モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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side menu03……うさ団子

 カムラの里。

 

 

 温泉で有名なユクモ村から陸路で少し。

 たたら製鉄が盛んなこの里は、少し前までモンスターの大進行に悩まされていたと聞きます。

 

 百竜夜行。

 とある古龍種に追いやられ、竜の軍勢が里を襲うという恐ろしい現象。

 

 

 しかし、里を守り抜きながら、その原因となっていた古龍を里のハンターが討伐した事で百竜夜行は収束へ向かいました。

 

 そうでなければそんな恐ろしい場所に私は行きません。決して美味しい食べ物があったとしても、です。

 

 

「見えましたね」

「んぁ、着いたな。……カムラの里だ」

 透き通った水辺に囲まれた風情ある風景。

 

 今回私達が辿り着いたのは、そんな場所でした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『side menu03……うさ団子』

 

 

「───団子が小さい?」

「そうさね。団子といばね、もっとこう……拳くらいの大きさで作るのがセオリーってもんなんだよ」

 数日前。ユクモ村。

 

 温泉が有名な観光地で、おやつを注文したお婆さんに私は奇妙な話を聞いたのです。

 

 

「拳くらい、は流石に大き過ぎませんか? 盛り過ぎですよ」

「そんなことなかね。疑うんなら、私の故郷のカムラの里に行ってみな」

 ───と、いう訳で。

 

 

 私と大将さんは、人の拳よりも大きな団子が食べられるという場所───カムラの里にやって来たのでした。

 

 

「よーし、よしサンセーお疲れ様ですよ!」

 竜車から降りてサンセーを撫でる。毎度毎度、アプトノスの丈夫な身体には陸路でお世話になっています。

 

 今回も頑張ってくれました。サンセーに拍手。

 

 

「賑やかな里ですね! タイショーさん」

「んぁ、確かにな。店の出し甲斐がある」

「今回はお団子を食べに来たんですよ?」

「馬鹿野郎、食いしん坊が。件のうさ団子……どれ程の物か確認したら店を出すに決まってるだろ。負けてたまるか」

「闘志に燃えている……」

 ウチで出している団子が小さいと言われたのが悔しかったのでしょうか。

 

 そもそも大将さんは商売敵を選ばない節があるので、そこに料理屋が有れば勝負を挑む人───ネコなんですけども。

 

 

「それじゃ、行きましょ───」

「ウワ!? なんだそのデカいモンスター!!」

 そうして里に入った途端、黒髪の男性ハンターが目を丸くして転がっていく。

 

 そうして少し離れてから、その男性ハンターは生まれたてのケルビのように足を震えさせながら武器を構えました。

 

 

「え? デカいモンスター?」

「お嬢さん!? なんでそんなところに!! 危ないから早くこっちに来てくれ!!」

 男性ハンターは凄く焦った表情で私に手を伸ばします。

 

 彼が構えている太刀は、素人ハンターの私が見ても一級の一品。

 そんな太刀を持っているハンターさんが、私とタイショーさんとサンセーを見てプルプルと震えている姿に、私は首を傾げました。

 

 

「み、見知らぬモンスター。まさか!? 噂に聞くモンスターと絆を結んでなんとやらとかする人達か!? いや、とにかく此処は通さんぞ!? せっかく百竜夜行をなんとかしたのに里を襲われてたまるか!!」

「えぇ!? ちょっと待って下さい!! もしかしてサンセーの事ですか!? アプトノスですよ!?」

「あぷ……と、のす?」

 男性ハンターは目を丸くしてその場で固まって、首を横に傾ける。

 

 その背後から、赤髪の女の子が彼の肩を叩きながら「アプトノス。草食竜だよ? 知らないの?」と声を掛けてきた。

 

 

「ハッ!? アー! アーアー!! あぷぷのすね!! あととのす!! うん知ってる!! 勿論知ってるが!? 俺はカムラの里の猛き炎だぞ!? 知らないモンスターが居るわけないだろ!?」

「アプトノス」

「アプトノスね!! 知ってるから!!」

 慌てふためく男性ハンター。

 

 装備からして優秀なハンターさんかと思ったのですが、もしかして違うのでしょうか。

 

 

「旅の方ですか? ようこそ、カムラの里へ。この辺りってアプトノスが少ないので、珍しいんですよ。ごめんなさい」

 しっかりした女の子ハンターさんは、そう言ってからお辞儀をして私達に里を案内してくれる。

 初めての場所ですし、お団子のお店も気になるので助かりました。

 

 竜車とサンセーを里の端に止めて貰ったから、男性ハンターさんも一緒に里を歩きます。

 

 

「うさ団子? ヨモギの所か」

「はい! そのうさ団子というのが食べたくてですね」

「んぁ、なんか凄いデカいらしいじゃねーか」

「デカい……か? 大将さんらがどう思うかは知らねーけど。俺達は里で育ってきたから他の場所の団子は知らねーし、あのサイズが俺達の普通なんだよな」

 目を細める男性ハンターさん。

 

 もしかすると、ユクモ村で出会ったお婆さんが嘘を言っていたのかもしれませんね。そもそもそんな大きな団子なんてある訳が───

 

 

「着きましたよ、ここがヨモギちゃんの茶屋です」

「は!?」

「なん……だと?」

 先頭を歩く女の子について行き、辿り着いたのは吹き曝しのお茶屋さん。

 

 そこでは、幼い女の子が一人とアイルーが二匹。

 

 楽しそうに歌を歌いながら団子を作る女の子。

 彼女は拳程の大きさの団子を三つお手玉のようにしてコネながら投げると、二股の串をクナイのように投げて団子に刺すという凄技を披露してくれました。

 

 最後に団子の鉄板に海苔で目を着けて完成。

 二股の串がうさぎの耳のように見えるから、その団子はうさ団子と呼ばれているらしい。

 

 

「なんですか今の芸ですか!? タイショーさん、私達もやりましょう」

「やれる訳ないだろ」

「あ! 二人共おはよう! お客さん?」

 店の女の子───ヨモギちゃんは二人のハンターに手を振りながらそう問い掛ける。

 こんな小さな女の子が、さっきの曲芸みたいな事をしていたというのだから驚きでした。

 

 

「うん。カムラの里は初めてなんだって。それで、確かうさ団子が目的なんだよね?」

「んぁ、あぁ。なんか凄いデカい団子があるって聞いてな。ここが、その件のうさ団子ってのが売ってる場所って事でいいか?」

「そうだよ! お客さん、初めてならおまけしちゃおうかな?」

 言いながら、ヨモギちゃんはさっき作ったばかりのお団子を三つずつ並べて机の上に用意してくれる。

 ついでに、と暖かいお茶まで用意してくれて、私達はお言葉に甘えて座りました。

 

 

「……デカい」

「……本当に拳くらいあるな。というか、それ以上だ」

 一つで拳程の大きさの団子が三つ串に刺さったうさ団子。それが三本。

 

 それがおやつ感覚で出て来た私達は、冷や汗を流しながらその一本目を持ち上げる。

 

 

 あまりにも巨大。

 

 食いしん坊とまで呼ばれる私も、流石に団子一つの大きさに恐怖を感じざるを得ません。

 

 

「何固まってんだ? こう食うんだよ」

「美味しいよ。ほら」

 そしてその団子を当たり前のように食べる里のハンター二人。常識が崩れました。

 

 アプトノスにビビっていたハンターさんがビビらずに食べている団子です。

 これでも私はハンターの端くれ。ここで逃げる理由もない。

 

 

 そもそも私はモンハン食堂の食いしん坊ことウェイトレス。団子の一つや九つ、簡単に食べてみせますよ。

 

 

「んぁ、それじゃ……」

「頂きます!!」

 私達は同時に、顔のついたうさ団子に頭から齧り付きました。

 

 瞬間。

 

 

「お、美味しい!!」

 もちもち。

 

 溢れるもちもち。

 口の中で暴れるような、もちもち感。

 

 抜群の歯応えと、噛めば噛む程に味が溢れ出す、作り手の絶妙な調理法。

 

 なによりこのもちもち感を際立たせるのは、その巨大さ。

 一口で食べるには中々に大きなうさ団子は、一口で口の中を占拠するような大きさがあります。それが、口の中で弾けて暴れるような。

 

 

 そんな、究極の団子がそこにはあったのでした。

 

 

「……っ」

 そして何故か大将さんが倒れる。なんで。

 

「タイショーさん!? 喉に団子でも詰まってしまったんですか!?」

「……美味過ぎる。これが、団子なのか。まるで、狩りの前に狩人が食べる飯だ。……それ程までに、食べ応えもある」

「この大きさですしね。そしてなんで倒れたんですか」

「お前の勝ちだ。団子では、俺はこの団子に勝てない」

 立ち上がった大将さんは、何故か満足気な表情でヨモギちゃんを褒め称えました。大将さんが負けを認めるなんて珍しいです。

 

 

「勝ち?」

 そもそも勝負してないんですけどね。

 

 

「そら、ウチの団子は狩りの前にも後にも、朝昼晩間食にも持って来いの最強の団子だからな。一日で数十本食う人も居るくらいだ……」

 首を傾げるヨモギちゃんを他所に、男性ハンターさんは途中で半目になりながらも自慢気にうさ団子を語ってくれました。

 

 確かにこのボリューム満点な団子なら夜ご飯でも行けるでしょう。狩りの前の腹拵えにも充分だと思えました。

 

 

 この団子こそが、カムラの里のハンターを縁の下から支え、百竜夜行という未曾有の危機から里を救ったのかもしれませんね。

 

 

 

「───で、大将さん。どうするんですか?」

 お団子を食べ切って、お茶を啜りながら隣で倒れている大将さんに横目でそう問い掛ける。

 

「……もう、食えん」

 大将さんはお腹の中に子供でも居るんじゃないかという程にお腹を膨らませて、その場で仰向けに倒れていました。

 料理人なので人より食べる方である大将さんにとっても、うさ団子のボリュームは規格外だったようです。

 

 

「あらら……。ご馳走様でした。お嬢さん、おかわり貰っても良いですか?」

 大将さんは返事がなく、屍のようなので財布を出しておかわりを貰うことにしました。

 

 せっかくここでしか食べられないうさ団子があるのです。ここは、味を舌に焼き付けるべく沢山食べておかなければいけません。

 決して大将さんが気絶してるから今の内にお店のお金で美味しいうさ団子を沢山食べようと思っている訳じゃありませんよ。

 

 これは敵城視察という立派なモンハン食堂の仕事の内、と私は自分に言い聞かせました。

 

 

「おかわり……だと?」

「うさ団子はあまりにも大き過ぎて、里の人でも三本……外の人は一本でも限界が来る団子なのに!!」

「巨大過ぎるという自覚はあったんですね」

 戦慄する二人のハンターさん。しかし、見くびってもらっては困ります。

 

 

「私はこれでもハンターですから!! このくらい食べれても当然です!!」

 胸を張ってそう言いましたが、自慢げにして良いところなのか分かりません。

 そもそもハンターと言いますが、その実力は訓練所にいる子供の方がマシとまで言われるレベルなのでした。

 

 一緒に狩りに行こうとか言われたら泣きながら謝ります。

 

 

「え、そうなんだ! それじゃ、腹拵えも終わったし一緒にクエストにいきません!? 丁度私達クエストに行く所で───」

「ごめんなさい許して下さいまだ死にたくありません!!」

「えぇ!?」

「な、なんて速さの土下座だ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」

 神速の土下座に驚くハンター二人。

 

 私の土下座は早いですよ。何度も大将さんに土下座してますからね。そんじょそこらの土下座と比べないでもらいたい。

 

 

「突然どうしたんですか?」

 いや土下座したから何か解決する訳じゃないんですけどね。

 

「ぇ、いや……その……私お腹が痛くて」

「今からうさ団子おかわりするのに!?」

 しまった。やらかした。

 

 

「───ま、無理に誘う事ないだろ。てか、俺もお腹痛くなってきたわ」

「なんで!?」

 突然お腹が痛くなる男性ハンターさん。何故かは分かりませんが、私の事を助けてくれるようです。

 

 

「え!? もしかして私のうさ団子に何か悪いものでも入ってたの!?」

 勿論そんな訳はありません。ごめんなさい。本当にごめんなさい。持病なんですよ。持病の腹痛なんですよ。

 

 

「そ、それじゃ仕方ないかな……。クエストは明日にしよっか」

 助かった。

 

 

「あ、あはは……。それが良いです。はい」

「ま、アレだ。必ずしもハンターが狩りに行きたい訳じゃないしな。……俺も出来るなら行きたくないし。だろ?」

「え、あ……えーと、はい。でも……それじゃ、何故貴方はハンターになったんですか?」

 不思議と私を助けてくれたハンターさんですが、意味深に視線を逸らして語る彼の言葉が引っ掛かる。

 

 私は正直、ハンターと名乗って良いのか分からない程にハンターではない。

 モンハン食堂のウェイトレスが本業ですし、いざ狩場に出ても何の役にも立たないのが私というハンターでした。

 

 

 けれど、彼は違う筈。

 背中に背負う太刀も、防具も、確かに一級の品です。

 

 それは彼が一流のハンターだという証。

 彼が私とは違う、しっかりとしたハンターという事だけは分かりました。

 

 

 それでも、彼はこう語ります。

 

「いや、普通に怖いだろ、モンスター。なんか間違えたら死ぬんだぞ。やってられるか」

「それは……確かに」

 なら、どうして───

 

 

「───けど、まぁ。俺はモテたいからな。ハンターをやってればモテる……と、思う! だから俺はハンターになった。実際モテてるかどうかはさておき、別にハンターになる理由も、ハンターである理由も、ハンターを続ける理由も、なんでも良いだろ。お嬢さんが自分がハンターだっていうなら、実際がどうであれ、お嬢さんはハンターだよ」

 そう言って、男性ハンターさんはお団子を口にしました。

 

 

「ハンター、ですか……」

 考える。

 

 

 私がハンターになったのは、何も出来なかった自分が嫌だったからでした。

 

 ハンターになったからといって、何かが出来るわけではありませんでしたが───ハンターになったおかげで、私は大切な友人やモンハン食堂と大将さんに出会えたのだと思います。

 

 なら、私がハンターを続ける理由は───

 

 

「……私も、いつかは強いハンターになりたいですね」

 隣で倒れている大将さんを見ながら、私は無意識にそんな言葉を落としていた。

 

 

 大将さんは強い。

 

 モンスターだって、一人でなんとかしてしまう。

 私は足手まといかもしれない。けれど、出来る事なら役に立ちたい。

 

 

 私に居場所をくれた彼の為に出来る事があるなら、私は強くなりたい。そう思いました。

 

 

 

「目的があるなら、なんとかなるもんだ。ともあれ、腹が減っては戦はできぬってな!」

「そうですね! 食べましょう!」

「二人共お腹が痛いんじゃなかったの!?」

「私のうさ団子に毒が……どうしようどうしよう」

 とにかく今は食べましょう。

 

 私の狩り場の大半は、今はモンハン食堂なのですから。

 

 

「うさ団子、俺にはおすすめの組み合わせがあるんだが───」

「ここですか!! うさ団子をお代わり出来るという猛者が来たという場所は!!」

 突如の事。

 

 うさ団子のおかわりを貰おうとした私の背後から、竜人族のお姉さんが一人大声を上げて突撃してきました。

 

 

「貴方ですね、うさ団子をお代わり出来るという猛者は」

「え、何のことですか」

「私と勝負しましょう! そうしましょう! どちらがうさ団子を沢山食べられるか、どちらがうさ団子に愛されているか!! 勝負です!!」

 突然私に勝負を挑んでくる竜人族のお姉さん。

 

 アプトノスにビックリするハンターさんといい、この里は変な人が多いらしい。

 

 

 しかし───

 

「勝負なら望む所ですよ! 私はモンハン食堂のウェイトレス兼ハンター。こんな所で負ける訳にはいかないのです!!」

「私はこのカムラの里の受付嬢。この勝負、受けて立ちます!!」

 そうして、里を挙げた祭りのようなうさ団子大食い勝負が始まったのです。

 

 

 

 そして翌日。

 

「食堂の財布が空なんだが」

「ごめんなさい。モンハン食堂として負ける訳にはいかなかったのです」

「この馬鹿食いしん坊が!!! 一週間飯抜きだ!!! 里のハンターとクエストでも行ってこい!!! この馬鹿!! 本当に馬鹿!!!」

「ひぃぃぃいいいい!!!」

 私はしこたま怒られて、しばらくカムラの里で修行のようにクエストに向かう事になったのでした。

 

 

 一流ハンターへの道は遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本日のレシピ〜

 

『うさ団子』

 

 里の秘密の為本日のレシピはなし。

 

 

 美味しい食べ物も食べ過ぎは良くありませんよ!! 




サンブレイク発売おめでとうございます。
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