あら、葉巻?とアマテラスが去った執務室。
吹雪達を外に追いやった俺は机の上にあるスタンドライトの台座に腰を掛けつつ本題に入る為の前口上を述べた。
「なぁ灰瀬提督、これから言う事は他言無用で頼むぜ?」
「荒さん?えぇ、何かしら」
「ああ、つっても俺が言いたいのは一つだけだ。今後アマテラスと会う時は必ずあら、葉巻?を同伴させること、いいな?」
「……えぇ、でもアマテラスさんはアラハマキさんの姉妹なんじゃ……それに……」
「それは恐らく事実だと俺は見てる。だが、それが奴がお前さんを狙わない理由にはなり得ないってだけだ」
「…………」
ま、いきなり気を付けろって言われたってピンと来ねぇよな。
それに傍から見れば突拍子の無い行動を起こしたあら、葉巻?を付けることに抵抗があるのは解る。
だが奴は確実に提督を狙っている。
それはあら、葉巻?が警報を発していた事からも明らかだ。
とはいえ、あの場で問い詰めて奴に強行手段を取られれば例えあら、葉巻?でも全員を守りきる事は厳しかった。
だから聞こえないふりをしてでも奴に話を合わせどうにか遠ざける必要があったんだが……ま、あのバカはきっとそこまで気付いてねぇんだろうな。
ま、それについてはおいおい考えるとして……今はアマテラスがどうして灰瀬提督を狙うのかって事だな。
「とにかく、今はあら、葉巻?が一緒だがこのまま奴を野放しには出来ねぇ。だが奴がお前さんを狙う理由が解んねぇ事には平和的解決は難しい。なぁ灰瀬提督、何か思い当たる節はねぇか?」
「そう、ね……譜院元帥関係とか、かしら?」
まぁ確かに元帥の敵対派閥にあいつが属してるならそれも有り得る。
だが……灰瀬提督の反応が微妙に引っ掛かる。
ちょっとカマかけてみるか。
「いや、その可能性は低いな。あの爺さんがそういった情報を掴んでないわけねぇし、もしそうならあら、葉巻?に会わせた時に気付いた筈だ」
「そ、そうね……でも、他には思い当たるものはないわ」
「本当か?そんな風には見えねぇがな」
「…………ごめんなさい、私には荒さんが何を期待しているのか解らないわ」
ま、解ってた事だが簡単には聞き出せねぇわな。
「いや、解んねぇなら良いんだ。悪かったな」
色々事情があるんだろうし、正直大方の予想は付いてるからどうにかなるだろ。
「んじゃ、そういう事だから忘れねぇでくれよ?」
「えぇ、気を付けるわ」
さて、と。
そういや明石があいつのガトリング砲を元に作った127mm速射砲の試射をやるっつってたな。
この世界の奴らが何処まで再現出来たか見てみるとするか。
流石に超兵器を作らせる訳には行かねぇがアマテラスの件もあるし自衛力を上げておいて損はないだろ。
灰瀬提督と別れ工廠へと向かった俺を待っていたのは両肩にデカいリボルバー式の単装砲を二門詰んだ緑髪のポニーテール少女、夕張の姿だった。
「……なんだそれ?」
「あ!艦長さん良い所に来ましたね!前に話してた速射砲の試射をこれからやるところなんですよ!」
「ああ、それを見に来たんだが……まさかそれか?」
「そうですよ?どうかしました?」
「あ、いや……随分でけぇなと思っただけだ」
127mmの速射砲だと聞いていたんだがな……あいつが腰の艤装に装備してる20.3cm連装砲よりデカイのはどういう事なんだ?
俺が疑問を抱いていると後ろからやって来た開発者の明石が説明してくれた。
「どうもです艦長さん。実はですね……妖精さん曰く127mm砲ベースでは連射機構を付けられず、無理に付けても発射間隔はあまり短くならないそうなんです。だから今回は一定の速度が出せる連射機構をベースに砲身や砲塔を組んでみたんですよ」
「その結果がこれか……で?搭載出来る艦種はどうなった?」
「うーん……現状ですと駆逐艦及び夕張さん以外の軽巡は搭載不可ですね」
まあ、そうだろうな。
実際夕張ですら少しフラついてるし、正直撃てるか怪しいレベルだ。
127mmでこれなら406mmなんてまだまだ先か……。
「大丈夫か夕張、無理そうなら他の重巡とかに変わっても良いんだぞ?」
「嫌です!私が試したいんです!私にやらせて下さい!」
「私も言ったんですがこの有様でして……」
「……解った。だが今回はそいつの性能試験だ。20.3cmは外せ、いいな?」
「う……はい」
夕張は観念した様に渋々20.3cm砲を保管庫に戻しに向かった。
大方新装備使用時の他の兵装への影響なんかを確かめたかったんだろうが、何が起こるかも解らん装備でやるもんじゃねぇよ。
少しして戻って来た夕張と共に俺と明石は的を持って鎮守府正面の訓練海域まで出ていた。
「夕張ー、動けるかぁ?」
「だ、大丈夫っ!行けるわ!」
夕張がどうにかバランスを取っている間に明石が的を適当な位置に並べていく。
やがてならべ終えた明石が手を振りながらこっちに戻ってきた。
「何時でも行けますよー!」
「だ、そうだ。お前も準備が出来たら一門ずつで近くの的から始めてくれ」
「分かったわ……方位、仰角……よし、行くわよ!」
夕張の掛け声と共に夕張の左肩に付けられた砲身から連続的に砲声が鳴り響く。
分間66発って所か……確かに既存の127mm単装砲と比べれば破格な連射速度だ。
この世界基準で言えば敵の軽巡くらいなら易々と落とせるだろう。
「悪くない……が、正直中途半端だな」
「あ、やっぱりそう思います?」
「ああ、基本的な軽巡以下が装備出来ないなら対艦では弾薬消費量に対して火力は不十分だし対空じゃあ連射速度が不十分だ。これだったら長十センチとかの両用砲を詰んだ方がましだ」
「そうなんですよねぇ、戦艦や重巡の副砲としてもやはり砲のサイズはどうにかしたい所ですねー」
「でも、これすっごく楽しいですよ!私が正式に装備したいくらいです」
目を輝かせながら模擬弾をばら撒いていた夕張がそう答える。
確かに軽巡である夕張ならば対艦火力も対空火力も上がるから一見適しているとも言える……だがな。
「それ積んだお前の航続距離じゃあ鎮守府防衛位にしか使えんだろ」
「そ、それは……ほら、給油艦を連れてとかさ?」
「この鎮守府には居ねぇだろ」
「で、でもぉ……」
はぁ……なんだか知らねぇがそこまで気に入ったなら一応申請しておくか。
「ったく……解ったよ、提督には俺から言っておくから今後の為にデータの収集頼むぜ?」
「艦長さんっ……!まっかせなさい!私が全部まとめてあげるわ!」
「ええ、私としても運用データがある方が開発が捗りますので有り難い限りです」
よし、そうと決まればもう一度執務室に戻るとす──
『緊急警報発令!十艦隊からなる深海棲艦の連合艦隊が防衛線を突破し第四鎮守府へ侵攻中!出撃可能な者は戦闘準備を整い次第即時迎撃せよ!』
なんだと?警備隊が突破されたっつうのかよ。
くそっ、タイミングが悪ぃな。
「夕張、一度装備を換装してから再度出るぞ!明石は何時でも修理出来るように準備しに戻るんだ!」
「了解しましたっ」
明石は返事と共にすぐ様工廠へと戻っていくが、夕張は首を横に振って俺の指示を拒否した。
「艦長さん、私ならこのままで行けるわ!」
「何馬鹿な事を、まともに動けないような装備で出てもやられるだけだぞ!」
「私達が今敵と一番近いわ。それにこの装備なら斥候部隊位なら足止め出来るはずよ!」
ったく、頑固な奴め。
だがこれ以上言い合ってる時間はねぇ。
「仕方ねぇ……だが撤退まで含めて俺の指示に従う事。じゃなきゃ出撃は認めらんねぇ。分かったか?」
「分かったわ!じゃあ指揮は任せたわよ艦長さん!」
「おうよ、やってやろうじゃねぇか!」
夕張は俺が乗艦したのを確かめると、機関出力を上げて徐々に速度を上げて行った。
大丈夫だ、敵が深海棲艦だけなら鎮守府の戦力だけでもどうにかなる。