白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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暴走の錬成師

「それじゃあ、行ってらっしゃい。お二人共」

 

 ベルは、ホームの前でそれぞれドレスとアクセサリーで着飾った二人の神を見送る。二人が着ているのは、それぞれベルが見立てたものだ。

 

 ロキの分は、今朝早く起きて作った。

 

 ヘスティアのドレスは黒いミニスカート型のドレスだ。ミニスカートというと少し子供らしいイメージが強いが、黒いアダルティな色合いが寧ろ彼女を大人っぽく見せる。

 

 ロキのドレスは白いロングドレスで、いつもは後ろで縛っているだけの髪は三つ編みにしている。普段のロキらしからぬ姿がどこか意外性のある美しさを醸し出している。そして、なにより微妙に普段と違う胸の膨らみ。

 

 二人共、念の為にベルが作った結界付きのアーティファクトを持たされている。ヘスティアは指輪、ロキはネックレスだ。

 

「行ってくるよベル君!」

 

「なぁ、ベルたん。この胸……」

 

「今回限りです」

 

「そんなぁ〜!」

 

 ベルの容赦のない言葉にガックリとうなだれる白いドレスの麗人。

 

 ロキの胸が膨らんでいるのは、察しの通りベルの"変成魔法"だ。超越存在である神に効くか正直不安だったが、流石は対狂った神用の魔法。割とあっさり効いた。但し、今回は制限時間付きだ。

 

 同盟(外聞は傘下)を告知することを条件に今夜一晩限定でギリギリBに届くサイズに改造した。

 

「……それじゃあ、こうしましょう。今日の宴で暇そうな神様を見つけたら紹介してください。そうしたら、そのままにしておいてあげます。

 特にお金に困っててそこそこ眷属のいる神様がいいですね」

 

「おっしゃ、任された! 行くで、ドチビ〜!!」

 

「ちょっ、引っ張るな!」

 

 ロキは言い終わるが早いかヘスティアの手をとって気合満々の全力で走っていった。何故、ロングのドレスで走れるのかは……まあ、執念ということにしておこう。

 

「さて、と……。」

 

 神〜ズが見えなくなるとベルはホームに戻る。

 

「お待たせしてすみません」

 

「いいや、こちらこそウチの主神が迷惑をかけたね」

 

「フィン、今夜くらい羽を伸ばさせてやってもよいじゃろう」

 

「アイツは基本毎日羽を伸ばしているだろう?」

 

 ホームのテーブルについた面々、《ロキ・ファミリア》の首脳陣、フィン、ガレス、リヴェリアが次々と立ち上がりながら口を開いた。

 

「急にお呼びたてしてすいません」

 

「構わんよ、寧ろ礼を言うのはこっちのほうじゃ。アーティファクトを作るよう頼んだのはワシのほうじゃからな」

 

「まあ、出来ればあんな招待状の出し方は勘弁して欲しかったかな」

 

 ベルは今朝早くフィンの部屋に今夜適当な理由で《ヘスティア・ファミリア》のホームに来てほしいと鳥型アーティファクト"オルニス"を飛ばして招待状をフィンの部屋へ送ったのだ。

 

「すみません、今回は試作品のテストも兼ねているのでそんなことに首脳陣の方を呼ぶのは気が引けたんですが……。他の幹部の方にはLv6になるまでアーティファクトは与えないことにしているので」

 

「それで、その試作品というのは?」

 

「これなんですが」

 

 ベルは正方形の箱をテーブルの上に置く。中には円形の透明で小さなガラスのようなもの。コンタクトレンズだ。

 

「これは?」

 

「"ウルド・グラス・コンタクトVer"。僕がつけていたサングラスがあるでしょう? アレを極小にしたサイズで、目に直接装着するものです。小さくした分、技能もいくつか減りましたが、感覚拡張と思考加速の機能が付与されています」

 

「なるほど、僕のマク・ア・ルインのように技能の多い武器にはありがたい代物だ」

 

「お前さんが作ったものということは既に試したんじゃろう?」

 

「ええ、ですがケースは多いほうがいい」

 

 ベルの言葉にフィンとガレスが頷く。

 

 しかし、リヴェリアだけはなぜ呼ばれたのかがわからないようだ。

 

「リヴェリアさんには以前から考えていた実験の手伝いをしてもらいたいんです」

 

「実験?」

 

「このオラリオで魔法に精通しているリヴェリアさんに頼みたいんです。勿論、そちらにも益のあることです」

 

「……いいだろう」

 

 魔法に対して益のあることなんて言われたらリヴェリアが断らないのは当然だ。

 

 

 

 

「それじゃあ、出します」

 

 トレーニングルームへと移った面々。

 

 ベルの宝物庫が輝くとベルの背丈ほどの大きさを誇る双斧が現れる。

 

「戦双斧"シュナイデン"。今回はただひたすらに敵を叩き切ることに焦点を当てたアーティファクトです」

 

「ほう! フィンの槍といい見事な出来だわい!」

 

 ガレスは待ち焦がれた自身の専用アーティファクトに歓喜の表情でシュナイデンを手に取る。

 

 勿論、"重力魔法"による質量調節は付与済みだ。

 

「材質はマク・ア・ルインと同じトータスで最硬質のアザンチウム鉱石を圧縮したもの。切れ味は試してもらったほうがいいでしょう」

 

 再び宝物庫が開き今度はひとがたのゴーレムが現れる。

 

「このゴーレムはそれと同じ材質でできています。ガレスさん、試しに斬ってみてください」

 

「任しとけ」

 

 ガレスが斧を上段に構え、自慢の剛力で一気に振り下ろす。

 

「フンッ!」

 

 ゴーレムは見事に叩き割られ、そのまま地面に突き刺さった斧の衝撃でトレーニングルームの床が大きく凹んだ。

 

「今のは……。」

 

「"超振動"です」

 

 シュナイデンには雷属性の魔法を応用して毎秒数千回の振動をするように付与がしてある。振動している刃物は本来のものより遥かに切れ味が増す。

 

「さらに、風属性で圧縮された空気の刃が放てます。近、遠距離での攻撃が可能な超重量武器と言ったところでしょうかね。ついでに重力魔法によって敵をひきつけたりも出来ますが、まぁ、これはそれなりの練度がなければ難しいでしょう」

 

「なるほど、つまり守りながら敵を倒せる。ガレス向けの武器だな」

 

 ガレスはドワーフ特有の頑強な肉体により守備に回ることが多く、経験値を稼ぎづらい立場にある。それを解消するには正しい武器だろう。

 

「それじゃあ続いてウルド・グラスのテストを始めましょうか。もうつけてありますよね?」

 

「ああ、しかしどうするんだ。ガレスと模擬戦でもするのかい?」

 

「いえ、その相手もこちらで準備してあります」

 

 宝物庫が三度輝きを放つ。そして現れるのは……巨大なゴーレムだった。

 

「「は?」」

 

 ベルは"クロスビット"を取り出して、自分とリヴェリアを囲むように"四点結界"を展開する。

 

 背面から伸びたアームが、両肩の上の砲塔とドッキング。

 

――88mmレールキャノン・二門。ステンバ~~~イ

 

 両腰の巨大ドリルがキィイイイインッと回転を始め、同時に四つに分割されて中から六砲身が姿を見せる。

 

――可変式30mmガトリングレールガン・二門。ステンバ~~イ

 

 胸部装甲がスライドし、中から蜂の巣のような武装が姿を見せる。

 

――熱源追尾式ミサイル・百二十発。ステンバ~~イ

 

 なんだこの冒涜的なゴーレムは?

 

 作成者さんへ、どういうことだという目を向ける。

 

「余所見してると……死にますよ?」

 

 そして始まる。オラリオの実力者と最強の錬成師の作品がぶつかりあった。

 

「ベル、なんだあのゴーレムは?」

 

「スーパーミレディゴーレムです」

 

「なるほど、わからん」

 

 リヴェリアは片手で額を抑えてはぁと疲れた溜息をこぼす。

 

「嘗て父さんが【ライセン大迷宮】のボスとして作ったのですが、あまりに強すぎたために母さん達の逆鱗に触れて止む終えず自爆させることになった禁断のアーティファクト。

 本来なら"重力魔法"を使えるのですが、今回はそれを二人でギリギリギリで勝てるレベルで再現しました」

 

「ギリが一つ多いんだが……勝てるんだろうな?」

 

「さあ? 最悪、死んでも"再生魔法"を使えばなんとかなるでしょう」

 

 リヴェリアはコイツと同盟を組んで本当に良かったのか? と今更ながらに不安になってきた。

 

「さて、僕達も始めますか」

 

「放置なのか?」

 

「一応、安全装置はつけてあるんで問題ないですって」

 

「ぐおぉ!」

 

「ガレスッ!」

 

 言ってる側からガレスの巨体が吹っ飛ばされた。フィンはマク・ア・ルインの鎖で拘束を試みるがそのままぶん回される。

 

「…………。」

 

「……大丈夫ですって、やばくなったらちゃんと止めますから」

 

 リヴェリア無言の訴えを無視して宝物庫から新たなアーティファクトを取り出す。それは、錫杖型のアーティファクト。

 

「それは?」

 

「魔法杖"ケリュケイオン"。アイズさんとの戦いで感じた僕達との魔法の違いを考えて作ったものです。」

 

「魔法の違い?」

 

 ベルはこの世界とトータスでの魔法の違いを説明する。魔素を元に魔力を生成して魔法を放つトータスの魔法と、精神力(マインド)によって魔力を生成するこちらの世界の魔法。

 

「このケリュケイオンには、魔素の吸収による"高速魔力回復"が付与してあります。これを持っている限り精神疲労(マインドダウン)とやらにはならないでしょう。

 ですが、今回の目的はそこじゃない」

 

 ベルが考えていたのはこの世界の住人であるベルが魔素の吸収を行えて、何故リヴェリア達がそれができないのか……それは、精神(マインド)の消費という利便性からなる、魔素吸収の必要性がなくなったことによる退化だとベルは判断した。

 

 ベルがそれを行えるのはユエやティオ達による魔法特訓が原因だろう。幼い頃からその器官を刺激され覚醒したと考えている。

 

「つまり、この錫杖は外側から魔素を吸収することによってその器官を覚醒させるための実験です。」

 

「わからなくはないが……要するに私は何をすればいい?」

 

 ベルはおもむろに手を上げる。指さされた方向には今も死ぬ気で戦う同胞と冒涜的なゴーレムの姿。

 

「おい、まさか……。」

 

 嘘だろう? という目をベルへと向けるがベルはただ一言。

 

「大丈夫、死ぬ前には止めますから」

 

 そう言うと"重力魔法"を操作してリヴェリアを結界の外に放り出した。

 

 外道! まさに外道である!

 

「ベルッ、後で覚えておけ……!」

 

 いきなり戦場に叩き出された魔道士の怒りのこもった目が向けられるが、はっきり言ってヘスティアというブレーキのない今のベルは暴走している、そんなものに臆するベルではない!

 

「さあ! いけい、スーパーミレディゴーレム! お前の強さを見せてやれ!」

 

「「「君(お前)はどっちの味方だ!?」」」

 

 決まっている、魔王親子はロマンの味方だ。

 

 

 

 

 

「ベル君、確かに強くしてくれと頼んだのはこちらだけどさ……」

 

「限度というものがあるじゃろう?」

 

「難易度を下げろ、【大迷宮】攻略者感覚で作るな」

 

「うっす、マジすんませんした」

 

 青筋を浮かべ正座しているベルを見下ろす《ロキ・ファミリア》首脳陣。自爆させられ瓦礫の山とかしたミレディゴーレムを見るからに結果は推して知るべし。

 

 そう、奇しくもいつかのハジメの再現となった。

 

 因みにコンタクトの方は大変便利だったそうな。


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