瑞鶴さんが仲間に加わってから一月程が経ちました。
提督曰く他の鎮守府では加賀さんと瑞鶴さんが反りが合わない事が多く、初日はとても心配されていたそうですが……まあこちらでは無事分かり合えた様で何よりです。
強いて問題を上げるとすれば、お二人の仲立ちを務めた功労者とも言えるはずの私を見る加賀さんの目が不審者に向けるそれになっている事くらいでしょうか?
解せませんね……。
んんっ、そんな事より今日は前もって頂いていた休日。
本来なら今頃沖ノ島沖に出ているのですが、今回は数日前から瑞鶴さんのお誘いを受けておりましたので只今鎮守府の正門前で瑞鶴さんと吹雪の到着を待っております。
と言っても私が早く着いてしまっただけですけどね。
因みに普段の服装では目立ち過ぎてしまうと瑞鶴さんから指摘が入りまして、今日は金剛さんから洋服をお借りしています。
衣服についてはさっぱりですが、その辺は金剛さんにお任せしてますので大丈夫でしょう。
それよりも問題なのは近ごろ艦長の付き合いが悪い事ですよ。
私が灰瀬提督の護衛に付いてる間もしょっちゅうどっかに行っちゃいますし、演習の時も今日のお出掛けも来ようとしません。
何を考えてるのか解りませんがもっと私の艦長だという自覚を持って頂きたいものですねっ。
……っと、そうこうしている内にお二人がやって来たみたいですので艦長の事は一旦置いといて気持ちを切り替えましょう。
「アラハマキさーん!お待た……せっ!?」
「お待たせしまし……おっふぉ!」
「いえ、それほど待っていませんが……どうしました?」
おや?何やらお二人の反応がおかしいですね。
何か変な物でもありましたか?
「えっと……なんて言うか、それはそれで目立ちそう……ね」
「いいですっ!素敵ですお姉様!」
「えっ、お姉様!?」
成程、どうやらこの格好は目立ってしまうようですね。
金剛さんは大丈夫と言っていましたがやはりサイズが合っていなかったのでしょう。
「成程、それは失礼しました。では元の服装に戻して来ますので済みませんが少々お待ち頂けますか?」
「えっ?いや、大丈夫大丈夫!そういう意味じゃないからっ」
「そうですお姉様っ!着替えるなんて仰らないで下さい!そのスラリと伸びるおみ足を……おみ足が……はぁっ……はぁっ……」
「吹雪?何処か体調が優れないのでしたら休んだ方が良いですよ?」
「吹雪ちゃんェ……あの子ってこんな子だったの?──ってかアラハマキさんまさかの気付いてない!?」
ん、何がでしょうか?
私に見落としがあるそうですが……良く分かりませんね。
「大丈夫ですっ!お姉様は何時でも完璧ですから!ね?
「ひっ!?……う、うんそうね!私の勘違いだったわ!」
「はぁ……そうですか」
まぁ、二人がそこまで言うなら大丈夫なのでしょう。
「瑞鶴さん、お姉様に余計な事を吹き込んだらどうなっても知りませんからね?」
「解ったから魚雷突き付けんの止めてっ!?というかどうして艤装付けたままなのよ!」
「警備隊ですからっ。24時間お姉様を観察……もとい護る為に必要なんです!常在戦場ですっ!」
「何この子怖っ!?」
あら?吹雪は瑞鶴さんとあまり面識は無いかと思ってましたが、どうやら彼女にも懐いてるようですね。
あの子が孤立せずに居られるのであればそれはとても良い事なのですが……少し疎外感を感じるのでそんなに距離を置かないで欲しいです。
「瑞鶴さん。吹雪と仲良くして頂けるのは大変喜ばしい事ですが、私はこれから向かう場所を伺ってませんので道案内をして頂きけませんか?」
「あ、うん!着任二日目に服と日用品を買いに赤城さんに
これは……テレビで言っていたフラグという奴でしょうか?
となるとこの後道に迷うまでがお決まりという事ですね?
どうしてこのタイミングで旗が出てくるのかは全くの不明ですが。
「取り敢えず行きましょうか」
「はいっ、お姉様!」
鎮守府を出て十分。
このままフラグが回収されるのかと様子を見守ってましたが、此処で吹雪が待ったを掛けました!
「あ、そう言えば瑞鶴さん。今日は何処のお店に行かれる予定なんですか?」
「えっ?一番近くにあるショッピングモールでアラハマキさんの私服とか日用品を揃えようと思ったんだけど……」
「…………はぁ、先に聞いとくべきでしたね」
「えっ!もしかして場所知ってるの!?」
「えぇ、というかそもそもこの島ではないので事前申請を出さないと行けませんよ?」
「あ、そういえば。うぅ〜……折角アラハマキさんに来て貰ったのに」
う〜ん、事前申請が必要となると残念ですが今日はどっちにしろ出れないでしょうね。
とはいえ悔やんだ所で仕方ありませんし、何事も切り替えが大事ですよ?
「行けないものは仕方ないですので服とかに関してはまた後日にしましょう。それよりもこの後どう動くかですが……折角ですし私達よりこの地に詳しい吹雪に案内して貰いましょうか」
「た、確かにまだ此処の事は分からない所ばっかりだもんね!」
「は……はいお姉様!この吹雪に任せて下さいっ!この柱島の事を隅々までお伝えします!」
「よろしく頼みますね?」
「はひっ!」
こうして柱島観光をする事を決めた私達は吹雪先導の下歩き出すのでした。
「とは言っても戦時中なのも相まって殆ど店が無いんですよね」
「えっ、そうなの?」
「あるとすれば軍施設か僅かに残った現地の方達が開いてる店舗がちらほらあるくらいです。あ、でもこの先にケーキがすっごく美味しい喫茶店があるんですよっ?」
「ほほう、それは興味深いですね?」
食堂の食事も鳳翔さんのお店もとても素晴らしいものです。
ですが彼女がそこまで推すケーキならば是非とも頂かなければなりませんね。
「それでは急ぎましょう。吹雪、瑞鶴さん」
「はいっ!ご案内しますね!」
「ちょっ、そんな急がなきゃ駄目なの!?」
駄目です、私のケーキが待っているんですからね?さあ覚悟しなさい私のケーキ達よ!
「お、いらっしゃい吹雪ちゃん」
喫茶店の中に入ると白髪の渋めの男性が笑顔で応えて下さいました。
古めかしい建物でしたが店の中は小物や鉢植え、窓のカーテン模様なんかが上手く調和が取れていてとても落ち着く雰囲気なお店です。
「はい!今日はお姉様とその後輩さんと一緒に来ました!」
「どうも、あら、葉巻?と申します」
「えと、瑞鶴です」
「おや、吹雪ちゃんのお姉さんかい?吹雪ちゃんに似て美人さんだねぇ」
「分かってますねマスター!ですがお姉様に惚れると火傷じゃ済みませんよ〜?」
「そっか〜それは残念だなぁ」
吹雪とマスターさんがとても親しげに話してます。
昔からの顔馴染みなんでしょうね。
瑞鶴さんは……初めて入るお店ですので当然かも知れませんが少し戸惑ってる様です。
「そっちの窓側の席が空いてるよ」
「あ、マスター!この前のケーキと紅茶のホットを三つずつお願いします!」
「はいよ」
「ねぇ吹雪?こちらへは何度か行かれてるのですか?」
「いえ?前回初めて来て気に入ったので是非ともお姉様と一緒に来たかったんです!」
なんとまぁ……その社交性は私も見習いたいですね。
「へぇ〜、確かに良い雰囲気ね。憶えておこーっと」
「海を渡った事も忘れちゃう瑞鶴さんにここまでの道を憶えてられますかぁ?」
「ちょっ!?あれはド忘れしてただけなの!」
「ふ〜ん?じゃあ次行く時は案内お願いしますね!」
「うっ……や、やってやるわよ」
笑顔でそう告げる吹雪に瑞鶴さんは顔を引き攣らせて居るとマスターさんがケーキを持ってやって来ました。
「ははは、その時を心よりお待ちしております。こちらがおすすめのフルーツミックスケーキです」
「ありがとうございますマスターさん」
「あとこちらは二つ結のお嬢ちゃんへ」
そう言って彼が瑞鶴さんに渡したのは第四鎮守府からここまでの道順を示した紙でした。
「あ、ありがとうございますっ!」
確かに解りやすいですが、彼が我々の所属鎮守府を知ってると云うのは可笑しいですね。
以前提督から所属などの艦娘に関する事は機密だという話を聞いています。
それを私より長くこの世界の海軍に所属している吹雪が知らないとは思えませんし、口を滑らすとも考えにくいですね。
「マスターさん。その地図はどうしたのですか?」
少しだけ警戒を強める私に対して彼は何かに気付いた様に頭を掻きながらその経緯を話し始めました。
「あ〜、実は今ウチで働いてる子がこの間吹雪ちゃんを街で見掛けた時に誰かと連絡を取ってるのを聞いたらしいんだよね。帰ってくるなり『第四鎮守府って何処ですか?』なんて聞いてくるもんだからその地図を書いてやったんだけど……不味かったかな?」
「あっ!確かにあの人なら前に街に出た時に見た気がします!ですが、近くに人は居ませんでしたし向かいの通りにいたあの人に内容まで聞こえるはずが……」
成程、吹雪も認識してますし恐らくマスターさんの話に相違は無いのでしょう。
後はその方がどうやって聞き取ったのかですが……それは本人に聞くのが一番早そうですね。
「マスターさん、その方は今どちらにいらっしゃいますか?」
「ん?あぁ、あの子なら遠くから通ってるらしくてね。そろそろ来る頃だと思うよ」
そうですか、それならこの話は一旦ここまでにしましょう。
「解りました、それでは続きはその時にします。ほら、吹雪も何時までも気に病んでないで皆でケーキを頂きましょう?」
「うぅ……はい」
起きてしまった事は仕方ありません。
それに吹雪も普段から気を付けていたでしょうし、その上で聞き取られたのならその相手は恐らく一般人ではないでしょう。
ならば逆に相手の素性を掴み敵ならば排除するだけです。
ま、それはそれとして。
吹雪オススメのフルーツミックスケーキというのは正に至高の一品ですね。
鎮守府には和菓子の鳳翔さん、洋菓子の間宮さんと私が勝手に呼んでいる御二方が居りますが、そのお二人の甘味にも引けを取らない物でしょう。
「んん〜っ……はぁ……幸せ」
「お姉様が幸せそうで何よりですっ!」
「うわ、すっごい。生クリームに果汁を混ぜてるの!?」
「はは、喜んで頂けて何よりです」
ゆっくりと味わっていたつもりでしたが、いつの間にか器は空になってしまいました。
はぁ〜……無限に食べていたいです。
至福のひとときを味わっている所へ扉の鈴が待ち人の到着を知らせてくれました。
「店長、おはようございますわ」
「おはよう天野さん。来て早々で悪いけど吹雪ちゃん達から君に聞きたい事があってね」
「あら、吹雪ちゃん来てたのね……ってそちらのか……」
入ってきた天野と呼ばれた彼女は、私と目が合うや否やピタリと固まってしまいました。
「ええと、初めまして。私はあら、葉巻?と申します」
「……っ!?」
ん?いきなり身を震わせて一体どうしたのでしょうか?
状況を掴めずに首を傾げていると彼女は徐に真っ直ぐ私へ突っ込んで来たのだ。
「へ……ってちょっ、なんなんですかぁ!?」
私は彼女の強烈なタックルに為す術無く椅子と床を破砕しながら押し倒されてしまいました。
ええと……何が何だかさっぱりですが、取り敢えず吹雪や瑞鶴さんが向かいの席で良かった。
「え……これは一体どういう事でしょうか?」
正直お二人からしたら洒落にならない行為ですからね……事と次第によってはただじゃ済ましませんよ?
しかし彼女の反応は私の想像していない物でした。
「マキ?姉様……また、お会い出来ると信じておりましたわ」
「ええと……どういう事でしょうか」
「覚えておりませんか?私です、
「…………はい?」
出来る限り途切れない様に……したいなぁ(遠い目)