白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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同盟締結

「いい湯ですねぇ〜」

 

「ああ、本当にいい湯だ……。」

 

 筧から流れるお湯の音と、カコンというししおどしの子気味のいい音がよく響く。

 

 湯銭につかる二人の男、《ヘスティア・ファミリア》団長、ベル・クラネル。そして、《ロキ・ファミリア》団長、フィン・ディムナ。

 

 そう、ここは《ヘスティア・ファミリア》ホームの地下3階、ベルが心血を注いで作った温泉である。

 

 アイズとの模擬戦を終え、一行はベルの勧めで地下の温泉にともに入ろうということになった。勿論、男女別である。

 

「しかし、ベル君。何故地下に夜空が見えるんだい?」

 

「映像です、雰囲気出るでしょう?」

 

「まぁね……。」

 

 流石、稀代の錬成師が作った地下温泉。石づくりの床、庭園のような竹林、男女別の風呂を遮る壁には巨大な富士山の映像。そして、天井にはそれと同じ原理で満天の星空が映っている。

 

 しかし、フィンが気になっているのは建築系のファミリアが裸足で逃げ出すようなこの絶景ではない。彼が気になっているのはベルの体中に出来た傷跡、そして、胸にある特に大きな傷。恐らく何かが貫通したあとだろう。

 

 自分達が大したダメージを与えることのできなかった相手にこれ程の傷を負わせた相手、ベルの話を聞くにこれが出来るような相手は一つしかいない。

 

「ベル君、その傷はひょっとして【大迷宮】でかい?」

 

「ああ……さっきから視線が気になってましたけど、これを見てたんですか? そうですよ、本当は"再生魔法"で治せますけど戒めとして残してあるんです」

 

 そう笑いながら言う。

 

 なるほど、自分達が挑んでも可能性がゼロと言われたわけが理解できた。

 

「でも、正直フィンさん達には驚かされましたよ。"マク・ア・ルイン"を使いこなしたのは勿論、アイズさんの風、あれは向こうの世界の"風使い"にも負けていませんでしたし」

 

「君の実力を見せてもらったあとにそう言ってもらえるのは年甲斐もなく嬉しいな」

 

 ベル程の強者にそこまで言われたのだ嬉しくないわけはない。

 

「これは昨日の言葉を撤回したほうが良さそうですね」

 

「昨日の言葉?」

 

「【大迷宮】を攻略する可能性がゼロって話です。二人とも鍛え方によっては攻略できる可能性が出てきましたよ」

 

「本当かいッ!?」

 

「うおっ!?」

 

 ザバンっと湯煎から勢いよく立ち上がったフィンにベルは思わず後退る。

 

 フィンは一族、他の種族から見て貧弱だと言われやすい小人族の象徴となることで復興を目指している。そのためには、更に強くなり名を馳せる必要がある。

 

 そのために神代魔法は是非とも欲しい代物だ。

 

「神代魔法を手に入れれば君レベルになれるのかい?」

 

「ま、まぁ、僕の場合は父さん達の指示があったのが大きかったですし、体の改造とかもしましたし、それに適正とかもありますしね」

 

「適正?」

 

「向こうの魔法は適正がないと、魔法陣を書いたりとか詠唱しないと使えないんですよね。因みに僕は知っての通り全属性適正です」

 

 妙にキリッとした表情で言うベル。フィンはその様子に気付かず、顎に手を当てて思案する。

 

「それがわかる方法はないのか?」

 

「無視ですか……流石にそこまでは攻略するまでわかりませんて」

 

「じゃあ、君がした特訓というのはどんなものなんだい?」

 

「ハハハ……聞きたいですか?」

 

「あ、ああ……。」

 

 恐ろしく遠い目をして不気味な笑みを零すベルに一歩後退るフィン。その目の奥には深い闇を抱えていた。

 

 しかし、ベルの強さの秘密を知りたいフィンは慄きながらもその内容に耳を傾ける。

 

 そこから先はとても語れないので割愛とさせていただきます。

 

「ーーーとまぁ、こんな感じですかね。母さん達も僕を死なせたくなかったのはわかりますが【大迷宮】に挑む前に心が折れそうになりましたよ。……今思うとそっちが本命だったような気がします」

 

「道理で強いわけだ……。」

 

 フィンはベルの話を聞いて深い納得と、それ以上の深い同情の眼差しを送った。そして思った、自分にそれをやれと言われて流石に出来る自信はないと。

 

 彼の父、南雲ハジメは地球に帰るという一心で力を手に入れた、やはり二人はよく似ている。ベルもまたこの世界に帰るために力を求めたのだ。

 

「フィンさんは取り敢えず、"マク・ア・ルイン"の技能を完璧に使いこなすところからですかね、そこから少しずつ技能を足していって何人かの同レベルのパーティで望めば……まぁ、【オルクス大迷宮】以外は攻略できるんじゃないですかね?」

 

「【オルクス大迷宮】というのはそんなに難しいのかい? 君の父が最初に攻略したのはそこなんだろう?」

 

「あれは本当に奇跡ですからねぇ……。元々【オルクス大迷宮】というのは、他の解放者達の合作らしいです。つまり、本来なら他の迷宮を攻略した集大成の場だった筈なんです。想像してみてください、それぞれの役割のある首が攻守完璧な動きをして精神攻撃まで使ってきて、オマケに回復魔法まで使えて挙げ句の果に全方位からレーザー攻撃するような相手にマトモに戦えます?」

 

「無理だね」

 

 即答だ、いくらなんでもそんな無茶苦茶な相手と戦えるか。

 

「僕のこれ(胸の傷)もあのヒュドラにやられましてね。オスカーも絶対作ったあと、『アレ? ちょっと強くし過ぎたかな』って思いましたよアレ。」

 

「なるほど、ね。……それで、アイズの方はどうなんだい?」

 

「彼女は取り敢えず剣術を覚えれば化けるんじゃないですかね。あれどう見ても実戦で磨いた我流でしょう? ステイタスと魔法のゴリ押しでなんとかやってるようですけど、基礎を覚えなきゃ【大迷宮】は無理ですね〜。」

 

「剣術、か。ウチのファミリアには彼女以上の剣の使い手はいないからなぁ……。」

 

 チラッとフィンの視線がベルに行く。さっきの特訓の話でベルの母の一人、雫が道場の娘であることと、ベルが彼女から指南を受けていることも聞いているフィン。

 

「流石に僕は無理ですよ、これ以上仕事増やしたらホントに手が回らない」

 

「だろうね、こちらとしてもこれ以上甘えるのも気が引ける」

 

 彼が無茶な要求をしてこないことは理解しているが、それでも喫茶店、冒険者、ギルドの助っ人と3足の草鞋を履いている彼にこれ以上負担を増やさせるのはこちら側だけが都合のいい話だ。

 

「まぁ、それ以前に店開けないんですけど……。」

 

「なんでだい? あんなに料理が美味しいのに」

 

「店員が……いないんです」

 

「ああ……そういえば」

 

 すっかり忘れていたが《ヘスティア・ファミリア》はベルが初めての眷属、つまり従業員は二人だけである。

 

「まっ、フィンさんとアイズさんと戦って新しいアーティファクトのアイディアが浮かびましたし……店員については後で考えましょう」

 

「新しいアーティファクト? それってまさか……」

 

 勘のいいフィンにベルはニヒルな笑みを浮かべて答えた。

 

「ご想像の通り、アイズさん用のアーティファクトです」

 

「手間がかかるから作らないんじゃなかったのかい?」

 

「別に、あの人が使う僕のアーティファクトを見てみたくなっただけですよ。それに、デスペレードから新しい武器に変えるわけじゃありませんし」

 

「どういうことだい?」

 

「デスペレードの刃の上に新しい刀身を装着するんですよ、普段は鞘に収納して好きなタイミングで取り付ける。うん、いけるなっ!」

 

 握り拳を作りながら立ち上がり風呂から上がる。

 

「今度アイズさんに、デスペレードの寸法について詳しく聞いといてください、その間に設計図作っておくんで」

 

 タオルを肩にかけながら風呂の出口へと歩いていくベル。だが、その前に立ち止まり、

 

「あっ、そうだ。フィンさん、一つ聞いていいですか?」

 

「なんだい?」

 

「アイズさんって……ホントにただのヒューマンですか?」

 

「………君はそこまでわかるのか」

 

 ベルの質問の意味を理解しているフィンはとぼける素振りは見せない。

 

「僕は実を言うと父さんに付き合って他にも色んな世界にいっています、その中に彼女によく似た気配を持つ生命体が存在しました。ひょっとして彼女は、人間と"精霊"の……。」

 

「そこから先は団長である僕の口からも言えない。聞くならアイズ本人からで頼むよ」

 

「……確かに、女性の秘密を探るなんて野暮でしたね。ですが、最後に一つ。昨日も言いましたが【大迷宮】に臨む気なら実力があるだけじゃクリアできない。最後にものを言うのはーーー」

 

 ベルは自分の胸を親指で突く。

 

「ーーー己の信念、そして覚悟です。それが無ければ迷宮に飲まれて終わりです」

 

 それだけ言うとベルは横開きのガラス扉から出ていった。

 

「信念と覚悟、か。あるつもり、いや、あったつもりだったんだがなぁ……。」

 

 己よりいくつも年の離れた少年が成した偉業と、その原動力となった想いに《ロキ・ファミリア》団長は自信を失いそうになりながら美しい夜空を見上げた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「今日は色々ありがとう、とても有意義な時間を過ごさせてもらったよ」

 

「いえいえ、こちらこそいいものを見せてもらいました」

 

 日が沈みかけた頃、ベル達は《ヘスティア・ファミリア》のホームの前で《ロキ・ファミリア》の見送りで外に出ていた。

 

「改めて注意しておきますが、"マク・ア・ルイン"の技能は緊急時以外多用しないこと、特に魔法系は乱用しないことまあフィンさんなら問題ないでしょう」

 

「勿論だ、こんな武器が作れる人間をどこの派閥も放っておかないだろう。多少無茶な手を使っても引き込もうとする輩が出てくるだろうからね」

 

「……その先にあるのは"魔王の息子"による報復だろうがな」

 

 リヴェリアの言葉にヘスティア、ロキ、フィン、アイズはうんうんと深く頷いた。

 

 アンタら僕のことなんだと思ってんだ、といいたかったがベル自身こっちに来てから色々やりすぎた感はあるので何も言えない。

 

「しかし、結局得るものがあったのはフィンとアイズだけか……。」

 

「アハハ、悪いねリヴェリア……。」

 

「…………。」

 

 フィンは槍を、アイズはアドバイスと新しいアーティファクトをつくる言質を貰った。そして、リヴェリアと言えば精々がベルのアルバムを見たことくらいだろう。

 

 気のせいか若干不貞腐れているように見えなくもない。

 

 「ママのこんな姿……レアやな」、などと馬鹿みたいなことを言ったロキの頭に再び杖がヒットした。

 

「ああ、そうそう……忘れるところだった。これ渡すつもりだったんです」

 

 そう言ってポケットから取り出した指輪をリヴェリアに放る。受け取った彼女は昨日と同じようにそれを観察する。

 

「昨日とは違う指輪か?」

 

「それには結界魔法を付与してあります、発動すればかなり広範囲に結界が張れるでしょう。もしもの保険に持っておいてもいいと思います」

 

 ベルが渡した指輪には光属性の結界魔法、"聖絶"が付与されている。その効果は発動時使用者を中心に巨大な光のドーム状の結界をつくる。

 

 長い詠唱が必要な魔法職のリヴェリアには必要な代物だろう。

 

「なるほど……ありがたく貰っておこう」

 

 機嫌が直ったらしいリヴェリアに少しホッとするベル。そこへ、ロキが話に割って入ってきた。

 

「ところで、ベルたん」

 

「なんでしょう? ロキ様」

 

「フィンとの戦いの途中、自分の体を改造したとか言っとったやないか?」

 

「ええ、"変成魔法"による改造ですね」

 

 前のめりになっていくロキに段々後退る。いつもは開かない糸目の奥から血走った目が見える。

 

「それってひょっとして神にも有効?」

 

「さ、さあ……試したことがないので……。だ、だけど、"生成魔法"で作った武器がエヒトに効いたんだし有効じゃないですかね……?」

 

「じゃあ試しに……ウチの胸膨らませてみぃひん?」

 

 つまりはそういうことらしい。神ロキは自身の貧乳をかなり気にしている。なにせ、社交会では胸がなさすぎて女物のドレスが着れないほどだ。

 

「な、何言ってるんだロキッ!!? ベル君になんてことさせる気だ!?」

 

「黙れぇ! ウチがどんだけこの胸にコンプレックスを持ってるか……背が低いくせに出るとこだけ出てるお前にわかってたまるかぁ!! この際、大抵のプライドは捨てたる!」

 

 ヘスティアの言葉にガチギレしているロキ。

 

 彼女の眷属達は、フィンは困ったように頬をかき、リヴェリアは片手で額を抑え、アイズは……アイズは無関心である。

 

 取っ組み合いのキャットファイトをする主神〜ズ。もう面倒くさくなったのか両陣営ともそれを無視して話を進める。

 

「またいつでも来てください、サービスしますから」

 

「ああ、そうさせてもらおう。君とは友好的に接したいからね」

 

 どちらともなく手を差し出し、硬い握手を交わす。ここに、《ヘスティア・ファミリア》と《ロキ・ファミリア》の同盟は結ばれた。

 

 しかし、ハイエルフの副団長はいつまでも取っ組み合いを続ける主神〜ズを見て、不安になる一方であった。


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