モンハン食堂【完結】   作:皇我リキ

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menu09……ホットミート

 それは小さな夢でした。

 たった一つ、明日の晩ご飯はシチューにしようみたいな小さな夢。

 

 願ったのは狩りに出向くハンターとアイルー。

 身体を焼くような灼熱の砂漠で、二人は不器用に笑いながらもお互いの手を取る。

 

 

「ねぇ、タイショー」

「……んぁ?」

「また……食べたいね」

「……あぁ。そうだな」

 またいつか、必ず───

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

『menu09……ホットミート』

 

 

 肌寒い。

 砂漠で出会った親父さんの船に乗せてもらって、予定よりも早く砂漠を越える事が出来ました。

 

 向かうは雪山、フラヒヤ山脈という事で。モンハン食堂は今日も旅をしています。

 

 

「少し寒くなって来ましたね」

「山を登ってるからな。標高が上がれば気温も下がってく」

 サンセーの手綱を握りながら、視線の先を変えずに大将さんはそう言いました。

 

 親父さんと別れ数日。険しい山を登る私達の視界には、所々に白く積もった雪が見える。空は少しだけ曇っていて、昼間なのに景色は暗かった。

 大将さんの表情もどこか冷たくて、私は一人そわそわしている。親父さんと出会ったあの日から、大将さんは何か悩んでいる気がした。

 

 

「夢に悩むな……夢を楽しめ、か」

 ふと思い出して、私の口からそんな言葉が漏れる。

 

 きっと大将さんの悩みは自分の夢。こんがり肉Gを焼く事だ。

 あんなに料理が上手い大将さんなのに、こんがり肉Gを焼く事が出来ない。そもそもこんがり肉Gがなんなのか分かりませんが、大将さんはやっぱり悩んでいるのでしょう。

 

 

 私に出来る事は───

 

 

「大将さん、お腹減りませんか?」

 ───まだ分かりません。

 

「んぁ? さっき朝飯食ったろ。たらふく、ババコンガみたいにムシャムシャと」

「乙女の私をババコンガと申しますか!?」

「同じピンクじゃねーか。ほら、怒ると顔が赤くなる」

 ククッ、と笑う大将さん。私は目一杯吠えて怒ったのですが、力み過ぎてアレが出てしまい大将さんは爆笑しました。私は大泣きしました。

 

 

 程なくして、景色に白が多く混じるようになる。本格的に雪山に近付いてきた証拠だ。

 

 

「なんだぁ?」

 ふと視界に、白に混じる異様な色が見えて大将さんはサンセーの足を止めさせる。

 近付いて確認するとその色は赤でした。血と肉の色。水場の直ぐそばに、モンスターに食い散らかされたケルビの死体が転がっている。

 

 

「大型モンスターではないですよね?」

「この付近に肉食のモンスターがいるなんて話は聞いてないがな……」

 怪訝そうな大将さん。曰く、ギルドの調べでここ最近は危険なモンスターが発見されていない道を進んでいる最中だった筈だとか。

 

 ギルドの調べが絶対という訳でもなければ、モンスターの動向なんて把握する方が難しい。

 それでもある程度肉食のモンスターが少ない場所というのは統計的にあるようで、大将さんは眉間に皺を寄せて舌打ちをした。

 

 

「そんなに不安そうにしなくても、私が居るじゃないですか! 私は一応ハンターですよ!」

「んぁ……忘れてたな。……さらに不安要素が増えた」

「なんで」

 私はハンターです……よ? 

 

 

「むぅ……。それに、なんかヤバイモンスターが出て来てもタイショーさんがパパッと倒してくれるんじゃないですか?」

「狩りはもうしない」

 即答して、彼は竜車に戻る。

 

「タイショーさん……?」

 前にも同じような事を言っていたような。

 

 

「行くぞ、ソイツの犯人は大体の察しが付いた」

 そう言って大将さんは竜車に乗って手綱を引きました。動き出すサンセーを見て、私は慌てて竜車に戻ります。横目でみる血肉は、景色に似合わず痛々しい。

 

「ま、待ってくださいよぉ!」

「……おそらく犯人は奴等だが、こんな麓にまで降りてくるのか?」

 加減そうな顔でそう言う大将さん。私にはさっぱりですが、彼は何かが引っかかるようだ。

 

 

 しばらく道なりに進む。このまま何事もなく辿り着ければ良いのですが。

 

 

「タイショーさん何してるんですか?」

 モンスターの捕食痕を見た後、竜車の手綱を引く役目を変わった大将さんは後ろの方で何か作業をしていました。

 頃合いからしてお昼ご飯でしょうか? 考えるだけでもお腹の虫がなります。

 

 チラッと背後を覗くと、大将さんは生肉を触っていました。肌寒くなって来たし、お得意のこんがり肉を作ってくれるのでしょうか。熱々のこんがり肉を想像しただけで涎が漏れそうだ。

 

 

「ご飯ですか!」

「コレはお前の分じゃねぇ。つーか前を見て運転しろ」

「うぐ……そんなぁ」

 大将さんだけご飯を食べる気です。ズルい! 私もお腹が減ってるのに! 

 

 

「───って、うわぁ!!」

 しかし大将さんには逆らえないので、私は渋々視線を戻しました。すると、数匹のモンスターが木々の間から出て来る姿が目に入る。

 

「た、タイショーさん! ギアノスの群れです!」

「だろうな」

 ギアノス。

 イーオスの仲間で、ランポス種の中でも雪山を生息地にする鳥竜種のモンスターだ。

 

 見た目は真っ白に黒の縞模様のある身体に、青色の鶏冠と黄色い嘴。その姿はランポスというモンスターによく似ていて、最近まではランポスと同種か亜種だと思われていたらしい。

 

 

 だけど雪山に適応したこの種族は、口からとても冷たい液体を吐き出して相手を凍らせてしまう特技を持っている。ランポスよりも少し厄介なモンスターだ。

 

 

「だろうなって!」

「良いから退け」

 慌てふためいて逆に動かなくなってしまった私の後ろから、大将さんはさっきまで触っていた生肉を手に竜車を降りる。

 そのままギアノスの前に立つ大将さん。その手に持っているのは武器ではなくて生肉だ。大将さんも凄く慌ててないですか? 

 

 

「大将さん!?」

「良いから黙ってろ」

 静かにそういう大将さんは、ゆっくりと姿勢を落として手に持っていた生肉を地面に置く。

 

「へいお待ち。……腹減ってんだろ、食えよ」

 そう言って、大将さんは不敵に笑いました。

 

 

「大将さん……?」

「アイツら腹減ってるだろうからな」

「いやそうじゃなくて、なんでモンスターにまでご馳走してるんですか!?」

 モンハン食堂はついにモンスターにまでご飯を出すお店になってしまったのでしょうか。

 

 

「まぁ、見てろって」

 呆れ顔でそう言いながら戻ってくる大将さん。

 ギアノス達は警戒しながらも、その内の一匹がついに生肉を嘴で突く。

 

 

「い、今のうちに逃げちゃいます?」

「背中を見せた瞬間襲われるぞ」

 怖い事言わないで。

 

 他のギアノス達は、いつでも私達を襲えるように姿勢を低くしていました。

 しかし、ギアノスがついにその生肉を咀嚼した瞬間状況は一変します。

 

 

「───ひぇっ」

 ギアノス達が一斉に生肉に群がり始めました。我先にと生肉に噛み付くギアノス達の眼は血走っていて、恐ろしい光景に背筋が凍り付く。

 

 生肉は一瞬にして骨だけになってしまいました。なんならその骨を奪い合うギアノス達の内一匹が、血走った瞳を私達に向ける。

 そのギアノスに続く様に、他のギアノス達も頭を持ち上げた。

 

 

「焼け石に水だったのでは!?」

「お前難しい言葉知ってるな」

「何呑気な事を言ってるんです!?」

 あの量の生肉で満足して帰ってくれるお客さんは人間でも居ません。ましてや相手はモンスターで、団体客様です。

 

 その瞳は次なる御馳走である私達に向けられていました。しかし───

 

 

「え?」

 ───ふと、まるで糸が切れたかのようにギアノスが一匹その場で倒れる。そして残りのギアノスも続く様にバタバタと横倒しになってしまった。

 

 一体何が。

 

 

「お粗末さん」

「まさか……盛った!?」

 考えられるのは一つ。あの生肉に毒が盛ってあったという事。さっき後ろで生肉を触っていましたし。

 

「客に毒盛って殺す料理人が居るかよ」

 しかし、大将さんはそんな私の予想を否定しました。なら、どうしてギアノスは倒れてしまったのでしょうか。

 

「よく見ろ」

「え?」

 ギアノスを指差す大将さんに釣られて、私は倒れているギアノスに視線を向ける。

 

 

 ギアノスは特段苦しんで倒れた様子はなかった。

 そして、よく見ればギアノスのお腹が膨らんだり沈んだりしている。それは、まだ息をしているという事だ。

 

 

「お腹いっぱいになって寝ちゃったんですかね?」

「お前じゃあるまい」

 酷い。

 

「え、ならなんで───」

「あんまり騒ぐと客が起きる。後で説明してやるから、とっとと行くぞ」

 そう言って大将さんは手綱を私から奪って、寝ているギアノス達を避けて道を進む。

 

 真横を通っているのにぐっすりと寝ているギアノスを横目に、私達は雪山を登るのでした。

 

 

 

「寒い……」

 それから暫くして、辺り一面の雪景色に自分の身体を抱いて口が勝手に開く。

 開いた口はカチカチと音を鳴らして、私の身体は震えていました。

 

 雪も降ってきましたし、そろそろ休憩がしたい。

 

 

「この辺りに洞窟があったんだが……。よし、今日はあそこで休憩だ」

 それで私達は、日が完全に沈む前に洞窟を見付けて休む事に。

 

 洞窟の中に入ると幾分かは暖かいですが、雪山の寒さに慣れていない私は身が凍る思いです。

 

 

「ここ、フルフルとか出ないですよね……」

「小さな洞窟だから大丈夫だろ」

「詳しいんですね……」

「雪山の事は多少な」

 そう言って大将さんは薪に火を付けました。私は丸まって火に近付いて暖を取ります。

 

「髪の毛燃えるぞ」

「その前に凍っちゃいますよぉ……」

 あまりにも寒い。そろそろホットドリンクとか用意しないといけないと思うんですけど、あれ美味しくないんですよね。

 

 

「……ったく、しょうがねぇ奴だ」

 大将さんは呆れ顔で立ち上がると、貨物車から生肉と何かを取り出しました。サンセーは休憩がてら乾草を食べています。私もお腹が減ったけれど、今はそれよりも寒い。

 

 

「何してるんですか?」

 戻ってきた大将さんは早速生肉を焼く───なんて事はせずに、ギアノスと出会う前みたいに生肉を触っている。

 そういえばギアノスが寝てしまった理由を聞きそびれていました。

 

「ギアノスが寝た理由だったか」

 私の心を読んだかのようにそう口を開く大将さんは、何か植物を持ち上げてこう続ける。

 

 

「ネムリ草だ。睡眠弾の素材だな」

「えーと、食べたら眠くなる草でしたっけ?」

 大将さんが取り出したのは、ガンナーが睡眠弾等にも使うネムリ草でした。それは文字通り、睡眠作用のある草です。

 

「やっぱり盛ったんじゃないですか!」

「毒じゃねーからセーフだ」

「ほぼアウト……。っていうか……今作ってるそれも、眠り生肉って事ですか!?」

 眠り生肉は文字通り、食べたら眠くなる生肉だ。ネムリ草と生肉を調合してモンスターに食べさせて、眠らせる事を目的とした半分罠みたいな肉です。

 

「んな訳ねーだろ。コイツはトウガラシだ」

「あ、トウガラシ」

 トウガラシというと、唐辛子。あの辛い奴だ。

 

 

「ハンターってのは生肉に毒テングダケやマヒダケ、ネムリ草を調合して罠肉を作る。……お前もハンターだろ」

 そう言いながら、大将さんはトウガラシを細かく刻んで生肉に擦り付けていく。調合の話をしているのですが、やっている事は調理なのでしょうか。そもそも調合と調理の意味合いはあまり変わらないのですけど。

 

 

「わ、私だってネムリ生肉くらい知ってます。そーじゃなくて、なんでギアノスがお腹を空かせてるって分かったんですか?」

 それも目の前の御馳走(サンセー)よりも小さな生肉に群がる程に。

 

 

「ギアノスは本来もっと雪山の上の方に居るモンスターだからな。……ソイツらが降りて来てるって事は、山の方で何かあって食糧が確保出来なくなった。つまり、腹ペコだって事だ」

 言いながら、大将さんはトウガラシを擦り合わせた生肉を焚き火で焼き始めました。トウガラシの独特な匂いが漂ってくる。

 

 

「ははぁ……。頭が良い」

「お前の頭が悪いだけだ」

 酷い。泣きますよ。

 

「……さて、上手に焼けましたと」

 話しながらも目は離していなかった生肉を持ち上げる大将さん。彼は少し匂いを嗅いでから、こんがりと焼けたそのお肉を私に向けました。

 

「ほら、お待ちどうさん」

「食べて良いんですか?」

「お前の為に焼いたんだっての」

 言われるがまま、私は大将さんが焼いてくれたこんがり肉を受け取る。

 

 

 細かく刻んだトウガラシの風味が湯気に乗って、見た目はいつも食べているこんがり肉なのにどこか雰囲気が違うと感じました。

 口にすれば、味覚からもいつものこんがり肉とは変わっていく。痛覚に近い辛さが身体を芯から温めるようで、寒さに凍えていたのが嘘かのように身体が熱くなっていった。

 

 

「辛……っい、けど……美味しい! スパイシー!」

 癖になる辛さというか、食べていないと余計辛くなるので食べ続けるというか。病みつきになる味わいに、私は夢中になってこんがり肉を頬張る。

 

 食べ終わる頃には身体はポカポカと暖まり、雪山の洞窟に居る事を忘れてしまう程でした。

 

 

「罠肉だけじゃなくて、こんがり肉にトウガラシを調合すればホットドリンクと同じように身体を温められるホットミートが作れるって訳だ。……まぁ、俺のはこんがり肉にトウガラシを調合するんじゃなくてトウガラシを刻んで摺り合わせてから焼いてるがな」

 その方が味がしっかりと混じる、と付け足して得意げな大将さんは自分の分のホットミートを焼き始める。鼻を突くような匂いで私はまた涎を垂らしました。

 

「やらんぞ」

「う……」

「残りはホットドリンクで我慢しろ」

「アレ美味しくないんですもん!」

「苦虫が入ってんだぞ美味いわけないだろ」

 それもそうか。

 

 大将さん曰く、ホットドリンクを美味しく作るには根気良く研究が必要らしいです。大将さんの夢は別にホットドリンクを美味しく作る訳ではないので、スルーしてるようですが。

 

 

「……半分やるからそんな目で見るな」

「やった」

 大将さんはなんだかんだ優しいのだ。

 

 

「ふぅ……美味しい」

 大将さんから再びホットミートを受け取って平らげた私は、ふと大将さんの夢を思い出す。

 こんがり肉G。ホットミートだってこんなに美味しいのに、このお肉もこんがり肉Gではないらしい。

 

 

「……このお肉も、こんがり肉Gじゃないんですか?」

「……んぁ、そうだな」

 薪を足しながら、大将さんはホットミートに齧り付いた。美味いと言って食べるけれど、その表情は何処か寂しそうです。

 

 

「こんがり肉Gはもっと美味い」

「大将さん……」

 どうして大将さんはそんなにこんがり肉Gに拘るのか。

 

 こうやって世界を旅してまでその味に辿り着きたい理由は───

 

 

 

「……雪、止んだな」

「あ、本当ですね」

「もう少しでポッケだ。……あそこは俺の故郷みたいな物だから、顔見知りも多いし忙しくなるぞ」

「ゲェ……」

 また労働が始まるのか、なんて思いながらも大将さんの表情を横目での覗きました。

 

 少しだけ明るくなった表情。

 故郷みたいな場所、ですか。もしかしたら、そこで大将さんの昔の事も聞けるかもしれません。

 

 

 ───大将さんがこんがり肉Gに拘る理由を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~本日のレシピ~

 

『ホットミート』

 

 ・生肉      ……400g

 ・塩胡椒     ……適量

 ・トウガラシ   ……1つ




四月も終わるというのに最近少し寒いですね。
流行病にも気を付けていきたいです。

読了ありがとうございました!
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