駆け寄ってくる子供達。
モンハン食堂は、どちらかというと酒場という印象と客層から小さな子供のお客さんは多くありません。
旅先でならともかく、ドンドルマの街でこうやって数えきれない程の子供達が
「貴方が皆にプレゼントをくれる
「はい、私は今日は
駆け寄ってきた子供と目線を合わせて、私は背負っていた袋から一つ
「
「ありがとう! サンタのお姉さん!」
小さな女の子はそう言って、早足にプレゼントを抱えて走っていきました。
雪の降る街並みの中の元気な子供の姿はなんだかほっこりとします。私は女の子に手を振りながら、そんな風に思いました。
「……んぁ、その妙ちくりんな格好はなんだ」
「なんだって。タイショーさん知らないんですか?」
「んぁ?」
「
今日はクリスマス。
なんか良く分からないけど、物が良く売れたり意味も分からず財布や表情筋が緩くなり、夜のムードが良くなる。そんな日。
◇ ◇ ◇
『side menu05……丸鳥のローストチキン』
ドンドルマは今日、雪が降っていました。
「わぁ! タイショーさん見て下さい見て下さい! 雪ですよ、雪!」
「何はしゃいでんだ……。これじゃ、店開けても客も来ない。今夜は休みだな」
「良いですね! そうしましょう!」
「テメェそれで喜んでたのか」
表情を歪ませる大将さんに、私は「ち、違いますよ!!」と両手を上げる。
大将さんはロマンティックが何も分かってないんですね。今日はクリスマスだというのに。
「んぁ、じゃあなんだ」
「今日はクリスマスですよ? 雪が降るなんてロマンティックじゃないですか。雰囲気的にはマルです」
「客足的にはバツだけどねー。今夜は冷え込むよー、コレ」
朝なのにお店でお酒を飲んでいる友人のCが、空を見ながら目を半開きにしてそんな言葉を漏らしました。
彼女の目が半開きなのはいつもの事ですが、寒いのが苦手なのか、いつもにまして気怠げな表情をしています。
「ユーちゃん、雪は嫌いなんですか?」
「嫌い」
「即答……。髪の毛、雪と同じ綺麗な白なのに」
「超嫌い」
「そこまで嫌わなくても」
珍しく不機嫌そうに、友人のCは樽ジョッキを傾けました。
「俺も好きじゃないな。客が来なくなる」
「タイショーさんまで! ポッケ村のハンターさんのオトモだったくせに!」
せっかくクリスマスに雪が降ったのに、二人はこの調子。これはなんとも頂けません。
「そもそもさー、
「んぁ、そうだ。俺もそれが聞きたかったんだ。さっきから言ってるその
「え、あーと……クリスマスはですね──」
二人がクリスマスを知らなかった事に驚きつつ、説明をしようとして喉に言葉がつっかえます。
「──なんでしたっけ?」
「なんだそれ」
実際の所、私はクリスマスがちゃんとなんなのか知りません。
子供の頃。
一年に一度、バフバロというモンスターが引くソリに乗ったゴシャハギが子供に玩具をプレゼントして回る──そんな日があるのだと小さな時に姉が言っていました。
子供の頃の私はモンスターの名前を言われてもさっぱりだったので、絵面が想像出来ませんでしたが今考えてみると大惨事です。
さてそのゴシャハギの名前は
それに、私は寝てしまっていたのですが姉曰く私の所にも
小さな頃に
「……はぁ、子供にプレゼントねぇ」
「……
私がなんとか掻い摘んで
「……ゆ、夢がない大人達」
「んぁ、お前なぁ……そもそもそのサンタさんなんて奴が本当に居──フゴッ」
「でもさー、ちょっと楽しそうだよねぇ。子供に夢を与えるサンタさんとかいうモンスター」
ふと、何故か大将さんの口を抑えて友人のCが不敵に笑いました。
大将さんはキレ気味に彼女を突き放すと、突然ノリがコッチ側になった友人のCを半目で睨みます。
「裏切ったな」
「えー、違うよ大将さん。儲け話、だよ?」
「んぁ?」
「儲け話」
凄い悪い顔で、大将さんの目を見る友人のC。この人たまに人を殺してそうな顔をするんですよね。
「ほぅ」
そして「儲け話」という単語にノリノリで表情を緩ませる大将さん。この人はコレだから。
「……この感じだと夜はお店開けれないじゃん?」
雪がゆっくりと落ちてくる空を見上げながら友人のCはこう続けました。
「それじゃあさ、その子供にプレゼントを渡すって風習を利用してお昼の間にお客さんを集めちゃうのはどうかなーって? ほら、酒場だから普段子供のお客さんは来ないじゃん? そうなると……子連れの裕福な家庭からはお金が巻き上げれない訳で」
「子連れの裕福な家庭に何か恨みでもあるんですか!?」
「別にー」
ヘラヘラと目を逸らす友人のC。
「なるほど、普段来ない客層か」
そんな隣で、大将さんは納得するように顎に指を当てて頷く。
「でも、良いですね! 言い方はともかく、昼から夕方にかけて普段モンハン食堂にいらっしゃらないようなお客さん達にお店を覚えてもらうのも!」
「んぁ、とはいえ集客はどうするんだ? プレゼントとか、知らんぞ」
「そこは今からユーちゃんとなんとかします。で、タイショーさんには作って欲しい料理があるんです!!」
「あれー? あたしお客さんなんだけどー?」
「んぁ?」
そうして、私は大将さんには下拵えを頼み──友人のCと買い出しへ向かいました。
時は進み、お昼過ぎ。
雪の降るドンドルマの街並み。列を作る小さな子供達と、その家族。
私と友人のCは俗に言う
ちなみに玩具は木彫りのモンスター達。友人のCや街の知り合いに頼んで沢山用意して貰いました。
報酬の
しかし、それでも私は子供達にクリスマスを楽しんで貰いたい。何故なら今日はクリスマスだから。
「
「ありがとう! サンタのお姉さん!」
小さな女の子がそう言って、早足にプレゼントを抱えて走っていきました。
「……んぁ、その妙ちくりんな格好はなんだ」
「なんだって。タイショーさん知らないんですか?」
女の子を見送った後、後ろから声を掛けてくる大将さん。どうやら頼んだ料理の準備も終わったようです。
「んぁ?」
「
手を広げて振り向くと、大将さんは口を開けたまま固まってしまいました。どうやら意味が分かっていないようですね。
「サンタってのは子供にプレゼントを渡して回るゴシャハギの事なんじゃないのか?」
「なので、これは
「んぁ、確かに怒ったゴシャハギの配色はそんな感じだが……」
「タイショーさんも毛並みが赤いですし実質サンタさんですけどね!」
「はぁ?」
とりあえず赤と白。あとはプレゼントを入れる袋。
これが揃っていれば大体サンタさん。
「クーちゃん可愛いから良いんじゃなーい。なんかほら、子供達以外も集まってるしさー」
私と同じくサンタ装束を着た友人のCも、子供にプレゼントを渡しながらそう口を開く。
プレゼントが貰える、という口コミが子供達の中で広がっていき、街の広場のモンハン食堂の周りには人だかりが出来ていました。
子連れの家族が、私達に「子供が玩具を貰えると言っていたんですが」と尋ねてくる。
「はい! 玩具ですね、どうぞ」
私は子供と目線を合わせて、小さな木彫りのアオアシラをその子にプレゼントしました。
子供は少し顔を赤くして「ありがとう!」と元気よくお礼を言ってくれます。
「どういたしまして。メリークリスマス! あ、そうだ! タイショーさん!」
思い出して、私は振り向きました。大将さんが出てきたという事は
「んぁ、料理か。食いしん坊が言った通りに作ったが、なんで
「それは勿論、クリスマスだからですよ!!」
私の言葉に「訳が分からん」と首輪傾げる大将さん。
しかし、これで全ての準備が整いました。
「皆さーん! メリークリスマス! 今日はモンハン食堂クリスマス特別オープン! なんと、丸鳥のローストチキンが食べれますよ!!」
「んぁ……へい、お待ち。丸鳥のローストチキンだ」
キッチンから大将さんが運んでくるのは、丸鳥──ガーグァを丸々一匹使って作ったローストチキン。
巨大なチキン。
それは、クリスマスには欠かせない、
「ローストチキンだってよ!」
「お母さん、アレ食べたい!」
「なんかイベントやってるのか?」
「雪も降ってるし、暖まれそうで良いな」
「クリスマス……だっけ?」
ローストチキンが登場すると、周りにいた人達が更にお店に集まってきました。
少し、昔の事を思い出します。
まだ小さな子供だった頃。
何も知らなかった、あどけない私に姉は言いました。
「──クリスマスという物があってね。バフバロってモンスターが引くソリに乗ったゴシャハギってモンスターが……良い子にしている子供に玩具をプレゼントしてくれる日なんだ」
「──そんな素敵な日があるの!? 私も!! 私も良い子にしてたら玩具、貰えるかな?」
「勿論。クイは良い子だからね、きっと貰えるよ」
姉からその話を聞いた年の、クリスマスという日。
珍しく家にいた姉と家族全員で食べたローストチキン。姉は旅で色々な場所に行くので、色々な場所の文化や知識をこうやって持ち帰ってくる。
その一つが、クリスマスでした。
そうしてサンタさんにクリスマスプレゼントを貰って──いつからか忘れてしまっていましたが、モンハン食堂として色々な場所を旅している間にふと思い出したんです。そんな素敵な文化があったなって。
「チキン美味しい!」
「パパー、見て見て! サンタさんに玩具貰ったの!」
「どこかの遠くの大陸の風習だっけ? コレ」
「クリスマス、だったかな。へー、賑やかだね」
暖かいチキン。プレゼント。後は家に帰った後にケーキなんかもあると、素敵な一日になるんですけども。
「思ったより大盛況だな」
「これがクリスマス効果という奴ですよ! タイショーさん」
「んぁ……今日だけは良くやったと褒めてやる」
苦笑いしながら私の膝を蹴る大将さん。なぜ蹴られた。
しかし、蹴られてすっ転んだ私の頭を大将さんは撫でてくれます。
「よしよし、してくれるなら普通に言ってくださいよ」
「デカいんだよ、お前は。ほら、お前もチキン食え」
そう言って、丸鳥のローストチキンを小皿に持ってくれる大将さん。
賑わうモンハン食堂。
噛みちぎった肉の繊維から溢れる肉汁、寒さに染み渡る暖かい肉。
「ほーら、サンセーも今日はクリスマスパーティ特別……クリスマスツリー型の干草で──わ! そんな早く食べちゃったら勿体無いですよ!」
「非常食にクリスマスなんてない」
「あははー、せっかく作ったのにねー」
もう、私は子供じゃないからクリスマスプレゼントは貰えないけど。
「──ところで食いしん坊。……このモンハン食堂タダ券ってのはなんだ?」
「──ぁ」
せっかく毎年ある素敵な日なのだから、偶にはこういう事をしても良いのかなって。
夜。
すやすやと、夢心地。
プレゼントとローストチキンは好評で、沢山のお客さんがお店に来てくれました。
そのおかげで私も友人のCもクタクタです。
すやすやと、寝ていました。
「──メリークリスマス」
赤くてふわふわした何かが、薄らと開けた目に映る。
「クーちゃん……これ──」
「もしかして──」
次の日、朝起きると私達の枕元には木彫りの
「「──サンタさん!?」」
妙にリアルで美味しそうなこんがり肉と素敵な柄の樽ジョッキ。
「タイショーさんタイショーさん!! サンタさん!! サンタさんが来ました!!」
「んぁ? んなもん居るわけないだろ」
「で、で、で、で、でも、コレ……」
「ほら、ユーちゃんも貰ったんですよ!」
「お前らなぁ……」
とても楽しい、クリスマスのお話でした。
メリークリスマス。
と、いう訳でクリスマス私ちゃん描いてきました。
【挿絵表示】
モンハン食堂が完結してからずっと描きたかったクリスマス回です。季節ネタはこういう作品では外せないのだ()
それではまたどこかでお会いしましょう。