電探を起動させた夕張からの返答は控えめに言って最悪を伝えるものだった。
「大変よ!真ん中の奴が50ノット近い速度で一直線に向かってくるわ!」
「その速度が出せる深海棲艦は今までには?」
「そんなの聞いた事もないわ!」
ちっ、だよな……となると俺の嫌な予感は的中してる可能性が高いな。
ただの新型な鬼級姫級ってなら増援の到着まで時間を稼ぐ位は出来るかも知んねぇ。
だが、もし今来てんのがそっちなら……。
「夕張、今すぐそいつを捨てて撤退だ!」
「えっ!?話が違うじゃない!」
「文句は後で聞く!今は俺の言う事を聞け!!」
もし奴が超兵器であれば今逃げても遅いかも知れん。
それに逃げた所であら、葉巻?の奴が戻ってくるまで時間を稼ぐ事も厳しい。
だが、こんな所でこいつらを無駄死にさせる位なら僅かでも反撃の可能性を残すべきだ。
「夕張、この鎮守府の奴ら全員に伝えろ。一度撤退し他の鎮守府連携して奴を止めるとな!」
「艦長さん……分かったわ、直ぐにやるわ!」
良し、これでいい。
可能なら相手が何者かを知っておきたい所だが……。
と、その時。
突如として俺の脳内から直接怒鳴られるような声に襲われた。
『そこに居たか……お姉ちゃんを惑わす悪い人間……荒、葉輔ぇぇぇぇぇ!!』
「な、なにぃ!?今の声は!」
「ど、どうしました!?」
ま、まさか……通信を俺に直接繋いだっつうのか?
それに俺の名前を知ってるという事は俺と面識のある奴か?
この鎮守府以外で面識がある超兵器とすれば……まさか、なぁ?
「……おまえ、荒覇吐か?」
「お前如きが私の名を呼ぶなぁぁぁぁぁっ!!」
やはり荒覇吐だったか。
ならばあいつが乗艦してる可能性がある筈だ。
「荒覇吐!俺の弟は、お前の艦長は一緒なのか!?」
「はんっ!あんな役立たず共は置いてきたわ。どっかの島で野垂れ死んでんじゃない?」
「は……?おい、今なんつった」
「なによ、私とアマお姉ちゃんに引っ付いてた艦長気取りの無能は置いてきたって言ったのが気に入らない?」
置いてきた……?てめぇらの艦長である彼奴らを?
俺の命より大切な家族をか?
「クソガキが……俺の家族を見殺しにしやがって、テメェら覚悟は出来てんだろうなぁ!」
「はんっ!自分じゃ何も出来ないくせに何粋がってんの?」
「それがどうした!元人間をあまり舐めんじゃねぇぞ?」
「呆れた……人間程度が介入出来る戦場じゃない事も分からないなんてね」
「ああそうだな、俺一人粋がった所で何が出来る訳じゃねぇ……が、馬鹿一人の足止め位なら出来る事が証明された訳だ」
「あぁ!何を……ってきゃあぁぁ!?」
荒覇吐が訝しげに俺の方を見つめていたがその直後、奴の頭上目掛けて次々と急降下爆撃が繰り広げられていく。
「今の内だ、撤退するぞ夕張!」
「え、ええ!解ったわ!」
正直奴らに対する怒りは収まらねぇが普通にやり合って勝てる相手じゃない事は百も承知だ。
それにあんなんでもあら、葉巻?に取っては大切な妹達だからな。
当然沈めるつもりはねぇ。
だから湧き上がる怒りを抑え理性的に思考を巡らせるよう努め、赤城達にそのまま指示を出す。
「赤城、加賀は後退しつつアウトレンジ攻撃を続けてくれ。他鎮守府が合流次第一気に叩く」
『了解したわ』
『お二人も早く戦域から離れて下さい!』
「解ってる、行くぞ夕張!」
この場から離れる為夕張に呼び掛けたその時、ガトリング砲と高射砲による高密度の弾幕が荒覇吐に取り付く航空機を瞬く間に焼き払った。
「鬱陶しい……その程度でこの私が止まると思ってんの!!」
ちっ、流石に超兵器相手じゃ分が悪いか。
このままじゃ撤退なんて出来そうにない。
どうするか……ま、他に手はねぇか。
「夕張、お前は下がれ。後は俺がやる」
「ちょ、何馬鹿な事言ってんの!?そんな事出来るわけない出じゃない!」
当然ながら夕張は反対の意を示す。
そりゃ艦長一人で何が出来んだって話だから当たり前だろう。
だがアイツ相手じゃ夕張が居た所で何か変わるわけじゃねぇ。
それこそただ無意味に沈められるだけだ。
「お前が一緒いて何が出来る?今のお前じゃ役立たず所か足手まといなんだよ!良いから早く行け!」
「た、確かに私じゃ力不足かも知れないけど……だからって艦長さん一人で何が出来るって言うのよ!」
くそ、一刻も早く夕張を下がらせてぇのに今の状況じゃ説得の材料がねぇ……どうすりゃいいんだ。
「ふふふふふ……荒葉輔、これで終わりよ」
「なっ!?馬鹿な!まだ三十キロも離れてた筈じゃ!?」
くそっ、戦場で電探の確認を怠るなんてなんたる失態!
彼奴らの性能を把握した気になってたなんて俺も驕っていたか。
既に目の前までやって来ていた荒覇吐は夕張ごと俺を引き裂こうと右腕のサーキュラソーを振り下ろそうとしていた。
「危ねぇっ!!」
「え、きゃっ!艦長さ──」
俺は咄嗟に夕張を体当たりで突き飛ばした。
お陰であいつは腕を少し深めに斬られただけで済んだが……。
「ぐっ……がぁぁぁぁぁ!」
「艦長さん!?艦長さんっ!!」
狙いが俺である以上当然だが肩から腰へ切り裂かれた俺は今生きてるのが不思議な位だ。
妖精は存外タフな存在らしいが、それでも生物であるのならば幾許も持たねぇだろう。
「うっ……ぐぅぅ……!」
「まだ生きてるか……これで終わりよ!」
くそっ、駄目だ……意識……が……
まだ息のある俺に止めを刺そうと迫る左腕のドリルは次の瞬間、遥か後方から放たれたであろう高速飛翔体によって弾き飛ばされた。
「なにっ!?」
『夕張、荒さんを直ぐに救護室に』
「え……?どうして……」
夕張の無線から聞こえて来た覚えのある声を最後に、俺はそのまま意識を手放したのだった。