モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu28……生焼け肉

 夢を見ました。

 

 

「あんたは本当に、お姉ちゃんと違って何も出来ないのね」

 誰がそう言ったのか。

 だけど、それは本当の事で、私は何も言い返せません。

 

 家にいても、家を出ても、パーティで狩りに行っても、一人で狩りに行っても。

 私は役立たずです。

 

 

 もう、どうでも良いと思っていました。

 

 

 

「ハプルボッカの討伐……ですか。まだ貴方には少し早いのでは?」

「心配ご無用です! 私は先日、あのランポスのボス、ドスランポスの討伐を果たしましたので!」

 もうどうなでもなれと、そんな事を思っていたんだと思います。

 

 

 

 ───あの時までは。

 

 

「……モンハン食堂?」

「何してんだ泥棒ォォ!!」

「───ぎゃぁぁあああ!!」

 あの時までは、私は投げやりでした。

 

 死にたい訳でもないけど、何かやりたい事がある訳じゃない。

 だからなんとなくて生きてきて───でも、今は違う。

 

 

「───今日からお前はこのモンハン食堂のウェイトレスだ。……良いな?」

「はぃ?」

「返事は元気に「はい!」だ! はい、返事はァ!」

「ひぇ?! は、はいぃ!!」

 やっと、やりたい事が見付かった。

 

 

 私の居場所は、私の目標は、私のやりたい事は───モンハン食堂です。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu28……生焼け肉』

 

 

 何日かが経ちました。

 そう、何日かが経ってしまったのです。

 

「どうして、なんでしょう」

「さぁ」

 砂漠でティガレックスに襲われ、洞窟から出れなくなって、五回以上日が登って沈みました。

 五回目以降は数えてません。五回なのか六回なのか、八回なのか。

 

 それだけの日付が経っても、ティガレックスは諦める事なく洞窟の前で私達を待ち伏せています。

 

 大将さんが持っていた非常食も底をつき、私は空腹で気力も判断力もおかしな事になっていました。

 これは私が単に食い意地が張っているという訳ではなく、普通に何日もちゃんとご飯を食べなければ人間は死にます。

 

 

 初めの内は、大将さんの傷が癒えればなんとかなると思っていました。

 

 大将さんはティガレックスとの戦いで怪我を負ってしまったのですが、二日もすればちゃんと歩けるようになるとの事で───

 ティガレックスが諦めるまで、そして大将さんの体力が少し回復するまで、この洞窟に立て篭っていよう───それが私達の過ちだったのです。

 

 

 

「さ、流石にそろそろ諦めたんじゃ───」

 そう言いながら私が洞窟の出口まで歩こうとすると、外から空気を震わせるような咆哮が聞こえて来ました。

 

 同時に衝撃。

 洞窟の出入り口に体当たりして来たティガレックスの血走った眼球が視界に入って、私は腰を抜かして倒れ込む。

 

「ひぃ……っ」

「何をどうしても俺達を殺したいのか、食いたいのか」

「そんな……」

 半目で言う大将さんは、怪我こそ酷くはなっていないものの痩せ細って毛並みもぐちゃぐちゃになっていました。

 いつも怖いくらいの表情をしているのに、今は何処を見ているのかすら分からない顔で座り込んでいる。

 

 

「……悪かったな」

「え?」

「お前を巻き込んだ」

「な、何言ってるんですか大将さん! そもそも、私には借金があるんですよ。自分で言いたくないですけど、私は大将さんの奴隷なんです! 私は、モンハン食堂の───」

「今日でモンハン食堂は閉店だ」

 私の言葉を遮って、大将さんはそんな言葉を口にした。

 

 普段感じる覇気も、恐ろしい程の怒鳴り声も、偶にちょっとだけ感じる優しさも、何もなく。

 

 

 

「閉……店……?」

「これでお前は自由の身だ。良いだろ」

「……っ、よ、良くないですよ! 何が良いんですか!」

 私は大将さんに詰め寄ってそう怒鳴りました。

 

 しかし、まともな食事も取れていない私は詰め寄るだけ詰め寄ってその場に倒れ込む。

 あ、ダメだ。全然身体が動かない。

 

 

「アイツに怪我をさせてから、俺はずっと怖かったんだ」

「……怖かった?」

 アイツ、とは───多分大将さんが狩りを辞めた時の事でしょう。

 

 昔、一緒にクエストに挑んだパーティのハンターさんが大将さんのミスで怪我をしてしまったらしい。

 その時に食べたこんがり肉が大将さんの目指すこんがり肉Gでした。

 

 

「俺がオトモだった頃のご主人は、そりゃ無敵だった。アレは間違いなく、俺の知る限り最強のハンターだと思う。……だからか、俺は何も知らなかったんだよ」

「どういう事ですか?」

「ご主人も強かったが、俺も強かった。だから、一人でやってた時も大体の事は何とかなってたんだ。……だけどあの日、俺はミスをした」

 クエストを早く終わらせたい。

 そんな気持ちで、ご飯を食べずにクエストに向かった故に起きた小さな事故。

 それがもし大将さん一人だったなら、あるいは事故にすらなっていなかったのかもしれない。

 

 その日、小さなミスを起こした大将さんを庇う為にハンターさんは怪我をして、モンスターが怖くなって狩人を辞めたらしいです。

 

 

「……俺のミスで、誰かが傷付くのがこんなにも恐ろしい事だなんて……俺は知らなかったんだよ。俺自身がこんなにも臆病者だなんて、俺は知らなかったんだ」

「タイショーさん……」

「……怖いんだ。俺は、本当は臆病なんだ。これが本当の俺だ。幻滅したか? それで良い。今日でモンハン食堂は閉店だ。俺は誰かといるのが怖い、臆病で情けない奴なんだ。俺の事は放っておけ……」

「そんな事言わないで下さいよ! 大将さんは、私と居てくれたじゃないですか!!」

 怖がり? 臆病? 違う、そんなのは違いますよ。大将さんは───

 

 

「そんなもん、一人で居るのに耐えられなかっただけだ。俺はただ、お前を利用して、情けない自分を隠してただけなんだよ!! 良いか!? 分かったら、とっとと俺を置いてここから逃げろ!! 俺を囮にでもして、お前は逃げ───」

「違いますよ!!!」

「んぁ……?」

 狭くなった洞窟で私の声が反響した。

 大将さんは驚いて、目を丸くして固まってしまう。

 

 

「タイショーさんはただの怖がりでも臆病でもないんです。タイショーさんは、ただ優しいだけなんですよ! 優しいから人が傷付いたのが嫌で、自分が許せなくて、私の事も守ろうとしてくれる。……タイショーさんは優しい人なんですよ!!」

 私は少し勘違いをしていました。

 

 大将さんは自分に厳しい人で、自分のミスで誰かが怪我をしたから自分が許せなくて狩人を辞めたのだと。

 でも違うんです。大将さんはただ、優しい人だった。それだけなんです。

 

 

「……俺が、優しいだと?」

「そうですよ。そうでなきゃ、私みたいなポンコツを雇って、世話してくれる訳ないじゃないですか!!」

 私はずっと、家族からも要らない娘扱いを受けていました。

 

 ハンターになったら人に頼られるなんて思っていたけど、パーティになった人からも邪魔者扱い。

 そんな私に居場所をくれたのが、大将さんなんです。

 

 

「私はモンハン食堂が大好きです! だから、こんな所で閉店になんてさせません!!」

「おい、何をする気だ……!」

 洞窟の出口に向かって走ろうとする私の足を掴む大将さん。けれど、その手はとても弱々しくて、簡単に振り払えそうでした。

 

 

「……私が、タイショーさんにこんがり肉Gをプレゼントします! そうして、スタミナを付けて、ティガレックスから逃げるんです。二人で」

 言いながら、私は大将さんの手をゆっくりと離す。

 

 大将さんは私の顔を見て「馬鹿な真似はよせ」なんて言おうとしました。

 私はそんな大将さんに「ごめんなさい」と言って首元にチョップを落とす。

 

 弱り切った大将さんはそれだけで気絶してしまいました。

 こんなに弱い大将さん、見てられません。

 

 

 私の知ってる大将さんは厳つくて、怖くて、ちょっとだけ優しい───私の大切なご主人様なんです。

 

 

 

「多分、洞窟の裏にあった竜車にお肉が乗っていた筈なんです。それを取って来ます」

 ティガレックスに襲われる前、崩れた洞窟の奥で襲われた竜車を見付けました。

 その竜車を見付けたキッカケは、焼けるお肉の匂い。私の鼻がおかしくなっていたか、焼けていたのが竜車の持ち主でない限りあそこにはお肉があった筈です。

 

 もう既に全部コゲ肉になっているかもしれませんが、それなら今度は砂漠中探してお肉を手に入れるだけ。

 

 

「……絶対にお肉を持ってきます。そして、二人でまたモンハン食堂を続けましょう()()さん」

 私はそう言って、洞窟の出口は向かいました。

 

 

 外にいるのはティガレックス。

 対する私は、ドスランポスを倒して喜ぶポンコツハンター。なんなら武器もないし、体力もスタミナもない。

 

 ───それでも。

 

 

「私はモンハン食堂のウェイトレス兼ハンターです!! 食材を探したりモンスターから大将さんを守るのも!! 私の仕事なんです!! 本当は!!」

 自分が本来何だったのかを思い出しながら、私は洞窟から飛び出ます。

 直ぐに血走った瞳のティガレックスと目が合いました。怖すぎる。漏らしそう。

 

「ひぃぃぃ……!!」

 泣き叫びながら私は走りました。

 走るというか、足を引き摺るようになんとか歩いてる状態です。

 

 正直な所、私も限界でした。

 自分でも何日経ったか分からないような時間、大した物も食べられずにいたのです。

 

 

 それでも、私は立ち止まる訳にはいかない。

 

 

「まぁ、追って来ますよね……!」

 咆哮を上げ、地面を蹴るティガレックス。

 私はギリギリの所で身体を転がして、その巨体との衝突を避けました。

 砂まみれになった身体を起こして、また突進してくるティガレックスを転がって避ける。

 

 走る事もままならない私にはこれくらいの事しか出来ません。それでも、少しずつ進めばたどり着く筈だと信じて、私は何度も地面を転がりました。

 

 

 

 しかし、そんな事が何度も上手くいく筈もなく。

 

 

「───ぐぁっ」

 ティガレックスの前脚に引っ掛けられて砂の上を何回転も転がる私。

 それはもう私が走るよりも早く前に進めましたが、その代償として身体はボロボロ全身痛いし息の仕方も一瞬忘れました。

 

 血反吐を吐きながら、反射的に地面を転がる。

 今さっきまで私が居た所を鋭い爪が切り裂いて「あ、やばい」と思った時には私は再び地面を転がっていました。

 

 ティガレックスの尻尾を叩きつけられ、血と胃液と何か嫌な物が混ざった物が口から漏れてくる。

 ちょっと待って欲しいなんて私の願いは届く訳もなく、ティガレックスは再び地面を蹴って突進してきました。

 

 私は何度も地面を転がります。

 自分で転がって、ティガレックスの突進で沢山転がって。

 

 踏み付けられたり噛みつかれたらしなかったのは、何かの奇跡かもしれません。

 そうして進んだ先で、私はなんとか洞窟の反対側の入り口に辿り着きました。

 

 

「……はぁ、はぁ。し、死ぬ……これは死ぬ」

 全身に走る激痛をなんとか堪えて、私は半ば飛び込むように洞窟の出入り口に入り込みます。

 

 洞窟に入る前に、私はそこにあった竜車の瓦礫を横目で確認しました。

 私の目が腐ってなければ、竜車は全焼してはいなかったような気がします。

 貨物車もグシャグシャでしたが、瓦礫の下にはまだ荷物が残っている筈。

 

 

「なんとか、ここまで……とりあえず、折り返しですかね」

 洞窟の外で、ティガレックスはまたもや逃げらた私に怒っているのか咆哮を上げていました。

 問題はこのティガレックスに頼みの綱の貨物車を襲われると非常に困るという事です。

 

 そもそもどうやって、竜車の瓦礫の下から荷物を取り出すか。

 そこに食材があるかないかは別として、ティガレックスが外にいるのに瓦礫を退けて荷物を探すのは困難というか無理ですよ。

 

 

「……とりあえず、無事ではないですが腕も足も頭も付いているので何か方法を考えましょう。正直五体満足でここまで来れるとは思ってませんでしたからね」

 腕の一本や足の一本くらいは覚悟していましたが、身体の中がグチャグチャな事以外は特に問題がないのはありがたい。

 骨とか内臓はどうなっているか分かりませんが、とりあえず身体が動く内になんとかしなければ。

 

 

「……腕を喰い千切られたりりとかも覚悟してたんですが───そうか、なるほど」

 良い事を思い付きましたよ。

 

 

 いや、良い事なのかどうか分かりませんが。

 

 

 

「さて、もうひと頑張りしましょうか───と、その前に」

 私は立ち上がって洞窟の出口ではなく奥に向かって歩きました。

 

 当たり前ですが、その奥は行き止まり。

 この先に大将さんが居る筈ですが、やはり崩れた洞窟を進むのは無理そうです。

 

 

「大将さん、聞こえるかどうかも分かりませんが、そこで待っててくださいね。今からこんがり肉Gをお届けするので。……もし私が戻らなかったら一人で、なんて言いません。私は絶対そこに戻って、大将さんとご飯を食べます。だって私、大将さんとご飯を食べるのが好きですから」

 私はそう言って、再び洞窟の出入り口に戻りました。

 

 ティガレックスはご丁寧にまだ外で待ってくれているようです。

 しかしそれは好都合。

 

 

「───第二ラウンドですよ!」

 洞窟から出て、私は竜車の前で手を広げて立ちました。ティガレックスはそんな私を見るや地面を蹴って突進してきます。

 

「いや怖すぎる……!」

 ギリギリまで引き付けて、私は地面を転がって突進を避けました。

 するとティガレックスは貨物車の瓦礫に突撃し、貨物車は粉々になります。

 

「ビンゴ!!」

 狙い通り。

 瓦礫だった貨物車はバラバラになってその中身を四散させました。

 もしあの突進に直撃したら私もバラバラになって中身をそこら中にばら撒く事になる訳ですが、今はそんな心配をしてる場合ではないです。

 

 

「竜車の持ち主さんごめんなさい!! 中身を拝借!!」

 いつかの、あの日の事を思い出しました。

 

 

 砂漠の真ん中で一人、お腹が減って死にそうになっていた私の前に現れた一台の竜車。

 今はなきモンハン食堂の貨物車から、私は時価二百万ゼニーのお肉を盗もうとして大将さんに怒られたのです。

 

 

「───これはまた、怒られますかね」

 四散した貨物車の中身。

 

 そこには、大量の生肉が積まれていました。

 

 何故この貨物車に生肉が大量に? ティガレックスは何故この貨物車の中身に手を出さなかったのか? 

 そんな事は今どうでも良い。私は再び突進してくるティガレックスを他所に、地面に散らばった生肉を一つ拾い上げて齧り付きます。

 

 

「肉!!!」

 それはもうなんとも言えない感覚でした。

 

 肉は貨物車が少し燃えた影響で生焼けになっていますが、砂まみれだし味付けもないしで味は最悪です。

 しかし、数日ぶりのまともな食事。それだけで私は満足と言える程、幸福を感じてしまいました。

 

 

 ご飯を食べられるって幸せ。

 

 

「肉!! 肉肉!!! 肉肉肉!!!!」

 ティガレックスの突進を避けながら、私は地面に転がっている生肉に齧り付く。

 とんでもない量の生肉が竜車に積まれていたので、それでも目的の大将さんと食べる生肉は確保出来ました。

 

 

「ふぅ」

 お腹いっぱい。スタミナマックス。

 

 ガッツポーズを取る私の前で、ティガレックスは地面に落ちている生肉に目もくれず咆哮を上げる。

 私に親でも殺されたかのような表情ですよ。

 

 

「……言っておきますが今の私は最強ですよ?」

 両手に生肉を構えてそう言う私。スタミナを全回復さた私は、それはもう絶好調でした。

 

 さながら両手の生肉は双剣。

 まさに今の私はハンターといって差し支えないでしょう。

 

 

「───何故なら!! 私は逃げ足だけは誰よりも早い自信があるからです!!」

 そして、言いながら、私は全力で走りました。

 

 それはもう行きと帰りでは天と地程の差があると言っても過言ではありません。

 友人のC曰く「クーちゃんの逃げ足だけはG級だよね〜」との事。バカにしてますね。バカにされてます。

 

 

「タイショーさーーーん!!!」

 それはもう全力で走りました。

 一度も転がる事なく、ティガレックスを振り切る勢いで洞窟の外を半周。再び大将さんの居る洞窟に滑り込む。

 

 

「……食いしん坊、お前」

「食材! 入荷してきました!」

 泥棒だけど。

 

「なんで、そこまで……」

「タイショーさんと旅を続けたいからですよ! タイショーさんと、モンハン食堂を続けたいからですよ!! タイショーさんと、ご飯を一緒に食べたいからですよ!!」

 私はずっと独りでした。

 

 友人のC以外に交友はなく、何処で何をしていても、一人。

 ご飯を食べる時も独りで、あの日まで───モンハン食堂でご飯を食べた日まで、私はご飯を美味しいと思って食べた事は少なかったんです。

 

 

 けれど、モンハン食堂で働き始めて、私はご飯を食べるのが大好きになりました。

 元から食いしん坊でしたけど、ご飯を食べるのが好きなんて思った事はないんです。むしろ沢山食べないと身体が動かない自分が嫌いでした。

 

 けれど、今は違います。

 

 

「私はタイショーさんとご飯を食べたいんですよ! 誰かとご飯を食べるのが、私の一番の楽しみなんです!!」

 お客さんと、友人と、大将さんと、モンハン食堂でご飯を食べてきた私の日々はかけがえの無い思い出でした。

 それがなくなるなんて嫌です。

 

 大将さんの優しさとか、こんがり肉Gの夢とか、私がポンコツだとかそんなのは関係ない。

 

 

 私はただ、モンハン食堂でご飯が食べたい。それだけだ。

 

 

「……んぁ、このアホ」

「え、酷い」

 せっかく全身ボロボロにして生肉を持ってきたのに。

 

「んなボロボロになって生肉持ってきて、火もないのにその肉どうする気だ」

「あ」

 そういえば、お肉を持ってくる事だけ考えていてその後どうするかとか何も考えていませんでしたよ。

 調味料もなければ焚き火も消えているので火もない。

 

 背後でティガレックスが洞窟の外から咆哮を上げる。バカにされているような気もしました。

 

 

「あばばばばばば……」

「食いしん坊、俺はお前程食い意地が張ってる訳じゃないから普通生肉なんて食わん」

「あ、いや! ちょっとだけ生焼けになってるので生焼け肉ですよ! はい! マジモンの生にくではない筈です!!」

「変わらんわ」

「そうですね」

 崩れ落ちる私。そんな私の頭の上に、大将さんの柔らかい手が乗る。

 

 

「タイショーさん?」

「けど、ありがとな」

 そう言って、大将さんは私の手からお肉を取って齧り付きました。

 みるみるなくなっていくお肉。大将さんはお肉を平らげると、こう口を開く。

 

 

「誰かといるのが怖かった。……けど、そうだな。俺が優しいのかどうかは知らねぇが、俺も誰かといないと飯が美味くないってのを……やっと思い出した」

「タイショーさん……」

 大将さんも私と同じだったのかもしれません。

 

 独りぼっちが寂しかった。

 一人でご飯を食べるのが、嫌だった。

 

 それだけの事だったんです。

 

 

「うまい肉だった。ありがとうな」

「こんがり肉Gですか!」

「アホか。クソまず生肉だ」

「酷い」

「……だが、俺が目指してたこんがり肉Gは多分───」

 そう言って大将さんは口を閉じました。私が「タイショーさん?」の首を傾げると、大将さんは「さて」と立ち上がる。

 

 

「ちょっと、タイショーさん? タイショーさーん」

「大将だ」

「痛っ」

 殴られた。理不尽。

 

 

「走れるか? 食いしん坊」

「私を誰だと思ってるんですか、タイショーさん!」

「そのクソまず生肉食ったら行くぞ。ここから逃げて、モンハン食堂を再開するプランを考える」

「クソまずじゃないですよ! 美味しいですよ生焼け肉! 大将さんももう一度食べて下さい! ほら!!」

「……お前が人に食事を渡すなんて、今日は雪でも降るのか」

「……私の事なんだと思ってるんですか」

 言いながら、私達はクソまず生肉を二人で食べる。

 

 

 確かに正直不味い。

 

 

 けれど、誰かと食べるご飯はこんなにも───

 

 

 

「行くぞ、食いしん坊」

「はい! タイショーさん!」

 ───こんなにも、美味しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~本日のレシピ~

 

『生焼け肉』

 

 ・生肉      ……400g




次回、最終回。明日更新です。
エピローグというか、次回はほぼほぼファンサービスのおまけみたいなものになります。

明日の更新でモンハン食堂完結!最後までお楽しみ下さい!
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