高い波が船底に叩きつけられた。
「───ぎゃぁぁあああ!! 沈む沈む!! 沈みますよコレ!!」
悲鳴を上げる。
そうして一人で騒いでいる私を他所に、大将さんは平然とした顔で料理を机の上に叩き付けた。
「へい、おまち。アンタが釣ってくれた魚を使った海鮮ラーメンだ。
「おぉ!! まさか俺様の船の上でラーメンが出てくるたぁ、思っても見なかったな!!」
そう言って、
「美味い!! 味もそうだが、このメンマ!!
「そいつは良かった。コレは、カムラの里の特産品でな。ただのタケノコから作った訳じゃないんだ」
そう言いながら、大将さんは船長さんの顔を覗き込みました。
そのつぶらな瞳はしかし───獲物を狩る時のモンスターのように鋭く真っ直ぐに船長さんに向けられている。
「へぇ、そりゃ……」
船長さんはそんな挑発的な大将さんの顔を見て不敵に笑いました。
「───ところで、だ。あんた……
ここはモンハン食堂。
今回は出張───新大陸編です。
☆ ☆ ☆
『side menu04……ツボアワビラーメン』
新大陸。
数十年前からのお話。
とある事がキッカケで、人々は十年という周期に一度───古龍がとある地を目指して渡りを行うという事象を発見しました。
そんな事象を解明すべく結成されたのが新大陸古龍調査団。
十年に一度、古龍を追うように第1期団が現大陸を経って四十年。
優秀なハンター達を多く集めた5期団の活躍により、この地で様々な事が解明されつつあるようです。
それと同時に、技術の発展により決死の覚悟で行っていた現大陸と新大陸の往来の安全が多少確保されたとの事。
新大陸の名産品を目にした大将さんが、実際に新大陸に行って新鮮な食材を使って料理がしたいと言い始めるのにそう時間は掛かりませんでした。
「見えた。新大陸だ」
「アレが……」
水平線の向こうに現れた、大自然。
ここからでも見える巨大な樹木───古代樹。なんでも沢山の樹木が集まって出来た自然の塔なんだとか。
圧倒される大自然に私は開いた口が閉じません。
「ここが……古龍と、それを追う調査団が集う場所」
船が到着して、私はもう一度驚く。
調査基地とか、拠点とかいう物だから、私は狭くて堅苦しい場所なのだと思っていました。
「見て下さいタイショーさん! 水車で荷物を運んでますよ! 凄いです……!」
「んぁ? ほぅ、かなりなもんだ」
しかし現実は違います。
活気に溢れ、人々の喧騒に揺れる生活拠点。
「ここが……アステラ」
「賑やかで良いじゃないか」
調査拠点アステラ。
それが、私達の辿り着いた場所でした。
「───それで、ここが星の船! アステラの集会所だよ! 酒場にもなってるからね、良く宴の時なんかはここに人があつまるんだ!」
アステラに着いてから少しして。
私達は調査団の編纂者である金髪の男性にアステラを紹介してもらっています。
「しかし、世界を旅する食堂なんて面白いね!」
世界を旅するモンハン食堂。
私と大将さんがそう自己紹介をすると、調査団の皆さんは私達を心良く歓迎してくれました。
「はい! でも、新大陸もアステラも凄いですね。……何より星の船。船を丸々持ち上げて集会所にしちゃうなんて!」
「夜になったらもっと綺麗な光景が見れるよ! それに、新大陸の面白い場所はここだけじゃないしね!」
鼻を高くしてそう言う男性。
この新大陸はなにも船を空に持ち上げて宴をする為に人が集まった訳ではありません。
新大陸と古龍の謎、他にも色々な事を調べる為に多種多様な技術を持つ方々が集まったのです。
「そうなんですよねぇ……。えーと───」
「ポットだよ! ポット・デノモーブ!」
「そうそうポッと出のモブさん!!」
あまり人の名前を覚えるのが得意ではない私が忘れていた名前をもう一度教えてくれる、編纂者のポッと出のモブさん。
彼も、この新大陸の謎を解明しにきた一人の調査団員。きっと、この新大陸で様々な経験をしてきたに違いありません。
「なんかイントネーションが違う気がするけど良いや! どうしたんだい?」
「はい! ポッと出のモブさんの色んなお話聞きたくて!」
「んぁ、それよりも前にやる事があるだろ。何しにしたと思ってんだ」
モブさんに食い気味に話し掛ける私のお尻を叩く大将さん。
そうでした、長い事船に揺られていて自分の仕事を忘れていました。
そんな訳で───モンハン食堂。本日はここ、星の船にて臨時開店です。
夜。
星の船をイルミネーションが照らし、夜の暮らしに必要な光が灯されたアステラは昼間とはまた違う雰囲気を漂わせていました。
そして───
「はい! カムラ産タケノコのメンマトッピング付き、ツボアワビラーメンです!!」
───ラーメンから上がる湯気が、アステラの空に登っていく。
モンハン食堂inアステラ星の船。
本日のおすすめメニューは厳しい持ち込み検査をなんとか抜けた現大陸───カムラの里の特産品、逸品タケノコで作ったメンマ。
そして現地───この新大陸の名産品。なんと陸に生息するツボアワビという貝や珊瑚エビ等の海(?)産物を使った海(?)鮮ラーメン。
船長さんに教えてもらった特産品はなんと海の上ではなく陸の上に生息する陸珊瑚が造り出した大地の特産品でした。
以前もこんな事あった気がします。海とは海だけにあらずという事なんでしょうか。良くわかりません。
「美味しい! 絶妙な塩ラーメンだ。珊瑚エビのパリパリ感もそうだけど、このメンマって奴が良いね。新鮮な食感がするよ!」
「そういえば久しぶりだな……メンマ。そうか、よく考えたらこっちじゃ取れないしな」
青い髪の若い女性と、赤い髪のハンターさんがそんな感想を漏らしながらラーメンを啜っていました。
「そっか……十年二十年振りに食べるって人も居るんですね」
この新大陸にはタケノコは自生していないらしい。
そうなると、難しい航海で態々メンマを運んでくるような事は少なかったかもしれません。
「俺は5期団だから、そうでもないが……。コイツは4期団だしな」
「ラーメンのメンマなんてもう記憶の彼方だよ。僕の半生はもう新大陸だし、懐かしいとかいうより初めての経験?」
女性は目を細めてそう言いながら、麺を啜ってメンマを一つ口にする。
よく見ればその女性は左腕が肩から少し先を残して欠損していました。
壮絶な調査団の活動。
この新大陸に骨を埋める覚悟を決めた人達。現大陸のハンターさん達とはまた違う覚悟がそこから見えて来る。
「僕はともかくそうだな……そこのおっさんとか3期団で若い頃はハンターだったし! 本当に久し振りって感じなんじゃない?」
「おっさんとか若い頃とか言うんじゃねーやい!」
女性が失った左腕の代わりに付いてる義手を向ける先。
ラーメンを食べながら達人ビールを掲げる初老の男性が苦笑いして片手を上げた。
「でもそうさなぁ、此処は最近までお前さん達みたいに客が来たりする事もなかったからな。俺達は皆、死んでも骨は此処の大地に返して、魂も戻れないだろうってつもりで来てた。だから、もう二度と食えないと思ってた物が食えるのは嬉しいさなぁ!!」
言いながら、ラーメンの汁を飲み干す男性。
彼は「かぁぁ、コイツは故郷の味だぜ!!」と満面の笑みを溢す。
「そんなに往来が難しかったんですか?」
「んぁ、技術どうこうもあるがな。遡れば遡る程、ソレは誰もやった事がない事になるだろ」
ラーメンを運んできた大将さんに聞くと、そんな返事が返ってきました。
「どれだけ時間が掛かるか分からない。船が保つのか分からない。食糧も、人のこう……精神的な所もな。怪我や病気だってそうだ。1期団なんか、船以外ここには何もなかったんだぞ?」
「確かに……」
出発すれば帰ってこれない。それどころか、無事に辿り着くかすら分からない。
荒波の上で、私は今の頑丈な船と経験豊富な船長がいても不安で叫んでいた事を思い出します。
先人達の感じた恐怖はそれ以上だったに違いありません。
「ガキが産まれたりハンターを引退するような事が有ればよ。頑張って船を出して、現大陸に戻る事はあったんだがな! それでも、悪い時は数年船を出すのを諦めた時期なんかもあったもんだ」
「そうなんですね……」
「そんで、そのまま此処で大人になっちまった奴も居る。ほら! アイツがそうよ!」
初老の男性は、今ちょうど星の船に上がってきた男性を指差してこう続けました。
「リーダーさんや! こっちだこっち!! 俺達の故郷の味、食ってくれや!!」
俺達の故郷。
そんな言葉に少しだけ違和感を覚える。そして、私は直ぐに男性が少し前に言った言葉を思い出しました。
「ここで……育った?」
ここで生まれて、此処で育った人が居る。
五十年掛けて人が作り上げたこの生活の中で、その人物は生まれ───育ち、今はこうしてこの地で暮らして、生きていた。
「今日の騒ぎはこれか。じいちゃんに聞いたんだが、現大陸からお客さんだって?」
「そうなんだ! 見てくれリーダー、ほら! 飯作ってくれてるんだよ!」
初老の男性が彼の手を引き、リーダーと呼ばれた男性を大将さんの前に連れていく。
リーダーさんは大将さんを見て一瞬目を丸くしますが、直ぐに表情を引き締めてその手を大将さんに伸ばしました。
「挨拶が遅れて悪い。俺がここの調査班のリーダーだ。皆に飯を出してくれてるんだってな」
「んぁ、大将だ。なんだ……美味い食材があるってんで、下心を出したって事だ。あんたも食って行ってくれよ」
そう言うと、大将さんはキッチンに戻っていく。
彼の目配せを見て、私はリーダーさんを集会所の席に案内しました。
今は集会所を借りている身なので、案内というのも変ですが。
「それじゃ、お言葉に甘えようか。お代は?」
「本日はサービスです!」
「それは悪いな」
「というか、私達が文無しなので集会所のお手伝いという形でお店を出させてもらってます。勝手な事をしてしまっていますし……ね?」
私が困った表情を見せると、リーダーさんは少し考えてから納得したように「分かった」と言ってくれる。
調査班リーダー。
この調査団で、新大陸の狩場に直接赴き調査の中心となるチーム。
ハンターと編纂者の
その調査班を纏めるのが彼。
「───それじゃ、本当にずっと新大陸にいらっしゃってるんですね」
「あぁ。だから、ここの皆は俺の家族みたいなものなんだ。……そうだな、それでちょっと前までは現大陸の事は興味もなかったよ」
「皆さんの事が大切だから……」
「そう」
この大陸で生まれ、生きた彼にとってそれは当たり前のこと。
けれど、時間が経って少しだけ考えが変わったと彼は言います。
「でも今は、俺も色んな事に興味が湧いてきてな。たまにこういう場で、皆の故郷の話を聞いたりするんだよ。人から自分の知らない話を聞くのって、なんだか面白いだろ」
「分かります。旅をしてると色んな人にお話を聞きますから!」
「へぇ、どんな話があるんだ?」
「例えば、火山のマグマの中に住んでるお魚の話なんですけど───」
「おっと、タイミングが悪かったか」
私が話し始めたその時、大将さんが後ろからラーメンを持って歩いてきました。
テーブルに置かれたラーメンが湯気を上げます。
「話半分に聞いててくれて構わないが、コイツは冷める前に食ってもらうぜ。へぃ、お待ち。新大陸と現大陸の名産品を使った───ツボアワビラーメンだ」
「これが……皆が言ってたメンマ、か」
ラーメンの中央には見る物を引き付ける存在感のあるツボアワビ。船長に教えてもらった新大陸の名産品は絶品の一言。
そして、珊瑚エビやワカメクラゲに混じって添えられたメンマ。
リーダーはそれを箸で掴むと、口の中に放り込みました。
「───なんだ、歯応えが……繊維が? 初めて食べる感触だ!」
目を見開いて驚くリーダーさん。
タケノコそのものは偶に船に乗ってくるらしいですが、メンマにして食べた事はないようです。
現大陸では当たり前の事でも、ここでは新鮮になってしまうというのは、私も驚く事でした。
「それに、ツボアワビをこんな風に使うなんてな! 現大陸じゃ普通なのか?」
「現大陸にツボアワビはないので、これは普通じゃありませんけどね」
「んぁ、俺達も新鮮な気持ちで料理を出してる。勿論コイツに毒味はさせてるけどな」
「今毒味とか言いました?」
「そうか! お互い知らない事がまだまだ多いって事だな」
大将さんとガッツリと手を組むリーダーさん。
この世界には、まだまだ知らない食材や料理───物語が沢山あります。
だから私達は旅も探求も続けられる。
「他にも料理はあるんだろ? 色々食べさせてくれよ!」
「お望みとあれば。おい、食いしん坊」
「はい! こちらメニュー表になります! あ、その代わり、皆さんも! 沢山新大陸のお話聞かせて下さいね!」
───今夜は長い一日になりそうだ。