セブン・ホワイト・ナイツ   作:王子の犬

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 九月六日、千冬は制服を剥かれて泣く泣く浴衣を着た。

 束がネックレス型に形態変換したISコアを配る。暴発や爆発、生首ジョウントは起こりえないと太鼓判を押すもののやはり不安が募った。束が周囲の反対を押し切ってISコアをハンマーで殴る。何も起こらなかったので渋々首にかけた。

 祭りに向かう者はみんな浴衣に着替えていた。胸元にはネックレス型ISコア。みんな少しだけ笑顔がひきつっていた。

 その後、いざ出発する直前、雪子が気を利かせて一夏と箒を預かると申し出た。

 向かう先は隣り街でもっとも規模が大きい神社だ。天照大神や素戔嗚尊など多数の神様を祀っている。今日は例大祭であり、屋台が境内を賑わす。臨時で増便されたバスに乗り、揺られること一五分。野山が姿をひそめ、代わりにコンクリート製の人工建造物がひしめきあう。五分後にはまた自然が返り咲く。

 陽気に響く笛や太鼓の音が近づくにつれ、千冬の心ははやる。

 幼い頃、両親に手を引かれてお祭りに出かけたことを思いだす。まだ一夏が生まれていなかった。特撮ヒーローのお面を後ろに被り、金魚すくいや型抜きをして遊んだ。金魚がはいった袋を手首にかけていたのに転んでダメにしてしまった。すぐに両親が拾い集めたが、程なくして金魚は死んでしまった。家に帰っても泣きやまず、疲れて眠ってしまったのである。

 そのときの父と母の顔を思いだそうとするが、靄がかかったように曖昧だった。

 束が肩に手を置く。

 顔をあげたとき、「とまります」と描かれた紫色のボタンが点灯した。

 千冬は先頭を切ってバスを降りる。束たちを待つべく門の前で振りかえった。

 フー、と誰かがため息をつく。

 小走りに駆けて千冬の隣に並んだ束が素直を感想を口にした。

 

「腰がくびれてるのにおっぱいがたゆんたゆん。まゆんまゆんさんは男殺しですね」

 

 高校生は違う。富山や加藤らと意見を交わして満場一致でうなずき合っていると、生瀬が頬を林檎のように真っ赤にして反論する。

 

「肉の塊をぶらさげていてもいいことなんてないですようっ。男の人の視線とか・視線とか・視線とか……」

 

 見ると、富山があからさまに顔をしかめている。

 みんなの思いを代弁するかのように束が告げた。

 

「まゆんまゆんさん。そういうのは贅沢な悩みですよ。帰ったらみんなにどうしたらそんなに育つのか秘訣を聞かせてください」

 

 一悶着のあと、千冬は皆をつれて山門をくぐった。

 手水鉢を囲み、束が軍資金を分け与える。千冬は三千円を超える大金を受けとっていた。七を掛けると二万円を超えてしまう。千円札を握りしめて、のほほんとする束を凝視した。

 

「お金の出所って……」

 

 千冬はあらぬ想像をして青ざめた。今までも気にしないようにしていたが、研究資金をどうやって稼いでいるのか見当もつかない。だいたい篠ノ之神社からして、神社ひとつでは商売として成り立っていない。神主が副業で不動産業を生業としているからこそ暮らしていけるのだ。

 まさか……、と千冬は頭を抱えた。一度考え始めたらもう止まらない。

 子どもをつれて家族サービスに励むお父さんたちが裏でこっそり中学生を買っているのではないか。束は実は女衒として女の子を斡旋しているのでは……。たとえば生瀬や加藤のような少女たち。

 

「千冬さん。えっちなことを想像してません……?」

 

 生瀬が肘で小突いた。

 千冬は束の衣装ダンスを開けたことがある。様々なコスプレ衣装が揃っており、誰かに着せるつもりなのか明らかに彼女のサイズではない男装も混ざっていた。

 

「……そんなことはないぞ?」

「ですよね」

 

 心にもない笑みを貼り付ける。彼女たちにしてみれば、軍資金が手にはいっただけ僥倖だった。

 が、一行は時を置かずして、束が投資した理由を知ることになる。

 さっそく射的の前で足を止める。六人をゆっくり顧みてから加藤の手をとる。ポケットから五〇〇円玉を中年の店主に渡し、何度も加藤の腕を引っぱって「あのゲームソフトが欲しい」と懇願した。

 加藤の実家は裕福で、父親は趣味と実益を兼ねて冬場は猟を営んでいるそうだ。父親は好奇心旺盛な加藤を趣味に付き添わせ、狩りの鉄則を学ばせた。加藤はライフル銃の扱いに長けており、銃器に詳しかったのである。

 コルク銃を手にしたとき、加藤の目つきが変わった。

 

「本業にやらせるのは反則じゃ」

 

 千冬のつぶやきもむなしく、束はたった五〇〇円で税抜き七九八〇円相当のゲームソフト(乙女ゲー)を入手してしまった。

 

(しめしめ。うまくいったぞ)

 

 しばらくして、束の心の声が聞こえてきた。幻聴だと無視していたが、背後のふたりが確かめ合っていた。

 千冬は束に追いつき、焼きアイスを指さした。

 

(えーっ、ちーちゃん趣味悪いなあ。束さんは今、アイスより揚げ餅が食べたいんだ)

 

 続いて隣の揚げ餅屋の屋台を指さす。

 

(おっと……ちーちゃんも私の好みがわかってきたみたいだね。感心・感心♪)

 

 様々な屋台を指し示すたびに心の声が響いてくる。

 最後に千冬が自分を指さした。

 

(どういうことなのかなあ。もしかしてちーちゃんは束さんに食べて欲しいってことかなあ……えっ!? ど、どうすればいいのかな。とりあえず境内裏に連れ込んであれやこれや……)

 

 束が激しく動揺している。まごまごしているすきに彼女をとり囲んだ。

 

「お前、私を食べたいって思ってるだろ」

「ええ!? そ、そんなことないじゃないか。束さんは恋愛には興味ないのだ」

「境内裏であれやこれや……とはどんなことか、ここで言ってみろ」

「い、言えるわけないじゃないか!」

 

 内心を見透かされたことにうろたえながら、束がひとりで揚げ餅の屋台に向かう。三つ買い、一〇〇〇円を支払って釣り銭を受けとる。醤油が唇を汚すのも構わず一口で頬張り、ふたつを皆に差し出した。

 おごりだという。

 話題を逸らそうとアメリカンドッグの屋台に向かい、同じように三つ買って戻ってきた。一本を頬張り、一瞬で嚥下する。ふたつを千冬に手渡した。

 アメリカンドッグを見て、マスタード派とケチャップ派で互いに牽制し合う。千冬はケチャップ派だ。こんがり焼いたソーセージを狙う獣たちが屋台の前で冷戦を繰り広げた。

 束が田楽豆腐を買ってきた。三本買って一本はぺろりと平らげた。味噌がたっぷりかかっている。みんなは興味を示さず、雪国出身の加藤が残りを引き取った。

 

(これ美味しいんだけどなあ)

 

 いそいそと焼きそばを買いに行く。束をながめていた千冬がある重大なことに気がついた。

 

「あいつ、どんだけ食べるつもりなんだ……?」

 

 おそらく数万円は持参しているはずだ。屋台の前に立っては一〇〇〇円札を出している。食欲旺盛な加藤がくっついており、おこぼれに預かる算段なのだろう。

 心の声に耳を澄ます。

 

(まゆんまゆんはたゆんたゆん。おっきくなったらちーちゃんもたゆんたゆん)

 

 束は知られていると承知で歌を唱えていた。

 

(ついでに束さんもたゆんたゆん)

 

 あいつ……、と千冬は拳を握りしめて顔を上げた。

 もうすぐ七時になろうとしていた。千冬は六人をつれて本殿へ続く石段を登る。

 遅れて、束が下腹をさすりながら追ってくる。ほっぺを膨らませては、千冬に速度を緩めるよう抗議した。

 

「食べ過ぎるからだ。自制・自制・自制、束に足りないことだ」

 

 とがめながら優越感に浸る。スピーカーから運営のお知らせが聞こえた数分後、花火が夜空に昇り、パッと花咲いて余韻を残す。

 一発、二発——。

 本殿を目指していた千冬たちは足を止めて、ため息をもらした。

 

 




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