白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
「これが、オラリオ最強か? くだらねぇな。アーティファクトを与えたフィン達の方が強く感じたぜ?」
「クッ……。」
裏路地での戦いは既に決着していた。
立っていたのは余裕の表情を浮かべドンナーの銃身で肩を叩くベル。地に付しているのは傷だらけで満身創痍状態の『オラリオ最強』オッタル。
「テメェ等がどういう理由で俺の力に勘付いたかは知らねぇ。だが、そんなことはどうでもいいことだ」
ドンナーのリボルバーに直接弾丸を装填、銃口をオッタルの心臓へと構える。
「俺の前に立ちはだかる奴は誰であろうと薙ぎ払う。たとえそれが、神だろうと悪魔だろうと、『オラリオ最強』、だろうとな」
その言葉を最後にベルはドンナーのトリガーを引いた。
ドパンッ!
しかし、オッタルが待てどもやってくるのは心臓を貫かれた痛みではなかった。
胸元を見るとそこには液体の入った小さなアンプル弾が胸に刺さっていた。その中身がなくなるにつれてオッタルの傷は煙を上げながら消えていく。
「これは……!」
「ポーション(神水)いりのアンプル弾だ。量が量だから完全回復とはいかねぇがな」
「何故助ける?」
「冗談。助けたつもりなんて欠片もねぇよ。ただ、テメェ等【フレイヤ・ファミリア】がいることでオラリオの馬鹿共の犯罪を牽制しているのも事実だ」
ベルはドンナーを腰のホルスターに戻し"宝物庫"から取り出した、ストールを首に巻きながら話す。
「テメェみたいなデカブツはいつでも潰せるが、コソコソ動き回る虫ケラを消すのは骨が折れるんでな。
……女神フレイヤに伝えろ。次俺か俺の周りの人間に間接的にも危害を加えようとすれば、俺はオラリオの勢力図を一晩で塗り替える、とな。」
それだけ告げると、ベルは"空間魔法"が付与されたストールで体を隠し、手頃な建物の屋根へと転移した。
「さて、と。」
"気配感知"を発動させ、街にいるモンスターたちの場所を割り出す。
「思ったより散らばってるな……。これじゃあ、一箇所に魔法を叩き込むこともできないか。なら、」
宝物庫が輝きを放ち、彼の頭上に4機のオルニスと彼の右手に電磁加速式対物ライフルーーー"シュラーゲン"を構える。
そして、今回は厨ニファッションではなく、本来の目的の為にサングラス型アーティファクト"ウルド・グラス"を装着する。これには、オルニスの目と同じ"遠透石"というものが組み込まれていて魔力を定着させると視界が繋げることができる。
「ここから、一体一体仕留めるのが目立たない一番手っ取り早い手か」
それぞれのオルニスがオラリオに散らばる。そして、早速一体目のモンスター、猿のようなモンスターがウルド・グラスの共有視界に映る。
「まずは一体目、か。」
シュラーゲンを構え照準を固定する。そして、レールガン式のドンナーを遥かに上回るレーンの弾丸がモンスターの魔石に向かって放たれ、着弾とともにモンスターは消滅した。
さらに、二体、三体と、同じことを繰り返し最後の一体をその視界に捉えた。
「何だあれ、花か?」
最後の一体、それは花のようなモンスター。花弁の部分が巨大な口になっていて人間だろうと丸呑みしそうな姿だ。無数の蔦は触手の様に動き回っている。
食虫植物ならぬ、食人植物という表現が当てはまる。
「【ガネーシャ・ファミリア】はあんなのまで持ってきたのか? いや、地面から生えてるしそりゃねぇか。」
打ちぬこうとシュラーゲンを構えて視界を繋げると見覚えのある人物達がそれと交戦しているのを確認した。
「つーか、アレアイズたちじゃねぇか。武器がねぇから劣勢っぽいな……。」
シュラーゲンの銃口をずらしてその光景を分析するベル。アイズは無数の牙のある花に包囲され、ヒュリテ姉妹は必死にそれを引き剥がそうとしているがいくら叩き落としても暖簾に腕押しだ。
そんな彼の目に先程のエルフの少女の姿が映った。
「へぇ……。根性あるじゃねぇか」
恐らくあの花に貫かれたであろう腹と逆流する血を吐き出しながらもギルドの職員の静止も聞かずに魔法陣を展開する少女。
「アイツも見所あるな……。」
ウルド・グラスを外した彼の目はまるで、面白い玩具を見つけた子供のように輝いている。
「面白えもんを見せてもらった礼として手ぇ貸してやるとするか」
再びストールを翻し、ベルの姿は屋根の上から消えた。
「【どうかーーー力を貸してほしい】」
少女は歌う、その歌を。
例え、その身を焼くような熱さをその身に受けようとも、喉が血で塞がろうともその歌を歌い続ける。
それが、彼女の憧憬に追いつくための唯一の方法だから。
「【エルフ・リング】」
その少女、レフィーヤ・ウィリディス唯一の魔法が紡がれるともに彼女の足元の魔法陣が山吹色から翡翠色に変化する。
これが彼女の魔法、同胞の魔法を召喚することができる召喚魔法。その詠唱を記憶したものを自身の必殺として放つ魔法。
「【ーーー終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】」
故に彼女がオラリオの神々から受けた二つは【千の妖精】。
なおも血の逆流する不快感と脳がぼやけそうな痛みに我慢しながら詠唱を続ける。
「ガッ!」
だが、彼女の後ろで控えていたギルド職員の悲鳴に彼女の視線は背後に映る。
そこには黒いストールを首に巻いた見るからに怪しい男が立っており、その足元にはギルドの職員が倒れていた。
(まさか、新手ッ!?)
レフィーヤはこの騒ぎを起こした現況ではないかと勘ぐるが、
「悪いな、ウラノス以外に俺の存在がバレると色々まずいんだ。」
レフィーヤは体を翻そうとするがそんなことをすれば今も自分のために食人花と戦っている仲間たちが危ない、濁った思考で考えを纏めようとするが……。
「"聖典"」
彼が言葉を紡いだ瞬間、彼女の体が光を放つ。そして、さっきまでの不快感と痛みが嘘のように無くなる。
見ると貫かれた腹部の傷は消え、喉元まで上がってきた血も無くなる。
(超短文詠唱の回復魔法!?)
「驚いてる暇なんてないだろ? 仲間を助けるんじゃなかったのか?」
その男が使ったあり得ない魔法に魔法に精通するエルフとして驚きを隠せないが、男に言われてハッとして詠唱を続ける。
「ッ!【吹雪け三度の厳冬、我が名はアールヴ】!」
最後の詠唱を口にし、その魔法名を口にした。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
三条の吹雪が放たれた。
アイズたちが離脱する中、純白の細氷がモンスターを凍らせる。三輪の食人花は絶叫すら上げる暇もなく完全に凍りついた。
「ナイス、レフィーヤ!」
「散々手を焼かせてくれたわね、糞花っ!」
レフィーヤを称賛しながら突っ込むティオナと、若干鶏冠にきているティオネが一糸乱れぬ動きで氷像とかした食人花を粉砕した。
「こりゃすげぇ、俺の"凍獄"程じゃないが大したもんだ」
男がストールを外しながら感心したようにそう呟いた。勿論、その人物はベルである。
「貴方、さっきのお店のヒューマン!?」
「おいおい、助けてもらっておいてもうちょい言い方ってもんはねぇのかよ?」
ベルの素顔を見て叫ぶレフィーヤにその呼び方に顔をしかめるベル。さっきまでの口調と違う彼に若干戸惑うレフィーヤ。
アイズがいつの間にか持っていた剣で最後の氷像を切り裂いたところで三人と合流したロキがベルに近づく。
「おおー、ベルも来てたんかいな」
「来るならもうちょっと早く来なさいよ」
「しゃあねぇだろ、他のモンスター共倒してから来てやったんだ文句言うんじゃねぇよ」
「「「「…………。」」」」
「……ベル、その口調。」
「これが戦闘中の俺の素だ、父さんに似てな」
「ほ〜う、ワイルドでええやないか」
「うん、私もいいと思うな〜!」
ベルの口調をいいんじゃないかと言うロキとティオナ。若干、頬を赤くさせながら明後日の方を向くベル。
「それに、レフィーヤもありがとうー! 助かったよー!」
ティオナが傷だらけにも関わらずレフィーヤに抱きつく。顔を真っ赤にしながらでもどこか満更でもない表情のエルフの少女。
「ありがとう、レフィーヤ」
「リヴェリアみたいだったよ……凄かった」
そこへ、彼女の憧れの存在も礼を述べた。その言葉に余計に顔を赤くするレフィーヤ。
「ったく、せめてはしゃぐのは回復してからにしろよ。"聖典"」
それを見ていたベルは呆れながら再び光属性の最上級魔法、"聖典"を発動させてアイズ達の傷を治す。
「なぁ、ベル。他のモンスターは間違いなく全部倒したんか?」
「潰しましたよ、態々偵察機と気配感知まで使ってオラリオ中を探って。下はどうか知りませんけど」
ベルはさっきの食人花のようなモンスターがまだいるかもしれないと暗に告げる。
「そうか、なら。ティオナ達と下に潜ってもらってええか?」
「了解」
「あの、ロキ。彼は一体何者なんですか? ウチのファミリアではないですよね?」
さっきから話においていかれているレフィーヤがロキに尋ねる。
教えてええか、という目をベルに向ける。
構わないという目を送り返しロキが答えようとすると、
『ーーーーーーーーーッ!!』
「なっ!?」
「4体目……!?」
再び石畳を破って現れた食人花の凶刃がレフィーヤに伸びる。
「ったく、しつけぇんだよ。"禍天"」
ベルが不機嫌気味に魔法名を口にすると、食人花は地面へと叩きつけられる。
「雑草は雑草らしく……"螺炎"」
ベルが再び魔法名を口にすると、食人花は炎の渦に飲まれる。
「燃え尽きてろ」
『ーーーーーーーーーッ!!』
絶叫とももに燃えくずになる食人花を見ながら呟いた。
「レフィーヤ、あの子。ベル・クラネルはなーーー」
その光景を唖然と見ていたレフィーヤにロキが頬を引つらせながら口にする。
「ーーー世界最強の魔王の息子や」
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因みに今作限定アーティファクト
ウォ○・ストール
皆さんご存知『祝え!』の人がつけてたローブをベルがハジメにねだって作ってもらった所謂、ベルの初めてのアーティファクトである。