体を持つ砂漠に住む()()の長。

 

 

「ディアブロス!?」

 ───角竜ディアブロス。

 

 

「あばばばばばばばばばば」

 その距離は双眼鏡を使ってやっとクッキリ姿が見える程度。

 しかし、ディアブロスといえば砂漠の暴君とも呼ばれている恐ろしいモンスター。私は恐怖のあまり泡を吹いて倒れてしまいました。

 

「そんなにビビる事はないだろ。よく見ろ、食事中だ」

「えぇ……」

 私が大将さんに会う前に何故か戦う事になったハブルポッカと比べても、初めて見るディアブロスは遠目の邂逅でも泣き叫びそうなくらい恐ろしい見た目をしている。

 あの大きな角で、尻尾で攻撃されたらと思うと考えただけで痛い。噂では砂の中から飛び出してくるとかなんとか。勘弁してください。

 

 

「……あれ?」

 しかしよく見ると、その姿は噂に聞く暴君という名に似合わない程落ち着いた様子でした。

 モシャモシャとサボテンを食べる姿は遠目で見ればなんだか愛嬌すら感じます。

 

 それに───

 

 

「───なんだか、あのディアブロス傷付いてませんか?」

「んぁ? 貸せ」

 私がそう言うと、大将さんは私から双眼鏡を奪ってディアブロスの姿を覗き込みました。

 

 ディアブロスの身体は何かに襲われたのか、傷だらけになってしまっている。

 何処かで同じ様な事があったような。そんな事を考えていると、ディアブロスは振り向いて砂を掻き分けその中に潜っていってしまいました。

 

 

「こっちに向かって襲ってくるなんて事は……」

「ないとは思うがな。……行くぞ」

「え!?」

 ディアブロスが居なくなると、大将さんはサンセーに指示を出してさっきまでディアブロスが食べていた大きなサボテンに向かわせる。

 

 

「正気ですか……」

「きな臭いだろ。ディアブロスが縄張りに入ってきた俺達に気が付きもせず、飯だけ食ってどこかにいったなんてな」

「あ、やっぱり襲われなかったのおかしいんですね。いや、そんな危ない目に遭わなかった理由を探さなくても……」

 私達の目的は大移動している筈のアプトノス───いや、そのアプトノスが見付からないのと何か関係があるんでしょうか。

 

 

 そんな事を思いながら、少しの間竜車に揺られていると私の身長よりも高いサボテンの群生地にたどり着きました。

 サボテンには大きな口でパクリと食べられている痕跡があり、肉厚な植物だけあって若干その姿は痛々しい。

 

「棘、凄いですね」

「サボテンだからな」

 しかし、サボテンと呼ばれる植物の殆どは棘が沢山付いています。

 以前砂漠に来た時に熱帯イチゴと間違えた、熱帯イチゴもどきサボテンとかいう存在そのものが意味の分からないサボテンもそうでしたね。

 

 そんな棘も気にせずにパクリといってしまうのが、ディアブロスというモンスター。

 その見た目や砂漠の暴君と呼ばれているイメージとは裏腹に、草食性で好物はサボテンなんて意外でした。

 

 

「こんな物食べたら口の中血だらけになってしまうのでは? ほら、この辺りとか多分ディアブロスの血ですよね」

 サボテンの周りには、至る所に血痕が残っている。こんな棘ばかりの物を食べるからこんな事になるんでしょうか。

 

「いや、サボテン食って出血してもこんな至る所に血痕がある訳ないだろ。……そもそもディアブロスはサボテンの棘くらいで傷付く柔な奴じゃない」

「え、じゃあこの血はなんなんですか?」

「さっき見たろ。ここに居たディアブロスは傷だらけだった。……何かに襲われて弱ってたんだろうな」

 だから私達がそれなりに近くに居ても襲ったこなかった。そもそもここはディアブロスの縄張りではなく、ディアブロスは縄張りを追い出されたのだと───大将さんは辺りを見渡しながらそう語りました。

 

 流石は元G級ハンターのオトモアイルー。状況を見極める力は本物です。

 

 

「危ないモンスターが近くにいるんですかね?」

「んぁ、どうだろうな。どちらにせよ、俺達もそろそろ休む場所を決めないといけない」

 空を隠す物が何もないので実感が湧き難いですが、砂漠に着いてからそれなりの時間が経っていました。

 砂漠の夜はとても寒いので、何処か休める場所をそろそろ探しておきたい。

 

「お腹も減りましたしね」

「お前はいつでも腹減ってるだろ。イビルジョーかよ」

 ババコンガからとんでもない進化を遂げましたよ私。

 

 

「とはいえ、こんな棘だらけのデカい草なんて食べて美味しいんですかね? ディアブロスはなんでサボテンなんかが好物なんでしょうか」

「気になるなら食ってみるか?」

「はい?」

 出発の準備をしながら首を傾げる私に、大将さんから妙な提案が飛んでくる。

 

「これ、人が食べて良い物なんですか?」

「食える」

 なんと。

 

 

「え、気になります。食べてみたいです。どこから食べれば良いですか!?」

「そのまま食うバカが居るか。とりあえずこれで切り取ってから出発するぞ」

 そう言って、大将さんは剥ぎ取りナイフでサボテンを一人分のステーキくらいのサイズに切ってから貨物車に乗せました。

 あの棘だらけで硬そうな()をどうやって食べるのか、今から凄く気になります。

 

 

 それからしばらくして日も傾き、砂漠の砂が溜め込んだ熱が地上の空気に奪われていく時間帯。

 手頃な洞窟を見付けて、私達はそこで一晩を過ごす事にしました。

 

 

 人が一人なんとか入れる入り口の洞窟。中は広いですが、サンセーや貨物車は入らなそうです。

 

 洞窟の外で待ってもらうサンセーにご飯の干し草を出して、私は貨物車から大将さんに言われた物を洞窟の中に運ぶ為に取り出しました。

 このスライスされたサボテン───文字通りスライスサボテンと呼ばれているらしいですが、大将さんはいったいどんな料理をしてくれるのでしょう。

 

 

「……どうかしたんですか? サンセー」

 私がそんな事を思いながら洞窟に入ろうとすると、サンセーに服を噛まれて捕まってしまいました。

 あまりこういう悪戯をする子ではないのですが、砂漠の夜は寒いので一人にするなって事なんでしょうか。

 

「すみませんサンセー。私みたいな人間は砂漠の夜に外で過ごせる生き物ではないのです。明日沢山よしよししてあげますからね!」

 私がそう言ってサンセーの頭を撫でると、サンセーは目を細めて私を離してくれる。

 

 洞窟の中で「サンセーが寂しがってましたよ」と大将さんに言うと、彼は「知らん」と冷たい一言だけ言ってから調理の前に洞窟の外まで歩いて行きました。

 大将さんは大将さんです。

 

 

 

「───へい、お待ち。スライスサボテンのステーキだ」

「焼いただけ……!」

 そうして出て来た料理は、スライスしたサボテンを塩胡椒で焼いただけの料理でした。

 付け合わせとして、ポテトと人参───そして小さくカットされたこんがり肉。

 

「何かが、何かが逆な気がしてならない……!!」

 お肉のステーキの横に焼いた野菜がちょこんと詰め合わせとしてあるのは分かりますが、野菜のステーキの横に焼いたお肉がちょこんと置いてあるのは何か不思議な感覚がします。

 

 なんかこう、何かがバグってる絵面でした。

 

 

「い、頂きます」

 不思議な感覚のまま、私はナイフで切った肉厚の(サボテン)をフォークで持ち上げる。

 皮と棘を取り除かれたサボテン。その食感は、茎の類を食べている感じ。固め。

 

 そして気になるお味は───

 

 

「───苦い」

 ───青臭い酸味。

 

 不味いとまでは言いませんが、好んで美味しいとは思えない味。

 

 とても微妙な表情で大将さんに視線を移すと、大将さんは「食えるとは言ったが美味いとは言ってないだろ」と歪んだ顔をしていました。騙された。

 

 

「草じゃないですか!!」

「草だからな。それでも、それなりに栄養があるし砂漠では貴重な水分の多い食材だ。その微妙な青臭さが好きな客もいる」

 確かに好きな人は好きそうな料理です。私も食べられない訳ではないので、とりあえず完食。

 

 付け合わせのミニこんがり肉がとても美味しかった。

 

 

「サボテンは雨の時に水分を蓄える事で砂漠という場所に適応した植物だからな。砂漠に住む人は勿論、砂漠のモンスターにも好んで食べる奴は多い」

「砂漠の生き物を支えている植物なんですねぇ、サボテン。苦いですけど」

「……んぁ、しかし今日は収穫なしか」

 片付けを終えると、大将さんは焚き火の近くで座って目を閉じる。私はそんな彼の横に座って「そうですね」と言葉を漏らした。

 

 狩人だった時の名残りなのか、彼は街の中でもない限りはこうやって座って眠ります。

 

 

 

 大将さんはオトモをやめてニャンターとして過ごしていた時、ある狩人の世話をしていてその狩人さんに怪我をさせてしまった。

 

 当時ご飯に興味があった訳でもなく嫌々人の面倒を見ていた大将さんは、早くクエストを終わらせる為にご飯を食べずにクエストに向かってしまったのだとか。

 そのせいで起きた小さなミスが原因で、狩人さんはモンスターが怖くなってハンターを辞めてしまったと聞いています。

 

 その時に狩人さんがタイショーさんに振る舞ったこんがり肉───そのこんがり肉こそ、大将さんが目指しているこんがり肉Gなのでした。

 

 

 きっと大将さんはあの時の失敗を払拭したいのです。

 自分の失敗を許せない、そんな強い人だから。

 

 

 

「……ん? なんでしょうね、この匂い」

 肉の焦げる匂いがして、私は洞窟の奥に視線を向けた。

 

 無意識に匂いのする方角を向きましたが、何故洞窟の奥からそんな匂いがしてくるのでしょうか。

 私はそれが気になって立ち上がる。大将さんを起こさないように、ゆっくり洞窟の奥へ。

 

 

「……暗いし、寒い。……灯り? いや、火?」

 しばらく歩くと、月の光も届かない筈の洞窟の中で知らない明かりを見付けました。

 進行方向から風が吹いて来て、さっきの肉が焼ける匂いも強く感じる。

 

「この洞窟、筒抜けになってたんですかね」

 砂漠にある岩盤にモンスターが穴を開けた物が洞窟になる事がよくあるのですが、この洞窟は岩盤を貫通しているようでした。

 もう少し歩くと、明かりの正体がハッキリします。

 

 洞窟の反対側の出口。何か木で出来た物が燃えていました。

 

 

「……竜車───ひっ」

 洞窟を出る。

 

 

 そこにあったのは、モンスターに襲われたのかバラバラになった竜車の残骸でした。

 荷物だった火薬に火が付いたのか、積荷ごと燃える竜車には夥しい量の血痕が付いている。

 

「モンスターに襲われた痕だな」

「うわぁ!? ビックリしたぁ!! 脅かさないでくださいよタイショーさん!!」

 突然背後から聞こえた声に私は跳ね上がりました。起きてついて来てたんですね。

 

 

「一人で勝手にチョロチョロするな。危ないだろ」

「す、すみません。……どう思いますか? コレ」

「ディアブロスなのか……。いや、分からん。とりあえず戻るぞ。ここにいても良いことはない」

「そりゃそうですよね。……この竜車の持ち主の人は食べられちゃったんでしょうか」

「知らん」

 だとしたら、犯人はディアブロスではない。

 

 ディアブロスはサボテンが大好物の草食性。あのディアブロスを襲って、この竜車を襲った他のモンスターがいるのでしょうか。

 

 

「血はある程度新しい、か。おい食いしん坊、お前は洞窟に戻れ。俺は周りを見ながら反対側まで戻る」

 洞窟になっている岩盤を回れば、確かに反対側に戻れます。

 

 しかし、当たり前ですが筒抜けの洞窟を戻った方が早くて安全な筈でした。

 大将さんは()()()のか気になるのでしょう。

 

 

「で、でも……。いや、それなら私も一緒に───」

「お前がいても何もならんだろ」

「それは確かに……。分かりました。私はサンセーも心配ですし、早く戻りますね」

「非常食の事は最悪捨てて良いからな」

「そんな酷い事言わないで下さいよ」

「最悪、だ」

 そう言って、大将さんは洞窟の外に歩いて行きました。

 私はモンスターに襲われたのだろう竜車に一度手を合わせて、急いで洞窟の中に戻る。

 

 

 

 一体何が起きているのでしょうか。サンセーがまだ無事なら良いのですが。

 もしサンセーが襲われていても、私には何も出来ない。大将さんが居ないと、私は本当に何も出来ませんね。

 

 

 そんな、どうしても拭えない不安を胸に抱きながら私は歩きました。

 

 暗い洞窟の中を、真っ直ぐに。

 

 

 

 

 〜本日のレシピ〜

 

『スライスサボテンのステーキ』

 

 ・スライスサボテン    ……手頃カット一枚

 ・塩胡椒         ……少々

 ・こんがり肉       ……50g

 ・ヤングポテト      ……30g

 ・激辛ニンジン      ……20g

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