白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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ベルVSアイズ

「それでは双方準備はいいかい?」

 

「異議あり、なぜ僕はアイズさんと戦うことになっているのでしょうか? そして、なぜ貴方達はそれを黙認しているのでしょうか?」

 

「却下します」

 

 なぜかアイズと対峙しているベルは手を上げ、審判を名乗り出たフィンへと弁護士よろしく異議を申し立てるがフィン裁判員は実にいい笑顔でそれを棄却した。

 

「おかしいとは思ったんですよ……ロキ様とフィンさん、リヴェリアさんはともかくアイズさんが来た理由だけがずっと気になってたけど……」

 

(なるほど非公式に『戦姫』と呼ばれるだけある)

 

 ベルは額に手をついて彼女の戦闘狂っぷりに呆れ果てる。

 

「言っときますけど、僕に傷をつけられてもアーティファクトは作りませんよ」

 

「……え?」

 

 アイズはベルの言葉に呆けた顔になる。

 

「元からあったものを渡すのと1からその人にあった武器を作るのがかなり手間が違います、それに貴方には《ゴブニュ・ファミリア》の上級鍛冶師が作ったデスペレードがあるでしょう? それを使ってないと派閥間の問題とかあるんじゃないですか?」

 

 フィンに視線を向けると、「まあ、確かに」と曖昧な返事をする。自分だけ武器をもらった手前強く言えないのだろう。

 

「そう……じゃあ始めよう」

 

「ああ…、やっぱりそうなるんですね」

 

 再び剣を構えて戦おうとするアイズ。ベルはつかれた様子で呟いた。

 

「……強い人にあったら戦う、常識でしょ?」

 

「貴方はどこの戦闘民族ですか……。」

 

「諦めろ、ベル。アイズに戦いを我慢しろなど、無理な話だ」

 

「リヴェリアさん、僕は結構非日常な生き方をしてきましたがこんなふざけた常識は聞いたことがないんですが……。」

 

「お前にだけは常識を語られたくない」

 

 ごもっとも、と隣のヘスティアとロキが深く頷いた。

 

 それを見ないように視線をずらすベル、その先にはやる気満々のアイズ少女。

 

「ああもう、やりますよ! やりゃあいいんでしょうよ!」

 

 やけくそ気味に叫びながらベルは真打を構える。

 

「……また、抜かないの?」

 

「言ったでしょ? 僕の得意分野は抜刀と双剣長剣じゃ抜身でも鞘でも切れ味以外はとくに変わらない。それより、その剣デスペレード……じゃないですよね?」

 

「うん、今はメンテナンスに出してる」

 

 いくつもの武器を作ってきただけあって、武器を見る目はある。それが彼女の愛剣デスペレードでないことはひと目見てわかった。

 

「代わりの剣、というわけですか……。まあ、いいでしょう」

 

 こちらも準備できたと言う視線をフィンに送る。それに頷き返すと、フィンは手を上げて合図の準備をする。そして、

 

「始め!」

 

 先手はアイズだった。自身より上手であるフィンを汗一つ流さず完勝したベル相手に勝てるなどとは到底思っていない。なので彼女の狙いはあくまで彼の力の一端を引き出すこと。そのためには時間をかけるのではなく、一気に攻め立てるのが一番だと考えたていた。

 

 細剣による刺突がベルへと迫るがそれが届く前に鞘に収められたままの真打の剣腹がアイズの剣を受け止め先端から火花が散る。

 

「甘いですよ。身体強化済みのフィンさんと戦える僕が貴方の剣に反応できない道理はない」

 

「………ッ!」

 

 そこからさらに2撃、3撃となぎや突きを放つがそれらは全て叩き落される。

 

「流石だね、一歩も動かずにアイズの剣速に追いついてる」

 

「というか、あれは完全に遊ばれていないか? 今なんて目を瞑って戦ってるぞ?」

 

「いけ〜! そこや、やったれアイズたん!」

 

「ベル君! 間違っても全力でやるなよ〜!」

 

 遠くから二人の戦いを観戦してるフィンとリヴェリアは実に緊張感のない声音で二人の戦いを分析している。

 

 主神二人は、一人は応援、もう一人はベルが本気を出さないか危惧している。

 

 少なくとも殺すようなことはしないという確信はあったのと、アイズの戦闘狂は今に始まったことではないので特に緊張感といったものはない。

 

 あるとすれば万が一にも彼が剣を抜いたとき一体どうなるか、くらいだろう。

 

 アイズは一度、ベルから距離を取る。このままでは遊ばれて終わることを理解したのだろう。

 

 そこで、彼女がとった行動は、

 

「【目覚めよ(テンペスト)】ーーー」

 

 瞬間、彼女の体を風が覆う。

 

(なるほど……これが彼女の風系の付与魔法、威力は中々……。だけど、僕達とは微妙に違う……。)

 

 『剣姫』、アイズ・ヴァレンシュタインが唯一使える魔法、"エアリアル"。その名の通り風を纏う付与魔法(エンチャント)。

 

 ベルは感覚からそれが自分達の使うトータスの魔法とは微妙に違うことを感じた、トータスで使う魔法とは大気の魔素を吸収しそれを魔力に変換するもの、対してこちらの世界の魔法は自身の精神力(マインド)を魔力に変換するものだ。

 

 だからこそ、こちらの世界の魔法に興味が湧いた。

 

「一瞬……」

 

「……え?」

 

 ベルの静かな呟きにアイズが反応する。

 

「一瞬だけ本気を出してやる……だから、全力の一撃を打ってこい」

 

 ベルは鞘を握りながら体を捻る。即ち、抜刀の構え。

 

 フィン達は空気が痺れるのを感じた、まるで空気そのものが帯電しているように。肌に鈍い痛みが走る。

 

 その彼にもっとも近いアイズのプレッシャーは計り知れないだろう。だからこそ、

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】……!」

 

 彼女はさらに自分にまとわせる風を強くする。ベルの誘い通り最大の一撃を放つための準備を。

 

 彼女を覆う風が竜巻と言っても過言ではない大きさへと変わる。奇しくも雷と竜巻、まさしく嵐のような相対が完成した。

 

 そして、二人の間を一瞬の静寂が包む。先に動いたのはやはりアイズだった。

 

「リル・ラファーガ……!」

 

 風の矢のごとく接近するアイズ。強力な攻撃魔法にも匹敵するその一撃を前にしてもベルは一歩も動くことはない、しかし、

 

「八重樫流奥義ーーー」

 

 その時、始めてベルが敵を斬るために柄に手をかけた。

 

 

 

 

「ーーー"断空"」

 

 

 

 

 

 一瞬の剣の交差が終わるとチャキという鞘に剣が納まる音が酷く明瞭に響く。そして、次の瞬間何かが地面に落ちる音がトレーニングルームに響いた。

 

 必殺の刺突を放ったアイズの剣が中央から見事な断面で折れていることからその音の発生源がなにかは言うまでもなかった。

 

「フィン、見えたか? 今の一撃?」

 

「……いや、僕には光の線が一瞬光った程度にしか見えなかったよ」

 

 ベルの剣を注意深く見ていた二人だったが、そのあまりの剣速は二人の目には留めきることができなかった。奥義、"断空"は文字通り空間すら断ち切る神速の斬撃。アイズの風であろうと切り伏せる。ただでさえ普通の生物の目に留まる代物ではない上、ベルの肉体から放たれたそれは例え第一級冒険者ですら視認することは不可能である。

 

 ベルは落ちている折れた剣の刀身を拾い上げながら、アイズに歩み寄った。

 

「僕の勝ちです……風の威力は大したものですが如何せん鋭さが足りない。ただの暴風ではそれを上回る一太刀に断ち切られて終わりです」

 

 折れた剣を"錬成魔法"で修復しながら、今の戦いで思ったことを素直に口にするベル。

 

「それに、剣術と体さばきが甘い。風で強化するのにも限度がありますからね、まずは基礎の型を覚えるのを優先すべきだと思います。はい、直りました」

 

「……ありがとう」

 

 その礼は剣を直してもらったことに対するものか、それとも自分の戦い方について的確なアドバイスをもらったことに対してのものだろうか。


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