モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu04……ケルビ肉のハンバーグステーキ

 目が回る。

 それ以上に回る、人とお金と食べ物と。

 

 

「いらっしゃいませ! あ、はい。ご注文お待ち下さい。あ、お会計ですね! 少々お待ち下さい! こちら空いたお皿お下げしてもよろしいでしょうか? あ、はい! ご注文お伺いしますぅ!! あ、お客様ご来店ありがとうございましたぁ!!」

 お客さんが注文を頼めば、それをキッチンに伝えるのが私の仕事だ。

 お客さんのお会計も、食べ終わったお皿の片付けも、お客さんへの挨拶も私の仕事です。

 

 

「いや無理ですぅ!!!」

 この広い広い世界の片隅に、モンハン食堂という世界を旅する飲食店がありました。

 

 私はそのモンハン食堂で働くウェイトレス。ハンターになって大金持ちになる筈が、二百万ゼニーの借金を抱えた貧乏人です。

 

 

 

 これは、そんな私がモンハン食堂で働くだけの物語。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu04……ケルビ肉のハンバーグステーキ』

 

 

 

 力尽きました。

 

 

「報酬金が三割無くなったんじゃないですかね……」

 誰も人のいない店内で、地べたに倒れこんだまま私はそんな言葉を漏らします。

 

 ただ、誰もいないというと語弊があるでしょうか。そこにはもう一人、人ではないですが人が居る訳で。

 

 

「こら、店の床に寝転ぶんじゃねぇ。とっとと掃除しろ掃除」

 手を腰に当ててジト目で私を見下ろすモフモフ。

 

 三角の耳と尻尾が特徴的な彼は、アイルーという獣人族だ。

 そして彼こそが、このモンハン食堂の大将さんなのです。

 

 

「鬼タイショーです……」

「ニュアンスが違う。大将だ。大将」

 たいしょうもたいしょーも変わらないと思うのですが。

 

「ほら、これが終わったらギルドについて行ってやるから」

「う、そうでした……」

 私はここで働き始める前はハンターをやっていました。否、別に今もハンターなんですけども。

 

「私、死んだ事になってたりするんでしょうか」

「さーな。普通ならハンターが行方不明になったら、捜索クエストが出るもんだ。んぁ、多かれ少なかれギルドに迷惑は掛けてるだろうな」

「うぐ……」

 大将さんの慈悲のない言葉に、心臓に杭を刺された気分です。

 

 

 私はとあるクエストでモンスターに敗れ、逃げ回った挙句に砂漠で迷子になりました。

 そんな私を救ってくれたのが、このモンハン食堂の大将さんです。

 

 砂漠で倒れていた私はお腹が減っていて、その時大将さんが焼いていたお肉を食べたいと詰め寄りました。それがいけませんでした。

 そのお肉は古龍である幻獣───キリンの物で、とんでもないお値段の食材だったのです。

 

 

 

 その料理の値段。実に二百万ゼニー。

 

 私がこのモンハン食堂でタダ働きをしなければいけなくなった理由がこれ。

 

 

 

「───と、いう訳なんです」

 ギルドの集会所にて。事の経緯を受付嬢の方に話すと、彼女は笑顔で諸々の事を教えてくれました。

 

 私は行方不明扱いになっていた事と、今まさに他のハンターさん達が捜索クエストに向かっているという事。

 その為にギルドが使ったお金やら、身の丈に合わないモンスターに挑むとどうなるかとか、なんなら本当は死んでいたとか───これ以上は止めてください。心が痛いです。

 

 

「……ふぐぅ」

「お疲れちゃ〜ん」

 一通りの説教を聞き終わって集会所の机に突っ伏す私の後ろから、気の抜けるような声が聞こえて来ました。

 振り向いた先に居たのは、私のハンター仲間。偶に一緒に狩りに向かう事もある、友人のCです。

 

「ハンターは大変です」

「そうだね〜。でも、クーちゃんが生きてて良かったよ〜」

 にっこりと笑顔でそういう友人Cは、樽ジョッキ片手に私の隣に自然に座りました。

 のんびり口調で容姿もふわふわとしているのですが、彼女は意外にも酒豪です。しかし、殆ど酔いません。どうなっているんですか。

 

 

「私も、命の大切さを感じました。……そして同時にお金の大切さを感じました」

「あはは〜。二百万ゼニーだっけ〜」

 笑い事じゃないですよ。

 

「それで、その大将さんは〜、今どこにいるの〜?」

「買い出しで、ドンドルマの町外れに行ってくると言ってました。諸々が終わったら迎えに来てくれるようなので、ここで待機しろとの事です」

 大将さんは私をギルドに連れて来てくれた後、その足で買い出しに向かってしまった。

 

 

 しかしこれ、よくよく考えたらチャンスなのではないでしょうか。

 

 

「……今逃げれば、借金もチャラなのではないでしょうか」

「クーちゃんが悪い顔してる〜」

 ぽわぽわとした表情で私を見ながらそう言ってお酒を飲む友人のC。しかし何やら目を細めると、彼女はこう言葉を続けます。

 

「ギルドナイトに暗殺とかされないでね〜」

「……に、逃げる訳ないじゃないですか。あはは」

 そりゃそうですよね。食い逃げは普通に犯罪だ。

 

 

 そしてハンターが何かやらかすと、ギルドナイトに闇に葬られるとかいう逸話もあります。こればかりは噂ですが。

 しかも友人Cは、近くに金髪のギルドナイトの方が通りかかったタイミングでそれを言ってくるのでタチが悪い。

 

 私は一瞬視線をこちらに向けたギルドナイトの人に、スーパースマイルで会釈をして友人Cの頭にチョップを入れた。

 

 

「私を闇に葬る気ですか」

「クーちゃんはそんな事しないって、信じてるから〜」

「そういえば捜索クエストが出てるのに、ユーちゃんは私の事を探しに行ってくれなかったんですね……」

「それはね〜、そのー。あたしは、クーちゃんはそんな事で死なないって、信じてるから〜」

 ぽわぽわとした笑顔でそう言う友人C(ユーちゃん)は話を逸らすようにこう続ける。

 

「そういえば〜、その大将さんってどんな人なの〜?」

「あー、タイショーさんですか? そうですね……」

 私がモンハン食堂で働き始めて数週間という所でしょうか。砂漠からこのドンドルマまで陸路で向かう間、私はずっと馬車竜のようにこき使われて来ました。

 

 なんならお店であり車輪の付いた竜車であるモンハン食堂を引くアプトノスよりも、私の方が扱いが酷かったです。

 

 

「それでそれで〜?」

「そうですね。結構不思議な人なんですよ」

 そしてその数週間で分かった事。

 

 彼の毎晩の夕食は決まってこんがり肉でした。

 私に賄いで出してくれる物には一切手を付けずに、毎晩決まって何かしらの生肉を焼いてこんがり肉を食べるのです。

 

 

「不思議な人だね〜」

「はい、不思議な人です。でもタイショーさんの作る料理はどれもとても美味しいんですよ!」

 ここ数週間、ドンドルマにくる過程で料理を食べている人を見たり、賄いを食べたりと沢山大将さんの料理に関わって来ました。

 

 そしてお客さんも私も、例外なく「美味しい」と言うのです。

 

 

「実は、案外今の生活に満足してたり〜?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか! 私は将来大物ハンターになって、お金持ちになって、たらふく美味しい物を食べるんです!! 借金生活で賄いだけ食べる生活なんて、私の将来設計にはありません。スーパー不愉快です」

 私はそう言って、プイッと友人Cから視線を逸らした。Cは意地悪です。

 

 

「あはは〜、ごめんごめん。でも、なんでこんがり肉ばっかり食べてるんだろうね〜?」

「それは……分かりません」

 そういえば初めて会ったときも、こんがり肉を焼いていました。それこそが二百万ゼニーのこんがり肉なんですが。

 

 

「普段はどんな人なの〜?」

「お昼とかは他の物も食べてたりしますよ? それでも偶にお昼までこんがり肉だったりしますけど」

「いやいや〜、そうじゃなくてねぇ。ご飯の事ばかりじゃなくて〜、その大将さんはどんな人なのかって……私は気になってるんだよ〜?」

 クーちゃんはご飯の事ばかり考えてるね〜、と付け足してからCはジト目で私の顔を覗き込む。

 

 恥ずかしくなって目を逸らしますが、彼女がしつこいので私は一度Cにチョップを入れてから目を閉じて顎に手を当てました。

 

 彼がどんな人物か、ですか。

 

 

「結構、声が渋いですね」

「ほほ〜、それでそれで?」

「冷静で沈着で、結構周りが見えてます。厳しい方なんですけど、実はちょっと優しい一面もありますね」

「ほほほ〜、それはそれは」

 どうしてか目を見開いて唇に手をつける友人C。ちょっと顔が赤い。

 

「それで〜、どこまでヤッたの〜? キスはした〜?」

 そして突然そんな事を言うものだから、私は飲もうとしたお茶を机にぶちまける。何してくれとんのじゃこの友人。

 

 

「ば、ば、馬鹿なんですか?!」

「え〜、だって大の男と女が一つ屋根の下で数週間旅したんでしょ〜? そりゃ〜、何かあるってもんよ〜」

 相手アイルーなんですけど! 

 

 

 この友人のCはぽわぽわふわふわな見た目に反して頭の中がピンクだったりするので、偶に意表を突いてくるのだ。恐ろしい。

 そのくせ私と同じ時期にハンターになったのにもう上位ハンターなのでタチが悪い。偉人は変人が多いという話は、あながち間違っていないのかもしれません。

 

 

 

「な、何にもないですよ……っ!」

「本当かな〜、気になるな〜。あ、そうだ。それじゃ〜、今晩は私もそのモンハン食堂? で、ご飯を食べる事にするよ〜」

 彼女はそう言って立ち上がると、まだお酒の半分残っている樽ジョッキを持ち上げて一気にソレを飲み干す。

 

「クーちゃんも良い歳なんだし、スタイルも良いんだから〜。これを襲わない男に、あたしの親友を任せる訳には〜、いかないよね〜」

 そんな事をぽわぽわとした表情で言ってから、口角を釣り上げる友人のC。

 

 

 コイツ、楽しんでいるな。

 

 

「それじゃ〜、件のお店に〜、レッツラゴ〜」

 私の手を引っ張って、Cは集会所を後にしました。

 待っていろと言われたのですが、私は彼女を連れてお店に戻る事にします。

 

 

 さて、どうなる事やら。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ドンドルマの下町の端っこに、大きな竜車が一台停まっていた。

 竜車を引くアプトノスは伸び伸びと干し草を食べていて、その傍には竜車でありお店である建物へと上がる階段が取り付けられている。

 

 

 モンハン食堂。

 大きく書かれたその看板を見て、友人Cはこう言いました。

 

 

「食堂というか、ちょっと大きな屋台だよね〜」

「それ言ったらタイショーさん怒るので気をつけて下さいね」

 数日前に私も同じ事を呟きましたが、その日の晩飯はシメジだった事を思い出して身体が震える。

 

「拘りがあるんだね〜」

「職人気質ですからね、タイショーさん」

 怒ると怖いですし、ザ・タイショーって感じの人ですよ。

 

 

「んぁ、なんだお前。まだ開店には早いってのに……そんなに働きてぇのか?」

 私と友人Cが話しているとお店の中からそんな声が聴こえて来ました。

 友人Cはその声に目を見開いて、食い入るようにお店の中に視線を向けます。そんなに気になるんですか。

 

 お店の中から顔を覗かせる三角の耳。茶毛のもふもふを見て、友人Cは目を丸くしてさらに白くしました。

 

 

「……ネコじゃ〜ん」

「アイルーですよ? あれ? 言ってませんでしたっけ?」

 そう言えば、言っていなかったような。

 

 

「は〜、あたしはてっきりクーちゃんが大人の階段を登ったと思っていたのに〜。ガッカリですよ〜」

「だからそんなんじゃないって言ったじゃないですか!」

「……んぁ、何の話だ。てか、クーちゃんってお前の事か」

 ジト目でお店から降りて来た大将さんは、私達を見上げながら顎に手を置いてそんな言葉を漏らす。

 

「あ、はい。私のあだ名ですね」

「食いしん坊のクーちゃんか、なるほどねぇ」

「違いますぅ!! 全然違いますぅ!! 私にだって立派な名前が───」

「あながち間違ってないけどね〜」

 酷い。酷過ぎますよ。

 

 

「んぁ、なんだ。で、こちらさんは?」

「……友人です」

「ユーちゃんって呼んでね〜。ヨロピコ〜」

 ぽわぽわ笑顔でそう言うと、Cは鼻をヒクつかせてお店の方に視線を向けました。私も、この()()は気になります。

 

 

「血生臭い匂い……」

 ハンターなら嗅ぎ慣れた、血と肉の匂い。友人Cは少しだけ真剣な表情で大将さんを見下ろした。

 

 

「大将さんや〜、もしかして───」

 彼女は一度目を閉じて、細めを開くとこう続ける。

 

「───今日はケルビのお肉が入ってるねぇ?」

「ほぅ、匂いで肉の種類を当てるたぁ。流石ハンターって所だな」

 友人Cの問い掛けに、大将さんは関心した面持ちで口角を釣り上げてそう答えました。

 

 

「え、分かるものなんですか……?」

「歴戦のハンターならね〜、当然だよ〜」

 得意げな表情でそう言う友人C。私も高みを目指すにはお肉の匂いくらい嗅ぎ分けないといけないのでしょうか? 

 

 その前に借金を返済しないといけないんですけどね。

 

 

「なんなら食ってくか? 丁度味見をやってもらいたい所だったんだ。タダとは言わんが、安くしとくぞ」

 大将さんはそう言うと、私達に目で着いてこいと諭して階段を上っていく。

 

「そのお誘いを断る理由はないね〜。いこーか、クーちゃん」

「私はどうせ働かされるんですけどね……」

 開店前なので当たり前ですがお店には誰もいない。

 大将さんはお水の入った樽ジョッキを一つ机に置いて「座って待っててくれや」とCに声を掛けた。

 

 

「あのー、タイショーさん」

「大将だ。どうした」

「……私の分は?」

「馬鹿かお前。お前は従業員だ働け」

 そう、この扱いですよ。酷いです。酷くありませんか。

 

 

「うぅ……」

「あ〜、クーちゃん……じゃなかったウェイトレスさ〜ん」

「……なんでしょうか」

「ブレスワイン一杯下さいな〜」

 一瞬で空になった樽ジョッキを掲げながら、Cは意地悪な表情でそう言いました。彼女曰く水では水分補給は出来ないとのこと。何を言っているのか分からないです。

 

 

「タイショーさん、ブレスワインあります?」

「大将だ。……そこ」

 樽ジョッキを持ってキッチンに向かうと、丁度大将さんがフライパンで肉を焼いている所でした。

 ミンチにしてから形の整えられたお肉の塊。もくもくと上がる湯気に乗って、お肉の匂いがキッチン中に広がっていく。

 

 

「……美味しそう」

 思わず口に漏らしてから、私は大将さんが視線を向けた先にある樽の蓋を開けました。中には芳醇な香りのワイン。

 

 ブレスワインは最高級のブドウから作られた、ワインの王様とも呼ばれているお酒です。

 高級ワインなので結構な値段がするのですが、友人Cは上位ハンター。お金にも余裕があるのか、このワインは彼女が良く飲むお酒だ。

 

 

「はい、ブレスワインです。1000z」

「1000万zじゃなくて良かった〜」

 彼女はそう言いながら樽ジョッキを受け取ると、それを一気に喉に流し込む。

 そして「ふぃ〜」とぽわぽわ笑顔に似合わない声を出してから、彼女はふわふわ笑顔のまま「おかわり」と樽ジョッキを持ち上げた。

 

 

「どっちがモンスターなのか。タイショーさん、おかわりです」

「んぁ、いい飲みっぷりじゃねーか。ジャンジャン注いでやれ」

 これが上位ハンターなんですか。一体彼女の肝臓はどうなっているのでしょう。

 何より一杯だけで千ゼニーもするお酒をこうガブガブ飲むものだから、上位ハンターの懐が気になる所だ。私もいつかはこうなりたいです。

 

 

「おかわり」

「嘘でしょ」

 懐よりも身体がどうなってるか知りたい。

 

 

 

「お、おかわりだそうです」

「すげーな。あ、そこの胡椒取ってくれ食いしん坊」

「だから食いしん坊じゃないですって! ハイどうぞ!」

「あとニンジン切れ」

「今からお酒持ってく所なんですよ! 自分でやって下さい!」

「あ? 200万z」

「ハイ! 今すぐやります!! お酒持っていって即行で帰ってきて即行でニンジン切らせて頂きます!!」

 借金の事もあり、私の生活はこんな感じだ。このままでは上位ハンターはおろかハンターに戻る事すら難しい気がします。

 

 

「はい、三杯目です」

「いや〜、楽しそうだね〜。安心したよ〜」

「……何がですか」

 友人がこき使われているのを見て楽しんでませんかこの人。

 

 

 

「でもさ〜、大将さんって変な人だよね〜。普通、アイルーってさ〜、語尾にニャ、とか言ってるイメージなんだけどにゃ〜」

 丸くした手を顔の横に置きながらそういう友人C。

 確かに、ハプルボッカのクエストを失敗した時に私を助けようとしてくれたネコタク引きのアイルーさん達は、語尾に「ニャ」が付いていた。

 

 思えばそれが普通なのですが、いわれてみると大将さんは「ニャ」とは言わないです。

 

 

「ニャって言った方が可愛いのにね〜」

「大将さんは可愛いって感じでは……ないですけどね」

 なんというか、自分の硬派なイメージを崩さない為に「ニャ」と言ってないのではないかと予想が出来てしまった。

 拘りが強い人ですし。

 

 

「客と話してる暇があったら働けぇ!」

「ひぃ?! は、はいぃ!!」

 友人と話しているとキッチンからモンスターの咆哮が聞こえてきたので、私はひっくり返って直ぐにキッチンに向かう。

 

 するとそこには、プレートに乗ったとてつもなく大きい肉の塊が拡がっていました。

 こんがりと焦げ目の付いたそのお肉は、湯気を立ててキッチン中を肉の香りで包み込んでいく。

 

 

「ハンバーグ、ですか」

 ミンチにしたお肉等を丸めて焼いた料理。ハンバーグ。

 単純ながらしっかりと中まで味付けも出来るし火も通る、お肉料理の代表の一つだ。

 

 

「ケルビ肉のハンバーグステーキだ。ほら、持ってくぞ」

 涎を垂らして固まる私を無視して、大将さんは私の手にプレートを置く。

 目の前にこんなにも美味しそうな料理があるのに、今からこれを手放さなければならない。拷問か何かでしょうか。

 

 

 

 

 

「お〜」

「おまたせ致しました。ケルビ肉のハンバーグステーキです」

 料理を出すと、友人Cは樽ジョッキを持ち上げたまま固まって感心したような声を漏らした。

 

 未だに脂を弾くプレート。ハンバーグの付け合わせは蒸したヤングポテトに四つ足ニンジン、五香セロリ。

 私が机の上にそのプレートを置くと、大将さんがナイフとフォークをプレートの左右に置く。

 

 

 どうぞ、お召し上がりください。

 

 

 

「……それじゃ〜、頂きます」

 目を閉じて手を合わせた友人Cは、フォークでハンバーグを抑えながらナイフをゆっくりと降ろした。

 少しだけ赤身の残った断面から、肉の香りが湯気と共に昇ってくる。溢れる透明な肉汁は、フォークを刺すと更にプレートに広がった。

 

 持ち上げられたお肉からも肉汁が滴って、彼女はそれを一口で口の中に放り込む。

 ゆっくりと咀嚼しながら「はふはふ」と言葉を漏らした友人Cは、珍しく目を見開いた。

 

 

「……これは───」

 そして彼女は突然立ち上がりながら机を叩く。

 あまりの動揺っぷりにむしろ私は驚いてその場で転けました。

 

 え、どうしたんですか。

 

 

「───引き締まったお肉が程良く練られていて、固過ぎず……されど柔らか過ぎない焼き加減で味がしっかりとお肉の中に閉じ込められている……っ!! ソースも主張し過ぎず、それでもお肉の味を引き立てる程良い味わい……っ!!」

「ユーちゃんが珍しく早口で話している?!」

 中身が他人と入れ替わったのではないかと思う程に饒舌に言葉を並べた友人は、一度目を閉じてから口を拭いてゆっくりと椅子に腰を下ろす。

 

 

「クーちゃん……」

「な、なんでしょう?」

「おかわり〜」

 そして、いつものようなぽわぽわ笑顔で彼女は樽ジョッキを持ち上げました。私は何が起きたのか分からずにその場でまたすっ転びます。

 

 

「いや〜、このハンバーグ最高にエモいよ〜。お酒にも合うし、これはお酒が止まらないね〜」

「お酒が止まらないのはいつもでしょうに……」

「ハッハッ、気に入ってくれたならこっちも気分が良いぜ。その一杯は奢りにしてやる」

 友人の食べっぷりを気に入ったのか、気前よくお酒を一杯タダにしてしまう大将さん。

 勿論お酒を注ぐのは私。そのまま私の借金もタダにしてくれませんかね。

 

 

「さてと、味見は好調との事だし開店の支度だな。ほら食いしん坊、準備だ準備!」

「だから食いしん坊じゃないですって!」

 して、そろそろ開店の時間。ドンドルマは人も多いのでお客さんの数も凄いから大変だ。

 

 

「いやさ〜、本当はちょっと心配だったんだよね〜」

 私が机を並べたり拭いたりしている中で、友人Cはハンバーグをもぐもぐ食べながら口を開く。

 私もあのハンバーグが食べたい。今日の賄いがハンバーグだったりしませんかね。

 

 

「クエストで行方不明になったかと思えば、借金背負って働かされてるって言うじゃ〜ん。どんな悪徳業者に捕まったのかとさ〜、思ったよね〜。ボロ雑巾のようにこき使われてるのかと心配だったんだよ〜」

「ユーちゃんは今の私がボロ雑巾に見えないんですか? 完全に悪徳業者ですよ。ボロ雑巾のようにこき使われてますよ!」

「え〜、でも優しそうな人じゃ〜ん」

 この友人の目は腐っているのでしょうか。

 

 

「なにボサッとしてやがる! 皿の準備もやれってんだ!!」

「ひ、ひぃ!! た、ただいまやりますぅ!! ねぇ……どこか安心出来るんですか。このままじゃ私は借金返済の前に過労死ですよ、おろろ」

 泣き言を漏らしますが、借金があるので大将さんの言葉は絶対。私は涙を流しながらお皿の準備をし始めました。

 

 

「ちんたらやるな。片が付いたら賄いでさっきのハンバーグ食わせてやるから、せかせかと働け食いしん坊」

「はい!! 借金返済まで一生付いて行きます!!」

 よっしゃハンバーグ! レッツハンバーグ!! 

 

 

 

 

「クーちゃんはハンターなんかやってるより、ここで働いてた方が良い気がするな〜。……危なっかしいしさ〜。それに───」

 さぁ、働きましょう。

 

 

 

「───楽しそうだしね〜」

 今日もモンハン食堂、開店です。

 

 

 

 

 

 

 〜本日のレシピ〜

 

『ケルビ肉のハンバーグステーキ』

 

 ・生肉(ケルビ)     ……450g

 ・レアオニオンの微塵切り ……150g

 ・モガモガーリック    ……20g

 ・ポポミルク       ……100cc

 ・パン粉         ……20g

 ・塩胡椒         ……適量

 

 付け合わせ、お好みのソースをかけてお召し上がりください。

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