いつか聞いた話。
一人のハンターと、一人のニャンターが受けたクエストのお話。
ハプルボッカの討伐。
ニャンターさんにとってそれは、自分が行くまでもないと思える程に簡単なクエストだった。
「タイショー、アプケロスだよ! 見て見て!」
「んぁ……騒がしいなお前は」
ハンターさんと二人。砂漠を歩く赤毛のアイルー。
「生肉を頂いておこうよ。ほら、クエストが終わった後にこんがり肉でも焼く用に!」
「んなもん……別に要らねぇだろ。無駄な事で命を奪うのは、ハンターのやる事じゃない」
「タイショーは堅物だなぁ」
ハンターさんとニャンターさんは、その日限りの即興パーティだったみたいであまり気が合わないようです。
そんな中でも二人はクエストに向かって───
「……タイショー、美味しい?」
───彼はその日、こんがり肉Gを食べた。
◇ ◇ ◇
『menu08……熱帯イチゴパフェ』
照り付ける太陽。
思い出すのは大将さんと初めて会った日の事───なんて、呑気な感想は出てこない。
「タイショーさんもっと早く! もっと早く! 追い付かれちゃいますよ!」
「んぁぁぁっ、うるせぇ! 俺に言うな非常食に言え! てか黙って閃光玉の用意をしろ!」
「もう使い切りました!!」
「はぁぁっ!?」
怒号が飛び交う竜車の上。背後を見ると、砂漠の砂を巻き上げながら一匹の竜が私達を追い掛けてくる。
空気が揺れるような咆哮を轟かせて、竜はその血走った眼光を私達に向けていた。
強靭な顎と鋭い牙。
巨体を支える四肢は、それ一つだけで人間の身体の数倍もある。
前脚の特徴的な飛膜は、飛竜の祖先の姿を残しているのだと誰かが言っていたのを思い出した。
轟竜───ティガレックス。
それが、今現在私達を追ってきているモンスターの名前です。
時は数刻前に遡り。お昼ご飯の少し後くらいの時間。
「暑い……暑いです。暑い〜」
「暑い暑い言うから暑くなるんだっての。大体砂漠ってのは暑いものなんだ、このくらいの暑さは我慢しろ。それに暑いってのは別に悪い事ばかりじゃない。この砂漠には熱帯イチゴって美味い食い物があってな、アレは暑い砂漠や火山なんかで取れるんだ。それに暑い時は暑い時の飯の食い方がある。暑い時ってのはな───」
「タイショーさんの方が暑いって言ってるんですけど!! やめて下さい!!」
私と大将さん、モンハン食堂はフラヒヤ山脈───通称雪山という場所に向けて旅をしていました。
アプトノスのヒジョーショクサンセーが引く竜車は、砂漠をゆっくりと横断中です。
「あ、日陰がありますよタイショーさん。少し休憩にしませんか?」
「んぁ? しょうがねぇな……」
モフモフ毛皮の大将さんがなぜこの暑さを我慢出来るのか分かりませんが、許可が出たので私は竜車を降りて見つけた日陰に向かって走りました。
巨大な岩に出来た大きな日陰。
そこに入った瞬間、それはもうここがオアシスなんじゃないかと間違える程に快適でその場に寝転がる。砂のベッドが気持ち良い。
それと、岩陰になにやら赤い物を見つける。砂だらけの砂漠には珍しい緑、その先に大きな赤い実が沢山並んでいた。
「おー、熱帯イチゴ」
私はそれを手に取って一粒口に放り込む。
砂漠で育ったというのにジューシーな食感が渇いた口の中に広がりました。美味しい。
「あま〜い」
せっかくなので大将さんにも分けてあげようと、私はポーチに熱帯イチゴを放り込む。
「旅してますねぇ……」
深くため息が出て、そんな言葉が漏れました。
数ヶ月前に砂漠でこうして倒れていたのが嘘のようです。そういえば、大将さんに初めて会ったのもこの砂漠だった事を思い出しました。
それが、今はこうして大将さんと旅をしながら食堂を経営している。人生分からない物だ。
「……む?」
なんて考え事をしていると、なにやら地面が揺れた気がする。
しかし、大きな岩を背中に辺りを見渡してみるけれど、何かがいる様子はありませんでした。
「おいバカ! 上だ! 上!」
こちらに向かっていた大将さんは、何故か竜車の向きを反転させながら「戻ってこい!」と叫んでいる。
「はて───うや?」
どうしたんでしょうか。疑問に思っている私の頭に、何やら大粒の水滴が垂れました。
雨な訳もなく、不思議と粘ついたソレに釣られて視線を上げる。
「グォゥゥ───」
巨大な顎。
「───きゃぁぁぁあああああ!!!」
「───グギャィァァアアアア!!!」
そこに居た竜こそ、轟竜ティガレックスでした。
直ぐに大将さんが閃光玉という目眩しのアイテムで助けてくれたのですが、ティガレックスは結構しつこく私達を追ってきます。
もう怖かったので手元にあった閃光玉を全部一斉に投げたのですが、よくよく考えると意味のない事をした事に気が付いた時には遅かった。
「タイショーさん追い付かれちゃいますよ!!」
「んぁぁ……ったく、こうなったら積荷か非常食のどっちかをくれてやるか」
「サンセーは友達ですよ!?」
なんて慈悲のない事を。
しかし、ティガレックスが私達を執拗に狙っているのは積荷の肉やサンセーが居るからという可能性は高いです。
だけど積荷はモンハン食堂の料理に必要ですし、サンセーを犠牲にするなんて以ての外だ。
でも、流石にこれはピンチです。
「……あれ? タイショーさん、右側! 右側!」
どうしようどうしようと慌てふためいていると、視界の端に何か動いている物を見付けました。
「なんだぁ……あれは」
砂の上にあるのは巨体と、二本の大きな角。ディアブロスのようにも見えますが、その身体には脚も翼も見当たらない。
まるで膨れ上がったザボアザギルのような身体に、頭だけディアブロスという風変わりな何かがこちらに向かって来ている。
その正体に私も大将さんも全く見当が付かず、唖然としていました。
しかしその正体不明の謎の何かは、結構な速度で真っ直ぐ私達に向かってくる。このままではぶつかるかもしれない。
「こんな時になんだってんだ……っ!」
「ひぃぃぃっ、ティガレックスも追い付いて来ましたよぉ!! ヤバイ、吐きそう。お昼ご飯吐きそう!!」
「お前は少し黙れぇ!!」
よそ見をしている間に、ティガレックスはその前脚が貨物車に届かんという所まで追い付いていた。万事休すとはこの事を言うのか。
「───って、うわぁぁ!?」
さらに振り向けば、右側から来ていた謎の何かも目と鼻の先まで近付いている。もうおしまいだ。
逆に冷静になって、正体不明の謎の何かに視線を向ける。
二本の大きな角を持っていたのは生き物の頭ではなく、頭蓋だった。
ダイミョウザザミというモンスターはディアブロスの頭蓋を宿にする。だけど、その正体不明の何かはダイミョウザザミではなくて───
「……船?」
───巨大な砂上船だった。
「オララララララィィイイイ!!」
船に乗っていた人物が叫ぶと同時に、船とティガレックスが衝突する。
巨大な船がティガレックスを引き倒した。地面を転がるティガレックスは、船の先端に装飾されたディアブロスの頭蓋の角に背中を抉られている。
「───ギャィァァァアアアッ!」
ティガレックスは背中から夥しい量の血流を流しながら、足を引きずってその場から離れていった。
一方でティガレックスを引き倒した砂上船は、私達の竜車の隣まで来て停止する。
ディアブロスと見間違えるような巨大な船だ。船の先端に装飾されたディアブロスの頭蓋が船を荒々しくも見せている。
「た、助かったん……ですかね?」
「……こいつが盗賊じゃなきゃ、な」
怖い事言わないでください。
「いやぁ、あんたら無事か! 良かった良かった!」
ただ、私達の心配は杞憂に終わりました。どうやらティガレックスの代わりに私達の荷物を奪おうという輩ではないようです。
船から降りて来たのは、身長が私の倍くらいあるんじゃないかと思えるくらい大きな男性でした。その見た目だけは恐ろしいのですが、気さくに話しかけてくれるので怖がるのは失礼です。
「竜人族か。助けてくれた事には礼を言う。ありがとうな」
そう言って大将さんは手を伸ばした。しかし、大将さんから見ると男性の身長は三倍くらい。とてもじゃないけど手は届きません。
「おう、旅人同士だ。困ってたらお互い様だろ」
男性は態々膝を突いて大将さんの小さな手を握る。その指の数は私───人間と違って四本だ。
「竜人族の方……なんですか?」
それに加えて長い耳が特徴的な男性に、私は恐る恐る尋ねる。男性は「おうよ」と端的に答えてくれた。
竜人族は私達人間とは違う種族の人の事を言います。大将さん達アイルー族よりも私達人間に近い姿をしていますが、見た目以上に別の生き物なんだとか。それもこうして近くで見ると、確かに納得でした。
「俺はこの船で砂漠や海を旅してる。気軽に親父と呼んでくれ。この船の名は、キングダイミョウだ」
船の底を叩きながら自己紹介をしてくれる親父さん。荒々しい姿の船は、快活な彼にとても似合っている気がする。
「モンハン食堂って店をやってる、俺はそこの大将だ。こっちは……用心───雑用だな」
用心棒と言い掛けて、大将さんは言い直しました。酷い、せめてウェイトレスと呼んで欲しい。
「私これでもハンターなんですよ!」
「閃光玉の使い方も知らない奴がよく言う……」
何も言い返せない。
「ハッハッハッ。なんだ、でも助けが間に合って良かったぜ」
私達の会話を聞いて笑う親父さん。確かに、あのままだったらどうなっていた事か。
「ん……でも、タイショーさんが倒してくれれば良かったのでは?」
そこで私は、ふと大将さんがニャンターとして凄い人という事を思い出す。
イーオスから私を助けてくれた時も彼は強かったし、ドンドルマで聞いた話なら彼は街でも有名なニャンターだった筈だ。
「……俺はもう、狩りはしねぇよ」
しかし、大将さんは小さな声でそう漏らす。なんだか追求したらいけない気がして、私は口を開く事が出来なかった。
「で、あんたら砂漠を越えるのか? なんなら良い提案があるぜ」
沈黙の中、親父さんはそんな言葉を漏らす。そうして続く彼の提案に、私達は断る理由もなく乗る事にしました。
その提案とは───
「うっへぇ〜、早いですよ大将さん!」
「こいつは中々良い船だな。俺も欲しくなって来た」
「どうだ俺の船は、快適だろう。こいつなら砂漠を抜けるのも直ぐだぜ」
───今私達は親父さんの船に乗せてもらっている。
アプトノスが引く竜車よりも早く動く砂上船に、私は子供のようにはしゃいでしまいました。
そのアプトノスのサンセーや私達の竜車が貨物室に入る程大きな船。その甲板から見渡す砂漠の景色は絶景です。砂と岩しかないけれど。
「親父さんは一人で旅をしてるんですか?」
砂だけの景色を堪能した後、私はふとそんな質問をしました。これだけ大きな船なのに、誰か他の人が乗っている様子はない。
「おうよ。この船は一人しか乗ってないぜ」
「それまたどうして」
「いつか、沢山の仲間を集めてこの船で旅をするのが俺の夢なんだ。狩人や商人……料理人なんかを集めてな! そして、今はその仲間を集めようとしてるって訳よ」
がはは、と笑う親父さんはどこか楽しげです。
きっとこれからの夢に向けて頑張っている所なのでしょうね。そんな姿は、どこか大将さんに似ていました。身体の大きさは全然違うけれど。
「良いですね、夢があるって」
私は───
「ところでどうだい大将。あんた、飯屋をやってんだろ? 俺と一緒に来ないか?」
親父さんは突然そう言って、大将さんに手を伸ばす。
「……悪いが、他を当たってくれ。俺は旅がしたいんじゃないんでな」
しかし、大将さんは考える間もなく彼の手を退けてしまいました。
親父さんはそれでも気を悪くする事はなく「そうか、ハッハッハッ。残念だぜ」と笑い飛ばす。
そこで、大将さんは「だが───」と言葉を続けました。
「───だが、助けてもらった恩は返さないとな。飯くらい出すぜ」
「良いねぇ。ちょうど小腹も減って来たところだ。暑いしなぁ、冷たいのを頼むぜ!」
大将さんの言葉に、親父さんはとびっきりの笑顔で答える。しかし、冷たいのですか。
「まだお昼過ぎですし、晩ご飯にはまだ早いですよ?」
お昼ご飯はティガレックスに会う前に食べちゃったので、ガッツリ夕飯を食べようという時間でもありませんでした。
「だから、小腹を満たすような何かが食いたい!」
笑顔で言う親父さんですが、中々無茶振りです。
冷たい料理といえば、大将さんが前に作ってくれたサシミウオのスモークとかでしょうか?
氷結晶はお肉なんかの貯蔵の為にちゃんとストックしてあるので、それを使えばなんとかなる気もしますが。
「……なるほどな。あんた、甘いもんは好きか?」
「ん? おう! 大好きだぜ!」
大将さんの質問にそのガタイに合わない返事をする親父さん。
「甘い物?」
「おい食いしん坊、ポーチの中にアレがあるだろ。よこせ」
私のポーチを指差してそういう大将さん。ポーチの中には、ティガレックスに襲われる前に手に入れた熱帯イチゴがありました。
「熱帯イチゴですか?」
これをどうする気なんでしょうか。
熱帯イチゴはそのまま食べても美味しいです。甘いし。
しかし親父さんの注文である冷たいとは少し違う気がしました。
「こいつを氷結晶と調合すれば、氷結晶イチゴってのが完成するんだがな。そこに生クリームや砂糖なんかを加えて熱帯イチゴのアイスクリームを作る」
「もう聞いただけで美味しそうじゃないですか!」
この猛暑の中で食べるアイスクリーム。想像しただけでも涎が落ちてくる。
「───だが、それだけじゃ足りねぇ。ちょいと熱帯イチゴが足りないからな、お前取ってこい」
「え、私が取ってくるんですか……」
「お前の分も作ってやるからとっとと行け」
「喜んで!!」
しかし、大将さんは私が持っている分では足りないと言いました。
それと、調理に時間が掛かるからその間の時間も有効に使って熱帯イチゴを取ってこいとの事です。
そもそも調理に時間がかかるのなら、私が取って来てもそこからまた時間がかかるのではないか、とも思いましたが大将さんには逆らえません。
「すみません、手伝って貰っちゃいまして」
「良いってことよ。女の子一人を砂漠で歩かせる訳にはいかねぇしな」
「……私、一応ハンターなんですけどね」
そんな訳で、親父さんにも手伝ってもらい熱帯イチゴ探しをする事になりました。
船は停泊して、今は近くの岩場を捜索中です。
「お前さんはずっとあの大将と旅をしてるのか?」
岩場を歩きながら親父さんはそう問い掛けてきました。私は「ずっと……ではないですね」と答える。
「大将さんには数ヶ月前にこの砂漠で会ったんです。なんだか忙し過ぎてかなり昔の事に思えてきましたが、そんなに時間はたってないですね」
親父さんに私と大将さんの出会いの事を話すと、親父さんは「そりゃ運命的だな」と笑いました。
この借金地獄を笑わないでくださいな。
「私はただ大将さんに付いて来ているだけといいますか……。ただなんとなしにここに居るんですよね。大将さんはこんがり肉Gを作るっていう夢があって、ご立派なんですけども」
ふと、そんな事を思ったんです。
多分親父さんの夢の話を聞いたからでしょうか。
自分には何もありませんでした。ただ大きな目標もなく、漠然とハンターになって、今は流れでモンハン食堂のウェイトレスをしています。
私は何をしているんでしょうか。
「なんで俺が砂漠を旅してるか分かるか?」
ふと、親父さんはそんな言葉を漏らしました。言われて考えてみますが、よく分かりません。
むしろ仲間を集めて旅をするという彼の目的を考えれば、砂漠を旅するのは非効率です。街に出た方が、人は多いですから。
「人の出会いってのは奇跡みたいなもんだ。この砂漠を見てみろ、辺りを見渡したって人っ子一人いない。だが街に行けば、歩いたら人だ。面白いもんだな」
「えーと、そうですかね?」
親父さんの言っている意味が分からなくて私は首を横に傾けました。
「俺はな、全部の出会いには意味があると思ってる。俺とお前達の出会いもそうだ。今こうして話してるのは有意義だろう」
快活に笑う親父さんはさらにこう続ける。
「勿論、街ですれ違う出会いも悪くないさ。だがな、俺は出会い一つ一つを大切にしたいんだ。その出会いの意味を一つずつ確かめたい。その出会いにどんな意味があったのか、な」
そう言って親父さんは私の額を小突きました。体格が体格なので普通に痛い。
だけど、優しく感じます。
「お前さんも探してみたらどうだ、大将と出会った意味をな。時間は沢山あるだろう? 絶対にその出会いには意味があるんだ」
「出会い……」
モンハン食堂で働き始めて、旅をして、色々な人と出会った。その出会い全てに、大将さんとの出会いに意味がある。
「……ありがとうございます。なんだか、気が楽になりました」
「ガッハッハッ、そりゃ良かった。ついでに、俺とお前さん達の出会いの意味はこれだな」
そう言って親父さんは岩陰に成っていた熱帯イチゴを拾い上げました。立派なイチゴです。
「あっはは、良い意味ですね」
「おうよ。はて、どんな美味い物を食わせてくれるか」
親父さんに習って私も熱帯イチゴに手を伸ばしました。大きめのイチゴに食欲が溢れます。少しくらい摘み食いしても良いですよね。
「頂きま───」
「おい!!」
「───ひぃぃいいい!?」
摘み食いをしようとしたら、何故か親父さんに凄い形相で手を掴まれました。
え、そんなに怒られるんですか。さっきまで凄く優しそうだったのに。
「危ないぞ」
「……はい?」
しかし、続く親父さんの言葉に私は意味が分からず固まってしまう。危ない、とは。
「そいつは熱帯イチゴじゃない」
彼の言葉と同時に、私が手にしていたイチゴが何故か震えました。
───そして、種のブツブツだと思っていた至る所から針が伸びてくる。
「痛っぁ!? は、え、何!?」
それはもう、まるで丸まったラドバルキンのような姿に変貌した熱帯イチゴ。針が手に刺さって普通に痛い。
いや、なんですかコレは。ホラー小説に出て来そうな姿になってしまったんですが。
こんな針だらけの物食べられる訳がない。そして、私はコレを口にしようとしていた事を思い出して冷や汗が流れました。
「こ、これは一体……」
「コイツは熱帯イチゴもどきサボテンだな」
もどきサボテン。
「名前の通り熱帯イチゴに凄く似てるサボテンだ。素人には見分けるのが難しいから、注意するんだぜ」
「そ、そうですか……」
もう一度その熱帯イチゴもどきサボテンを凝視する。美味しいイチゴに化けて人を刺すサボテン。なんて恐ろしい植物だ。
世界中のハンターさん、狩場はとても危険です。
そんな訳で、熱帯イチゴを少し集めて私達は船に戻りました。
船で待っていた大将さんは私達から熱帯イチゴを受け取ると、貨物室に置いてもらっている竜車のキッチンに戻っていく。
この船にもキッチンはあるようですが、そこは大将さんの拘りというか。自分のキッチンで調理がしたいらしい。
「───へい、お待ち。熱帯イチゴパフェだ」
そうして大将さんが甲板に持って来たのは、大きめのグラスに入ったパフェでした。
グラスから溢れそうな程盛られた熱帯イチゴの下には、生クリームや氷結晶イチゴのアイスが層を作っている。なるほど、だから追加のイチゴなんですね。
アイスにした氷結晶イチゴと熱帯イチゴをふんだんに使ったデザートの一品だ。
「ほほぉ、こいつは凄いな! パフェっていうのか?」
「街とかだと売ってたりしますよね。女の子に人気なスイーツですよ」
大都会の娯楽としては広まっていますが、あまり世には広がっていない料理でもあります。
贅沢という贅沢を纏めたようなスイーツなので高いんですよね。街でも本当、お金持ちの女の子かハンターの女の子ばかり食べていました。
私も友人のCの奢りで食べたんですけどね。
「まさかこんな所でパフェを食べられるなんて」
「暑いんだから溶けちまう前に食えよ」
大将さんの忠告もあり、私と親父さんはさっそくスプーンを手に取ってパフェに向けます。
まずは熱帯イチゴ。生クリームの上に綺麗に乗っているイチゴには、薄められたハチミツが塗ってあり光沢が太陽を反射していました。それを、一口でガブリ。
「───っぅぅううう!」
炎天下で育ったイチゴの酸味が、ハチミツや生クリームの甘味と絶妙に絡み合う。
包み込むような甘さなの中に感じる酸味が、暑さで全身から流れる汗を吹き飛ばすようだった。
「こいつは美味いな!」
「甘酸っぱいイチゴは生クリームやハチミツに合うからな。熱帯イチゴは味が強いから、合わせて食ってもイチゴの味は霞まない」
「ほうほう、やるじゃねーか大将」
親父さんは感心しながら、パフェの下の段にスプーンを向ける。
暑さで程よく溶けたアイスはスプーンが通って簡単にすくいあげる事が出来た。
私も親父さんに並んで、アイスを口の中に頬張る。
「───んっ」
冷たい。
脳天を貫くような感覚。冷たい物を食べた時のこの感覚、なんだか癖になりますよね。
肝心のお味は氷結晶イチゴをベースに程よく甘味が掻き出されていて、ほのかな酸味を楽しむ生のイチゴとはまた別の美味しさがそこにはありました。
アイスと生クリームの層の間に入っているフレークを合わせて食べれば、また違った食感が楽しめる。層を重ねる毎に溶けたり混ざったりして深まっていく味が、パフェの最大の楽しみだ。
「かぁぁっ、この暑さの中食べるアイスは格別だなぁ!」
身体の芯に効いてくるというか、砂漠で飲むクーラードリンクというよりはお風呂上がりのミルクみたいな。
とにかく食べていて気持ちが良い、そんな料理です。
「───しかし、惜しいなぁ」
パフェを食べわ終わって、親父さんは名残惜しそうな声を漏らしました。もっと食べたかったんでしょうか?
「んぁ?」
「出来るならお前さんを旅の仲間に入れたかったぜ。そうしたら毎日美味いものが食えるんだろう?」
親父さんはそう言って口角を吊り上げる。
大将さんはすまし顔で「そうだな」と、短く答えました。
「悪いが───」
「分かってる分かってる。夢があるんだろ?」
続く大将さんの言葉を親父さんが遮る。大将さんは目を細めて少し首を横に傾けました。
「夢ってのは良いよなぁ。どこまでも追い掛けたくなる。そんで、お前さんは夢が叶ったらどうするよ?」
「夢が……」
大将さんの夢。それは、こんがり肉Gを焼く事です。
彼が目指す究極の味。それがどんな味なのか分かりませんが、もしその夢が叶ったら大将さんはどうするつもりなんでしょうか。
「俺達竜人族は人生が長いからな、こうやって色々考えるのさ。あんたも、色々考えな。もし次の夢が見付からなかったら考え直して俺の所に来ても良いぜ」
快活に笑う親父さんは「夢に悩むな、夢を楽しめ」と言って笑いました。
その言葉がどういう意味なのかは分かりません。
ただ、大将さんはその言葉を聞いて少しだけ表情が暗くなる。
もしかして大将さんは悩んでいるのかもしれない。私はそんな事を思いました。
〜本日のレシピ〜
『熱帯イチゴパフェ』
・熱帯イチゴ ……8個
・氷結晶イチゴ ……8個
・砂糖 ……20g
・生クリーム ……100g
・ハチミツ ……20g
・コーンフレーフ ……50g
・クヨクヨーグルト ……200g
こちら特製特大サイズになります。たっぷり甘いものをとってハッピーになりたい貴方へ。
春イチゴの季節が来ますね!そんな訳でイチゴパフェ。
熱帯イチゴもどきサボテンはアニメ、モンスターハンターストーリーズライドオンより。
世はコロナウイルスで大変ですが、お身体にお気を付けてお過ごし下さいませ。読了ありがとうございました!