白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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ランキング結構上に入ってましたねぇ……。


とある昼下がり

「Aの5の騎士。D5の治癒師にチャージ(突撃)だ。いっけー!」

 

「ああ! ウチの治癒師が串刺しに!!?」

 

 とある日の昼下り、《ロキ・ファミリア》の面々が《ヘスティア・ファミリア》のホームに遊びに来て一週間が立ったある日。

 

 《ヘスティア・ファミリア》ホーム。ウィステリア・オラリオ店のテーブルの一つにて二人の女神によるボードゲームという名の決闘が繰り広げられていた。

 

 このボードゲームは【オルクス大迷宮】でお馴染み、オスカー・オルクスの作で、ルール自体はチェスと良く酷似している、所謂トータス版チェスだ。

 

 違うところも多々あり、まず駒の多さや駒自体の成長システム、さらに、ゲームボード自体にも役割がありそれぞれの職業に得意なフィールド、不得意なフィールドが存在するのだ。

 

 しかし、このゲームの最も大きな特徴は、

 

『何故だっ、何故殺したぁ! 彼女はお前の妹じゃないか!』

 

『ふんっ。身内の縁などとうに切れている。我が主への忠誠は絶対。相手が何者であろうと立ち塞がるのなら、粉砕するのみ!』

 

『この馬鹿野郎! あの子はなぁっ、この戦争が終わったらいつかまた兄さんと暮らすんだって笑っていたんだぞっ』

 

 といったドラマが流れる仕組みが組み込まれているのである。

 

 今は、ヘスティア側の王の圧政に耐えかね亡命した妹と、その王に仕える騎士の兄が戦場で再会し、兄が妹を殺めて、その妹ちゃんに惚れているロキ側の騎士と言い争っているところだ。

 

 何でも妹ちゃんを亡命させたのは兄で、必ず追うと約束したものの心変わりしてしまった……という設定らしい。

 

「くぅ! なんて奴や、いたいけな少女の命を奪うのがそんなに楽しいか!? それも実の兄の手で!」

 

「ボクだってこんなことはしたくないさ……だけど、ボクには眷属の力を悪神から守るという使命がある。何があっても負けられないんだ!」

 

「誰が悪神やッ! どんだけ昔の話ししてんねん!? ウチかて、今日こそお前に勝ってベルたんに願いを叶えてもらうんや!」

 

 卓を囲んでドラマの登場人物に滅茶苦茶感情移入してヒートアップする神〜ズ。何故、二人がここまで鬼気迫る戦いを繰り広げているのか。

 

 それは、

 

「今日こそお前に勝って、ベルたんの"変成魔法"で胸を大きくしてもらうんや!」

 

「ふざけるなっ! ベル君が命賭けで手に入れた神代魔法をそんなくだらないことに使わせてたまるか!」

 

「くだらないことやと? この長い人生(神生?)でようやく訪れたこの奇跡をくだらないことやと? ドチビ、貴様ァァァァァ!!」

 

 実にふざけた理由だった。

 

 ことの始まりは一週間前のあの日の翌日、早速また遊びに来たロキはそれはそれは、しつこくベルに"変成魔法"を使うように頼んだ。頼まれてる側がドン引きするほどだ。

 

 そこで仲裁にはいったヘスティアが出した条件、それは、このボードゲームで自分に勝利したらそれを許そうという話になった(本人未了承)。

 

 勝利条件はどちらかが二連続で勝ち越したとき。もう何十回もやっているが未だに決着がついていない。くだらない理由でもロキのそれにかける情熱はヘスティアのベルを思う気持ちと同じくらい本物ということなのだろうか?

 

 因みに今の勝率は、ヘスティア264勝265敗、ロキ265勝264敗でロキが王手をかけている。

 

 しかし、そんな戦いは唐突に中断される。

 

「お二人共、ティータイムの準備ができましたよ〜」

 

「「は〜い♪」」

 

 先程までのギスギスした雰囲気はどこへやら、鶴の一声ならぬ、ベルの一声で二人はボードゲームを一時中断した。

 

 キッチンから現れたベルは片手にティーポットとティーカップ、そして、大本命のお菓子を乗せたトレーを持ってテーブルに歩み寄る。

 

「今日はフルーツタルトを焼いてみました」

 

「「おお〜!!」」

 

 ボードを端に寄せたテーブルの中央へ色とりどりのフルーツで彩られたフルーツタルトが置かれる。ベルは手際よくそれを切り分けて二人分の食器へと盛り付けている。そして、二人分のティーカップへ紅茶を注いだ。

 

「さ、召し上がれ」

 

「「いただきます!」」

 

 まるで、いや、まさにおやつを与えられた子供である。

 

 しかし、それも仕方ないこと。ベルの菓子づくりの腕はあのリヴェリアがあまりの旨さに表情が崩れた程なのだから。

 

 ロキが毎日ここに来ているのはコレが目的な部分もある。

 

 ボードゲーム? そんなの後でできるでしょう?

 

「ん? ベルたんなにしてんの?」

 

 ナイフで一口サイズにしたタルトをフォークで口元に運ぶロキ。ふと、ベルの方を見るとそこには"宝物庫"から取り出したらしいケースの中からヴァイオリンを取り出して構えている彼の姿があった。

 

「いえ、さっきまであんなにも殺伐としていたゲームをしていたので、気分転換に音楽でもと」

 

「ベル君、ヴァイオリンなんて引けるのかい?」

 

「向こうの爺ちゃんの知り合いから教わったんです。結構筋がいいって言われてるんですよ」

 

 そう言いながら、顎と肩でヴァイオリンを挟むと右手の弓を構える。

 

「それでは、エドワード・エルガー作、『愛の挨拶』」

 

 因みにベルのヴァイオリンの腕は相当なものである。何故なら、彼の南雲家での祖父、南雲愁はゲーム会社の社長。即ち、彼の知り合いの音楽家とはゲームのBGMを依頼されるプロ中のプロである。

 

 実を言うと、『私の生徒になって世界へ羽ばたいてみないか!?』とすら言われている。その彼が奏でるメロディをBGMとしたティータイム、まさしく優雅の一言に尽きるだろう。

 

 しかし、

 

「やはりここにいたか、ロキ」

 

「ゲッ、母親(ママ)!」

 

「誰が、母親(ママ)だ」

 

 ここで新たな乱入者、《ロキ・ファミリア》の母親(ママ)ことリヴェリアが出入り口から現れた。

 

 ロキは露骨に顔をしかめる、彼女がここに来た理由に心当たりがあるのだろう。

 

「いらっしゃい、リヴェリアさん。」

 

「ああ、邪魔しているよベル。扉のいんたーほん、といったか? いくら鳴らしても誰も出ないから勝手に入らせてもらったが、それが原因か」

 

 リヴェリアはベルが持っているヴァイオリンを見て納得する。

 

「楽器まで引けるとは、本当に器用だな。ここへ来る廊下で聞こえていたがとても綺麗な音色だったぞ」

 

「そ、それほどでもないですよ///。そうだ、今日はどういったご用件でしょうか?」

 

 ベルはリヴェリアに褒められて照れて頭をかく。そして思い出したように要件を尋ねた。

 

「なに、この駄神が事務方を放ったらかしてどこかへ消えたのでな。ここにいるだろうと思ってきたのだが、よくもまぁそんな悪趣味なゲームが出来るものだ……。」

 

「しゃあないやろ、これ以外イカサマを疑われずに戦えるゲームないんやから」

 

 一応、このゲームも立派なアーティファクトだ。イカサマが出来るのはこれを作ったオスカー並みの錬成師くらいだろう。

 

 この会話でわかるとおりリヴェリアもあのあと何度かここへ来ている。そのたびに無駄にリアリティの高いドラマを見て眉根を寄せているのだ。

 

 というか、《ロキ・ファミリア》の幹部連中は割としょっちゅう出入りしている。密会のためのカモフラージュ意味ねぇじゃんっていうくらいは来ている。

 

 その理由は殆ど組手やアーティファクト作成の依頼といったものだ。フィンだけ専用のアーティファクトを貰ったのが余程悔しかったのだろう。

 

「他の奴は来ていないのか?」

 

「ああ、ベートさんがトレーニングルームにいますよ。今は僕が教えた"ハウリア流近接格闘術〜ウッサウサにしてやんよ〜"の復習をしています」

 

「……なんだその斬新なタイトルは?」

 

「僕に聞かないでくださいよ。これ考えたのシア母さんなんですから」

 

 ベル自身、サブタイのある流派名とかどうかと思うが、一応ハウリアを代表する母が考えたものなのでフルで覚えている。

 

「……まあいい。さあ、戻るぞロキ。やることは山積みだからな」

 

「いやや〜! 今日こそ決着つけて夢の女物のドレスを着るんや〜!」

 

「まだ諦めてなかったのか……。」

 

「まあまあ、リヴェリアさん。一端落ち着いて、お菓子でも食べましょう」

 

 いつの間にか皿に盛り付けたタルトを差し出しながら席につこうと言うベル。

 

 リヴェリアは一度はぁ、と溜息を吐くと、大人しく席についた。

 

「食べたら帰るぞ」

 

「なぬっ!? ドチビ、とっとと決着つけるで、もうあんま時間ないんやから!!」

 

「時間?」

 

 ロキの言葉にベルは疑問符を浮かべる。

 

 この場合の時間とは今日ここにいられる時間のことではないだろう、これだけ何度もここに来ておいて時間がないということはないだらう。

 

 ということは、

 

「なにか催しでもあるんですか?」

 

「なんやドチビ、お前話してないんか?」

 

「今回は見送るつもりだったからね」

 

 ロキはズボンのポケットにしまってあった一つの封筒を取り出して、それをベルに渡す。

 

 中に入っていたのは一枚の招待状。

 

「『ガネーシャ主催 神の宴』?」

 

「所謂、神同士の会合のようなものだ。どの神が主催するかはその度変わるが、参加したい神が参加する自由奔放な神達の暇つぶしの一環だろう」

 

 リヴェリアの説明にへぇ、と短く納得の言葉を口にすると、招待状に書かれた日程に目が行った。

 

「開催日は……え? 明日ぁ!?」

 

 なるほど、ロキが時間がないといった理由がよくわかった。要するに明日のパーティで見せびらかしたいわけだ、自分の晴れ姿を。

 

 だがベルはそれよりもヘスティアがこのことを自分に伝えてくれなかったことのほうが気になった。

 

「いやぁ、流石にファミリア創設したばかりで、大変なときにこんなのに行ってる暇ないかな〜って……。」

 

「何言ってるんですか、こういう催しに参加することも他の神に舐められないようにする一環じゃないですか。どうせなら、ロキ様と参加して同盟もとい傘下について広めてきてくださいよ」

 

「「ええ〜〜〜!!」」

 

「ええ〜、じゃない!」

 

 二人の明らかな不満を孕んだ声に叱責するとベルは自室へと歩き出す。二人共、「なんでコイツなんかと」みたいな目をしてるがベルに反論する勇気はない。

 

「ベル君、どこ行くんだい?」

 

「こんなこともあろうかと、神様用に作っておいたドレスを持ってくるんですよ。明日はそれを着てちゃんと参加してください」

 

 そう言ってベルは廊下の向こうに消えていった。

 

「ーーーというか、ベルたんって服作りもできたん?」

 

「なんでも、お母さんの一人であるレミア君が服飾関係の仕事を地球でしてるらしいよ。それで覚えたって」

 

「あ〜、あのブロンド美人か。しっかし、ホントにベルたんって万能やなぁ〜。アスフィちゃんの二つ名が霞むで。経営学にもかなり詳しいようやし」

 

「おいちょっと待て」

 

 ロキが口にしたスルーできない言葉にリヴェリアの手がロキの後頭部を掴む。

 

「なぜお前がベルの経営学の知識について知ってる?」

 

「ヒッ!」

 

「三日ほど前から書類の内容が随分しっかりしてきたと思っていたが……まさかお前、ベルにやってもらったんじゃないだろうな?」

 

 リヴェリアのアイアンクローが力を増していく、ロキの頭がミシミシという不穏な音を出し始めていた。

 

「ちゃっ! ちゃうちゃう! 確かに執務室だと息がつまるからここに持ってきて仕事してたけどっ、あくまでアドバイスをもらっただけでそこまでやってもらってないんや!」

 

「本当か?」

 

「マジや、マジ! 遊戯神の名に誓うわッ! だから、はよ離して、頭が、頭が割れるぅぅ!!」

 

 ロキの言葉に嘘がないと判断したのかリヴェリアはロキの頭を解放した。

 

「頭の輪郭変わってへんよね?」と言いながら頭を触るロキ。ところどころ凹んだ気がしたが、まあ気のせいだろう。

 

 ヘスティアはそんなやり取りを「リヴェリア君も大変だな〜」と他人事のように紅茶を飲みながら眺めていた。

 

 と、そこへ、

 

『ピンポ〜ン』

 

 新たな来訪者を告げる音が鳴り響いた。




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