ライジングインパクトスピンアウト第一弾です。走り屋集団「キャメロット」の、光と影。

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疾風たちの挽歌

1:疾風

 

 

 メリ……!

 アーサーの拳が相手の鳩尾にめり込んだ。

 相手は鉄パイプを取り落とし、崩れ落ちる。

 だが、終わりではない。いや、倒せば倒しただけ敵が増えている、そのような錯覚にさえ陥ってくる。

「チッ、ウーゼル! 切りがねえぜ!」

「分かってる! かと言って、このまま手をこまねいているつもりも――」

 ウーゼルの傍に新手。――新手も何もない。四方を敵に囲まれているのだ。

「無いが、な!」

 バキィ!

 鋭い呼吸に伴い、あざやかな蹴りの一閃。

 それを見ていたアーサーの動きが一瞬止まった。それほどの蹴りだった。

 だが、いつまでも止まっているわけにはいかない。すぐさま気を取り直し、周囲の敵をなぎ払う。そしてウーゼルの背後につく。

 お互いの死角を補う。口で言うのはたやすい。だが、多数の敵が相手ともなると、常に動き回ることになる。実戦で実行できるのは共に高い実力を備え、かつ息が合っている二人だけだ。

 ――そして、その二人が俺達だ。

 また一人を倒すと、覚えずアーサーの口元に笑みがこぼれ出た。

 何人もの集団を向こうに回したところで、負けない自信がある。俺の後ろにはウーゼルがいる。ウーゼルに俺がいるのと同じように。

 限りない一瞬――次の瞬間を生き延びるかすらも怪しい勝負の世界。

 その喧嘩も、結局どのようにやり過ごしたのだったか。

 もう、覚えてはいない。

 

 双頭の不死鳥――

 アーサーとウーゼル。フェニックスの家に生れた双子。天が双子に与えたのは、何よりも“上”への貪欲さだった。互いがライバルとなり、鎬を削る――時にウーゼルが優越し、時にアーサーが優越する。

 誰よりも手強い相手が、隣にいる。

 二人が“街”で頭角をあらわすのに時間はかからなかった。だが、同時に多くの敵も作った。戦い、倒し、時には逃げ――どれほど同じようなことを繰り返しただろう。

 

 街は二人に厳しさを教え、一方ではかけがえの無い仲間を与えた。

 全力で戦い、勝つこと。やがて芽生えるもの――絆。

 名前を挙げていけばきりがない。誰もがかけがえの無い仲間だ。時に反目しあい、火花を散らせもした。だが、ひとたび殴り合えばすべてはゼロに戻る――時間を忘れ、お互いの足腰が立たなくなるまで。

 誰もが、本能的に悟っていた。

 拳で得た絆は、拳によって深まるのだ、と。

 殴り合いが済めば、あとは走るだけだ。

 トルクのうなり声、全身に伝わるエンジンのヴァイブレーション。

 高まった血潮をマシンに預け、アスファルトを疾走する。

 正面から叩き付けてくる風。限界ぎりぎりのスピード。幾つものコーナー。ひとたび気を抜けば死へと繋がる恐怖――すなわち、スリル。

 

「俺はもっと速くなる」

 アーサーは確信していた。

 仲間達の誰よりも速い。そう言い切る自信があった。ただ一人――ウーゼルを除けば。戦い、走り、騒ぐ。気付けば多くの仲間に囲まれている。だが、それでも奴は特別なのだ。

 アーサーの脳裏に過去の映像がよぎる。

 ウーゼルの蹴り。数多く繰り返して来た喧嘩の中でよぎった、ほんの一瞬のできごと。まだ今ほど仲間が多くはなかった時期のただ一こまが、あまりにも深く、そして強く焼き付いてしまっている。

 何故と問うてみても、答えは出ない。狂おしい感情が胸をかき乱すだけだ。正体の見えない「何か」に圧迫される。分かっているのはただ一つ――ウーゼルに勝たねばならないということ。勝たねば、この気持ちの正体も分からない気がした。

 だから、俺は速くなる。速くなりたい――そう思うから。

 

“街”とだけ、彼らは呼んでいる。

 長崎市の外国人居留区――とは言っても、もはや名ばかりが残っているのみだが、その中には未だ混血の進んでいない人間たちもいる。日本にあって日本に溶け込めきれていない世界。界隈の大人たちは頑なに閉じた世界の住人と化し、なればこそ満足な生活すら送る事もできていない。

 だが、子供たちは違った。

 大人たちが感じている壁などまるでないもののように乗り越え、日本人たちと接触していく。日本語など、自然に覚えていた。お世辞にも上品な代物とは言えないにせよ、だ。

 それでも世間からの風は辛いものだった。“街”の子供だからというだけで奇異な目で見られる。差別は、露骨だった。

 一人で生き延びるのは難しい。かと言って、大人たちは頼りにならない。子供たちで力を合わせていくしかない。そんな子供たちが“街”で一集団を形成するのは必然といえた。

 双頭の不死鳥を摸した図柄、その下には Camelot の文字列――

 ウーゼル・フェニックス、そしてアーサー・フェニックスの二人をトップに据えた運命共同体。後に初代キャメロットと呼ばれることになる集団である。

 

 

2:彼女

 

 

「そういや、マーリンから聞いたんだけどな」

 ウーゼルがそう切り出して来たのは、馬鹿騒ぎの帰り、徒歩で帰途についている時だった。

「マーリンから……?」

 頭が反響する。飲みすぎてしまったらしい。

 ウーゼルの肩を借りずして歩けない。それがアーサーの現況だった。元々酒があまり強くないのに加え、柄にもなく大飲みしてしまった。結果これなのだから、情けないことこの上ない。

「ああ。なんでもこの近くにいい腕した修理工がいるんだと」

「何でまた、そんなもの……う! 悪い、ウーゼル!」

 ウーゼルから離れ、路傍に吐瀉してしまう。

「おいおい、これで何度目だよ」

 後ろからウーゼルの苦笑が聞えた。

「……悪かったな」

「別に悪いってわけでもないんだがな」

 振り返ると、既にウーゼルが手を差し伸べている。

 悪い、と言いそうになった。どうにも気まずい。舌打ちを洩らす。

 ウーゼルは笑顔のまま再びアーサーを担いだ。

「で、修理工が何だって?」

「ああ、俺もお前も随分乗り回してるから、この辺で一回見てもらうのはどうかって思ってるんだ」

「バイク、か」

「そう。テレビなんて乗り回しても仕方ないだろ」

「そりゃ仕方ないが」

 そういう問題なのかよ、と突っ込みを入れていいものやらで迷う。だが障らぬ神に祟り無しとも言う。つつがなくやり過ごしておくのが、結局は無難なのだろう。

 だからひとしきり頭を悩ませ、別の質問を絞り出す。

「いい気分とも言えないんで、次で最後の質問にするが」

「ん?」

「その提案は、俺が断らないことを前提にしてるだろう」

 ウーゼルが無邪気に笑った。

「どっちだと思う?」

 

 七海モータースの建物は一見してボロ屋だったが、よく見てみてもボロ屋だった。

「……繁盛、してそうだな」

「そう言うなよ」

 と言うウーゼルの顔色も決して優れたものではなかった。こめかみには一滴、口元も引きつっている。その状態で無理に笑顔を演出しようとしているのだから、もはや見れた顔では無くなってしまっている。

 ふとアーサーは思ったことを口にしてみた。

「その顔を奴らに見せたら面白そうだ」

「冗談も大概にしてくれよ、お前の前でなきゃするもんか」

「大概だろう? 何せ冗談だからな」

「……!」

 返すべき言葉を失ったウーゼルを見てアーサーはほくそ笑んだ。ようやく一本取り返した。

「ま、それはいいさ。とりあえず入ってみようぜ。腕前と繁盛振りがいつも釣り合ってるとも限らんしな」

 

 店内は妙な構造をしていた。

 サイクルショップと言えば軒先にバイクやら何やらが並んでいるのが普通だ。ところが七海モータースの場合は軒先が極めて狭く、代わりに店内の通路を経て、裏口から出た場所に整備器具やらバイクやらスクラップの山やらがあった。

「噂ってのも、なかなか馬鹿にならないもんだ」

 辺りを見回し、感心したようにウーゼルが呟く。

「なんだよ、お前マーリンから聞いたって」

「あいつが『これ、噂なんだけどな』って持ち掛けてきた」

「そんなもの鵜呑みにして……」

「いいだろ、結局当たりだったんだし」

 返す言葉を失ってしまう。そうだ、そういう奴だった。

 と、そこへ、

「誰だ?」

 バイクの向こうから声がする。そう年の行った声ではなかった。行っていて30代。ただ、その声には険が混じっていた。まるで禁域に土足で踏み入ったものをとがめだてするような――

 男が姿をあらわす。油まみれのツナギに身を固めた、いかにも整備工と言ったいでたちをしている。日本人だと一目で分かった。日本人の、しかも大人だ。それだけでアーサーは一瞬身構えてしまった。

 だが、ウーゼルは違った。

「ここにあるのは、全部あんたの仕事か?」

 一台のバイクに手を触れ、逆に尋ね返す。

 男は一瞬呆気に取られたようだったが、すぐに表情を引き締めると、

「先に質問したのは俺のはずだが」

 と言い返して来た。

 激したところ一つなく、静かに、――だが有無を言わせぬ声色。

 一瞬アーサーの首筋が粟立った。これまでに多くの喧嘩を経て、修羅場には慣れて来たはずだった。だが、男から感じる気配は全く異質のものだった。

 隣でウーゼルが肩をすくめる。

「そうだな、悪かった。俺はウーゼル、そしてこいつはアーサーだ」

「ウーゼルにアーサー――そうか、“街”のガキどもだな」

「そろそろガキって年でもないんだがね」

 ウーゼルが苦笑する。

「手前らなんぞ、俺の目からすりゃいつまでもガキだ」

「違いない」

 いつの間にやら男から例の気配が消えていた。内心安堵する。が、同時にそれがウーゼルの手腕によるものだと言うことも理解する。

 思わずウーゼルを見た。――その手は、微かに震えていた。

「ウーゼ……」

「で? 質問に答えたんだ。今度はあんたが答えてくれるんだろうな」

 だが、その声は決してぶれない。堂々としたものだ。

 自分の言葉が遮られたのも忘れ、アーサーは二人を見守るより他なくなっていた。

「手前の質問に答える義理もないんだがな」

 男が溜め息をつく。

「まあいい。ご想像の通りだ。ここにあるのは俺が全部手掛けた。それがどうかしたか?」

「なら話は早い。単刀直入に言わせてもらう。俺らのバイクを、あんたにメンテナンスして欲しいと思ってやって来た」

「また随分直球勝負じゃねえか」

「いちいち回りくどいこと言ってみたって仕方ないだろう?」

 ウーゼルの震えが止まっている。

 ――覚えず、アーサーは二人から目を逸らしていた。

 

 久しぶりに味わう緊張だった。

 男は七海大造と名乗った。元々は長崎市近辺のグループを取り仕切っていたこともあると言う。言われてみてその迫力の正体こそ分かったが、それを聞いて迫力が減退することなど有り得ない。むしろ一層の重みを感じるようにすらなる。

 だと言うのに、ウーゼルは臆したところ一つ見せない。

「――やれやれ、大物なんだか馬鹿なんだかな」

 二人はいまだ話を交わしている。バイクのことであっという間に意気投合してしまっていた。

「あいつも喧嘩よりはバイクのほうが好きだからな」

 苦笑混じりに呟く。きっと大造もそうなのだろう。どうにもアーサーには理解しがたい話だった。

 一人店に引っ込み、ソファに腰掛ける。と、つい溜め息がこぼれ出た。

「やんだ、溜め息すっど幸せが逃げんぞ?」

 そこへ後ろからの声――弾けるように振り返る。

 反射的に拳を出していた。が、当たる寸前で停止する。

 相手は少女だった。

 目前の拳に注視しながらも、少女は決して動揺した素振りを見せない。

「おーおー、どうしてこう、兄ちゃんの友達ってば乱暴者が多いがねぇ」

 手にしている盆にはジュースの入ったコップが三つ。それを全くこぼさなかったと言うのだから、並の度胸ではない。ぱっと見凡庸そうなこの少女が、だ。

「あ……いや、済まない」

「いいっでば。慣れっちぇーし」

 少女は盆をテーブルに置いてから、ぱたぱたと手を振ってみせた。

 それにしても、随分と強い訛りで話す。一瞬少女が何を話しているのか理解できなかったほどだ。加えて明らかにこの辺りの訛りでもない――まして、今日び長崎でも若者の言葉にはあまり訛りが混じっていない。思わずアーサーは少女を凝視してしまった。

「あ、やらしー目」

「……あのな」

「ぬはは、冗談冗談! 気にすんなって!」

 言うなり少女がアーサーの隣に腰掛けてくる。あまりに自然な行動だったので、アーサーには驚く暇も与えられなかった。

 少女が裏口に目をやる。そして呆れ声で

「兄ちゃん、ああなっと長いからなぁ。あとどんぐらいかかんだべ」

 と呟いた。

「どうだろうな。ウーゼルもああなると長い」

「そうなんけ? ……あー、何だかおっとろしい話だなぁ」

「全くだ」

 同意する。附随し、つい笑みがこぼれてしまう。

「あ!」

 そこへ、少女のこの大声。耳に直撃だった。

「あんちゃん、笑顔のほうがかっごいいべ!」

 そこに更にまくし立ててくる。がんがんと頭を揺さぶられる気分になってきた。

「……あの、頼むからもう少し小さな声で」

「なして!?」

 止めの一撃。

 ――少女の名が笑子だと知ったのはその後のことだった。福島の生まれ。両親に早く先立たれ、縁故を頼って兄妹で全国を転々としたあげく、この長崎で落ち着いたのだという。

 

「そんで、調子はどうがす?」

 耳をつんざかんばかりの音楽、天井近くで回るライトボール――狂乱の世界。この中にあっては、誰もが怒鳴るような喋り方をする。そうでもしなければ、言葉が他人に通じない。まして皆酒が入っているのだから尚更だ。

 酔うと普段でも怪しい言葉遣いが余計に怪しくなり、しかも絡みぐせまでついてくる、世界はまさにマーリンの独壇場だった。

「その後って?」

「とぼけんでくんしゃい! バイクじゃがね!」

「ああ、……そうだな、まあまあさ」

「んあー? 聞こえんでごじゃるよ!」

「まあまあだ、って言ったんだよ!」

「そうがすか! そりゃ良かったっちゃ!」

 言うなり乱暴にアーサーの背中を叩く。ちょうどウーロン茶を喉に流し込もうとしていたからたまらない。気管に液体が飛び込み、ついにはむせこんでしまった。

「何じゃ、アーサーどんは相変わらずお間抜けじゃのう!」

「誰のせいだ、誰の!」

 もちろん気にするマーリンではなかった。ガハハと笑いながら何杯目かの生ビールを喉に流し込んでいる。隣にいるせいか、アーサーも途中までは知らず知らずのうちにマーリンの回戦数を数えていたのだが、もう馬鹿馬鹿しくなって来た。投げ出して「胃に穴でも空いてんじゃないのか」と思わず呟く。殆ど愚痴だった。

「ったく、マーリンも相変わらずノリノリだな」

 ウーゼルが呟く。マーリンに対しては、丁度アーサーを挟む形になっている。

 アーサーは半眼でウーゼルを睨み付けた。

「何ならウーゼル、席でも替わるか?」

「いや、俺はお前ら二人の漫才見てる役でいいよ」

「ほう……?」

 ふとアーサーと、ウーゼルの向こうに座っていた少女の目が合った。

 ひらめく。少女に向かって叫ぶ。

「よーしミリアム、1、2の、3で行くからな」

「え、何が?」

 いきなり話を振られ、少女――ミリアムが狼狽する。

「決まってんだろ、俺が立った瞬間にウーゼルをこっちに押し込むんだよ!」

 ウーロン茶こそ飲んでいるが、アーサーもそれなりに杯を重ねている。いまさら勢い任せの発言をしてみることにためらいはない。

 すると、今度はミリアムとウーゼルが顔を見合わせることになった。

「お、おいミリアム、まさかアーサーの口車に乗ろうってんじゃないだろうな?」

 答えはミリアムの行動が物語っていた。

 アーサーが立ち上がるやいなや、ミリアムの強烈なプッシュ。さしものウーゼルも抵抗などしようがなかった。あっさりと転がされてしまう。

「ナイス連携!」

 周りから喝采の声が上がる。加えて、

「おぉウーゼルどん、よう来なっした」

 マーリンが見事にウーゼルを捕まえる。

「……や、やぁマーリン。元気そうだな」

「元気100バイトでおじゃる」

 皆が笑った。

 勢いよくウーゼルが座っていた席につくと、アーサーはミリアムと肩を組んだ。

「全く、アーサーってば乱暴なんだから!」

「そんな乱暴者に協力した奴は誰だったっけな?」

「あら? そんな悪い奴もいるの?」

「お前な――」

 そこまでを言い、アーサーは一瞬凍り付いた。

 ミリアムの顔に、何故か笑子がダブったのだ。

 数回瞬きをし、再び見る。――笑子の面影は跡形もなくなっていた。

「なに、アーサー?」

 そう尋ねてくるミリアムはあまりにもいつものミリアムで、幼なじみのミリアムで。

「いや、何でもない」

 つい軽口を叩いてみせる。

「世の中にはまだまだ性悪もいるもんだって思っただけだ」

 だが、心に一旦起こったさざ波はなかなか消え去らなかった。

 

 

3:齟齬

 

 

 ウーゼルは天才だった。

 何事にかけてもそうだったが、特に走りにかけては誰の追随も許さない。唯一アーサーが何とかその後を追える程度のもので、そのアーサーもここ最近ではどうも引き離されがちになってしまう。

 ――RINGを知ってからだ。

 叩き付けてくる風の中、ヘルメット無しでは満足な視界も得られない。だが、同じ条件下のはずだと言うのに、ウーゼルはまるで風など無いものであるかのように走っている。

 RING――円卓の騎士になぞらえて名をつけられたと言うそのバイクは、大造が絶対の自信をもって送り出したモンスターマシンだった。超高出力の怪物。そのパワーの故に乗るものを振り落とさずにはおれない暴れ馬。だが、ひとたび乗りこなせば乗り手を超速度の領域へ連れて行くと言う。

「お前がもっと速くなったら、こいつを譲ってやる」

 大造の言葉を思い出す。

 以来、ウーゼルは何かに憑かれたように走り始めた。

 ――七海モータースを知り、もう一月が経とうとしている。その間にウーゼルはバイクに関する様々なことを大造から吸収していった。

 もちろんアーサーも付き合った。ただし目的はバイクではなかった。

 笑子。

 おかしな話だ。ただ一人の少女に会いたい一心でウーゼルの酔狂に付き合ってしまう。

 時さえ経てば、いくらアーサーでも認めてしまわざるを得なかった。もはや自分の気持ちに抑えが利かない。これまで何人かと付き合っては来た。だが、笑子への気持ちは、明らかに異質のものだった。

「全く、俺らしくないんだがな」

 皮肉に笑う。

 異変が起こったのはその直後だった。

 突然、タイヤがグリップを失ったのだ。

 

「ったく、油断大敵だべ」

 鮮やかな手並みでりんごの皮を剥きながら、しかし笑子は完全に怒っている。見舞いに来てもらえたのは嬉しかったが、その顔を伺うに、素直に喜んでもいられない。

「本当だよな。別に雨が降ってたわけでもなし、何考えてたんだよ」

 ウーゼルが言う。

「大したことじゃないさ、ちょっと気が散っただけだ」

「気ィ散らすからいげねーんだ! 運転中はぴっとしでろって兄ちゃんも言っでだべ!」

「あ、いや、……済まない」

 笑子の後ろではいつもの面々が声を殺して笑っている。マーリンを始め、ティム、ジェーソン、レイン。ミリアムもいた。

「すっかりやり込められているようだな」

 相変わらず感情の伺えない声でジェーソンが言う。いつでも一人無表情のジェーソンだが、それはこのような状況下であっても変わらない。ただ、結局のところ「いつも通り」が尚更他の人間に笑いを助長させる。

「く……ジェーソン、お前、狙ったな?」

「何のことだ?」

 もちろんジェーソンの表情は揺るがない。アーサーにできることは、もううめく程度のものだった。

 舌打ちする。完璧な包囲網だ。アーサーにはどうしようもない布陣だった。

「たんと食って、早く怪我治すだな。次なんかねえようにしねぐっちゃ」

 怒りながらも、笑子がきっちり切り分けまでする。ついアーサーは「済まない」と謝ってしまった。

「次に飛んだらもう手前のバイクは直さねえ。兄ちゃんからの伝言だ」

「了解。肝に銘じる、って伝えといてくれ」

「どーだか」

「お前な、その言い方はないだろ」

「いんや、今回のことでよっぐわがっだ。おめは信用なんねー」

 自分で剥いた林檎のうち一切れをつまむ。

「いいが、ウーゼル! おめがこいづしっかり見でなきゃ駄目だ! 何すっが分かったもんじゃねえがらな!」

 ウーゼルが苦笑を洩らす。

「はいはい、重々承知させていただきますよお嬢様」

「んだ」

 やけに神妙に頷く笑子。さすがに他の人間たちは笑わずにいられなかったようだ。くすくすと隠しがたい声が聞えてくる。

 アーサーとウーゼルがほぼ同時に声の源へ向く。誰もが素知らぬ顔を取り繕った。

「ったく、こいつら。こんな時ばっかり連携するんだからな」

「お前のこといじめるのが趣味なんだよ、ウーゼル」

「俺だけじゃないだろ、お前もだ」

 事も無げに返してくるウーゼルに返事はせず、ただ薄く笑う。

 話の種は尽きない。取り止めもない馬鹿話は続き、笑い声も度々上がる。どうしようもない騒ぎぶりだった。ここが病院だと言うことも忘れてしまう。だから、終いには看護婦に退去を命じられることになってしまう。場所が場所なだけに従うより他なかった。

「それじゃ、また来る」

 部屋を出る間際に、ウーゼル。

「来なくてもいいぜ」

「邪険にするなよ」

 答えずに追い出す仕種だけをする。もちろん冗談半分だ。

 

 病室の窓から、帰って行く皆を眺める。うるさいのがいなくなってせいせいしたと思ってはみるが、一抹の淋しさも禁じ得ない。いつも馬鹿騒ぎしている連中の中、自分一人が混ざっていない――。

 中心はいつもウーゼル。その周りを皆が囲んでいる。

「あいつの居場所はいつでもあそこだ」

 辛かった。自分無しでも彼らは普通に談笑している。もし、あそこにいるのがウーゼルでなく、俺だとしたら――?

 目が自然と笑子を追っていた。ウーゼルの隣、普段であればアーサーが占めているはずの場所。その位置に彼女がいるのを喜ぶべきか否か。複雑な心境だった。

 二人が顔を見合わせて何かを話し、笑っている。――手を繋ぎながら。

 それを見た瞬間、アーサーの表情が凍り付いた。

「そういうこと、か」

 馬鹿馬鹿しい話だ。放っておけばそうなる、分かっていたことのはずだった。ウーゼルのことを誰よりも知るからこそ、笑子のことを誰よりも見ていたからこそ。

 窓から目を離した。離さずにはおれなかった。

 ――なので、アーサーは気付かなかった。

 皆が談笑する中一人立ち止まり、病室を見上げていた者――ミリアムの視線に。

 

「部屋まで暗くしてると、性格に染み付くわよ」

 ドアを開け、入って来たのはミリアムだった。手には二つのグラスとウイスキーのボトルが握られている。

「俺の勝手だろう。それより、何しに来た?」

「あら、随分な言い方じゃない? せっかく退院祝いに来てあげたのに」

「余計なお世話だよ」

「そんなこと言って他のみんなも追い返したわけね。――でもね、お生憎さま」

 ドアを閉めれば、唯一の光源が絶たれる。たちまち室内は闇に包まれる。

 ミリアムの影が動くと、アーサーの隣に座りこんだ。お世辞にも柔らかいとは言いづらいベッド。二人目の体重を受け、ぎしり、と音を立てる。

 アーサーは動かない。ミリアムを見ようともしない。

「あんたって、癇癪起こすといつもこう。全然変わってないんだから」

 ミリアムにとっては勝手知ったる場所だった。アーサーの部屋にはベッドとテーブル程度しかない。皆で集まり、騒ぐにはうってつけの場所なのだ。アーサーが事故を起こし、入院した前日もこの部屋で皆と騒いだ。――ただし、ミリアム一人での入室はしなくなって久しい。

 テーブルを引き寄せ、グラスを置く。そこにウイスキーを流し込む。

「あんたの好きなアメリカンビューティー。本当はもうちょっと値が張ったものにしようと思ったんだけど、やっぱりこういう時は飲み慣れたやつのほうがいいよね」

 ボトルをテーブルに置く。特にアーサーへ促そうともせず、ミリアムは一人先んじて口をつけた。待つ必要はない。遠慮のいらない間柄だからこそ許される。

 沈黙を保ったまま、いたずらにミリアムの酒だけが進む。

「――相変わらずだな」

 ようやくアーサーが口を開いた。

「何が?」

「お前の酒好きだよ。よくストレートで何杯も飲めるもんだ」

「今更じゃない。それより、あんたも早く飲みなさいよ。折角入れたんだから」

「――ああ」

 グラスを手にし、一気に仰ぐ。少量を流し込むだけで、もう喉が焼け付きそうだった。だが気にしない。――ミリアムにはもう無様なところを何度も見られている。今更彼女の前で見栄を張ってみてもしょうがない。張ったところで笑われるだけなのだから。

 だが、それでも限界はあった。元々大して酒に強いわけでもない。三分の一ほどを飲んだところで一旦グラスを置いた。もう頭がぐらぐらとしてきた。

「――本当に、情けないよな。ヤケ酒すらろくにできない」

 つい本音が漏れてしまった。言ってからしまったと思うが、もう遅い。

 だがミリアムの反応はアーサーにとって意外なものだった。

「いいじゃない、ヤケ酒なんて酔っ払った奴が勝ちなんだから」

「何だって?」

「いやなことを酒で流すんでしょ? 量の多少なんて問題じゃないわよ。どんなにたくさん飲んだって、あとにそれを引きずるんだったら飲み損。逆にどんなに少なくたって、奇麗に流し去れるんだったら飲み得。――あれ? 飲み得ってのもおかしいな」

 アーサーは苦笑した。

「飲むのに損得勘定持ち出すのなんて、お前くらいのもんだろうな」

「それ、誉めてるのかしら?」

「ああ」

「そ、ならいいわ」

 そう言ってミリアムがまた一杯を開けた。

 真似するように、アーサーも再びグラスを手にする。

 ――沈黙。

「お前、何も聞かないんだな」

「聞いてみて、あんたが答える?」

「気分による」

「当てになんないよ、そんなの。いつもそうじゃない。誰にも言おうとしないで、一人で溜め込んでさ」

「言ってみたところで仕方ないからな」

「そう、それ。一人で勝手に突っ走っちゃってるの。ティムなんて見てみなよ。気楽で、明るくて、でも悩んでる時は隠そうともせずにみんなに相談を持ち掛ける。――その殆どが実らぬ恋愛なのにはちょっと同情するけどね。でも確かに、皆から愛されてるじゃない?」

「俺にも同じようにしろ、って言いたいのか?」

「まさか。人それぞれだもの。ただね、あんた、強い自分でいようとし過ぎてるよ。無理してる。そりゃウーゼル意識しちゃうのは分かるけど――」

「あいつのことは言うな!」

 ミリアムの言葉が、完全に凍り付いた。

 ミリアムだけではない。アーサーも次の言葉に詰まってしまう。反射的に出てしまった一言だったのだ。――だが、黙っていても仕方がない。あふれ出てきた言いたいことを、懸命に整理する。

「――そうだな、あいつは凄い。認めざるを得ないさ。だが、だからってそのままでいたら、ずっと日陰者だ。あいつに勝たなきゃ自分を許せない。――けどな、それは俺の問題だ。どこにもお前が介入する余地なんてないんだ。違うか?」

 言えば言うほど何かが心に降り積もる。劣等感、嫉妬、憎しみ、悲しみ、怒り。頭が混乱してくる。ウーゼルの笑顔。胸が重くなる。こちらの思いなど知らず、無邪気に接してくる双子の兄。そして、それらの上に一人の顔が何故かよぎる――笑子。よく考えれば理由も分かるのかもしれない。だが、分かりたくない。

「――違うよ」

 絞り出すような声のミリアム。

「いや、違う、違わないなんてことは分からない。でもね、一つだけ確実に分かることがあるんだ。あんたがそうやって背伸びして、ウーゼルに勝とうとして、――それで、笑子が振り向いてくれると思う?」

「!」

 アーサーに衝撃が襲い掛かる。

 暗闇の中、ミリアムの表情は窺い知れない。アーサーはただ驚愕ばかりを顔に浮かべ、言葉を失い、見えるはずがないと分かっていながらも、ミリアムの顔を覗きこんでしまう。

「お前、何で――」

「なんで知ってるのか、なんて聞かないでよ。わざわざ言うまでもないはずだもの」

「どういうことだ?」

「あんたが笑子を見てたのと同じくらい、あたしもあんたを見てた、ってこと」

 返す言葉を失う。アルコールで掻き回されている頭にはあまりにも大きすぎる負担だった。

 だが、考える暇はなかった。

 横からの力。押し倒される。

「ミリアム! お前、何を――」

「――あたしじゃ、笑子の替りにはならない?」

 

 シャツを着て、グローブをはめる。靴は重いものを選んだ。

「――どこに行くの?」

 ベッドで横になったまま、ミリアムが聞いてくる。

「ヤケ酒の余録、かな。飲み損にするわけにも行かないしな」

「余録?」

「けじめって言い換えてもいいか。ろくでもない男の意地さ」

 アーサーは自嘲気味に笑った。

 ミリアムを、受け入れる。そのことが自分にとってどのような意味を持つのか。それは分からない。だが、いずれにせよ長らくの友という関係を壊した事実を捨てるわけには行かない。軽く流せるほどアーサーは器用ではないのだ。――そして、恐らくミリアムも。

 ドアを開けてると、光が室内に射し込んでくる。

 振り返ると、そこにはアーサーの知らないミリアムがいた。

「――ミリアム」

「なに?」

「お前、笑子の替りになれないかって聞いたよな」

「ええ。それがどうしたの?」

「本当に、それでいいんだな?」

「なに馬鹿みたいなこと聞いてるのよ。あたしはそう言ったでしょ」

「……そうか」

 アーサーはしばしミリアムを見詰めてから部屋を出た。もう振り返らなかった。

 

 ドアが閉まると、再び室内が闇に閉ざされる。後にはただ一人、ミリアムが残る。

「笑子の替りでいいのか、なんてね」

 誰に言うでもなく言い、口端を吊り上げる。

「本当、馬鹿だわあいつ」

 馬鹿。馬鹿。――大馬鹿。

 涙がこぼれた。

「――誰かの替りでいいなんて、どこ探せばそんなこと思える奴がいるのよ」

 

 

4:雌雄

 

 

 バキッ!

 完全な不意討ちだった。だが卑怯だとは思わない。

 ウーゼルが後ろに吹き飛び、人垣へと倒れ掛かる。そこにいたのはいつものメンバーだった。マーリン、ジェーソン、ティム、レイン。誰もが驚きの表情を浮かべている。

「アーサー! 一体何を……!」

 そう叫んだのはレインだった。

 皆が周囲に集まってくる。ある者はアーサーを囲む。アーサーにとっては馴染みのない顔、だが誰もがウーゼルを慕って集まって来たものばかりなのだろう。

 俺と奴との、決定的な違いだ。圧倒的な求心力の差。

 だが、今更それを苦にしようとは思わない。

「――立てるよな? ウーゼル」

 拳にウーゼルを殴った感触が残っている。他の誰を拳にかけても感じることのなかった、得も言えぬ鈍い痛みだった。

 周囲がいきり立っているのが分かる。一瞬で完全なヒールだな、アーサーは自嘲混じりに思う。だが、承知の上だ。承知の上で殴りつけた。

 群れの中から一人が飛び出てこようとする。

「出るな!」

 だがそこにウーゼルが叱咤を飛した。男が凍り付く。ちょうど出端をくじいた形だった。

 そうしてウーゼルはマーリン、ティム、ジェーソンの三人の手から離れ、立ち上がった。

「いいパンチだった。かなり利いた」

「手加減したつもりはないからな」

「なるほど、道理で」

 ウーゼルが微笑む――が、次の瞬間には鋭い顔つきになる。

「いいか。ここからはタイマンだ。余計な手出しを許すつもりはない。見届けろ」

 激したところ一つなく、静かに、――だが有無を言わせぬ声色。

 辺りが緊張に縛り付けられる。絶対的な影響力――

「――ウーゼル。始める前に、一つだけ聞いておきたい」

「なんだ?」

「お前、七海さんとやり合ったか?」

「ひとしきりな。笑子をかけて、ってのがどうも締まらん話だが」

「そうか、道理で――」

 道理で、七海さん臭さを漂わせていると思った。

 その言葉は飲みこむ。言ってみたところで仕方がない。

 グローブをはめ直す。そして、ウーゼルへ向けて突き出す。

「じゃあ、始めようか」

 

 喧嘩にならアーサーに分があるはずだった。

 だが、すぐさま甘い考えだったと思い知らされる。

 侮っていた。そう、ウーゼルは誰よりも強い。強くなければ生き延びられない世界なのだから当然だ。

 昔を思い出す。ウーゼルの背中を守っていたこと――同時に、自分の背中をこの男が守っていた。あれから修羅場は自分のほうが多く踏んだ自信がある。だが人間の差というものは、そう易々と開くものでもない。

 ヒュ!

 死角から飛んでくる拳を躱し、拳で返礼する。だが、当たらない。

 始まってから、随分と長い時間が経っていた。殴り、殴られ、転がり、途中幾度かの決定打があったにもかかわらず――逆に致命的な一撃を受け、それでも二人は立っている。

「しぶといな」

「お互い様だ」

 もう、アーサーにはウーゼルしか見えていなかった。

 目の周りが腫れ上がりでもしているのだろうか、視界は殆ど塞がってしまっている。うっすらと見える標的に対しての戦いは無様なものだった。急所を狙うなどできたものではない。お互いに防御を忘れ、がむしゃらに殴り合う。――もう、この戦い方しかできないのだ。

 振り上げる腕が重い。踏み出そうとする足が重い。胴体が重い。頭が重い。

 まるで激しい眠気に襲われているような気分だった。感覚の一切が遮断され、ただ拳が感じる衝撃――相手の体に触れた一瞬に体中を駆け巡る、電流にも似た――だけが意識を繋ぎ止めていた。

 拳を振るう。が、逸れる。

 身体はもう腕の重さにすら勝てなかった。前のめりになる。すると向こうからも何かが倒れこんで来た。ウーゼルの身体だった。

 まだ、足に踏ん張りが利く。ぶつかった衝撃で後ろに倒れこまないようウーゼルを抱え込む。

 同じことを、ウーゼルもしてきた。

「気が合うな」

「残念ながらな」

 絶え絶えの息で、まるでお互いを気遣うように話し掛ける。

 喋るのすら辛いはずだった。だが、喋らずにはいられなかった。

「なぁ。俺達、なんで殴り合ってるんだろうな」

「お前が吹っかけて来たからのはずだぜ、確か」

「そうか、馬鹿だな、俺」

「応じた俺も馬鹿だがな」

「違いない」

 抱き合っているようなものだった。ろくに動けない。駆け引きも何もない。自分たちが双子だということをつくづく痛感してしまう、それだけだ。不覚にも笑ってしまった。ただし誰にも悟られないよう、ウーゼルの肩の陰で。

「なあ、アーサー」

「なんだよ」

「正直、もうガス欠だ。この辺りで痛み分けってことにしようぜ」

 あまりにも素直な一言だった。思わず、呆気に取られてしまう。

「お前だって似たようなもんだろう? これ以上やったって、意味なんかない」

「馬鹿言うな、元から意味なんてなかったんだ」

「なら尚更だ。意味なんてないんなら、これ以上不毛な喧嘩したところで決着なんてカッコ良くは行かないだろ? どうせなら、もっとわかりやすい形でけりをつけたほうがいい」

「わかりやすい形……?」

「ああ」

 ウーゼルの手が緩んだ。

 直後全身から力が抜ける。緊張の糸が、完全に途切れてしまった。腰が砕け、床にへたり込む。二人ともだ。ほぼ同時だった。

 場に静寂が訪れ――

 そして、怒声。

 決着がつかなかったのだ。それでアーサーの始めの一発が帳消しになるはずもなかった。アーサーに向けられる目、目、目。殺意すら孕んでいてもおかしくなかった。

 だが――

「静まれ!」

 その一喝が、一気に場を沈黙させる。

 レインだった。

 群集から抜け出、マーリンらに目配せする。他の者と同じくレインの一喝に硬直してしまっていたマーリンらはそれに促され、慌てて前に出て来た。ウーゼルに肩を貸し、何とか立ち上がらせる。それを見届けてからレインはアーサーの前に立ちはだかり、手を差し伸べた。

「――この喧嘩は」

 深く落ち着いた声。

「この喧嘩の意味は、きっと僕たちには分からない。アーサー、君が何故ウーゼルを殴りつけたのか。そしてウーゼル、何故君が一対一を選んだのかも。だが、当人同士で納得してもらっても困る。君達はここにいる皆を束ねる立場にあるんだからな」

 そう言って、レインはアーサーに肩を貸した。

「だから、近いうちにわけを語ってもらわないと困る。――でなければアーサー、君には“街”から出ていってもらうしかない」

 誰も、何も言わなかった。

 結局この喧嘩は誰もが状況を掴めぬままに始まり、そして終わった。

 後に残ったのは、アーサーと他の者との間に出来上がった溝だけだ。

 

「今度の勝負で、初めてあいつが本気になってくれるんだ」

「何だそりゃ? じゃ、これまでのあいつは何だったってんだよ」

「雛さ。自分の持ってるものの素晴らしさも知らないで、世の中に対して怯えてた雛。あいつが誰よりも凄いってことは俺が一番知ってた。けど、あいつはいつもどこかおどおどしてた。自分に自信も持てず、せっかくの才能を腐らせかけてた」

「確かに、あの負け犬根性は気に入らなかったがな。だが、本当にあいつがそれほどのタマなのか?」

「あ、大造さん信用してないだろ! まあ見てなって、今度の勝負で分かるよ。あいつはきっと、今までに無かったくらい速くなってくる。だから条件はイーブンで行きたい。でなきゃ俺にRINGを貰う資格はないと思う」

「どうだろうな。第一どっちが勝ってみたところで、俺が認めなきゃお前の貰う貰わないないなんて関係ないだろう」

「分かってないな。俺の一番のライバルはいつでもあいつなんだよ。あいつに負けたくないからここまで来れた。どんな努力だって惜しくなかった。今の俺を語るのに、あいつ抜きで語れるはずがないんだ。多分それは今後も変わらない。だからこそ本気のあいつと勝負したい。そうすれば俺はもっと速くなれる」

「まるでお子様の理論だな。……ま、俺は構わんがね。お前が速くなるのを見れるんなら、俺だって悪い気はしない。いいだろ、そこまで言うなら二人分、完璧に仕上げといてやろうじゃねえか」

「そうでなくちゃ!」

 

 勝負はいつものルート。どちらが先にゴールするか。単純なルールだ。

 エンジンの振動を聞く。これ以上ない一体感だった。

「これが、本当に俺のバイクなんだな」

 アーサーが一人ごちる。

 バイクの調子の良否、だけではなかった。今までになく集中できている。勝負をする、という気分にはならない。より速く、よりタイトに。何度も走りこんだコースだ。理想のラインは瞬時にイメージできる。いつしかこのコースで転倒したことがあった。だが、今日は何故か転倒への恐怖が全くない。

 隣を見る。やはりバイクに乗ったウーゼルがいる。目が合うと笑いかけてきた。

 アーサーも笑みを返す。

 スタートは午前零時の時報。合図をかけるのは大造だ。既に腕時計へ目を落とし、号砲の準備をしている。

 見ている者は誰もいない。誰にも言わなかった。マーリンたちにすら。これが、ウーゼルとアーサーだけの勝負だったから。

「もうじきだ」

 大造が呟いた。

 コンセントレーションが高まっていく。空気が熱を帯びていく。はじめはこの勝負に勝てたら笑子に告白しよう、と考えていた。だが、その気持ちすら今はもう消え去っていた。目の前のコースをどう攻め、どう抜けるか。頭にはそれしかない。走り慣れた道のはずだと言うに、新味など何もないはずなのに、好奇心がうずいてならない。

「10秒前だ!」

 9! 8! 7! 6! 5……

 12時。二台のバイクが同時に動き出す。爆発的な加速だった。

 出だしは互角。

 いくつかのコーナーを抜け、その差はなお変わらない。

 自分の速さに驚く暇などあらばこそだった。次から次へと迫るスリルを経るたびに、身体が歓喜を叫んでいた。

 だが、やはりウーゼルは速い。

 確かにアーサーは自分が描いた通りのラインで走れている。しかしウーゼルはその一枚上を行く。自分以上のものを改めて見てアーサーは感動すら覚える。そして、この男に勝つ意味の大きさを知る。

 勝ちたい。絶対に。

 アクセルを握る手に力がこもる。

 またいくつかのコーナーがすぎた。

 やがて、ついにウーゼルを捉えた。崖に直面したコーナー。最も曲がりもきつく、またアーサー達にとっては下り坂になっている。何人もの男をその深淵に飲み込んだといわれているコーナーだった。恐怖から来るものか、一瞬の油断か――ウーゼルが僅かにアウト側へと膨らんだのだ。

 この一瞬を逃すわけにはいかなかった。今を逃せば、もう逆転の見込みはない。だからアーサーは、迷わず車体をねじ込んだ。

 ――そして、バックミラーからウーゼルの姿が消えたのを見た。

 

 

5:挽歌

 

 

 捜索の末、発見されたのは車体だけだった。

 アーサーがイン側に差し込んで来たところで、抜かされるまいとアクセルを握りこんだ瞬間に制御を失ったのだという。そしてガードレールに激突、車体と運転手は離れ離れになり、ガードレール下へ転落――

 それが検視官の出した結果だった。

 だが、アーサーにとって容易に受け入れられる話ではなかった。

 取調べ中も、何を聞かれているのかがわからなかった。「行方不明者:ウーゼル・フェニックス」の表示を見ても理解できない。県警にいる間は何も考えられなかった。ただ時間のみが無意味に過ぎ、やがて埒があかない、という事で一時解放されることになる。

 おぼつかない足取りで県警の庁舎から出る。

 外にはマーリンらがいた。アーサーに気付くと、すぐさま周囲を取り囲む。

「アーサー! 何したんじゃ!」

 マーリンが襟首をつかんで来た。

 だが、今のアーサーに答えられるはずもなかった。うつろな目でマーリンを見返す。

 皆の顔を見る。マーリン、ジェーソン、ティム、レイン。そして――笑子。

 瞬間、笑子の顔だけしか映らなくなる。アーサーが入院した時にすら見たことのない顔だった。怒り、と呼べるレベルですらない。悲しみでもない。分からない。ただ分かるのは、その瞳が涙の跡を残しているということ。

 アーサーの手は知らず知らずのうちにマーリンの手を振り払っていた。

 呆気に取られる者の顔も気にならない。一直線に、笑子の前に進む。

「――笑子」

 正面切って笑子が睨み付けてくる。だが、その表情も長くは保たなかった。

「なして、おめがそげな顔してる」

 その声は、震えていた。

「おめにたんと言いたいこどがあった。思いっ切り罵ってやりだがっだ。手が何にも感じなぐなるまでぶち叩きたかった。――だのに、なしておめがそげな顔してるだ!」

 初めて聞く声色だった。アーサーの知っている笑子はいつでも明るく、人には決して弱みを見せようともせず、しかし無邪気で。それが、健気で。

 ――この女は、一体誰だ?

 自らに問う。答えは出ない。

 一気に笑子の顔が崩れていく。涙が零れ落ちる。

「なしてだ! なしてこげなごどになっただ!」

 誰にもすがろうとせず、身を硬くして、その握った手をアーサーに対して上げようともせずに。往来の真ん中であるにも拘わらず、――絶叫とすら言っても良かった。

 アーサーの手が、一瞬笑子へと伸びそうになる。

 だが、自分で自分のしようとしていることに気付くと、すぐに下ろした。自分に笑子を抱きとめる資格はないのだ。自嘲の気持ちすら浮かんでこない。ひたすらに乾いた気持ちで、そうとだけ思う。

「――俺が、聞きたいよ」

 アーサーに言えるのはその程度だった。

 笑子が視線を外す。アーサーに背中を向ける。

「もう、おめを見れねえ。見だら――何言い出すが、自分でもわがんねえ」

「――ああ」

 アーサーも、笑子から視線を外した。

 人垣を押しのけ、歩き出す。一瞬レインと視線が合ったが、すぐに外す。

 歩いていても歩いているという実感が伴わない。ろくな事が考えられる状態ではなかった。元々の混乱を、笑子の言葉で更に掻き回された。だが、混乱の中でも一つの事実だけは明瞭化する。――ウーゼルが、いなくなってしまったということ。

「――あの馬鹿、どこに隠れてんだよ」

 これから山狩りにでも行こうか。見付かるまで歩き続けようか。

 だが、到底無理な話だった。一通り仲間達が探した後、捜索の手が既に伸びている。事故関係者とはいえ、一般人が入れるとはとても思えなかった。

 嘆息し、家の門戸をくぐる――

「随分早かったんだね」

 そこには、ミリアムがいた。

 

 ブラインドさえ開けてしまえば、室内は明るい。

「ずっと待つつもりだったのか?」

「まね、暇だったし」

「よくよく物好きだな、お前も」

「ウーゼルよりあんたに傾くって時点で明らかなんじゃない?」

「言ってくれるな」

「事実だしねぇ」

 そう言われてしまうと返す言葉がない。舌打ちする。

 だが、心の底では嬉しくもあった。ミリアムの言葉には気遣いがある。言葉自体はともかく、その気持ちが何よりもありがたい。

 ミリアムをベッドに座るよう促すと、アーサーもその隣に座った。

 部屋に来る途中で立ち寄ったのだろう。ミリアムの手には買い物袋があった。中から缶ビールが出てくる。一本をアーサーに渡すと、ミリアムは得意げに笑ってみせた。

「あんたの場合、アルコール入ってたほうが気兼ね無く吐き出せるんじゃない?」

「吐き出すって、何をだ?」

「いろいろ」

「……かもな」

 受け取り、一気にあおる。ビール程度の酒であれば特に苦はない。もっとも、その後に酔いが回ることまでは考えなければ、の話だが。

 隣ではミリアムも一本をあけていた。早くも二本目に手が伸びようとしている。相変わらずのペースの速さだった。

 アーサーは缶を捨て、しばし酩酊に身を任せる。

 先日よりはずっと落ち着いて話ができそうだった。言いたいことをまとめる。あまりにも沢山ある。次から次へとあふれ出る。だが、多くを語ってみても仕方がない。言い訳にしかならない。

「――ウーゼルは、まだ見つかってないらしいな」

 ようやく思いついた切り出しの言葉がそれだった。

「俺はあいつに勝たなきゃいけない。それは今でも変わらない。けど、多分それはあいつも同じだったんだろうな。だから今回みたいなことになったんだ――と思う」

「思う、なんだ?」

「ああ。あいつがそんなこと思うなんて信じられないからな。――ただ、俺の信じる信じないに関わらずそうなんだろう。そしたら今度は別のことにムカついてきた」

「別のこと?」

「笑子だよ」

 ミリアムを正面切って見据える。

「俺に勝ちたいからって、そんなことで無茶ができる立場じゃなかったはずだ。無茶して勝って、それで笑子は喜ぶのか? そんなことはありえない。絶対だ」

 そう、絶対だ。先程の笑子の顔を思い出す。

「この勝負に勝ったからって、笑子は俺のほうを向くか? ありえない話だ。あいつがここで星を落としても、勝負はようやくこれからだろう? 馬鹿なんだ、あいつは」

「そうね、馬鹿だと思う。あんたと同じくらい馬鹿」

「――なんだって?」

 ミリアムの眉根にしわが寄る。次の言葉を繰り出す直前、唇が引き絞られる。

「いつかね、ウーゼルが言ってたの。あんたにだけは絶対負けたくないって。それで、あたし達にあんたがどんだけ凄い奴かってことを語って聞かせてくれた。あたし達にはどうもぴんとこない話だったけどね。それでもウーゼルは最後にこう付け加えたもんよ――この話、アーサーには内緒な、って」

 何故かミリアムは泣きそうな顔になっている。

「あんた達双子って、本当に馬鹿。お互いで見得張り合っちゃって、一番近い人間同士のくせに」

「――知るかよ。俺は俺、あいつはあいつだ」

 上手く言葉が思いつかなかった。だから、自分でもあまり意味の分からない言葉を放つしかなかった。

 ミリアムの瞳から涙が零れ落ちる。

 直感的に、アーサーはミリアムを受け止めねばならないと悟った。ミリアムはアーサーを知るのと同じ位ウーゼルを知っている。かけがえの無い幼なじみを失うかもしれない不安と戦っているのは彼女も同じなのだ。

 支えられるのは誰だ? ――自分しかいない。自分にしか出来ない。

 しばしの逡巡の後、アーサーはミリアムの顎を指で持ち上げた。

 そして――。

 

 夕暮れを疾駆する、一台のバイク。

 超高出力の化け物、RING。その実力は噂に違わぬものだった。底知れぬ実力のほどに畏怖しながら、しかし心のどこかがうずいているのも隠し切れない。結局は速さを追い求める生き物なのかもしれない、とアーサーは思う。

 だが、今は速さを求めるべきではない。

 アーサーの後ろにはミリアムがいた。リアシートに座り、アーサーの腰に手を回している。その他にはわずかな荷物。他には何もない。今のアーサーにとって、それらが全てだった。

「――ミリアム、本当に後悔はしないのか?」

「どうして? あんたがこの道を選んだんでしょ」

「このまま行けば、もうあいつらとは笑いあえないんだぞ」

 直後ミリアムの腕にわずかな力がこもった。だが、ほんの一瞬。

「あんたについてくのを決めたのはあたし。後悔してどうなるのよ」

「――そうか」

 ウーゼルと勝負をした道だった。コーナーの一つ一つ。辺りの景色。スピードが違う、それだけで全く違う世界のように思える。――美しかった。

 やがて例のコーナーに差し掛かった。ウーゼルが谷の向こうへ消えた場所だ。バイクを止め、道路に立つ。ガードレールへ歩み寄り、その向こうに広がる緑色の世界を見渡す。

「お前が死ぬなんて、そんな馬鹿なことあるわけないよな。生きてるよな、そうに決まってる。でなきゃ何のためにRINGを持ち出したんだか分かったもんじゃない」

 一人ごちる。

 隣にミリアムが立った。一瞬だけ目を合わせると、ゆっくりと手を差し出す。

 その手を、ミリアムが握り返してきた。グローブ越しなので感触らしい感触はない。だが、それでもアーサーは強く握り締める。

 その時、一台のバイクが後ろからやってきた。

 ――レインだった。

 

「こんな時間に駆け落ちとは、恐れ入るね」

 ヘルメットを脱ぎ、皮肉混じりに言ってくる。

「大きなお世話だ。それよりも、何しに来た」

「ミリアムを取り返しに」

「!」

 反射的に、ミリアムを庇うようにして立つ。バイクから降りていないことも手伝い、レインの視線はアーサーよりも高くにある。辺りは薄暗く、そのためレインの表情はよく伺えない。

 と、レインが苦笑を漏らした。

「――冗談だよ。相変わらずだな」

「なんだと?」

「直情的すぎる、って言いたかったのさ。本当に分かりやすい」

 レインがアーサーに向けてヘルメットを投げつけた。咄嗟のことに思わず受け取ってしまう。そしてレイン本人は、アーサーの注意がヘルメットへと向いている間にバイクから降りていた。小憎たらしいほどに鮮やかな動きだった。

「ヘルメット、返してもらうよ」

 言うなりアーサーの手からヘルメットを取り返し、レインもガードレールに取り付く。

「いい眺めだよな。走る側として一番恐い場所が一番の絶景ポイントってのも、なかなか皮肉がきいてる。悪くない」

 しばらくアーサーはまともな反応を返せなかった。

 まるでレインが読めない。一体、何を企んでいるというのか。

 アーサーの心中を察しでもしたのか、レインが振り向いた。

「――いつか、君に言ったよな。喧嘩の理由を教えてくれって」

「ああ」

 相変わらずミリアムは庇いながら、つまり警戒は解かぬままで。

 それでも幾分かの注意をレインの言葉に向けることが出来た。

「この間、警察から出て来た時――何となく分かった気がする。分かったって言っても、僕には到底理解できるはずがない世界のことだ、ってだけの話なんだが」

「回りくどいな。はっきり言ってみろよ」

「つまり、君だけじゃない。僕たちはウーゼルのことすら知らないんだ。その姿、その声、その仕種。外面的なことを色々知っていてもね。服の好み? 好きな食べ物のこと? 煙草の持ち方? そう言ったことがどこまで君達の本質に直結してる?」

 レインの顔から冗談めいた色が消えた。

「正直を言えば、今でもなお君のことが許せない。いや、君達のことが許せないんだろうな。僕たちを束ねる立場にありながら、――たとえそれが本心からじゃなかったにしても、君達は僕らの気持ちをあっさりと裏切った。理解できなかったよ。それに、凄くムカついた。どうしてそんな無責任でいられるんだろう、ってね」

「告解でもしようってのか? 勘弁してくれ、俺は牧師なんかじゃない」

「知ってるよ。大体君なんかに告解してみたところで、このうやむやが晴れるもんか」

「そうかよ、なら……」

「いいから聞けよ」

 そう言うレインは、アーサーとウーゼルとが闘った後と同じ顔つきをしていた。有無を言わさぬ表情だった。あの時の対象が自分でなかったために気付かなかったことだったが、――もう、黙り込む以外には何も出来ない。

 レインが言葉を継ぐ。

「だから決めたんだ。君を見極めてやろうってね。でなきゃ、君やウーゼルだけじゃない。いつかこうなるであろうことを予測できなかった僕自身も許すことが出来ないから」

 初めてレインの顔に柔らかな表情が浮かんだ。だが、その表情はあまりにさびしく、悲しかった。

「自分自身を――ね」

 なんとか言葉を絞り出す。今沈黙を作り出したら、耐え切れない気がした。

「けど、本当にいいのか? さっきミリアムにも言った事だが、俺について来ればもうマーリン達とは別の道を歩かなきゃならないことになる。それで構わないってんだな?」

 レインが苦笑した。

「君って本当に馬鹿だね。マーリン達はただ君ばかりを責めようとしている。己の過失にも気付かずにね。そんな無邪気な連中の中にいたら、僕の気が狂うよ」

 そしてバイクに乗った。これ以上話すことなどない、とばかりに。

「さ、リーダー。どこに行くのか教えてくれよ」

 その声はいつものレインだった。アーサーの知っているレインだった。

 アーサーは後ろにいたミリアムと顔を見合わせる。しばし迷った後、ミリアムが首を縦に振った。

「――そうだな」

 アーサーも、それ以上のことは言わなかった。止めてあったRINGに跨り、キーを回す。

「もう長崎にいてもしょうがない。かと言って、遠くに行くわけにもいかない。――あいつがキャメロットの頭に返り咲いた時に不便だからな。俺達の勝負は、まだ決着もつかずに浮いてるままだ」

 アクセルを握る。

「とりあえず、佐世保辺りにでも行ってみるか」

 

 ――後年勃発するキャメロット対グラールの抗争の、以上が端緒である。



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