北方アリューシャン海域。
こちらには北方棲姫なる姫級の深海棲艦がいるとの事です。
姫級……確かにこの世界の艦娘とは比べ物にならないくらい強いのでしょう。
だが、あくまでもこの世界の基準であってそんなものを沈めた所で艦長は私を見直したりしないでしょう。
例えこの世界の深海棲艦を殲滅した所でそれは変わりません。
となれば艦長が認めて下さる方法は最早これしかありません。
私はおもむろに機関を停止させて速度を下げる事にしました
それを不思議に思った自称アマテラスさんは私にゆっくりと近付いて来ました。
「マキ?姉様?まだ目的地までは距離がありますわ。どうされましたの?」
「アマテラスさん……貴女が本当に私の知るアマテラスなら理由を聞かせて下さいますか?どうして灰瀬提督を殺害しようとしたのか」
「姉様?なにを言って──」
「隠す必要はありませんよ。この辺りは通信も繋がりませんし、私から伝えた所で艦長も提督も聞きはしないでしょうから」
「マキ?姉様……」
「さあ、答えなさい。そうすれば楽に死なせてあげます」
いくら私だって相手の目的も知らずに沈める程馬鹿じゃありません。
「ふふふ、幾ら人の姿をしていてもマキ?姉様はやはり兵器ですわね?」
「?答えになっていませんよ」
「艦長が姉様の話を聞かない?もしそうなら私を姉様に付けると思いますか?」
「厄介者同士纏められただけです」
「まぁ、姉様がどう捉えようが私には関係ないですわ」
「もういいです。話す気が無いのでした無理矢理聞き出すだけです」
私が両腕のドリルとサーキュラーソーの回転数を引き上げるも、彼女は気にする様子もなく微笑を浮かべながら話続けました。
「ふふ、せっかちはよろしくありませんわ?なにも話さないとは言ってませんもの」
「ではさっさと話しなさい、何故提督を狙ったんですか」
「姉様はウィルキア帝国の国家元首を憶えておりますか?」
ウィルキア帝国国家元首。
それはウィルキア小国家でクーデターを起こした反乱軍のリーダーであり、その恐るべき手腕によって一度は世界を支配したとも言える男。
「フリードリヒ・ヴァイセンベルガー……」
かの世界に居たものならば当然知らない者は居ないでしょう。
あの世界に置いてあれだけの国を支配下に置いた独裁者なんて私は他に知りません。
「そう……あの男がこの世界に居ると言ったら信じて下さいます?」
脈絡もなく突然なんですか?
「例えいたとしても今更でしょう?私達が存在してる時点で別に驚く事ではありません」
「そうですわね。それが私達の世界から来た男であれば特に問題はありませんわ」
「……どういう事でしょうか?」
「例えば生まれた時からこの世界で生き、この世界の究極超兵器を既に見付けているとしたら……ほら、私達がこうして動けている事にも辻褄が合うのではありません?」
そんな馬鹿な事が……だったら今頃この世界にもあちらの様に超兵器が広まっている筈です。
「確かに私達が動けている理由は会うかも知れませんがいくら何でもこじつけが過ぎます。有り得ませんし、そもそも質問の答えになっていません」
「ふぅん?マキ?姉様は本当にお気付きでないんですね」
「何がですか。私が何か見落としているとでも?」
「えぇ、誤魔化そうと少しでも足掻いたようですが……彼らを知っていれば辿り着ける答えだと思いますわ。私なんか初めて聞かされた時は笑ってしまいましたもの」
要領を得ませんね?一体誰を知ってればと言うのですか。
「誰なのですか?単刀直入に答えなさい」
「姉様も良く知って居らっしゃる方ですわぁ?」
「私の……良く知る……?」
まさか……いえ、有り得ません。
「ハイセルカ、フインフルヒデ。何かに似てません?」
似てません!
関係ある筈がありません!
「……ば、馬鹿馬鹿しいですね。貴女が天野照と名乗ってるからって。灰瀬提督があの元首だとでも言うつもりですか?」
「ふふ、私だってそんな馬鹿な事思っておりませんわ」
「だったら……どういうつもりですか?」
「姉様?この世界には人の姿を持つ艦艇、艦娘がいらっしゃるでしょう?」
「だから……なんなの?」
違う、嘘です……騙されません!
「解りませんか?それとも……
「…………」
「良いですよ、マキ?姉様。私がしっかりと解るようにお伝え致しますわ」
あの口を止めなきゃと思うのに私の腕が、足が言う事を聞いてくれません!
誰か……艦長……アマテラスを……っ!
「灰瀬瑠花はこの世界の艦娘【フィンブルヴィンテル】。そして譜院古秀こそがフリードリヒ・ヴァイセンベルガーなのですよ」
有り得ません……有り得ない……有り得ないはずなのに……何故私の中では今の邪推が腑に落ちているの?
もし彼女達がそうなら一体何のためにこの日本海軍に潜り込んで──違いますっ!
もしも何もありません!
そんな事有り得ないんです!
「あ、貴女の話はしっ、信憑性に欠けます!馬鹿馬鹿しい!稚拙な推理です!」
「確かに突拍子の無い話ですわね。でも、心は既に気付いているのではありませんか?」
心を読まれたような感覚を覚えてしまった私は雑念を振り払うかの様に頭を横に振りました。
「し、証拠も無しにそんな話を信じるなんて有り得ません!」
「証拠ならこれから見せてあげますわ。付いて来て頂けます?」
これは罠かもしれない……ですがそれならそれで罠諸共粉砕すれば良いだけです。
それよりもこの気持ちに整理を付けないと提督の所には戻れそうにありません。
「……良いでしょう。貴女の言った事が嘘であると確認した後で海底に沈めて上げましょう」
「うふふ、肝に命じておきますわ」
私は警戒を強めたまま、彼女に続いて元来た道を戻っていくのでした。