「もう一度言ってくれ、兄貴」
「…雨園飛鳥が、死んだ」
聞き間違いかと思ったが、どうやら違う。それではこれは何の冗談だろう?
「ごめん兄貴、俺、疲れてるんだ」
「玄弥、そこに座れ」
「今回の任務は結構キツかった、情けないけど、呼吸を使えないからボロボロでさ」
「さっさと座って話を…」
「聞きたくねえよ!!」
「玄弥ァ…」
「聞いたら、現実になるだろ!!信じねえ!!俺はそんなこと絶対に信じねえ!!」
子どものように泣きながら癇癪を起こす俺を、兄貴はその傷だらけの腕で乱暴に抱き締めた。
情けないことに、声が枯れるまで俺は涙が溢れて止まらなかった。
「玄弥なら絶対に柱になれるって!この私が言ってるんだから、まあ確実よね~?」
最終選別を生き抜いて、たった六人の同期となったうちの一人の雨園飛鳥。
飛鳥は本当に無茶苦茶な奴だった。
どんなに悪態をついて拒絶を繰り返しても、せっかくの同期なんだからと付きまとってきた。
そんなことを繰り返すうちに絆されて、自然と時間を共有することが当たり前になった。
「無理に決まってるだろ?俺、呼吸使えないし」
「あらあら?そんなことで諦めるの?どんな時代にも先駆者っているものよ?誰かが通った道をそのまま進むの?主体性ないの?つまらないわよ!」
「面白いかどうかの問題かよ」
「当たり前よ!人生は常に波乱万丈と冒険に満ち溢れているの!大昔の大将軍様達も道を切り開いて国を守ったのよ?そんなことではね、この国を引っ張っていけないわよ!?」
「話がズレてねえか?」
あの人格者である炭治郎も真っ青の飛鳥の自由奔放ぶりは俺達同期の、いや、冗談抜きで鬼殺隊全体の頭痛の種だった。
自分の領域に引き込んでは間を挟む暇を与えないことが飛鳥のやり方だった。
そんな飛鳥を本気で恨んだのは兄貴の件だ。
俺と兄貴を気絶させて、後から聞いた話では猪に運ばせて3つも先の山に投げ捨てた。
あの時の空気の悪さは死んだ方がマシだと思わせるぐらいのものだった…
けど、それが結果的に功を奏して、俺は兄貴の本音を知ることが出来て、謝ることも出来た。
そして、帰った後の兄貴の飛鳥への怒り狂いぶりは冨岡さん、煉獄さん、宇髄さんの柱3人に合わせて同期全員を巻き込んだ大騒動に発展した。
しかし、当人達は無傷で、怪我をしたのは周りの止めに入った人間ばかりだった。
その後で、怪我人が蝶屋敷に担ぎ込まれた時の胡蝶さんの背後には般若がいた。
今でも鬼殺隊内で世にもおぞましい事件として語り継がれてしまっている。
「玄弥は柱になって、実弥っちとお互いに背中を預けながら鬼と戦うの!これ決定事項よ?」
「分かったから、頼むから兄貴の呼び方どうにかならねえか?」
「私はそれが見たいんだってば!この私がこんなに頭を下げてるんだから絶対に叶えてよね~?」
「本当に話聞かねえし、まずどこが頭下げてんだ」
「心の中ではいつだって土下座してるわよ?」
どんなにやり方が無鉄砲で後先を考えていなくても、そのことがきっかけで兄貴と仲直りが出来た。
今こうして悲鳴嶼さんの屋敷を出て、兄貴と以前のように暮らせるのも全部飛鳥のおかげなんだ。
飛鳥には感謝してもし切れないんだ、これからずっとこうやって振り回されるんだと思ってた。
「なあ、兄ちゃん!兄ちゃん!全部嘘だよな!?頼むから、嘘だって言ってくれよ!!」
「…鬼に殺られたんだァ」
「そんなわけねえよ!!飛鳥は殺しても死なねえような奴なんだよ!俺よりずっと強いし!兄ちゃんも知ってるだろ!?」
「遺体は蝶屋敷にあるそうだ」
「俺、約束したんだ!一緒に柱になるって!!それまで絶対に死なねえって約束したんだよ!!」
(俺はまだ飛鳥に何も返せてねえよ)
――何を泣いてんの?と俺を笑いに来てくれよ