セブン・ホワイト・ナイツ   作:王子の犬

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 関内(かんない)駅で降車したのは、篠ノ之神社の神主に連れられて野球の試合を観に行って以来だ。

 千冬の地元よりも発展している。関内は関東大震災以前から銀行が集中するほどのビジネス街でもあるのだ。

 束はスマートフォンを駆使して目的地までの地図をダウンロードする。科学賞の副賞としてもらったそうだ。

 スマートフォンを操っていた束は、千冬の視線に気付くなり、自慢げな表情になった。

 

「これが欲しくて投稿したんだ!」

 

 束は横浜スタジアムの入場口前でしばらく待つように言う。

 誰かに電話をかけていたらしく、数分して戻ってきた。

 

「もう少ししたら……待ち人来たる、ってね」

 

 千冬はぽかんと口を開けた。

 てっきり伊勢佐木町へ遊びにいくとばかり思っていたからだ。

 束はスマートフォンにモバイルバッテリーを接続し、キャラクターもののゲームに興じる。

 

「なになに……」

 

 どうやら恋愛ADV(乙女ゲー)のようだ。

 主人公(ヒロイン)の名前は一夏。千冬の弟と同じ名前だった。

 攻略対象の男子は篠原(しのはら)(すばる)、セシル・オルコット、シャルル・デュノア、ラウル・ボーデヴィッヒ、皿屋敷兄弟、など。

 「趣味じゃないな」と言った途端束に睨まれる。

 千冬はわざとらしく首をすくめ、画面から目を離した。

 三〇分が経過した。

 束がそわそわし始める。

 頻繁に指を動かしてショートメールを交わすうちに、その人物は現れた。

 

「シノノノ・タバネ、さんでしょうか」

 

 束が嬉しそうに手をたたいた。

 

「そうです。ペンネーム、まゆんまゆんさんですね」

 

 高校生だろうか。

 千冬と背格好がよく似ていて少し大人びた顔つきだ。

 大きな旅行カバンを携えており、駅へ向かう途中のように思えた。

 

「ぺ、ペンネーム。ここで言わないで。……恥ずかしいです」

 

 彼女は本名を名乗った。生瀬(なませ)真裕(まゆ)

 まゆまゆだと安易なので「ん」を加えたと説明した。なるほど胸元(バスト)がたゆんたゆんしている。

 

「では、まゆんまゆんさん。この書類に自筆でお名前とハンコをお願いします」

 

 束は一通のコピー用紙をクリップボードに留めたまま差し出す。

 生瀬は用紙を見てたじろいでいた。ひどく思いつめた様子で、ボールペンを握る手が震えている。

 

「……できました」

 

 束が大事そうに用紙を収納する。

 千冬は生瀬の覚悟を決めた表情(かお)を見て、掛ける言葉を失ってしまった。

 生瀬と別れ、渋谷まで移動した。

 ハチ公口前で黄色のキャリーケースを引いた少女が現れた。

 

「ペンネーム、とみー、さんですね」

 

 彼女は富山(とみやま)(とおる)と名乗った。

 髪を束ねて眼鏡をかけており、知的な顔つきだ。

 背格好が千冬とよく似ている。

 中学三年生。千冬たちと同級生だ。束は関内で生瀬が書いたものと同じ書類を差し出した。

 やはり彼女も思い詰めた様子でサインする。

 束は書類を丁重に扱って収納した。

 そして篠ノ之神社の最寄り駅を記載したプリントを手渡す。

 富山はしばらくプリントを見つめたあと、キャリーケースの把手を握りしめて改札の奥へ消えていった。

 

「今度は羽田空港に行くよ」

「まだ移動? やだなあ」

「ちーちゃんのほうが体力あるのに我慢がないね。心配しないで。今日はこれで最後だよ」

 

 文句を垂れながら羽田空港国内線ターミナル駅で降車する。

 待合ロビーで青色のキャリーケースを持った女性を出迎える。

 

「ペンネーム、みゅーたんと、さんですね」

 

 少女は加藤深冬(みふゆ)と名乗った。

 はるばる北海道旭川から来た。色白で彼女も背格好が千冬とよく似ている。

 

「では、この書類を読んでサインしてください。あとハンコを持参しているなら押してください」

 

 加藤は束の表情を凝視する。

 やはり手が震えており、もう片方の手で慄えを抑えようとしたのだが、どうにもうまくいかない。

 

(三人が三人とも思い詰めた顔つきだ。何かあるのかな……)

 

 千冬は書類をしまう束の背中と、加藤の横顔を交互に眺めた。

 

「今から家に帰ります。一緒に来ますか」

 

 束が言った。

 しばらくして、はい、という答えが返ってきた。

 

 




◇登場人物紹介◇

・ちふゆ
中学三年生。剣道部の元主将。
たばねの数少ない友だち。

・たばね
中学三年生。海外雑誌にインフィニット・ストラトス・コア理論を投稿。
最優秀科学賞を受賞した。

・まゆんまゆん
高校生

・とみー
中学三年生

・みゅーたんと
中学三年生


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