「誕生日おめでとう」
これが書きたかっただけの小説
目の前で少女のお尻がふりふりと揺れる。俺は特に意図はないのだが、その様子を右へ左へと追ってしまう。特に意図はない、本当のこと。
その少女がスカートを履いているが大事なところは見えていない。パンツ見えないかな、と思って凝視しているわけではない。本当のこと。
「ないな~」
と俺の幼馴染、上原ひまりが言う。ベッドの下を除きながら顔も上げずにそう言った。
「そんなところには何もないから止めろ」
俺はたまらずにそう言う。いや本当に止めてほしい。その格好は非常に不味いと思うのだ、俺は。
「えぇ~……せっかくエッチな本探してたのにー」
ようやく顔を上げベッドの上に腰をかけたひまり。……残念になんて思っていないからな。
「本当にそんなところにはないから」
「ほんとかなー」
疑いの眼差しで俺を見るひまり。
「見てみてなかっただろう?」
「ぐぅ、その通りです……」
「ほらな」
「でもっ、奥のほうとか暗くて良く見えなかったしもしかしたら……」
「いやないから」
そんなベタな場所に隠し物などしない。パソコンやスマホがあるのだ。現物はよりわかりにくいところに隠してある。これはオフレコで。
「むぅ……幼馴染兼彼女の私には見せてくれてもいいと思うんだけどなー」
ちょっと拗ねたひまり。俺は困ってしまう。可愛いから余計に。
そんなこと言われても女子に自分の秘蔵のエロ本など見せられるわけがない。まして幼馴染や彼女には余計に。性癖は普通であってもだ。
「いやエロ本とかないし。お前も毎日のように入り浸ってるならわかるだろ」
「確かに。毎日来てるけどエロ本見つけたことないなぁ~」
ひまりはなんとか納得してくれたみたいだ。
「ほら、そんなことよりケーキ食べるんだろ」
俺は手元のレジ袋からコンビニで買ったケーキを二つ取り出す。一つは秋限定のモンブラン、もう一つが普通のショートケーキ。どちらもひまりセレクションである。そして俺の奢りである。
今日はケーキに目を輝かせている少女、上原ひまりの誕生日だ。
幼馴染であるAfterglowの面々と共に既にパーティーをやった後。彼女だし家が隣同士ということもあって一緒に帰っている途中、ひまりが
「二次会やりたいっ」
と言い出し、ゴネた結果がこれである。俺の家での二次会、というかプチ誕生会。
ダメ? と上目遣いでおねだりされたから仕方がなかったんだ。
袋から取り出したケーキを台所から取ってきたお皿に載せる。モンブランをひまりに渡し、ショートケーキは目の前のテーブルに置いた。
「わぁーい、秋限定モンブランっ。美味しそう!」
目をキラキラさせて、お皿を受け取るひまり。誕生パーティーで既にケーキをたらふく食べた後だ。なのにこの喜びよう。
「…………」
いっつも体重気にしてるのに大丈夫なのか、と言いたくなってしまう。
「? どうしたの?」
「いや、今さらなんだが食べ過ぎじゃ……」
「…………大丈夫! デザートは別腹だからっ」
そのデザートであるケーキを既に結構食べている。またダイエットに励むことになると思うのだが……。
少し間が空いて答えてるから、自分でも気づいているのだろう。
「そうか。その通りだな」
いやもう何も言うまい。今日はひまりの誕生日なのだ。今日くらい好きに食べさせてあげよう。
「そ、そんなことはいいからっ。ほらっ、こっちに来て!」
ベッドに腰をかけるひまりは自分の隣をポンポンと叩き、隣に来るように催促してくる。
「なんで」
「なんでって……隣で食べたいからだよ?」
言った本人はちょっとだけ頬が赤くなっていた。
俺はドストレートに言われて、逆らう気もなくなっていた。
「零すなよ」
俺はひまりの隣に腰をかける。マットレスの柔らかさにお尻が沈んでいく。
「えへへっ」
ひまりは笑って、俺の方にすり寄ってきた。
「暑い」
「えー、本当は嬉しいくせにっ」
俺の言葉も気にせずにひまりはさらに身体を密着させてきた。ひまりの柔らかい身体が腕や太もも、腰に当たる。
「……嬉しいよ」
「……本当に?」
「可愛い幼馴染に引っ付かれて嬉しくないわけないだろ」
俺がそう言うとひまりは頬を赤くした。多分、俺の頬も真っ赤だ。
「珍しく素直だ……」
「誕生日だからな」
「じゃあ、くっついていてもいい?」
「……いいよ」
「やったっ」
パッと花が咲くように笑顔になるひまり。さっきは控え目だったのか、よりこちらに寄りかかる。しかし、寄りかかる重さは苦しさよりも心地よさを感じた。
俺はテーブルからケーキの皿を取る。
「んじゃ、食べようぜ」
「うん!」
まずはひと口、俺たちはケーキを食べる。
クリームとスポンジが口の中を甘く溶かしていく。コンビニのケーキも侮れないもんだ。
「ん~っ、おしいっ」
どうやらひまりも満足らしい。自分が選んだんだから当たり前か。
「ねぇねぇ、そっちちょっとちょーだいっ」
「いいけど」
俺はひまりにお皿ごと渡そうとする。
「すとーーっぷ!」
大声を出して俺を止めたひまり。いきなりどうしたんだ。
「どうせなら食べさせてほしいかな。あーんって」
もじもじしながらそんなことをひまりは言い出した。
「ダメ?」
上目遣いのひまりの目は少し潤んで見えて、正直断れない。
「駄目、じゃないが……」
言い淀む。
あーんはちょっと恥ずかしい。人前じゃないだけまだマシかもしれないが。
「むー」
するとひまりは唇を尖らせ、ちょっとだけ拗ねた表情をする。
「……誕生日なんだから優しくしてくれてもいいと思うんだけどなー」
そう言われると弱る。
「わかった。わかったから」
「わぁーい」
俺が折れるとひまりは大げさに喜んだ。
「それじゃ、早く早く」
ひまりは小さな口を開けて、今か今かとケーキを待つ。
「行くぞ……あーん」
フォークでケーキをひと口分に切り分け、ひまりの口へと運ぶ。
「あーん」
彼女の口にひと口サイズのケーキが入り、ひまりはケーキを咀嚼し嚥下する。その後、俺はフォークを彼女の口から引く抜いた。
「ん~、こっちも美味しい!」
眩しいぐらいの笑顔を見せるひまり。この顔が見れたならやったかいがある。
「あっ」
「どうした」
「そう言えば、間接キスだ、えへへ」
ひまりは恥ずかしそうにはにかんだ。
今更気付いたのかよ。あーんなんてやれば自然とそうなるだろうに。
「……そうだ!」
「今度はどうした」
ひまりは何かを思いついたみたいで少し大きめの声を上げる。
「今度は私があーん、してあげるね」
ウインクしながらそう言うひまりに俺は思わず肯いてしまった。可愛いかよ。
「ほらほら口開けて……あ~ん」
「あーん」
ひまりから差し出されたモンブランを食べる。仄かに栗の感触。なかなかに美味い。
「どう? 美味しい?」
「……美味しいよ」
「じゃあじゃあ、今度はもう1度私にあーんして?」
なんてひまりは言い出したから、止めるタイミングがなくなった。俺たちはお互いのケーキがなくなるまで延々とケーキを食べさせあった。
ケーキがなくなると俺は一度ひまりから離れてお皿をテーブルに置いた。
再びベッドの上のひまりの隣に戻ると、それを見計らって彼女は口を開く。
「もう一つ、わがまま言ってもいい?」
誕生日だから、なんて付け足されると断れない。
「どんな我儘だよ」
「膝枕してほしいなー」
「いいけど」
男の膝なんて良いもんじゃないなんて思ってしまうのは俺が男だからだろうか。
とはいえ無茶振りではないので俺は許可した。
「やった。それじゃ、失礼しまーす」
そういうとひまりは俺の膝に頭を乗せた。
「この枕固ーい」
「そりゃ男の膝なんてそんなもんだろ……」
しかし、文句を垂れつつもひまりは退こうとはしない。
「……でもこれはこれでいいかも」
と小さく呟いたところを見ると割と気に入ったみたいだ。
「おーい寝るなよー」
肩の力が抜けリラックスしすぎているひまりを見て、ついつい言ってしまう。
「んー……がんばるぅー……」
段々と言葉に力がなくなっていく。もう手遅れか。
というか早すぎである。膝枕して一瞬じゃないか。
……それだけ今日ははしゃいだってことなのかな。
「おーい、ひまり、起きろー」
「ごめーん、むりー……このままねかせてぇ……」
その言葉を言い終えると同時にすぅすぅという規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
……寝てしまったか。
少ししたら起きてくれるといいが、朝まで起きない可能性もある。むしろその可能性のほうが高い。朝まで膝枕コースになりそうだ。俺の膝は大丈夫だろうか。
仕方ない。今日は彼女の誕生日。いつも隣にいてくれる彼女に感謝して甘やかそう。だから無理に起こそうとはせずこのままで。
最後に一言、俺はひまりのピンクの髪を撫でながら言う。
「お誕生日おめでとう、ひまり」
改めまして
ひーちゃん、誕生日おめでとうございます。