「カナヲ、出て来て話を聞いて?」
「ごめんなさい…」
お願いです、神様、本当に神様という存在がどこかにいるのならこの夢から覚まして。
「カナヲ?これは大切な話なのですよ」
「今は…出来ないです…」
「もう部屋にこもって3日目ですよ、アオイ達も心配していますし、せめて食事を…」
「師範」
「…何ですか?」
「あの子は…飛鳥ではないですよね…」
「カナヲ、入りますよ」
襖を開けて入って来た師範は、少し驚いた顔をしてからすぐにまた悲しそうな顔をした。
私の目から水がひとりでにポロポロと零れ落ち、これが涙なんだと考えていた。
「よし、また笑ったね!?さすが私!貼り付けてる笑顔なんかより、カナヲはそんな風に素直に笑った方が可愛いんだからね~?」
最終選別を生き抜いて、たった六人の同期となったうちの一人の雨園飛鳥。
私にとって初めての友達で大好きな子。
飛鳥曰く私は笑っていないらしく、何度も私を笑わせようとたくさんの策を講じてきた
いつしか、心が鈴の音を鳴らしたような感覚に襲われて笑うと飛鳥はものすごく喜んでくれた。
「飛鳥も可愛いよ」
「カナヲ?私が可愛くて美しくて太陽も霞むほどの存在なんてことは知っているわよ?けど、カナヲには私とは違った魅力があるの!」
「魅力?」
「ありもありまくりだよ!?私が太陽なら、カナヲは月なのよ?闇夜に浮かぶ唯一無二の目を覆いたくなるほどに光り輝く宝石のごとくなのよ!」
「飛鳥、言葉いっぱい知ってるね」
玄弥は飛鳥を見てると頭痛がすると言ってるし、師範も飛鳥は鬼殺隊の要注意人物の中に入ってるって言ってたっけな。
私からしたら、飛鳥は人の心の囲いを壊すのが人よりすごく上手いんだと思う。
そんな飛鳥がとても羨ましかった。
ある時は、師範に来る日も来る日も小さいことから大きなことまで悪戯を仕掛けていた。
そのことに周りは常にハラハラしていて、冷や汗を大量に流していたな…
そして遂に、笑顔を絶やさずに冷静だった師範は烈火のごとく飛鳥を叱った。
その事が一部の柱や鬼殺隊員に多大な影響を与えて餅を喉に詰まらせるなどの、日常的なことで負傷する隊員が3倍に増えてしまった。
けど、全ての元凶である飛鳥はそれはそれは満足そうに師範に対して笑うだけだった。
霞柱が動揺して額にたんこぶを作ったり、恋柱は天丼を30杯くらい食べるのに12杯しか食べないでお腹を壊していたりしたのに。
その日が、蝶屋敷の最多怪我人数の最高記録として未だに抜かれることはない。
「カナヲと私がコンビを組んだなら、太陽と月で最高で最強だと思うのよね!どうかな!?」
「私は飛鳥と一緒なら、何でも出来る気がする」
「そうだよね!?さすがカナヲ!私の全人類を超越した思考を理解出来るのはカナヲだけ!」
「うん、私だけ」
「もうもうもう!何でそんなに可愛いのよ!?」
どんなに周りから嘆きや苦情がきても、結果的に師範は抑えていた感情をさらけ出すことが出来た。
私には出来なかったこと、大切な人の心を解き放ってあげることが出来たのは飛鳥がいたから。
これからだって、隣で一緒に過ごして一緒に大人になるんだと当たり前に思っていたの。
「師範?あの運ばれて来た子って飛鳥と同じように赤い髪だけど、飛鳥じゃないですよね?」
「…赤い髪はすごく珍しいんですよ」
「帰ってきたらトマトがいっぱい食べたいって、飛鳥言ってたんですよ?トマトのためなら絶対に飛鳥は帰って来ます…ぜったい…かえ…」
「あのままにしておけないんです、しっかりとお別れをしてあげなければ飛鳥さんも可哀想ですよ」
「…おわか、れ…あ、すか…うああああああ!!」
(私は飛鳥と未来を生きたかった)
――私の頭を撫でる優しい手を返してよ